「今後は強い願望を持つ人が成功する」ソフトバンク孫正義会長が語ったAIとの付き合い方

2020.11.12

技術・科学

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「今後は強い願望を持つ人が成功する」ソフトバンク孫正義会長が語ったAIとの付き合い方

「Softbank World 2020」はオンラインで開催。画像はすべてモニターより

「この時代を乗り越えるテクノロジーが、ここにある。」と題して10月末に開催された「Softbank World 2020」では、ソフトバンク孫正義会長をはじめ、NVIDIA、マイクロソフト、IBMといった名だたる企業のリーダーたちが、ニューノーマル時代におけるテクノロジーや取り組みを語った。ダイジェスト的に、印象的なプログラムを紹介する。

ソフトバンクとSB C&Sは法人向けイベントの「Softbank World 2020」を10月29日、30日にライブ配信で実施。9回目となる今回のテーマは「この時代を乗り越えるテクノロジーが、ここにある。」で、ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長と半導体大手で、人工知能(AI)で世界のトップを走る米NVIDIA(エヌビディア)のジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)の対談が行われるなど、世界のIT企業のトップがこぞって講演した。

ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役会長兼社長 孫正義×NVIDIA 創業者/CEO ジェンスン フアン 特別対談

「今後は強い願望を持つ人が成功する」(孫正義)

コンピューターについてあらゆることが語られ、名言の応酬となった孫会長とフアンCEOの対談。印象的な部分をピックアップしてお伝えしたい。例えば、孫会長にいわせるとコンピューターの発展は3段階目にあるという。

「コンピューティングの第1段階とは演算計算。人間が手で計算すると遅いが、コンピューターなら極めて速く計算できた。第2段階は記憶で、一人の人間では不可能なほど大量の情報を記録できるようになった。膨大なメモリーがあるからだ。膨大なメモリーを持てば、次に検索したくなる。膨大なデータを蓄積しているので、そこから必要なものを探したくなる……。コンピューターはその目的で使われた。この目的にうまく気づいた企業は大きな成功を収めた。今ついにコンピューターには目や耳ができた。話し声を認識し、人間が見ているものを画像認識で識別したりできる。ということは、コンピューターを使う目的もこれまでとはまったく違うものになるはず。今、その深層学習のまっただ中にいる。人が目や耳を通して認識しているものをコンピューターがディープラーニングできるようになった」(孫正義)

ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役会長兼社長 孫正義

フアンCEOはコンピューターの思考について、“飛行機と鳥は飛び方が異なる”という例えを出して語る。

「思考の定義は難しいが、思考に似たスキルをコンピューターは実行できる。人間と同じ方法で思考する必要はない。コンピューターは知能があるかのようにスキルを実践することができる」(ジェンスン フアン)

「コンピューターは季節性、気温、天気、失業率などの膨大なデータを分析でき、製品と数量の最適な構成比の予測が可能で、最適な価格設定もできる。個々の客の趣味、購入パターン、習性、予算に応じて最適なリコメンドもできる」(孫正義)

「常に人間の存在も必要で、AIの仕事は推奨することであり、人間が決定をしてAIに適用させること。人間の仕事は判断すること」(ジェンスン フアン)

誰もが知っていることでありながら明確に想像できていないことについて、2人の視点を通すとまったくクリアになることが興味深い。例えば、AIではよく話題になる自動車の自動運転についてファンCEOはこう語る。

「一つは運搬用の車両で、人が乗るモノではなく、室内の閉鎖的な環境でゆっくりと走るものがある。食料品などの配達に使われ、工場でなら数億台が導入されるでしょう。人が運転する自動車は完全自動化をする必要がない。運転経験を今よりも快適で楽しいものにすれば、それだけで十分。実質的には運転支援が高度化したものになり、運転する喜びを実現するために完璧である必要はない」(ジェンスン フアン)

「これまではプログラムを書ける人は良いキャリアを築けたが、今回の技術革新でコンピューターサイエンスが十分に進歩してコンピューター自身がプログラムを書けるようになり、万人がコンピューターによって等しく利益を得ら得られるようになる。もはやコンピューターをプログラムする必要はない」(ジェンスン フアン)

