なぜ日本は文化芸術に対する支援が少ない? 欧米との違い

2020.5.28

社会

0コメント
なぜ日本は文化芸術に対する支援が少ない? 欧米との違い

再開したドイツ・ジュイスブルクにあるKueperspersehehle美術館。鑑賞者はマスクを着用。 写真:AP/アフロ

新型コロナウイルス感染の広がりにより、文化芸術分野で働く人々の生活が危ぶまれている。ライブハウスが次々と閉館に追い込まれたり、映画館や伝統工芸まで消滅の危機にあることを知っている人も少なくないだろう。

 

コロナ禍における日本の文化支援策は欧米の文化支援政策と比べて、支援額はもとより迅速さに欠けることが問題視されている。しかし、日本と欧米では文化芸術に対する根本的な考え方が異なっており、欧米並みにするには、日本政府だけでなく私たち国民の文化芸術に対する意識をも変革する必要がある。

 

優れた音楽や伝統工芸に恵まれながら、その文化を守ることよりも自分のマスクやトイレットペーパーの購入に躍起になる日本人。この意識はどう変わるべきなのか。

欧米では芸術にかかわる広範囲に手厚い援助

欧米の芸術分野への支援は、国民性に基づいている。

ドイツのモニカ・グリュッタース文化相は3月に「芸術家は生命維持に必要不可欠な存在」と発言し、フリーランスを含む芸術分野にかかわる人に500億ユーロからなる手厚い支援策を講じている。

ドイツ では、芸術分野でフリーランスとして活動する人に対し、約5000ユーロ(約60万円、現地で3~4か月暮らせる額)を支給している。対象はドイツ人に限らず、ドイツ在住の外国人も含める。

名前と住所、税金番号を入力すれば2日後に入金される。さらに10月まで社会保障や失業保険も用意され、家賃などの生活費も保障されるという。

また、イギリスでは文化芸術を支援する公的機関であるアーツカウンシル・イングランドがフリーランスを含む個人に向けて最大2500ポンド(約34万円)を、カナダでは自営業者、契約労働者、フリーランスとして働く芸術家に対して最大2000カナダドル(約15万円)を最大4カ月支給すると決めている。

そこまで大きな国家規模で芸術分野を守ろうとするのはなぜか。それは国民の日々の生活に芸術がなじんでいることにある。

欧米の家庭にはどの家に行っても絵画や彫刻、ヴィンテージギターといったアートが必ず飾ってある。家族や訪れた友人と芸術について語り合い感性を高める習慣がある。

普段から芸術に親しんでいると、人々は芸術の大切さを認識し、今回の新型コロナウイルス感染拡大のような騒動が起きたときにも、国家規模で芸術分野を守ろうとするのだ。

作り手も新しい文化を生み出す努力を

一方、日本における文化芸術分野に特化した支援は第1次補正予算での文化施設に対する35億円があったが、個人や団体に対する支援はまったくと言っていいほどなかった。5月27日に閣議決定された第2次補正予算案でやっと、芸術家やアスリート、団体などに対して最大150万円を支援、総額560億円規模を支援することが盛り込まれている。

日本の伝統工芸品産業は、もともと需要が少なくただでさえ衰退しているところにコロナ禍によって、物販などの販売拠点を失い、買い手がつかず閉業に追い込まれている。

伝統工芸が衰退している主な原因は、“伝統工芸品=博物館で展示されている高そうなもの”というイメージが強く、人々の生活になじんでいないことにある。

にもかかわらず、伝統工芸の職人たちはその原因を考えずに諦め、「わかる人にわかってもらえれば」と人々に知ってもらおうという意欲を示していないことも衰退を進める原因となっているのではないか。

ある九谷焼(くたにやき)のの窯元を例に見てみよう。その窯元では湯呑みに笛吹の絵柄を付けているのが伝統だったが、需要の低下により5代目で幕を下ろそうとしていた。

そんなとき、6代目は絵柄の笛吹にドラムを叩かせたり、DJをさせたりした。ほかにもアイスクリーム型の盃や走る急須(非売品)なども考案。「えっどういうこと?」と人を惹きつけるデザインだった。さらに、インスタグラムで湯呑みの製造工程を動画で紹介。

View this post on Instagram

【窯まつり限定品紹介】  「湯呑 笛吹 金彩」  「笛吹」の湯呑14柄のスペシャル金彩バージョンです。  染付で描くいつもの湯呑とは違って、ゴージャスな印象を受けるこれらの笛吹、その中でもトランペットやトロンボーン、(サックス)は金管楽器と呼ばれ、金彩で描かれいてもなんだかしっくりと来ますね。  こちらも窯まつり限定品です。 https://kamamatsuri.thebase.in/ #上出長右衛門窯 #まつりのかわり #九谷焼 #窯まつり #笛吹 #笛吹シリーズ #金彩 #金管楽器 ◎「まつりのかわりONLINE SHOP」は今週日曜日までです!5月17日(日)23時59分閉店させて頂きます。

A post shared by 上出長右衛門窯 広報室 (@choemon_pr) on

そうした試みが功を奏して、デザインのユニークさや職人によって丁寧に造られた工程を知り、量販物との違いに惹かれて購入する若いファンが増えたという。

今の多くの伝統工芸に足りないのはそういったところではないだろうか。ユニークなセンスを磨くことや、SNSを活用して良さをわかってもらう工夫をすることが文化の存続のために必要とされている。

確かに高齢の職人にとってSNSを活用したり、新たなデザインを取り入れることは難しいかもしれない。それなら、その道のプロを活用すればよい。工芸品の良さを理解して引き立てるデザインを提案してくれる人、SNSで映える投稿の仕方、動画の活用方法を知っている人を見つけ出せばよい。

そうすれば、日本の伝統と最新のデザインが混ざり合った新しい文化が生まれ、新しいビジネスチャンスになる可能性もある。

将来、若者が「九谷焼の繊細さもいいけど、益子焼(ましこやき)の力強さもいいよね~」とファッションを語り合うように工芸品について語り合う日が来たら面白い。そうして生まれた文化にファンがつけば、世論やメディアも動かせる。そうして、ゆくゆくは政府により欧米並みの手厚い支援を求めることもできるのではないか。手厚い支援を求めることもできるのではないか。