なぜいま「こども庁」? 幼稚園と保育園は所管も法令も先生の資格も違う

2021.4.16

政治

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政府の子どもに関する政策を統括する「こども庁」の創設案が政府・与党内で急浮上している。自民党は創設に向けた菅義偉首相直属の検討本部を設置。2022年度中の発足に向け、具体策の検討を始めた。少子化対策や待機児童の解消、いじめ対策などに期待がかかるが、子どもに関する政策は多くの省庁にまたがっており、実効性の伴う機関になるかどうかは不透明な面もある。

来年の国会に関連法案提出

「すべての子どもの未来に責任を持つのがわれわれ自民党だという覚悟を持ち、この問題に取り組んでまいりたい」。自民党の二階俊博幹事長は4月13日、自ら本部長に就任した「『こども・若者』輝く未来創造本部」の初会合で意気込みを語った。

同本部の常任顧問には厚生労働相や文部科学相の経験者らが就き、文科相経験者である下村博文政調会長ら党幹部もメンバーに名を連ねた。5月中に政府への提言をとりまとめ、政府は6月にまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に盛り込む方針だ。2022年の通常国会に関連法案を提出し、2022年度中の発足を目指すという。

問題は“縦割りの打破”、民主党政権時には本末転倒な結果に

子どもに関する政策は不妊治療や妊娠・出産の支援、幼稚園と保育園の一体化、いじめや虐待、子どもの貧困など幅広い。現状は認定こども園や児童手当を内閣府、幼稚園を文部科学省、保育所を厚生労働省が所管しているが、縦割り行政の弊害で政策効果が落ちているとの指摘がある。待機児童解消が進まないのはその一例。法務省警察庁にまたがる政策もある。

“縦割りの打破”を掲げる菅首相はこれらの政策をすべて「こども庁」に一元化し、政策効果を高める狙いだが、調整は容易ではない。

例えば子ども政策における縦割り行政の象徴ともいえる幼稚園と保育所。同じ未就学児が通う施設でありながら、幼稚園は「学校教育施設」、保育所は「児童福祉施設」と位置付けられ、所管する省庁どころか設置根拠となる法令や“先生”の資格までことごとく分かれている。幼稚園、保育所それぞれに「全日本私立幼稚園連合会」「日本保育協会」などといった業界団体もある。

2009年に発足した民主党政権でも、子ども関連政策を統括する「子ども家庭省」の創設構想や幼稚園と保育所を一体化する「幼保一元化」の議論が浮上。新たに内閣府が所管する認定こども園の制度を作り、幼稚園と保育所を統合する方向で検討したが、業界団体の強い抵抗で幼稚園と保育所の廃止は断念。結果的に2つの施設が3つになるという本末転倒な結果に終わった。

民主党政権では「子ども家庭省」構想も最終的に断念。民主党の流れをくむ立憲民主党は「民主党政権当時に検討されていた案では、関係する法律だけでも63本あった」(泉健太政調会長)と構想実現の難しさを明かす。

幼保一元化すら実現できないようでは…

今回の「こども庁」構想でも取り扱う政策の範囲をどうするか、何歳までを対象とするかなど課題は多い。内閣府や文科省、厚労省の権限を「こども庁」に移管するには強い抵抗が予想され、すでに水面下で主導権争いが発生しているとの報道もある。一部メディアは「幼稚園と保育園の一元化は見送る公算」と報じているが、幼保一元化すら実現できないようでは「子どもたちの政策を何としても進めることが政治の役割だ」という首相の意気込みとは程遠い。

少子化対策に向けて大胆に予算を振り分けられるかも課題だ。「こども庁」の創設に関し、首相は「社会保障費も含めて今まで高齢者中心だった。思い切って変えなければダメだ。こどもは国の宝で、もっと力を入れるべきだ」と意気込みを語る。

確かに、国立社会保障・人口問題研究所によると、日本の国内総生産(GDP)に占める子育て支援策など家族関係社会支出の比率は2017年時点で1.58%。0.64%のアメリカよりは高いが、スウェーデンの3.54%やイギリスの3.46%、フランスの2.93%と比べると半分以下にとどまっている。

ただ、高齢者への社会保障給付の削減には大きな抵抗が予想されるし、コロナ過で財政が急激に悪化するなか、支出の削減無しに子育て世帯への給付を増やすことなど財務省が認めるはずがない。現実に、菅政権では待機児童対策費用をねん出するという名目で、子育て世帯に給付している児童手当の縮小(年収1200万円以上の対象世帯の特例給付を打ち切り)を決めた経緯がある。財源問題は大きな課題だ。

議論を急ぐのは選挙公約の目玉にするため

首相が二階幹事長に「こども庁」創設の検討を指示したのは検討本部を設置するわずか2週間前。議論を急ぐのは秋の自民党総裁選や秋までに行われる衆院総選挙で“目玉公約”の一つとしたいからだ。支持率の伸び悩む首相が総裁選で再選され、さらに衆院選を勝ち抜くために「子育て世帯の票が欲しい」という狙いが透けて見える。

ただ、議論を急ぐあまりに小粒な改革となっては意味がない。選挙の時期にこだわらず、じっくり検討し、首相が先頭に立って各省庁や業界団体を粘り強く説得し、実効性のある組織を作らなければ少子化対策も待機児童の解消もかなわないだろう。首相の本気度が試される。