もう限界の金融政策 マイナス金利の次の一手は何?

2016.5.10

経済

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不発に終わった黒田バズーカ、狙いとは逆の方向に進むマイナス金利など、日銀・黒田総裁の政策は思惑通りにいってない。そんななか、政策に反対するある2人を追い出し、賛同する2人を迎え入れた。金融機関者のハラワタが煮えくり返っているなか、黒田総裁が繰り出す、次の一手とは?

黒田教の念仏は聞いていられない

日銀の黒田総裁が、国債の大量購入を柱とする量的・質的金融緩和(異次元緩和)を導入して2016年4月4日で4年目に入った。バズーカ砲と呼ばれた異次元緩和は2年でマネタリーベース(通貨供給量)を2倍に増やし、インフレ率2%を達成させるという、意欲的な金融政策だったが、結果は無残にも未だに達成できないばかりか、インフレ率2%から、さらに遠のいてしまっている。2年、2倍、2%と「2」のゾロ目のバズーカ砲は、「4」のゾロ目となった4年目の4月4日を迎えてもなお寒い状況下に立たされている。

それでも強気の黒田総裁は、国会答弁や海外の諸会合で、「必要なら、量的・質的・マイナス金利の3次元でさらなる金融緩和をためらわない」と繰り返している。この黒田発言について、あるメガバンクの幹部は、「まるで黒田教の念仏を聞かされているようだ」と半ばあきれかえっている。そうした民間金融機関の本音がとうとう炸裂した。

三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長は4月14日、デリバティブ取引に関する都内の講演で、日銀が2月から導入したマイナス金利政策について、「家計や企業の懸念を増大させているリスクに戸惑っている。銀行はマイナス金利を個人や法人の顧客に転嫁しにくい。体力勝負の厳しい持久戦が長期化する」と懸念を示した。金融機関のトップが公の場で、正面切って日銀のマイナス金利政策を厳しく批判したのは初めて。「よくぞ平野氏は言ってくれた」(メガバンク幹部)と歓声が上がった。

暴走はこのまま止まりそうもない

全国銀行協会会長をはじめ金融機関の首脳たちは、マイナス金利について表向きは、「短期的にはネガティブだが、長期的には日本経済に好影響を与え、プラスに働く。効果を見守りたい」というのが決まり文句だった。しかし、記者とのオフレコ懇親などでは、「黒田総裁は何を考えているんだ。マイナス金利は金融機関を窮乏させる最悪の施策だ」と本音を吐露していた。腹の中は怒りで煮えたぎっているのだ。

それもそのはず、マイナス金利の本質は、「過去最高益を更新するなど儲けすぎている金融機関の利益を吐き出させ、それを企業や個人に転嫁することで景気を浮揚させようとする利益の移転を意図するもの」(メガバンク幹部)だからだ。市場はよく見ている。マイナス金利が決定されて以降、銀行株はこぞって急落した。メガバンクの株価に至っては年初から3~4割も下落するという惨状だ。

三菱UFJフィナンシャル・グループの平野氏があえて黒田・日銀に反旗を翻したのは、4月1日付けで兼務していた三菱東京UFJ銀行の頭取を外れ、発言しやすい立場に立ったこともあるが、同時に日本トップのバンクグループとしての自負があってのことだろう。今、黒田総裁の暴走を食い止めなければ、大変なことになりかねないとの危機感があることは確かだ。

だが、黒田総裁の暴走は止まりそうもない。なぜなら黒田教に反対する異教徒2人が日銀を去り、信者2人が新たに仲間入りするためだ。

安倍政権は4月19日、日銀審議委員候補に政井貴子氏(新生銀行執行役員金融調査部長)を充てる国会同意人事案を提示した。すでに3月末に任期を迎えた白井さゆり委員の後任には桜井真氏(サスライ・アソシエイト国際金融研究センター代表)が就任しており、6月末に任期を迎える三井住友銀行出身の石田浩二委員の後任には政井氏を据える人事案だ。

「本来であれば女性枠として白井氏の後任に政井氏、都銀枠として石田氏の後任にメガバンク出身者が選ばれるはずだったのだが、政井氏の人事案が事前に漏れたことから、後先が逆となった」(国会関係者)というおまけ付きの人事だ。

いずれにしてもマイナス金利に反対した2人が去り、賛成する2人が審議委員入りした。これで9人いる審議委員の過半数が緩和論者で占められたことになる。マイナス金利に反発するメガバンクから選出されなかったのは偶然であろうか。

見破られている黒田緩和の本質

手詰まり感の強い現在の異次元緩和を払拭するために黒田総裁が繰り出そうとする次のサプライズはどういった内容なのか。ある政府関係者は次のような予測を披露してくれた。

「おそらく、日銀当座預金のマイナス金利をさらに引き下げる一方、金融機関への負の影響を相殺するため金融機関にマイナス金利で貸出を行う合わせ技だろう。そして最後はお札を世の中にばらまくヘリコプターマネーしかない」

日銀は成長基盤強化と貸し出し増加に向けた取り組みを支援するため、貸出支援基金を設けて金融機関に対しゼロ金利で資金供給を行っている。この金利をマイナス金利とすることで金融機関の貸出にインセンティブを与えようというわけだ。

同時に、日銀当座預金のマイナス金利の引き下げについては、黒田総裁は、「ECB(欧州中央銀行)は当座預金をマイナス0.4%まで拡大している。まだマイナス0.1%の日銀は引き下げの余地がある」と語っている。0.1%ずつ小刻みにマイナス幅を拡大するのではないかというのが市場の見方だ。

この出口、どこに見出すの?

 

マイナス金利政策は、銀行が日銀の当座預金に預けると金利をもらうのではなく、支払わなければいけないということで、市中に貸し出しが増えるはず、というものだ。しかし、同時に量的緩和も実施しているので、日銀が大量に国債を購入するため、超低金利であっても、金融機関は国債を購入した方がよい。日銀が買い入れてくれるのだから、売りそびれもないのだ。この矛盾した政策を同時に遂行しては、市中に貸し出しは回らない。

そもそも、増税や少子高齢化で民間は将来への備えに不安を抱えて、需要も喚起されていない。

政府の需要喚起策とのセットでなければ、金融政策だけでは限界がある。また、通常金利が下がれば、為替は安い方向に向かうはずだが、逆に日本は円高になっている。しかも、国力が上がって日本に投資しているのではないことは、株式市場が低迷していることからも明白だ。

この副作用満載のマイナス金利を更に推し進めるしか手がなくなった。さて、この出口、どこに見出すのだろうか。