平将明の『言いたい放題』

放射性廃棄物の最終処分場問題に解決策を出す

2016.7.11

政治

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2016年5月、フィンランドのオルキルオトを視察した平議員。世界で初めての高レベル放射性廃棄物最終処分場を造る場所だ。日本は現在、九州電力・川内原発の2基だけが稼働しているが、各地の原発には大量の使用済核燃料が貯蔵されている。目下、処分の行方は決まっていない。オルキルオトにある地下特性調査施設オンカロに、日本における放射性廃棄物処分場の解決策を見る。

動かない日本の核燃料サイクル

日本は原子力発電所の燃料に関して、使用済核燃料を再処理してウランとプルトニウムを取り出し、高速増殖炉で再利用する「核燃料サイクル」を推進しています。投入した燃料以上の燃料が生み出される高速増殖炉が実現すれば、エネルギー資源の無い日本にとっては夢のエネルギーとなります。

しかし現在、再処理工場が動いておらず、研究用高速増殖炉「もんじゅ」も再稼働の目途が立っていません。そのため、約2万トンの使用済核燃料が全国の原発に保管されたままになっています。政治の責任において現実的な対応策を考えなければいけません。

使用済核燃料や再処理の際に発生する高レベル放射性廃棄物は、ガラス固化体(ガラスと溶け合わせて)にして、地下300メートル程度の安定した地層に、”10万年”にわたって保管することになっています。

原発を持っている国の最終処分場に対する取り組みは、ほとんどが調査や検討段階で、最先端のフィンランド、その次のスウェーデン、フランス以外はあまり進んでいません。そこで今回、世界で初めて高レベル放射性廃棄物の最終処分場が造られるフィンランドのオルキルオトに行ってきました。

オンカロオンカロ2フィンランドのONKALO(オンカロ)。小泉純一郎氏が見に行って、「脱原発だ!」と言い出したのはここがきっかけ!?

岩の国フィンランドの固い意志

フィンランドを訪れてまず思ったのが、「岩」が多いということ。例えば街中の地下駐車場も岩盤をくり抜いて造られていて、そのまま核シェルターにも使用できるようになっています。そのくらい強固な地盤、岩盤地層なんです。街を歩くといたるところに岩がむき出しになって、それがよくわかります。日本の場合は基本「土」というイメージではないでしょうか。だいぶ事情が違います。

オンカロ3

フィンランドの南西部の沿岸に位置するオルキルオト島は、丸ごと民間の電力会社が所有していて、原子力発電所が立地しています。その一角に地下特性調査施設ONKALO(オンカロ)があります。長年の研究調査を経て、いよいよ最終処分場の建設に着手をしました。原子力発電所から出た使用済核燃料は、地下400~450mに地層処分されるので、今はそれを入れるための穴をどんどん掘っていっているところでした。

埋めたら10万年間、埋めっぱなしです。人類から”隔離する”という考え方です。そこには、”10万年間、本当に人類がコントロールできるのか”という疑問も出てきます。

10万年の間にどうやって「ここに危険なものが埋まっている」ということを将来の世代に伝えるのか、もしくは完全に森に返してしまって、そもそもその情報自体伝えないようにするのか。下手に伝えると興味本位で掘り返す人が将来出てこないとも限りませんからね。この問題は映画にもなり、結構、論争があるところでした。

オンカロのある町の町長に疑問をぶつけたところ、彼はとてもシンプルな考え方で、「今すでに地上に使用済核燃料がある。これはある程度の期間冷やさなければいけないが、その後は地上で保管しているよりも地下300mに埋めといたほうが安全」と言うのです。また、10万年後の人類に伝えるか伝えないかは、まだ10万年の時間があるので、その間に結論を得ればよいと。

10万年後は、将来的に来る氷河期のさらにその後なので、そのときにはフィンランドという国はおそらくそこには無いわけです。国家としての管理はそもそも無理でしょう。情報を伝えるべきか伝えないべきかという論争は、現場の極めて現実的な判断の前ではあまり意味の無いように思えました。現実を直視し、理性的な判断で議論をしながらも、事を前に進めていく。このような姿勢を日本の原子力行政も学ばなければなりません。

また、彼らが素晴らしいのは、「自分たちの国から出た使用済核燃料は、自分たちの国内できっちり処理します」と宣言しているし、国民のコンセンサスもできていること。一方で「他国のものは受け入れません」とも。国としての方針が極めて明確であり、責任ある態度だと思います。

