三橋貴明が説く 今さら聞けない経済学

理想の税制

2014.11.10

経済

0コメント

経済学者たちが思い描く理想の税制とは、法人税ゼロ、所得税ゼロ、税金は「人頭税」のみという組み合わせである。とはいえ、現実には民主主義国において人頭税を導入することは甚だしく困難であるため、代わりに生まれた税金が……。

経済学的には夜警国家が理想

新古典派経済学に代表される経済学は、政府の規制は小さければ小さいほど好ましいとし、いわゆる”夜警国家”を理想としている。それは、政府の役割は「外国からの防衛」「国内の治安維持」「必要最小限の公共事業」に限定されるべきという国家観だ。

逆に言えば、どれほど頑迷(がんめい)な市場原理主義者とはいえども、最低限のサービス(防衛、防犯、防災等)を供給するという、政府の役割は認めているわけだ。政府が必要最小限のサービスを供給するためには、やはり「税金」が必要となる。

ちなみに税金とは「政府が法律で国民が稼いだ所得の一部を徴収するという規制」。というわけで、実のところ法人税減税(無条件の法人税実効税率引き下げ)も、規制緩和政策の一種なのだ。税金を徴収するという”政府の規制”を緩和するのである。

さて、新古典派経済学にせよ、市場原理主義にせよ、国民が稼いだ所得について「何に使うかを市場に任せれば、最も経済が効率化される。逆に、政府の恣意的な使い方が増えるほど、経済は非効率になる」という考え方を持っている。法人税や所得税は、累進性を弱めるどころか「ゼロにするべき」と考えるのだ。

「政府に所得の一部を税金として納めたところで、無駄な使い方ばかりをする。故に、所得税や法人税をゼロにし、使い方を市場に委ねるべき」という話だ。

 

人頭税は”平等”な税金

先述の通り、夜警国家であったとしても、最低限の税金は国民から徴収しなければならない。さもなければ、防衛、防犯、防災等の安全保障が消滅し、国家として成り立たない。防衛支出をゼロにした国は、瞬く間に他国の侵略を受け、滅びてしまうだろう。

というわけで、最小限の政府サービスを維持するために、国民から何らかの税金を徴収する必要がある。とはいえ、国民が稼いだ所得は可能な限り国民に使わせるべきだ。さらに、多く稼ぐと税額が大きくなるのでは、国民の雇用に対するモチベーションを減らしかねない。税金は「所得とは無関係に、平等に」徴収するべきなのだ。そういう考え方に基づき、経済学者たちは「人頭税」を主張する。人頭税とは、所得とは無関係に、一人頭いくら、で税金を取るシステムである。

人頭税を代替する消費税

とはいえ、何しろ民主主義国は一人一票の世界である。所得が多い人も少ない人も、同じ”一票”を持っている。
民主主義国において、所得と無関係に徴収される人頭税を導入することは、政治的に困難極まる。ちなみに、典型的な新自由主義政権であったイギリスのサッチャー政権は、冗談でも何でもなく本当に人頭税を導入し、支持率が急落して崩壊した。さらに、サッチャー時代の人頭税は、なぜかスコットランドに率先して導入された。結果的に、スコティッシュたちの恨みを買い、今も継続する「スコットランド独立運動」に力を与えてしまった。

人頭税を政治的に導入できない以上、最低限の政府サービスを維持するためには、何か別の”平等な”税制が必要になる。というわけで、経済学者が好む税制が「消費税」なのである。

法人税の実効税率引き下げや所得税の累進性の緩和が、毎回、消費税増税と組み合わせられるのは、経済学が「法人税ゼロ、所得税ゼロ、税金は人頭税のみ」を理想としているためなのだ。

所得と無関係に課税される消費税は、ほかの税金と比べて確かに平等性が強い。さらに、人間の数で税金額が決まる人頭税と同様に、国民経済の支出面で最大規模を占め、それほど激しく増減しない消費にかけられるため”安定財源”であるのも確かだ。

税金の意味

税金の役割は、政府サービスの財源確保のみに限らない。例えば、経済が過熱している際に沈静化する、あるいは経済が不況下した際に国民の復活を助けるという役目もある。いわゆる、ビルトイン・スタビライザー(組み込まれた安定化装置)としての機能だ。

法人税は、赤字企業は払わない。失業者も、所得税を徴収されない。赤字企業や失業者が増える不況期には、彼らの税負担を軽くすることで復活を助ける。
逆に、経済が過熱した際には、所得(=利益)が多い企業や個人の税負担を増し、景気をソフトランディングさせる。所得税や法人税など、所得に応じて税負担が変動する税金には、社会や経済を安定化させる機能が組み込まれているのだ。

ところが、消費税は(人頭税と同じく)所得の多寡とは無関係に徴収される。しかも、失業者や赤字企業すら、税負担からは逃れられない。安定化装置の機能が、皆無なのである。
さらに、消費税は消費性向が大きい低所得者層にとって負担が重い税制だ。支払った消費税を所得と比較し、消費税対所得比率を求めると、消費性向が小さい富裕層の税負担が間違いなく軽くなる。消費税は、いわば格差拡大型の税金なのである。

上記の通り、税金について”単なる政府サービスの財源”以外の面を追求していくと、いろいろと”新しい事実”が見えてこないだろうか。

徴税権も含めて地方自治を認めること

 

私は個人的には消費税が公平な税金だと思っている。納めたくなければ購買しなければいいからだ。とはいえ、生活必需品(特に食品)は買わないというわけにはいけないので、常識的な範囲で軽減税率を採用すれば、低所得者にも納得をさせられるだろう。

これだけグローバルになってくると累進課税でお金のあるところから取ろうという発想だと、外国などの税率の低いところに人や企業が流れてしまう。さすがに現代社会において、人頭税は現実的ではないだろう(低所得者は圧倒的な負担率になる)。

願わくは、徴税権も含めて本当の意味での地方自治を認めて、自治体間の健全な競争が起きれば、地方の過疎化問題も解決する糸口になるのではないかと思っている。