【衆院選】似通う与野党の公約、最重要の経済政策は「分配」の方法に違い

2021.10.20

政治

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【衆院選】似通う与野党の公約、最重要の経済政策は「分配」の方法に違い

写真:ロイター/アフロ

49回目となる衆院選が10月19日に公示され、与党の自民、公明両党と、立憲民主党を中心とする野党との選挙戦が始まった。就任間もない岸田文雄首相率いる与党が勢力を維持するのか、それとも共闘体制を築いた立憲民主や共産党などの野党が勢力を伸ばすのかが焦点。政策面では新型コロナウイルス対策と、コロナ禍で打撃を受けた経済の立て直し策が最大の争点となる。31日に投開票され、11月1日の未明に大勢が判明する。

立候補数は史上最少、女性候補は2割弱

「成長と合わせ、果実を分配し、皆さんの所得を引き上げる経済対策を進めていきたい」。岸田首相は東日本大震災の被災地である福島市で第一声に臨んだ。9月の総裁選以来、首相は分配重視の考えを示してきたが、この日は野党を意識して“成長”を強調してみせた。

一方、松江市で第一声に臨んだ立憲民主の枝野幸男代表は安倍・菅両政権が進めてきた経済政策「アベノミクス」を大企業優遇と批判した上で「所得を再分配して1億総中流社会を取り戻す」と強調した。

衆院選の定数は小選挙区289、比例代表176の合計465。今回は9党が候補を擁立し、諸派や無所属を含めて1051人が立候補した。候補者数は前回2017年の1180人を100人以上下回り、史上最少。男女の候補者数をできる限り均等にするよう政党に求める法律の施行後、初の衆院選となったが、女性候補は23人減の186人で、全体の17.7%にとどまった。

候補者数が大幅に減ったのは野党が共闘体制を組んだからだ。前回の衆院選では選挙直前に最大野党だった民進党が希望の党や立憲民主などに分裂。野党系候補が票を食い合い、与党の大勝につながったことから、今回は立憲民主、共産、国民民主、れいわ新撰組、社民の5党で調整し、野党系無所属を含めて全体の7割を超える217選挙区で候補を一本化した。

その結果、全体の約半数となる140選挙区で実質的な与野党一騎打ちとなり、69の選挙区では野党5党と一線を画す日本維新の会の候補と三つ巴となった。ただ、5野党で候補者を一本化できず、複数の候補が並び立つ選挙区も76残った。

コロナ対策、司令塔強化は与野党で似通う

政策面で最も多くの国民が注目するのがコロナ対策だ。自民党は菅内閣で「説明不足」が批判されたことを踏まえ、公約に「国民の皆様にご協力を求める時には『対策の必要性』『決定のプロセス』について、科学的知見に基づいた『納得感のある説明』に努めます」と明記。国産の治療薬やワクチンの研究開発・生産体制への強化のほか、中小企業への資金繰り支援や非正規雇用や子育て世帯などへの経済的支援を盛り込んだ。与党は子育て世帯や困窮世帯への給付金配布も検討している。

ただ、野党の立憲民主も公約で国産ワクチン、治療薬の開発や住民税非課税世帯など低所得者への年額12万円の現金給付などを盛り込んでいる。給付対象や額は異なるが、与野党ともに給付金支給を盛り込んでおり違いはわかりにくい。

政府の司令塔強化も自民や公明、立憲民主などが掲げた。ただ、公約は似通っているが、自民党内には憲法改正や法改正で緊急時に私権を制限し、都市封鎖などをできるようにすべきとの意見が多い。緊急時にどこまで政府に強い権限を持たせるかは与野党、どちらが政権を担うかで対応が分かれる。

与野党ともに経済政策の「分配」は言葉だけが浮きがち

与野党の違いがよりわかりやすいのが経済政策だ。岸田首相は総裁選で「新自由主義からの転換」や分配重視を訴えたが、今回の衆院選では「分配を強調しすぎ」との党内の批判を踏まえて「成長重視」の姿勢を強調。積極的な公共投資を掲げる一方、持論だった金融取得課税の課税強化は封印するなど実質的にアベノミクスを継承する姿勢を打ち出した。

対する野党は大企業や富裕層への課税強化や中低所得者への再分配強化を掲げる。共闘する5野党のうち、国民民主を除く4党は共通政策に「消費税減税を行い、富裕層の負担を強化する」と明記。立憲民主は公約に「年収1000万円までの所得税ゼロ」と「時限的な5%への消費税減税」、国民民主は「経済が回復するまで消費税率5%」や社会保険料の猶予・減免を盛り込んだ。なお、岸田首相は消費税減税を明確に否定している。

与野党ともに「分配」を掲げるものの、与党はまずは経済成長させてその成果を分配につなげるトリクルダウンを目指すのに対し、野党は富裕層や大企業から税金を取り立てて中低所得者に分配すると主張する。ただ、与党の公約を見ても画期的な成長戦略が盛り込まれているわけではなく、野党の主張する富裕層や大企業からの課税強化は株価の暴落や景気の悪化につながりかねない。どちらがコロナ禍で疲弊する経済の再生につながるか、しっかり見極める必要があるだろう。

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岸田首相は勝敗ラインについて「与党で過半数(233議席)」と控えめな目標を掲げているが、実際には公示前勢力の305議席をどれだけ維持できるかが焦点となる。具体的にはすべての常任委員会で委員長ポストを独占し、過半数の委員を確保できる「絶対安定多数」の261議席(与党で44議席減)、すべての委員長と委員の半数を確保できる「安定多数」の244議席(与党で61議席減)、自民党で単独過半数割れ(自民で44議席減)が目安となる。結果によっては発足したばかりの岸田内閣の基盤が揺るぎかねない。