復活狙うイスラム国、彼らはどこへ向かうのか?

2020.2.20

社会

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復活狙うイスラム国、彼らはどこへ向かうのか?

IS前最高指導者のバグダディ容疑者/提供:Islamic State Group/Al Furqan Media Network/ロイターTV/アフロ

世界各地でテロを展開し、国際的な脅威であり続ける過激派組織「イスラム国(以下、IS)」。トランプ大統領は2月4日の一般教書演説で、強力な軍事力を背景とした外交・安全保障政策を推進していく立場を打ち出し、ISのアブ・バクル・アル・バグダディ容疑者の殺害など中東での成果を強調した 。

 

だが、アメリカは本当にISとの戦いで成果をあげたといえるのだろうか。バグダディ容疑者が死亡した後も、各地では依然としてISやアルカイダなどを支持するイスラム過激派が各地で活動し、欧米やイスラエルへの攻撃、報復を呼び掛けている。

カリスマ亡き後も再生を狙うIS

昨年のハロウィーンの際、ISのバグダディ容疑者が殺害されたニュースが世界中を駆け巡った。あれから、ISはどうなったのか。カリスマがいなくなったことで枯れた花のように散ってしまったのだろうか。その動向を追っていると、何か不気味な形で再生を試みているようだ。

1月20日、英ガーディアン紙は、ISの新指導者を顔写真付きで掲載した。バグダディ容疑者が殺害された直後、「アブ・イブラヒム・ハシミ・クラシ」という長い名前で正体不明の人物が後継者として発表されたが、同紙は、それは偽名で、「アミル・モハメド・アブドル・ラーマン・マウリ・サルビ(Amir Mohammed Abdul Rahman al-Mawli al-Salbi)」が新たな後継者だと報じた。

ISの幹部というと、あご髭を伸ばし、いかにもアラブ系! というイメージを想像するが、ガーディアン紙に映った顔は、肌が白く、非アラブ系で、欧米人?と疑いたくなるような顔だった。

この人物は、イラクのモスル大学でイスラム法の学位を取得し、ISの創設メンバーの1人で、以前にバグダディ容疑者と南部バスラにある米軍が運営する刑務所「キャンプ・ブッカ」で共に収容されていたことから、深い間柄だという。現在のところ、これ以上の詳細は明らかになっていないが、これまでのISのリズムを振り返ると、おそらく、この人物による声明が発表されると、フィリピンやバングラデシュ、パキスタンやアフガニスタン、イエメンやエジプト、ナイジェリアなど各地域のIS地域組織から同氏を支持するなどとする声明が発表されることだろう。

そして、それによってIS指導者の捕獲、殺害作戦が再びシリア、イラクで再開する。既に水面下では始まっているかもしれないが、とりあえずはISの新たな再スタートとなる。

だが、サルビ容疑者がバグダディ容疑者のようなカリスマ性を得られるかは分からない。2014年~2015年あたりに最大英国領土に匹敵すると言われたISの広大な支配地域はもうそこにはない。サルビ容疑者にあるのは、組織や支持者を集められるISの求心力、ブランドだけである。

イラク・シリアで勢力復興の機会を狙う

一方、ISはイラク・シリアでテロ活動を続けている。例えば、イスラム過激派の動向を監視する米国のサイトインテリジェンス(SITE)は、1月10日、昨年12月25日~31日の間におけるISのテロ事件(イラクとシリア)に関する統計を公表した。それによると、ISによるテロは、シリアではデリゾール県で12件、ラッカ県で10件、ハサケ県で2件、ホムス県で2件、アレッポ県で1件、ダラア県で1件それぞれ確認され、イラクとの国境に近い東部に事件は集中している。イラクではニナワ県で4件、エルビル県で2件、キルクーク県5件、サラーハッディーン県で8件、ディヤーラ県で8件となり、北部に集中している。

イラクとシリアでは、依然として逃亡し続けるIS戦闘員が多く存在し、勢力を盛り返すタイミングを狙っている。1月上旬、これまでIS掃討を主導してきたイラン革命防衛隊のスレイマニ司令官が殺害されたことで、同司令官が率いたシーア派民兵の歯車が崩れ、今後ISが活動を活発化させる可能性も一部で懸念されている。

また、国連や米国防総省は、昨年以降、何回もISが復活する恐れがあるとする報告書を発表している。現在の状況は、「ISが以前のように猛威を奮うことはないが、依然として各地にISの支部は存在し、勢力を盛り返す機会を狙っている」である。

テロの根底には身近な社会問題がある

筆者は、ツイッターなどで世界中のテロ研究機関、テロ対策研究者など常時情報を共有しているが、フィリピンやバングラデシュ、エジプトやナイジェリアなど各地でISという名の下でテロや暴力に走る若者の姿をよく目撃する。各地にISの支部が存在することは脅威であるが、今後の人口爆発に伴って、経済的不満や怒りを覚え、途上国を中心に若者たちがいっそうテロの世界に入ってしまうことがもっと大きな脅威だ。ISというのは、そういった若者を束ねるネットワークの1つでしかないのかもしれない。

ISというと、過激、異端、非道というイメージで語られることが多いが、実は失業や経済格差、疎外感や孤独感など、我々の身近にある社会問題が根底にあり、決して遠い存在ではないのである。