システム障害で三振のみずほ、“あのとき”と状況は同じ

2021.4.19

経済

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会見する坂井辰史みずほFG社長(2021年3月17日) 写真:つのだよしお/アフロ

2月末からのみずほ銀行のシステム障害は、カード・通帳の取り込みにはじまり、ネットバンキング不具合や外貨建国内送金の大幅遅延など計4度にわたって起きた。2002年の第一勧銀、富士、日本興業の3行統合時と、2011年の東日本大震災時と合わせて、みずほの大規模システム障害は今回で3度目になる。3メガバンクの一角を担うみずほだが、組織的な危機管理に問題があることは確かで、また経営問題にも波及しかねない。

経営問題にも波及しかねない重大事案

みずほ銀行の大規模システム障害の影響は予期せぬ方面にも波及し始めた。みずほフィナンシャルグループ(FG)の坂井辰史社長は2021年度に予定していた全国銀行協会の会長就任を辞退した。システム障害を受けこれまでは会長就任を“当面”見合わせるとしていたが、システム障害の再発防止の徹底を優先する必要があるとして辞退を申し出たとされる。

だが背景には「他行への配慮もあった」とメガバンク関係者は指摘する。坂井氏のピンチヒッターとして三菱UFJフィナンシャル・グループの三毛兼承会長が全銀協会長職を続投しているが、「このままコスト面の負担増のみならず、続投期間が長引けば三菱UFJの人事ローテーションにも影響を与えかねない」(メガバンク幹部)と危惧されていたのだ。

このため遅れても就任するのか、辞退するのか早く決める必要があった。結果、みずほは後者の辞退を選んだ。それはとりもなおさず、今回のシステム障害の影響が経営問題にも波及しかねない重大事案であることを物語っている。

原因究明には金融庁の入検検査も

みずほ銀行のシステム障害はまず休日かつ月末であった2月28日に発生した。全国のATMのうち約8割にあたる4300台が稼働しなくなり、キャッシュカードや預金通帳を取り出せなくなった顧客取引は累計で5244件に達した。続く3月3日と7日には一部のATM(現金自動預け払い機)やインターネットバンキングが使えなくなったほか、11日夜から12日にかけて外国為替のシステムで生じた不具合で263件の送金手続きが滞るなど、ほぼ2週間で4回のシステム障害が生じた。

みずほ銀行は発足直後の2002年、東日本大震災直後の2011年3月にも大規模システム障害を起こしており、今回で3回目となる。野球でいえば、「三振、バッターアウト」である。

みずほFGは、弁護士である岩村修二氏を中心とする第三者委員会「システム障害特別調査委員会」と社外取締役による「システム障害対応検証委員会」を設置し原因究明にあたるが、問題の解明にはシステム分野にとどまらず、ガバナンス(企業統治)の在り様にまで踏み込んだ検証が求められよう。

みずほFGの坂井辰史社長は3月17日、記者会見し、今回のシステム障害について謝罪した。「(新システムMINORI稼働から)2年が経過し、過信や気の緩み、体制の緩みがなかったか見ていく」と述べたが、なぜ、2週間にわたり立て続けにシステム障害が起ったのか、原因は判然としない。

坂井氏を夜回りしていた記者によると、当初は「(今回の問題は)お客様周りのことだからね」との弁を繰り返し、システム障害を持株会社とは一線を画す姿勢が透けて見えたという。システム障害への対応は記者会見も含め、もっぱらみずほ銀行の藤原弘治頭取が前面に出て謝罪に奔走した。

しかし、麻生太郎金融相や加藤勝信官房長官に叱責され、最後は金融庁の圧力もあり、謝罪会見を開かざるを得なかった。金融庁は徹底的に調査し、原因究明と再発防止を図るよう指示しており、お目付け役のために入検検査にも入っている。

組織的な危機管理に問題があった

今回、大規模障害を起こしたシステムは、銀行業務の根幹をなす勘定系システムを中心に最新鋭のシステムに移行させるものだった。「MINORI」と呼ばれる新システムへの移行作業は細心の注意が払われ、段階的に進められ2019年7月に終了した。だが、「三菱UFJが日本IBM、三井住友がNECを中核にシステム統合したのに対し、みずほは日本IBM、富士通、日立製作所、NTTデータの四社体制を生かして統合するマルチベンダー方式が採用されている」(メガバンク幹部)。それだけ移行作業は複雑化し、総投資額は4000億円超、開発工数推定35万人月に及んだ。システム障害を起こしかねない“混乱の芽”は、MINORIそのものに内包されていたと言っても過言ではない。

新システムへの移行が順調に終わり、みずほのシステムは、業務・機能別にコンポーネント化された最新鋭のものとなり、競争力が飛躍的に高まる。新商品・サービスへも柔軟に対応でき、開発期間やコストも3割程度削減されると見込まれた。「みずほグループにとって最大の課題である経費率の高さに改善余地が生まれる」(銀行アナリスト)と評価もされた。

同時にみずほFGは、2020年3月期決算で、システム統合に伴う償却負担額約4600億円を一括処理した。FGの坂井辰史社長は「これで後年度負担が一気に解消し、より柔軟で機動的な運営ができる」と強調した。

しかし、新システムは本格稼働から2年を経ずに、大規模障害を起こした。特にATMが止まり、長時間にわたり顧客の通帳が引き出せない状態が続いたことは痛恨事だ。

休日であったことで顧客対応が後手に回った点は否めないが、藤原頭取はじめ経営陣が障害の全体像を把握し、社員の出勤を指示するまでにかかった時間は長すぎた。組織的な危機管理に問題があったことは確かだ。

4月5日に2度目の記者会見を行った坂井FG社長も「顧客への影響の認識や危機対応プランが不十分で、影響拡大を招いた」「早期の把握と組織内での情報連携に課題があったと認識している」と陳謝した。

10年前と状況は同じ

みずほはシステム障害をめぐる一連の経緯や再発防止策をまとめた中間的な報告書を3月31日付けで金融庁に提出。5日の会見で「システム障害に係る対応状況について」と題する現状把握している原因分析資料を公表した。さらに第三者委員会「システム障害特別調査委員会」と社外取締役による「システム障害対応検証委員会」による調査・提言を踏まえて最終報告書をまとめる意向だ。

この最終報告書がまとまるまで、4月からみずほ銀行の新頭取に就く予定であった加藤勝彦氏の就任もペンディングとなり、一連の問題が片づけられないと金融庁は認めない意向。

10年前のシステム障害時では結局、みずほは全銀協会長職を辞し、みずほ銀行の西堀利頭取は辞任を余儀なくされた。金融界では、「あのときと状況が極めて似てきた」との声が強まっている。