実は反米よりも反政府 イランの若者たちのリアル

2020.1.22

社会

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実は反米よりも反政府 イランの若者たちのリアル

写真:ZUMA Pressアフロ

イラン危機はアメリカとイランによる抑制的な報復で戦争は回避された。

イラン各地では殺害されたスレイマニ司令官の追悼行事が開催され、アメリカへの非難の声が報じられた。テレビに映るイラン国民の姿を見ていると、スレイマニ司令官のカリスマ性や、強い反米意識を想像させる。

しかし、イランで実際に生活する若者の様子を見てみるとその意識は報道で見えるイメージと少し違うようだ。

イランで広まる若者らの反政府デモ

イランでは昨年11月中旬以降、政府によるガソリン価格の値上げ決定を機に、各地で若者らによる反政府デモが発生している。抗議デモは首都テヘランのほか、シラーズ、マシュハド、ビールジャンド、マフシャフルなど各地に広がり、デモ隊は各地のガソリンスタンドや銀行などを次々と襲撃。その一部は治安当局と激しく衝突するなどし、これまでの死者は300人以上、1000人以上が逮捕されたともいわれる。

そして、最近では、イランが誤ってウクライナ民間機をミサイルで撃墜したことに対する国民の不満・怒りが高まっている。ウクライナ機撃墜について、イラン政府は当初それを否定したが、その後一転してそれを認めたことで国際社会からの反発の声が高まり、イラン国民からは“恥を知れ”などと政府への反発が強まっているのだ。

イランの若者の反米感情はそれほど強くない

長年、アメリカとイランは犬猿の仲だ。だが、時代の変化とともにそれは変わりつつあるように思う。筆者にも身近に同世代のイラン人の友人や仕事仲間がいるが、反米感情は決して強くない。イランの人口の多くは若者で、1979年のイラン革命を経験していない世代であり、今後いっそうそれは進む。イランの若い世代はアメリカへのあこがれや外国への興味を持つ人々が多いと話していて強く感じる。

アメリカに経済制裁を科されているイランには、アメリカ企業のチェーン店は存在せず、世界のどこにでもあるマクドナルドももちろんない。しかし、友人に聞くと、テヘランにはマクドナルドに似た「マシュドナルド(Mash Donald’s)」や、バーガーキングに似た「バーガーハウス(Berger House)」などがあちこちにあるという。そして、我々と同じようにスマートフォンを持ち、SNSを日常的に使っている。

イランで反政府の声を挙げているのはこういった若者たちだ。自由や開放を求める声は根強く、低賃金や失業などに悩む若者たちの政府や既得権益層への不満や怒りは日に日に高まっている。昨年11月以降のデモでも、きっかけはガソリン価格が50%も上がったことだった。

よって、政府としては、今回のスレイマニ司令官の殺害によって、各地で高まる国民の反政府感情を反米感情に転嫁させたい狙いもあったことだろう。だが、事は思うように進んでいない。上述のように、ウクライナ機撃墜への対応で再び国民の怒りの矛先は政府に向いている。また、日本のメディアでは度々英雄と報道されてきたスレイマニ司令官の旗を蹴り落とす若者の姿も見られる。

イラクやレバノンでも若者の反政府デモが激化

このような若者たちの姿は他の中東諸国でも全く同じだ。例えば、イラクでは昨年10月以降、政府の汚職や経済政策に不満を持つ若者らが抗議の声を挙げ、治安当局と衝突するなどして、これまでに460人以上が命を落としたとされる。

抗議デモや衝突は、首都バグダッドからバスラなど南部の各都市に広がっており、現在も収まる気配は全く見えない。若者たちの怒りの矛先は、イラク政府だけでなく、それを支えるイランやイラクに駐留し続けるアメリカへも向いており、イラン領事館やアメリカ大使館が襲撃される事態も発生している。

バグダッドでは1月20日にも大規模な反政府デモが行われ、デモ参加者3人が死亡、50人以上が負傷した。デモ参加者からは、「No to America and no to Iran, Sunnis and Shias are brothers」、すなわち、「アメリカもイランも出て行け、スンニ派もシーア派も同じイラク人だ」という叫び声が聞かれる。

また、レバノンの首都ベイルートでも1月18日から19日にかけ、デモ隊と警官隊の間で大規模な衝突が発生し、数百人以上が負傷した。昨年10月以降、レバノンでも政府の汚職や政策に不満を持つ若者らによる反政府デモが断続的に続いている。最近も現金を下ろせないなどとして、ベイルートにある銀行の支店が破壊されるなどした。レバノンの反政府デモでは、イラクやイランのデモを応援しようという叫びも一部で聞かれる。

イラン政府が最も恐れるのは内からの脅威か?

最後に、当然ながらイランの若者全てが反政府というわけではないし、反米感情も持っている者もいる。だが、その多くは我々日本人がテレビで見る映像とは異なる。日本がアメリカの同盟国だからといって我々への敵意も高いわけではないし、むしろ日本に興味のある若者が多いのではないか。

裏返すと、現在のイラン政府は内からの脅威を恐れているともいえる。SNSなどの影響で外国の人々や文化、情報に触れることも当たり前になった。今後はイラン政府とイランの若者という構図がいっそう激しくなるのかもしれない。