ビールを超えた!?プレミアムな味を実現した「アサヒ ザ・リッチ」開発秘話

2020.7.3

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「第3のビール」とも呼ばれる「新ジャンル」は、ビールや発泡酒以外のビールテイスト飲料で、2003年に登場して以来、商品も多様化し市場を伸ばしている。使用できる麦芽の量が少ないが、安価で買いやすいのも理由のひとつだ。とはいえ、ビールと比較するとどうしても味が劣る……という印象を持つ人も少なくない。しかし「アサヒ ザ・リッチ」の印象はまるで異なる。新ジャンルでありながら「プレミアムビールのうまさを目指した」という高いハードルを実現した商品の開発秘話に迫る。

「まるでビール」を超える評価を狙う

2020年3月17日、アサヒビールから発売された新ジャンル「アサヒ ザ・リッチ」の販売が好調だ。発売約2カ月で200万箱を突破し、アサヒビールは年間販売目標を当初計画比の2倍となる800万箱へ上方修正した。コロナ禍の外出自粛や節約意識の高まりから、直近のビール類市場は低価格で購入できる新ジャンルの家庭内消費が堅調に推移しているようだが、もちろん理由はそれだけではない。

背景には、常識を疑うことから始まった開発ストーリーがあった。

「従来の新ジャンルのイメージを覆すために『まるでビールみたい』という評価ではなく、『まるでプレミアムビールみたい』と思ってもらえる商品をつくることにこだわりました」と語るのは、アサヒビール・マーケティング本部の岡村知明さん。

アサヒビール株式会社 マーケティング本部 ビールマーケティング部 担当課長 岡村知明さん

「新商品の開発にあたって実施したユーザーインタビューの中で、最近の新ジャンルについて尋ねると、『最近のは本当においしいですよ』と答えてくださる方だけでなく、『もっとおいしくなるのを楽しみにしています』という声も多くありました」

新ジャンルに求める水準が消費者の間で高まりつつあるなかで、調査によると、消費者の理想に対して「コク」「麦のうまみ」「高級感」「贅沢感」といったものが新ジャンルに不足していることがわかり、“プレミアムビール”を目指す必要性に気づいたという。

こうして、「プレミアムビールのような上質さと贅沢感を味わえる新ジャンル」という「アサヒ ザ・リッチ」の開発コンセプトが決定した。発売後4週目にアサヒビールが実施した調査によれば「既存の新ジャンルにない高級感や贅沢感がある、おしゃれ」「日常のちょっとしたご褒美に良い」といった声を得ており、まさにコンセプト通りの結果。

筆者としては冒頭の理由から、これまであまり新ジャンルを飲む機会はなかったが、「アサヒ ザ・リッチ」はコク深い味わいとホップの爽やかな香りが、その概念を打ち壊すのに十分な飲み応え。うまさとは麦芽の使用量に比例するものではなかったか――。新ジャンルにおいて、アサヒビールはこの味をどうやって実現したのか。そこには、研究開発チームの従来のビールづくりの常識にとらわれない柔軟な発想があった。

「ライバルは、プレミアム」のCM文言を地でいくクオリティを実現

セオリー破りの「微煮沸製法」

伝統的なビール醸造には、麦汁に熱をしっかり通して殺菌すると同時に濁りや不快なにおいを取り除く、煮沸という工程がある。

しかし、煮沸によって麦汁にある挽き立ての麦芽由来の芳醇な香りが失われてしまう課題があった。特に新ジャンルでは、麦の使用量が制限される分、ビール独特の香りやコクを付与しにくいといえる。

しかし、「アサヒ ザ・リッチ」では、熱を入れる時間を最小限に留め、可能な限り麦の香りが残るようにした。これを「微煮沸製法」という。

……と、簡単に書いてしまったが、これまでのセオリーを破ることはなかなか難しかった。きっかけ何だったのだろうか。

「アサヒビールはここ数年、ヨーロッパや中東欧のビール事業会社を買収し、そのおかげで海を越えた技術交流も行ってきました。こういった海外との交流のなかで、研究開発チームが、必要最低限の時間しか熱を入れない近年のヨーロッパの潮流を知ったのがきっかけです」(岡村知明さん)