NVIDIA 創業者/CEO ジェンスン フアン

孫会長は、将来的に多くの人がプログラミング言語を取得する必要なしに、プログラマーが享受してきた利益の恩恵も受けることができるとも話す。最後に紹介するこの言葉は、プログラムに取り残されつつある人たちに大きな希望を与えるだろう。

「コンピューターに『私はこれがしたい』とお願いするだけ。と『自分はこれがしたい』という強い願いを持つことが大事。課題や問題があって苦しんでいる人がいるのなら、助けてあげたいと願うはず。それが強い願望になったときAIがアシスタントやパートナーとして助けてくれる。将来、成功する人は強い願望や思いを描けた人になる」(孫正義)

「Meet the Global Tech Leaders」テーマ:デジタル化の先にある未来

そうそうたるITのリーダーたちが共演したプログラムからもいくつか紹介したい。

[1]マイクロソフト CEO サティア ナデラ 氏

ソフトバンクの宮内謙社長兼CEO(左)とマイクロソフトのナデラCEO(右)

「テクノロジーの強さで企業が評価される」

「世界のデジタル化は新型コロナ前、コロナの後もさらに進んでいく。この先10年で、あらゆく産業、あらゆる企業がソフトウェアの会社になる。それは何を意味するのか? 小売、金融、通信などあらゆる企業が自社内に最高のテクノロジーを採用することになるので、先陣を切る姿勢が大事になる。また、自ら世界トップのテクノロジーを開発する能力を社内に築くこと……われわれは“テクノロジーの強さ”と呼ぶが、その強さで企業が評価されると思っている」

[2]IBM CEO アービンド・クリシュナ氏

「量子コンピューターはビジネスと社会に大きな価値をもたらす」

「長年、テクノロジーの世界にいるわれわれでも規模と早さに驚かされる。新型コロナで各種基盤そのものの見直しも行われている。今後、より強固なデジタル基盤を築くには、ハイブリッドクラウド、AI、量子コンピューティングの3つが重要。例えば、量子コンピューターはスーパーコンピューターでも解決できなかった問題が解決できるようになる。物質の動きを原子レベルでシミュレーションできるようになるため、新薬や材料の開発に要する時間を劇的に短縮できる」

Dropbox Japan株式会社 パートナー事業部長 玉利 裕重 氏 テーマ:1000人の調査結果から紐解く「脱ハンコ」とテレワークの実態

アメリカに本社を構えるDropboxはクラウドストレージのパイオニアで、ユーザー数6億、利用国数180カ国・地域、導入企業数45万社を抱える企業だ。同社は5月に22~69歳のオフィスワーカー1000人を対象にデジタルツール活用に関する意識・実態の変化について調査した。

講演で玉利裕重パートナー事業部長は、テレワーク実施企業の中で、テレワークが週4日以下の企業における課題について、「社内の必要なファイルにアクセスするのが面倒だった」「印鑑を押すの書類があった」などといった声が上がったとした。

デジタル化の一環で話題となった“脱ハンコ”について、電子署名システムのメリットの一つとして契約業務のスピードアップがある。これまでは契約合意から製本、捺印、郵送、ファイリング、保管などで9つのプロセスが必要だが、同社が提供する「Hello Sign」を通すと契約合意、署名依頼、自動保管と5つのプロセスで済むとした。また、玉利氏は「紙の保存が必要なくなるなど、契約にかかるコストの削減につながる」と唱えた。

企業における電子署名システムの検討については、「すでに導入済」が8%、「現在検討中」が18%、「今度検討する予定」が42%、「検討する予定はない」が33%だった。

この時勢で、“新型コロナウイルスの影響を受けなかった”という企業はほぼ皆無だろう。自分自身が変わりたくなくとも、周りが変わってしまう世の中になった。そうなると、進んで変化することを選んだ企業がwithコロナの時代を生き抜くということになりそうだ。