「消費者庁」が新たな徳島名物に 頼みは左翼という悲しき”自業自得”

2016.3.10

経済

1コメント

ワカメ、カボス、渦潮に阿波踊り――四国の北東に位置する徳島県の名物である。これに、新たに加わろうとしているものがある。消費者庁だ。2016年3月中旬から板東久美子長官が、徳島県神山町の試験業務などを行い、8月までに官邸が移転の可否を判断する方針だ。

地方創生”はないちもんめ”
名乗りを上げた徳島県

誇大広告や製品安全の関連法を所管し、消費者行政の司令塔を担う消費者庁。なぜ、徳島に引っ越すのか。複雑に絡み合う幾多の伏線から、同庁の味方は左翼だけという構図が浮かび上がってくる。

移転の大義は「地方創生」だ。安倍総理が音頭を取り、石破担当大臣の下、組織、法律、予算をつけるが、明治以来の中央集権と、東京一極集中の壁は厚く、実効は見えにくい。これを打破するため、ぶち上げたのが中央省庁の地方移転だ。

まち・ひと・しごと創生会議は、全国の地方自治体に誘致希望の官庁や独立法人を指名させた。いわば”省庁争奪、はないちもんめ”。とはいえ、日本を支える重要機関が簡単に動く訳もなく、影響の少ない”軽量級”の官公庁と団体が選定された。

この地方創生の看板に徳島名産のワカメがスルスルと絡まってくる。瀬戸内で養殖される「鳴門わかめ」は全国ブランドだが、中国産などのニセモノに悩まされてきた。特産品を守るため、県は景品表示法やJAS法などを運用してきた経緯がある。消費者保護に積極的に取り組んできた先進県との看板を旗印に、消費者庁と国民生活センターの移転に名乗りを上げたわけだ。

もちろん、人的なつながりがシナリオを動かしている。前の消費者庁担当大臣の山口俊一衆院議員は徳島の選出。同県から出ている後藤田正純衆院議員も武富士問題の処理などを通じ、消費者行政に強いとされる。徳島の飯泉嘉門知事は自治省出身。地方創生の勘所をわきまえており、IT基盤を整備し、全国的な知名度のある神山町を移転先にアピールする。

とはいえ、中央、地方がタッグを組んだ徳島連合も、本音のところでは国民生活センターの機能移転が関の山と踏んでいたようだ。しかし、ある政治家の登場で流れが一気に変わる。現消費者庁担当大臣、河野太郎氏だ。

河野太郎大臣と川口康裕次長の暗闘続く

原発を公言するなど、党内でも「太郎ちゃんは言い出したらきかない」(関係者)と定評がある河野氏。消費者庁の徳島移転に「ゴーだと思う。極めて前向きに考えたい」と公言、旗振り役を務め、アクセルを目いっぱい踏み込む。

それはなぜか。もともと河野大臣と消費者庁は相性が悪い。河野氏の政治信条は、行政改革と無駄撲滅。2009年の民主党政権時に、消費者庁が入居している山王パークタワーに年間8億円の家賃を払っていることに噛みつき、是正させたのは他ならぬ河野氏。徳島移転は、この因縁の第2ラウンドでもあるのだ。

言うまでもないが、消費者庁からすれば徳島移転は”寝耳に水”。とても受け入れられる話ではない。しかし、これを進めるのが自らの長という、ねじれ状態に置かれている。

事態収拾に水面下で動くのは、消費者庁のナンバー2、経済企画庁が本籍の川口康裕次長だ。言行の真意を容易につかませず、”スライム”とも呼ばれる川口次長はしたたかだ。経企庁の同期で気心の知れた民主党の金子洋一参院議員などのルートで左翼勢力を使送する一方、公明党の線で官邸にも移転反対を吹きこみ、河野大臣との暗闘を続けている。

とはいえ、中央官庁たる消費者庁移転の外堀が早々に埋まってしまう理由は、その設立経緯と編成にも原因がある。消費者庁経済産業省、厚生労働省、農林水産省公正取引委員会などが所管していた法律を移管して2008年に新設された。このため、組織も長官、次長、審議官、課長とも各省庁の人間が入り乱れるまだら模様で一体感に欠ける。幹部も職員も2年任期の出向で、腰掛け感が強い。もともと行きたくもない役所なのだ。ある職員は徳島移転についてこう語る。「徳島勤務となれば、出向時の労働条件とまったく異なる。これを理由に拒否する」。職員にとってさえ自分事ではなく、他人事なのだ。

左翼勢力が巣食い、産業と言論を弾圧
壮大なる実験で一からやり直しを

産業界も冷ややかだ。規制官庁である消費者庁はもともと煙たいという面はあるが、景品表示法への課徴金導入やメディアも取り締まれる健康増進法の運用強化など、消費者利益を旗印に自らの権限と利権拡大を露骨に図る姿勢に反感を持っている。

左翼勢力が巣食い、花王の食用油「エコナ」の安全性問題のように、針小棒大に安全性などを取り上げて、企業イジメを図るというイメージも拭えない。2016年3月1日にもライオンの特保が「血圧が高めの方に」との許可表示を逸脱し、「血圧低下」と新聞広告したと健康増進法違反で社名公表したが、こんな話で”さらし者”になってはおちおち広告もできまい。しかもこれにより、メディアの考査が著しく厳しくなり、広告業界が自縛に陥ることも避けられない。まさに産業と言論弾圧だ。

同庁唯一の産業育成策で、安倍首相の肝いりだった「機能性表示食品制度」も、発足1年も経たずに規制強化にあい、わずか200製品と船出後すぐに座礁。「消費者庁に期待したわれわれが愚かだった」と事業者からは諦めの声が聞かれる。「壮大なる実験。やってみてダメだったら戻せばいい。本音を言えば”早く行け”だ」。ある企業トップは移転話をこう切り捨てる。

マスコミも消費者庁にはそっぽを向く。新聞訪販を規制する特定商取引法の改正論議を受け、米櫃をいじられそうになった新聞業界は大反発。特に読売新聞は、消費者委委員会でのヒアリングにおける、山口寿一社長の発言に消費者系の委員2人が失笑したことに大激怒。消費者庁長官に文書で抗議し、菅義偉官房長官に申し入れを行うなど直接行動に打って出た。これには規制官庁との無用なトラブルを避けるため、声を潜めている産業界から、快哉の声があがった。

彼らの同志は、消費者団体や日本弁護士会、そして共産党だ。赤旗は、徳島移転反対の論陣を張り、しきりに記事を載せる。しかしこれでは同庁と共産党の関係が浮かび上がり、官邸の不興を買い、ニュートラルな層にも違和感を振りまくだけ。逆効果だ。

「地方へ役所が行ったら仕事ができないぐらいの役所だったら、そんなもん潰した方がいい」。河野大臣のテンションは上がり、移転どころか不要論にまで踏み込む。

2009年の発足から7年。組織の命運がかかる”島流し”を前に、頼みの大臣は推進派で、味方は共産党など左翼勢力とは何ともお寒い状況だ。これは、さまざまな点で組織や運営のバランスを欠いてきた”自業自得”によるもの。徳島で頭を冷やして、一からやり直すのも悪くない。