オンカロで想定されている放射性廃棄物の保管方法【現在~10万年後】

現在2016年現在のオンカロ。絶賛工事中。
2020年2020年頃。放射性廃棄の保管が進む。
4000年後約4000年後。地下に保管通路が張りめぐらされ、地上にあった原発はもう存在しない。
10万年後10万年後。地球は氷河期。放射能レベルは生物にとって安全なレベルにまで下がっている……という状態。

 

オンカロで得た3つの教訓

オンカロで得た教訓が3つあります。1つ目は先述したように日本とは「地層が違う」ということ。フィンランドのような強固な岩盤地層を日本国内に探し出すことができるのか、適地は自ずと限られてくれでしょう。

2つ目は「選挙制度の違い」。日本で最終処分場を造ろうとして、ある自治体が手を挙げたとしても、住民の反対運動が起こって、その首長はリコールされたり選挙に落ちたりします。今や手を挙げる勇気のある首長さんは見当たりません。フィンランドでは、まず住民が議員を選挙で選び、その議員がプロの市長を連れてくるという構図。だから、首長だけが標的になるということがありません。

3つ目は、「原子力行政の規制当局と電力会社が国民に信頼されている」ということ。電力会社を規制している役所、規制庁は大変厳しく、オルキルオト原子力発電所を運転する電力会社も、事故が起きてもしっかり公表しているから、信頼があります。日本の電力会社や原子力規制委員会は、国民にどれだけ信頼されているでしょうか。

そして驚くべきことに、フィンランドはこの3つの条件が揃っているにもかかわらず、最終処分場の建設着工までに40年の時間をかけてコンセンサスを作り上げてきたのです。

10万年の判断をするのは今しかない

正直、日本の核燃料サイクルは現状うまく回っていません。サイクルとして見たときに、確立したシステムにはなっていないのです。しかし、原発は動いているので、どんどん使用済核燃料は出てきてしまう。原子炉内の貯蔵プールは数年でいっぱいになるといいます。

私は今、衆議院原子力問題調査特別委員会の与党筆頭理事として責任ある立場にいます。最終処分場の問題を自治体任せにせずに、国が責任を持って集中的に取り組むべきだと考えます。

また、福島原発の事故後に国会に設置された事故調査委員会の提言に沿って、国会に専門家から成るアドバイザリーボードを設置することになっていますが、未だ設置されていません。私が与党筆頭理事の間に、私の委員会にアドバイザリーボードを設置したいと考えます。次の臨時国会前に与党とのコンセンサスを得て、方針を打ち出したいと思います。

10万年分の判断を、今この瞬間(10万年に比べたら瞬きにも満たない短い時間)に国会議員をやっている自分たちが決めていいものなのかという思いもよぎります。しかし一方で先送りしていいわけがないとも思います。

自分たちは電気だけ使い、「たまったゴミは未来が解決してくれるよね?」といった無責任な姿勢はやめて、現実的な解決策を示す必要があります。それができなければ、原発は耐用年数を超えたところでフェードアウトして止めた方がいい。

今回、フィンランドに行っていろいろわかりました。「最終処分場を造るんだ!」というところに政府の理屈だけでゴリゴリ進むのではなく、まずは国民の信頼を得ることが最優先。わが国の原子力規制委員会が常に最新の世界の知見を導入して、国民に信頼してもらえる組織にすることが大事です。

そして信頼される原子力規制委員会を実現するためにも、彼らに大所高所からアドバイスできる国会の特別委員会のアドバイザリーボードの設置。かなり遠回りにも見えますが、実はこれが一番の近道だと今回のフィンランド・オンカロ視察で確信しました。

原発再稼働の是非は処理問題とセットで考えろ

 

原発の是非論は別にして、原発を動かせば使用済核燃料は必ず出てくる。今、日本の高レベル放射性廃棄物は、タンカーでイギリスとフランスへ運び、再処理してもらったものを青森県六ヶ所村の貯蔵管理センターで保管している。再処理された燃料は、夢の増殖炉で再利用されるはずだったが、技術的に難しいようだ。最終的には地層奥深くに埋めなければならない。

しかし、本稿にあるように、フィンランドと大きく事情が違う日本におけるベストな選択は、提案することさえも難儀しそうだ。原発再稼働の是非についても国論を二分するほどだし。

原発がほとんど稼働していない現在も電力不足は起きていないのだから、多少コストが高くても、これから人口減の日本を考えると、シェールガスやメタンハイトレードなどの新エネルギーや、自然エネルギーの開発に力を入れた方が現実的かもしれない。

ただ、平氏が言うように、現在ある使用済核燃料をそのままにするわけにはいかないし、他国に管理してもらうような無責任もできない。国債と同じで、将来へ付け回すようなことだけは許してはいけない。原発再稼働の是非は、処理問題とセットで語られないといけないのだろう。