日本では、麦汁を煮込む際には1時間以上蒸気を注入し、約100℃の温度でしっかり煮沸するのがセオリーといわれている。一方ヨーロッパでは、煮沸時間を可能な限り減らす方法をとっており、これは近年のビール醸造の世界的な潮流でもあったという。

こうした海外の動きにヒントを得て、そこから発想をさらに飛ばし、極端に煮沸しないでつくってみたらどんな味になるのだろう、と考え醸造したプロトタイプは、実験的な試みだったが、麦の豊かな風味がしっかりと残りコク深いものだった。蒸気の注入時間を分単位で管理することで、殺菌の担保も両立。問題は大量生産のために各地の工場でそれを再現することだった。

研究開発チームの柔軟な発想と現場の熱意が生み出した“プレミアム”

ビール造りは繊細で、製造設備ごとに調整を要する。通常のビールならまだしも、それまで知見がなかった「微煮沸製法」を再現するには各地の工場の技術者たちの協力が不可欠だった。これまでの製法との違いに戸惑う各地工場の技術者たちだったが、プロトタイプを飲むとすぐに「そうか!」「なるほど!」と納得。技術者たちの理解を得ることに成功し、大量生産の体制は整えられていった。

「アサヒ ザ・リッチ」のプレミアムな味わいの裏には、研究開発チームや生産現場の教科書にとらわれない柔軟な発想があり、またそれを受け入れるアサヒビールの企業文化があったわけだ。さらに、プレミアム感を訴求する取り組みはこれで終わりではない。味と合わせてパッケージデザインも重視した。

「高級ホテルのロビーで飲んでも絵になるように、エンブレムを採用しました。さらに手で持ったときにも上質さを感じてもらうために、缶の印刷に特殊インクを用いて少しざらつきを演出しました」

味覚だけでなく、視覚や触覚といった五感でプレミアムを感じられる商品として開発された「アサヒ ザ・リッチ」は、ビールより安価な新ジャンルでありながら、プチ贅沢を楽しむ日々のパートナーとして消費者の期待を超える仕上がりになったといえる。

アサヒビールが仕掛けたイマドキなビールの楽しみ方

2020年4月25日にオンラインで開催された第1回「いいかも!オンライン飲み ASAHI SUPER DRY VIRTUAL BAR」

6月10日にビール大手4社が発表した5月の販売動向によると、ビール系飲料の販売量合計は前年同月比で13%減。特に外出自粛の影響で業務用市場の減少は大きかった。そんななか、アサヒビールは4月~5月にかけて約1000人が参加できる「オンライン飲み会」を4回にわたり開催。

「今は、距離は離れていても、オンライン上で人と人はつながることができる。これからの時代におけるビールの楽しみ方を伝達しやすい仕組みだと感じました」

そう話すマーケティング本部・宣伝部の花田真志さんは、コロナ禍においてこれまでなかったビールの楽しみ方を提案する目的で、オンライン飲み会を企画。乃木坂46の白石麻衣、秋元真夏やお笑い芸人の三四郎、2020アサヒビールイメージガールの高田里穂らが登場してイベントを盛り上げた。開催後、参加者の9割からは「また参加したい」という好意的な意見が多かったという。

新型コロナウイルスの影響により、夏場の恒例イベントであるビアガーデンなども今年は様子が変わりそうだ。アサヒビールとしては、お酒の楽しみ方の変化をどのようにとらえているのか。

「オンラインでは遠方の人とでも気軽に乾杯ができる。今回の自粛生活をきっかけにオンライン飲みの楽しさを実感した方も多いと思います。ただ、それはあくまでも外出できないという制限があったなかでの選択肢だったわけです。やはりこれまで通り、オフラインで集まって乾杯するのが良いと感じる方も多いでしょう。どちらか片方を選ぶのではなく、われわれとしてはあくまでも家飲み、外飲み、両方の選択肢を提案していきたいと考えています」