がん治療の選択は生き方の選択

第6回:「がん免疫療法」の可能性 治療例を徹底解説

2018.07.31

社会

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これまで5回に渡って連載してきた本企画では、がんとの向き合い方や最新のがん治療、世界のがん治療のトレンドなど、さまざまな角度から「がん」を考えてきました。最終回となる本稿では、自分らしい生き方として「アクセル+ブレーキ療法®」を選んだ患者の実際の症例を紹介します。治療の経過や成果、治療におけるポイントなどを知ることで、自分や家族ががんになった場合の治療選択の参考になるかもしれません。湘南メディカルクリニック大阪・名古屋栄院で日々がん患者と向き合う川森俊人医師に、治療例の解説をしていただきます。

湘南メディカルクリニック 大阪・名古屋栄院統括部長

川森俊人 かわもりとしひこ

1987年、岐阜大学医学部卒業。同大学医学部付属病院第一内科、及び関連病院にて消化器内科研修。その後、同大学大学院医学研究科第一病理にて医学博士を取得。2年の米国での研究を終え、1998年、国立がん研究センターがん予防研究部第一予防室長として帰国。病院では臨床検査部の病理を併任。2002年に再渡米、大学(Medical University of South Carolina及びUniversity of Hawaii Cancer Center)で自身の研究室を主宰し約14年ほど世界のトップランナーとしてがん研究を行う。2016年に帰国し、湘南メディカルクリニックへ。大阪院、名古屋栄院の医師としてがん免疫療法を提供している。

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患者と徹底的に話し合い治療の方向性を決める

当院に相談に来られるがん患者さんの多くは、他臓器への転移などがあるステージ4で手術不能、抗がん剤や放射線の治療にも限界が出てきたケースです。

どのような状態であっても、「何とか治す方法はないか」「生活の質(QOL)を改善できないか」「がんと共存しながら生きる方法はないか」などを、本人や家族と頭を突き合わせてとことん模索します。手術ができる可能性があれば、相応しい病院や医師を紹介しますし、患者さんが元からかかっている病院との連携が必要なら、主治医と相談して治療を進めたりもします。そのなかで、当院で行う治療の一つとして「アクセル+ブレーキ療法®」を提案することがあります。

「アクセル+ブレーキ療法®」といっても定型の方法があるわけではなく、個々の病状や事情に合わせて、回数や薬剤の量・組み合わせなどを変えていきます。例えば、アクセルに当たる“がん免疫療法”は行わず、ブレーキに当たる“がん免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボ・ヤーボイ併用療法)”のみを行う場合もあります。また、オプジーボ・ヤーボイ併用療法で様子を見ながら、要所要所でがん免疫療法を組み合わせる場合もあります。

>知る人ぞ知るすごいがん治療 vol.1~「アクセル+ブレーキ療法®」とは

治療効果については個人差がありますが、ここでは治療が奏功した4例を紹介します。

腎盂(じんう)がんの術後 リンパ節転移(77歳男性)

左:術前/右:術後(CT画像)

2014年に右腎盂がんがわかり、手術で右腎尿管全摘。その後、腹部大動脈のそばにあるリンパ節に転移しました(CT画像の赤丸で囲ってある部分)。抗がん剤を10クール行うも、継続が困難になり中止。放射線治療も試みましたが改善が見られませんでした。

当院の初診は2017年2月。主治医が「泌尿器のがんにはオプジーボが効果的である」と考え、当院へ紹介がありました。がん免疫療法とオプジーボ・ヤーボイ併用療法を5回1クール施行したところ、リンパ節のがんが消滅。その後、念のためがん免疫療法を3回実施。PET検査で微小ながん細胞が認められたため、さらにがん免疫療法とオプジーボ・ヤーボイ併用療法を1クール実施しました。その結果、全身からがんが消え、当院での治療は2017年12月で終了、現在は地元の病院で経過観察をしています。

Point

この患者さんは、オプジーボ・ヤーボイ併用療法がよく効きました。現在、アメリカの厚生省にあたるFDA(Food and Drug Administration/アメリカ食品医薬品局)では、泌尿器のがんにはオプジーボが標準治療として推奨されています。ただ、日本では保険適用になっていないため、当院のような自費診療のクリニックでしか受けることができません。

肝内胆管がん術後 再発(65歳女性)

左:術前/右:術後(CT画像)

2014年に7cm大の肝内胆管がんが判明、その時点で縦隔、腹部大動脈リンパ節への転移を確認。8クールの抗がん剤治療を経て、2015年に肝臓拡大左葉切除を行いました。その後、抗がん剤治療やラジオ波焼灼療法をしましたが、2017年に再発。治療に行き詰まり、大学病院から紹介がありました。

当院の初診は2017年5月。左のCT画像は来院前のものです。肝門部の白い輪は、胆管の通りを改善するためのステント(管)で、その周辺に少し暗く見える部分ががんです。軽度の腹水の貯留も確認できました。

5月から10月まで、がん免疫療法とオプジーボ・ヤーボイ併用療法を2クール10回行いました。ステント周囲のがんはきれいに消失。ただし、肝臓の他部位に一部がんが認められたため、オプジーボ・ヤーボイをキイトルーダという別の免疫チェックポイント阻害剤に変えた上で、免疫療法とともに3回実施。

あまり効きがよくなかったため、12月より再びオプジーボ・ヤーボイに戻して治療を行いました。現在までに免疫療法を25回、オプジーボ・ヤーボイを19回、キイトルーダを3回受けています。

