軍事力で劣るイランがアメリカと対立できる理由

2020.1.16

政治

1コメント
軍事力で劣るイランがアメリカと対立できる理由

Iranian Supreme Leader Press Office/Abaca/アフロ

米軍がイラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」のスレイマニ司令官を殺害 したことで、中東情勢は一気に緊張が高まった。イランは報復として、イラク西部にある米軍基地を空爆したが、その後両国とも戦争は望んでいないとの姿勢を改めて示し、現在のところ戦争の危険性は回避された模様だ。ひとまず一触即発状態を脱したアメリカ・イランだが、そもそも世界最強の軍事力を有するアメリカに、なぜイランは対抗できるのだろうか。

また、緊張感の続く情勢のなかで日本はどう振る舞うべきなのだろうか。

攻めはしても再選のために戦争は回避したいトランプ

いったんは戦争を回避したアメリカとイランだが、中東で影響力を拡大したいイランと、それを阻止したいトランプ政権の対立構図は依然として変わっていない。トランプ大統領は、新たな報復措置として追加的な経済制裁をイランに発動し、2015年のイラン核合意に代わる新たな合意枠組みを作る必要性を強調した。

トランプ政権のイランへの強硬姿勢は今後も維持される。トランプ大統領の頭の中は11月の大統領選でいっぱいで、仮にイランと戦争になると国民の反発が強まり、大統領選で不利になることはわかっている。再選にとってマイナスになるようなことはトランプ大統領も避けたいはずだ。

だが、トランプ支持派の多くはキリスト教福音派で、ユダヤ権益とも密接な関係にあることから、トランプ大統領のイスラエルの代弁者のような姿勢は変わらない。よって、戦争はしないがイランへの厳しい姿勢は変わらない。

イランはアメリカとの軍事力の差をネットワークでカバー

一方、中東での影響力拡大を目指すべく、「シーア派の弧」(※)を描きたいイランの姿勢も変わることはない。イランも軍事力でアメリカに直接敵わないのはわかっている。よって、イランが対立するアメリカやイスラエル、サウジアラビアに仕掛けるのは、いわゆる「非対称戦」(※)だ。

※シーア派の弧:イランからイラク、シリアを経てレバノンへと至る親イランネットワーク。中東地域におけるイランの勢力を示す。

※「非対称戦」:軍事力に圧倒的な差がある際の戦争の形態(国家対非国家組織など)。テロやゲリラ戦などの手段を利用することも多い。

近年、サウジアラビア領内へのドローン攻撃、ペルシャ湾を航行する石油タンカーへの砲撃などは相次いでいるが、その背後にはイランが支援するシーア派組織・民兵があるといわれる。イランは、イエメンのシーア派武装勢力フーシ派やレバノンのヒズボラ、バーレーンのアル・アシュタール旅団(Al Ashtar brigades)、イラクのハラカット・アル・ヌジャバ(Harakat al nujaba)やバドル旅団(Badr Organization)、カタイブ・ヒズボラ(Kataib Hizballah)、シリアのLiwa Fatemiyounなどのシーア派組織を軍事的・財政的に支援し、アフガニスタンやパキスタン出身のシーア派民兵をそれら各国に送り込むなどしている。

各組織により軍事力や財政力に大きく異なるものの、イランの支援規模は数百万ドルから数十億ドルともいわれ、フーシ派には約10万人、ヒズボラには2万5000人~3万人、イラク・シリアのシーア派民兵には10万人~20万人がそれぞれ参加しているとの情報もある。

報復攻撃を認めたことで対米非対称戦は機能不全に?

米軍に真正面から軍事的に対峙できないイランとしては、周辺各国を拠点とする親イラン民兵、武装勢力を軍事的・財政的に支援し、こうした組織の活動に依存することで影響力を中東で拡大し、アメリカなどをけん制しようとしている。

アメリカとしても、イランが真正面から向かってくるのに比べ、こういった戦略を採られると、決定的な証拠を内外に示せないことから、イランの落ち度を強調しにくくなる。

反対に、今回のスレイマニ司令官の殺害に至るまでのなかで、イランは非対称戦を採用することで国際社会からの批判をうまくかわしてきたといえる。しかし、スレイマニ司令官殺害への報復攻撃について、イランは自らが実行したと発表した。今後、イランの対米非対称戦はこれまで通り機能するのだろうか。

日本は中立的な中東諸国と関係を密に

理念なきトランプ政権と対米非対称戦を続けるイランの構図は今後も続く。このようななか、安倍晋三首相は1月11日に中東へ出発し、海上自衛隊も中東へ派遣されたが、日本が米・イラン情勢で貢献できることは限られている。

しかし今回、安倍首相がオマーンとUAEを訪問したように、現在の米・イスラエル・サウジアラビアvsイランという中東対立の構図では、比較的中立的な立場に位置する中東諸国(オマーンやクウェート、ヨルダンなど)と日本が関係を緊密にすることには意義がある。UAEは、サウジアラビアとバーレーン、エジプトとともに、イランと関係を保つカタールと外交関係を断絶しているが、去年以降はイランとの関係が修復しつつあるように思えるからだ。

いずれにせよ、日本としては、中東の平和と安全に寄与するため最善を尽くすなかでも、情勢が今後どう動き、緊張が高まった場合にどう日本権益(現地にいる邦人の安全など)を守るかを第一にしていくべきだろう。