豪州CUB買収のインパクト、アサヒが目指すニューノーマルとは

2020.9.28

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豪州CUB買収のインパクト、アサヒが目指すニューノーマルとは

写真:ロイター/アフロ

日本・欧州・豪州、3極のグローバルプラットフォーム

2020年6月、国内ビール大手アサヒグループホールディングス(GHD)は、ベルギーのビール世界最大手アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABI)よりオーストラリアのトップブランド、カールトン&ユナイテッドブリュワリーズ(CUB)を買収。取得額は160億豪ドル、日本円にして約1兆1416億円にもなるアサヒGHDにとっても過去最大の巨大買収だ。

アサヒGHDは、2016年から中期経営方針に基づいてグローバルな海外成長基盤の拡大に注力しており、2016年10月にABIより西欧のビール事業を約3000億円、2017年3月にABIより中東欧5カ国(チェコ、ポーランド、ハンガリー、スロバキア、ルーマニア)のビール事業を約8800億円で買収。イタリアの「ペローニ・ナストロアズーロ」やチェコを代表するピルスナーの元祖「ピルスナーウルケル」などを得て、世界のプレミアムビール市場のプレゼンスを拡大し、海外比率は売上の約3割、事業利益の4割まで上昇(2018年12月期)している。

オーストラリアは資源が豊富で経済基盤が安定しており、昨年まで28年以上にわたって景気後退がない世界最長記録を更新。アサヒGHDの小路社長は「魅力的なオーストラリア市場について、ローカルマーケットの基盤拡大の機会をかねてより考えていた」と語っており、今回の買収で日本、欧州、豪州の3極によるグローバルプラットフォームが整うことになる。

カスケード醸造所
CUBが所有する、オーストラリアに現存する最古のビール工場、カスケード醸造所(タスマニア州ホバート) 写真提供:アサヒGHD

2024年までに100億円超のシナジーを想定

オセアニア事業を統括するアサヒGHD傘下のAsahi Beverages社(メルボルン)は、既存の豪州酒類事業をCUBと統合し、2020年中に新しくカールトン&ユナイテッドブリュワリーズとして発足させる。CUB取得の目的はトップライン(売上高、営業利益)シナジーとコストシナジーの創出、そして人材面での経営資源の高度化だ。

販路拡大による主要銘柄「スーパードライ」や「ペローニ」の成長加速をはじめ、ビール以外のアルコール飲料や清涼飲料などの取り扱い範囲を拡大。また、アサヒ、CUB双方のマーケティング力、商品開発力を融合して成長ドライバーを創出、トップラインシナジーを生み出す。コストシナジーにおいては各拠点を活用した生産・物流体制の構築や、スケールメリットを生かした調達力の強化などを期待する。これらのシナジーによって生み出される利益は2024年までに100億円以上を想定している。

カールトン&ユナイテッドブリュワリーズ(CUB)のビール銘柄
CUBの主要銘柄。左からオーストラリアのシェアナンバーワン「ビクトリアビター」、クイーンズランドを代表する「グレートノーザンブリューイング オリジナル」、フラグシップの人気ドラフト「カールトン・ドラフト」

CUB取得資金のパーマネント化

アサヒGHDにとって過去最大となる約1兆1416億円の買収資金を長期的に調達するにあたり、財務健全性の早期回復と格付の現状維持を目指し、資本性評価額3000億円相当の調達を検討。残額は負債性資金で調達する。

資本性資金は主に、自己株式の活用を含む約1500億円の「公募増資」と、最大3000億円程度の「劣後債」の発行(資本性50%を想定)を組み合わせ、既存株式の希薄化を抑制しつつ、財務健全性の確保を図る。

公募増資

新しい株式を発行して投資家から資金を集めること。

劣後債

普通社債より元本や利息の支払いの順序があとになる社債。劣後特約付社債、ハイブリッド社債とも。債務不履行のリスクが大きくなる代わりに利回りが高く設定される。負債ではあるが、格付会社は劣後債を資金調達額の一部を資本とみなして格付けする。

※一般的な弁済順位は、担保付き社債>無担保社債>劣後債>優先株>普通株

アサヒグループにとっては、1987年に発売した「スーパードライ」の生産能力を拡大するために茨城県守谷市にビール工場を新設したとき以来の31年ぶりの公募増資となる。

バランスシートの健全化や資本性資金の取り入れにより有利子負債を引き下げ、格付けの維持などを目的に、8月26日~9月3日まで社長やCFOなどがロードショーを実施。9月7日に新株発行価額(1株3357円)が決定し、8・9日に募集を行い、14日に払込が完了した。明確なエクイティストーリー(対外説明)と早期に財務健全性を図る姿勢が投資家から評価され、募集倍率は約8倍になった。

コロナ禍で苦境のビール業界、アサヒの展望は

世界的な新型コロナウイルスの感染拡大は、当然、ビール業界にも大きな影響を与えている。国内は自粛によって外食が激減、本来はアサヒの強みである業務用需要が減少し大きな打撃に。欧州事業、豪州事業ともにロックダウンの影響により低迷し、アサヒGHDの上半期(1月~6月)は11%減収、41%の減益となった。

そんな状況下での巨大買収は、事業にどんなインパクトを与えるだろうか。同社の広報に聞いた。

――業務需要が減少している現状について

人の移動を制限する新型コロナウイルスによって、飲食店の集客力が激減となりました。国内でも海外でも、飲食店で当社品を取り扱っていただいている割合が多い従前のアサヒグループの強みがマイナスのインパクトとして直撃しました。

withコロナ、afterコロナを見据え、コロナ禍における有益な情報の提供や、家庭では味わえない樽生ビールの品質向上策など、飲食店に寄り添った営業活動を展開していきます。

――社会の行動変容への対策は

一日も早いワクチンや治療薬の開発を期待していますが、通常生活が戻るまでには2年程度の歳月がかかると想定しています。また、パンデミック後の社会は確実に変化します。

どのような状況下でも、アサヒグループの商品を選ぶことで得られるお客様のベネフィットの最大化が重要です。価格帯やカテゴリー、そしてローカルブランドからグローバルブランドまで、私たちの強みである幅広いブランドポートフォリオを磨き続けることで、お客様の豊かな生活のお役に立ちたいと思います。

――強化した海外事業は、どのような上向きのインパクトを与えるか

CUBは豪州ビール事業において「グレートノーザン」「カールトンドラフト」などを中心とする複数のメガブランドを保有しており、低価格帯から高価格帯までの幅広い価格帯をカバーするブランドポートフォリオも保有しています。

CUB同様、欧州各国や日本のビール市場においてもメガブランドを保有するアサヒグループは、お客様と強固な絆で結ばれていると自負しています。各国での苦境や変化の兆しに柔軟に対応し、回復力につなげ、強靭な事業構造基盤を構築していきます。

強い事業基盤を持つローカルエリアで各ステークホルダーの期待にお応えするとともに、「スーパードライ」「ペローニ・ナストロアズーロ」「ピルスナーウルケル」といったグローバル・ビールブランドを世界各国で展開するといったブランドポートフォリオによる戦略は、急速に変化し続ける社会において、新たな価値を創出し、楽しい生活文化を創造できると考えています。