急伸する太陽光発電に思わぬ落とし穴 疑念深まる“再エネの旗手”の持続可能性

2018.9.12

技術・科学

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急伸する太陽光発電に思わぬ落とし穴 疑念深まる“再エネの旗手”の持続可能性

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西日本豪雨や台風、北海道胆振東部地震では、各地が大規模な停電に見舞われた。工場や家庭のライフラインが途絶えたことによる影響は大きかったが、情報を得るためのスマホの充電ができずに困るケースも目立ち、電力の重要性を再認識させられた。日本は東日本大震災以降、原発の稼働に慎重で、ここ数年は太陽光発電(PV、ソーラー)などの再生可能エネルギー(再エネ)が広がってはいるものの、国内供給の約9割を化石燃料に頼っている。安定した電力確保のためにも分散した構成が望まれるが、再エネはどこまで頼れるか?

真冬の厳寒・大雪であわや首都圏大停電

世界的な“脱炭素”の波を受けて、ここ数年、日本でも太陽光(PV、ソーラー)や小規模(マイクロ)水力、風力、地熱、木質バイオマスなど「再生可能エネルギー(再エネ)」を使った発電施設が続々と出現。石油や石炭などCO2を排出する化石燃料や、放射線を出すウランやプルトニウムを燃料とする原子力とは一線を画し、自然の力を活用したクリーンで“地球に優しい”エネルギー源として世間の注目度は増すばかりだ。

木質バイオマス

林業で排出される間伐材(樹木の健全育成のために間引きされる木材)や未利用材(建築資材などに適さない木材)を燃料とする火力発電。一見「CO2を出すから地球に優しくないじゃあないか」と思われがちだが、樹木は大気中のCO2を吸収して育つため(CO2の固定化)、これを燃焼し炭酸ガスを排出したとしても“プラス・マイナス・ゼロ”とカウント。

ちなみに日本の総発電供給量はざっと10億MWh。うち再エネの割合は15%。「3・11」直前の2010年度が10%だったことを考えると、6年間で5ポイント増は驚異的。この15%のうち従来型の水力発電が約半数を占め、さらに残りの約7%分の中で太陽光がほぼ半分、約3%を握る。在来型の水力発電を除く再エネの中では名実ともに出世頭だ。

太陽光急拡大の背景には国が進める再エネ普及策「FIT(フィードイン・タリフ。電力固定価格買取制度)」がある。2012年(厳密には2009年から小口向け開始)から始まったもので、要するに「助成金制度」。再エネ側は通常単価に比べてかなり高値で売電できるという“おいしい”仕組みで、その原資は毎月の電気料金に上乗せして全国民から徴収される賦課金と税金でカバー。その額は何と年間2兆数千億円に上る。

国のエネルギー計画で再エネ比率を大幅増

さて、導入コストの安さ、そして「太陽が当たる場所ならどこでもいい」という容易さがウケて、太陽光の伸び率は再エネの中でも断トツ。年間導入量は2013年度を境に急増、前年の2012年度が約2.0GWだったのに対し、2013年度は約6・9GWと3倍以上に急増。その後も年間8~10GWのレベルを維持する。

世界の太陽光累積導入量ランキング(2016年)でも、首位の中国(約78.1GW)に次いで日本は約42.8GWと堂々の第2位。

GW(ギガワット)

1000kW(キロワット)のこと。また「kW」は電気の出力で、1kWの発電機がフル回転で1時間発電した際の発電量が1kWh(キロワット・アワー)となる。

これに気をよくしたのか、日本政府は「2030年度までに再エネ比率を22~24%」という高い必達目標を表明。2017年から経産省が進めるエネルギー基本計画の見直しでは、正式文書中に初めて「再エネ」を「主力電源」だと断言するなど、少々前のめり気味。もちろん、旗手・太陽光に対する政府の期待度も極めて高い。

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誰も知らない「首都圏電力逼迫事件」

少々前置きが長くなったが、この陰で“再エネ・ブーム”に冷や水ならぬ“氷水”を浴びせる大事件が、実は日本の政治・経済の中心、首都圏で発生していた。ところが、なぜかこれを大々的に取り上げる大手メディアは少なかったため、これを知る人間は案外少ない。2018年1月下旬~2月に起きた「首都圏電力逼迫事件」である。

この時期、日本列島が記録的な大寒波に襲われたのは記憶に新しい。首都圏も大雪に見舞われ1月22日には都心でも10センチ超の積雪を記録。おまけに1月後半は最低気温が氷点下という日々が続いた。

気象庁も「低温注意報」を発令、「30年に一度の異常気象」と警鐘を鳴らしていた。一方、首都圏を守備範囲とする東京電力も、こうした異常事態に備えるべく厳寒H1(10年に一度の寒波に対応する最大電力需要)を発動して対応。過去のデータを参考に、1~2月の1日当たり最大電力需要(17~18時)を4910万kWと予測。

そして、これをベースに東電側の電力供給力を弾き1割ほどの余裕を持たせた5530万kWで乗り切れると想定した。なお、不測の事態に備えるため、電力供給力は予想需要の3%以上増しの“のりしろ”を持つことが既存電力各社に義務づけられている。

ところが諸々の悪条件が重なり、同社の需給予想は1月22日から大きく狂いはじめ電力逼迫が深刻化、“綱渡り”の状況が約1カ月間続く。特に1月24日と2月2日は危機的状況で、両日の予備率は何も対策を講じなければ、それぞれ1.0%、0.6%まで下がると想定された。“のりしろ”がこれほど少なくなると、1カ所の発電所の故障だけでも東京が大停電になりかねない。

このため東電は電力確保に奔走、

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