くさいアンモニアが低炭素社会のカギ握るかもしれない

2019.11.5

技術・科学

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くさいアンモニアが低炭素社会のカギ握るかもしれない

「東京モーターショー」では一風変わった出展も数多く、中でも自動車用電装品や発電機を手掛ける澤藤電機が岐阜大学と共同開発したプラズマメンブレンリアクター(PMR)は注目に値する。アンモニアから水素を効率よく取り出せるコンパクトな器械で、常温・常圧で触媒ではなくプラズマを使って、アンモニアから純度99.999%の超高純度の水素ガスを効率よく取り出せる優れもの。もちろんこの種の装置としては世界初で、燃料電池(FC)自動車や水素自動車のトータルコストを一気に押し下げ、普及拡大の決め手になるとして注目されている。

副産物として排出されるアンモニアに目を付けた

アンモニア(NH3)は文字通り窒素(N)と水素(H)からできた比較的構造が簡単で、かつ自然界にも存在する身近な化学物資だが、強烈な刺激臭を伴い、高純度のものは毒性が強く取り扱いに注意を要する。

化学工場をはじめ多種多様な業界で化学合成または副産物として豊富に産出、価格も比較的安価でまた化学肥料の原料としても重宝され、世界的にも幅広く流通されている物質でもある。このため調達・輸送コストも安い。加えて、分解または燃焼したとしても、化石燃料(炭化水素)のようにCO2を排出しない。

一方、水素は未来のエネルギー源として注目されるものの、水(H2O)を電気分解して水素ガスを抽出するには、現行の場合あまりにも高コストだ。また、天然ガスなど化石燃料を原料とすれば比較的安価にH2を製造できるが、再生エネルギーを考えると少々矛盾してしまう。さらに取り扱いや輸送にコストがかかる点も侮れない。

水素ガスは引火・爆発の危険性が非常に高いため、堅牢なボンベと厳重な保管が 必須で、加えて輸送コストを下げるため体積を圧縮、つまり液体化するには、700気圧以上の圧力をかけるか、またはセ氏マイナス253度に冷やさなければならず、これにもコストがかかる。

だが、仮に水素ガスを「アンモニア」という化学物質に一時的に変質させれば、常温・常圧でも安定し、また、引火や爆発に対する安全性の確保に関しても、水素ほど神経過敏になる必要はない。まさに「エネルギーキャリア(エネルギーの輸送・貯蔵のための担体となる化学物質)」という発想だ。さらにこれまでのアンモニアのサプライチェーンをそのまま流用できるため、輸送・保管コストも大幅に圧縮できる。

すでに澤藤電機はオートバイにPMRを付けた実走行試験を実施、その有効性に手応えを感じている。近々実用化に踏み切る模様で、車載用はもちろん、FC発電機や水素ステーション、焼却炉、工場、半導体製造工場における廃アンモニアの再利用などでの活躍が期待されている。