さらに、当院での治療期間中、TS-1という抗がん剤を元の病院で処方してもらい、服用を続けました。

結果として、体内からがんは消えていませんが、胆管周りの大きながんが消えたことで自覚症状が改善。残っているがんについても今のところ大きく悪化することなく、普段通りの生活が続けてられています。今後は免疫療法を続けながら、QOLを維持していくことを本人は希望しています。

Point

抗がん剤はがん免疫療法と併用するほうが治療効果が高く、副作用も軽くて済む傾向があります。今年のアメリカのがん学会ASCOでも、がん免疫療法と抗がん剤の組み合わせが良いとの報告が多く挙がっています。抗がん剤を元の病院で処方してもらい、がん免疫療法を当院のようなクリニックで受けるというのが理想的です。抗がん剤を保険適用で処方してもらえると、費用的に安くなる点もメリットです。

胃がんからの多発肝転移(79歳男性)

左:術前/右:術後(CT画像)
左:術前/右:術後(胃カメラ)

2016年2月に胃がんおよび多発肝転移が見つかり、手術不能の状態でした。抗がん剤治療を始めたものの副作用が強く、途中で断念。湘南メディカルクリニック新宿院にて治療を開始し、2016年8月より当院が引継ぎました。

当院での治療開始は2016年10月。現在までの1年9カ月で、免疫療法とオプジーボ・ヤーボイ併用療法を11回、がん免疫療法のみを7回、がん免疫療法とイピリムマブ併用療法を3回施行しました。そのほかに、サイラムザという抗がん剤を主治医に処方してもらい、継続服用しています。

右のCT画像は2017年5月のものですが、治療開始前と比べてがんは大きくなっていません。1年経った今もこれとほぼ同じ状態です。

この方の場合は、がんは消えなくても十分に共存が可能です。今後も月に1回のペースでがん免疫療法を続けていきます。

Point

2016年2月時点での主治医の見立ては、余命1年でした。ところが、2年半経った今も本人は元気で、先日もゴルフに行ってきたとのこと。本人とは「胃がんで死ぬのではなく、天寿を全うしましょうね」と話しています。ちなみに、抗がん剤治療でサイラムザのみを単独使用している患者さんで、半年以上延命する例はゼロに近く、明らかに「アクセル+ブレーキ療法®」が効いていると考えられます。

手術不能の膵がん(73歳女性)

左:術前/右:術後(CT画像)

膵臓に8cmのがんが見つかりました。遠隔転移はなかったものの、がんの大きさや位置の関係で手術不能の状態でした。2017年2月7日に当院を初診。主治医の下でジェムザールという抗がん剤治療を行いつつ、当院でがん免疫療法を行っています。ジェムザールを3週間行い、休薬期間の1週間でがん免疫療法をするというスケジュールです。

治療開始から2カ月半でがんが4cmになり、さらに2カ月半で2cmにまで縮小しました。がんが小さくなったところで、手術で切除する案も出たのですが、血管を取り囲むようにがんが発生しており、主治医は「手術は危険、やるべきでない」との判断。全国を探せば手術してくれる病院もあると思われ、当院でも紹介状を書く準備をしていましたが、本人が地元を離れるのは嫌だということで見送りになりました。

直近のPET検査では、左鎖骨下のリンパ節に転移が認められました。主治医から抗がん剤治療について「ジェムザールに加えてアブラキサンを併用しては」との案が出されましたが、本人が却下。アブラキサンは副作用として、高い割合で手足の先にしびれが出ます。本人は美容師の仕事を生きがいにしており、手先が使えなくなるのは避けたいとの希望です。

本人の意思を尊重し、現在はこれまでと同じ治療(ジェムザールとがん免疫療法)を継続しつつ、新たにオプジーボ・ヤーボイ併用療法も試し始めたところです。

Point

最終的にどの治療を受けるかはご本人の決断です。後悔のない選択をするためにも、患者さんは自らの意向を言葉にして医師に伝え、「何がベストか」を一緒に考えていくことが大事です。

患者にとっての最良の選択とは

がん免疫療法や免疫チェックポイント阻害剤など、今は画期的ながん治療が開発されています。「アクセル+ブレーキ療法®」もそのひとつで、約87%という高い奏効率を上げています。ただ、誤解してはいけないのは、その数字をもって「ほとんどのがんが治る」と思い込んではいけないということです。

治療の効果には個人差があり、劇的に良くなる人もいれば、少しずつ良くなっていく人、小康状態の人など千差万別です。そして、一定数ですが、がんの増殖を抑えきれないケースもあります。それは、がんのタイプや本人の体質などによります。

大事なのは、「アクセル+ブレーキ療法®」だけでがんと闘おうとするのではなく、標準治療と組み合わせながら、効果を高めていくことです。手術ができるなら、まず手術でがんを切除することを勧めます。その上で抗がん剤・放射線治療と「アクセル+ブレーキ療法®」を併用するとよいでしょう。

抗がん剤は副作用が強く出やすいため、避けたい気持ちがあると思いますが、実際によく効くケースも多々あります。抗がん剤の効果を底上げするとともに副作用を抑える目的で、「アクセル+ブレーキ療法®」を活用するのがよいと考えます。

がん治療の選択は生き方の選択です。ただし、自分だけで判断し、治療法を選ぶことは難しいでしょう。患者さんにとって最良とは何かを一緒に考え、提案するのがわれわれ医師の役目です。そこに、医師のエゴや病院間の隔たりは、本来あってはならないことですから、病院や医師は何を一番に据えるべきかを改めて考え、患者さんと向き合う必要があると私は思います。

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