台湾・鴻海に身売りした”液晶王国”シャープは存続できるのか

2016.3.31

企業

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業績不振に陥った”液晶王国”シャープが、ついに外資の支援を受け入れた。電機業界大手が外国企業の軍門に下るという前代未聞の買収劇に、日本の産業界は少なからず衝撃を受けているが、80年続いた「SHARP」の看板は、台湾の巨大な企業集団にこのまま飲み込まれてしまうのだろうか。

ポン!と約7000億円の札束をちらつかせた鴻海

2016年2月25日、業績不振のシャープが、逡巡の末、ついに台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の買収提案を受け入れた。その額は出資金を含めて約7000億円。”モノづくりニッポン”を代表する電機業界の大手が、外国資本の軍門に下るのはもちろん前代未聞の話。

シャープ買収をめぐっては、鴻海と日本の産業革新機構が激しくつばぜり合いを演じた。後者は半官半民の投資ファンドで経産省主導のいわば国策企業だ。「ものづくりニッポンの源泉であるIT技術の国外流出を許すな」とばかりに動き出したものの、提示した条件はインパクトに欠け、結局シャープは鴻海を選んだわけである。

リーマンで頓挫した「一本足打法」からの脱却

大女優の吉永小百合を起用、テレビCMで「亀山モデル」を大々的にPRした液晶テレビ「AQUOS(アクオス)」。ひと昔前まで圧倒的なブランドを誇った”液晶王国”が、なぜ苦境なのか。理由は、液晶一辺倒の「一本足打法」からの脱却に失敗したこと、そしてリーマンショックが直撃したことの2点に尽きるだろう。

2006年度に悲願の連結売上高3兆円を達成、追い風に乗るように、経営戦略もイケイケで臨む。そして大阪・堺市の埋立地に総額1兆円超を投じ、世界最大級の液晶パネル(LCD)・太陽光パネル複合コンビナートの建設に踏み切った。

だがタイミングがあまりにも悪かった。2008年にはリーマンショックが勃発して世界経済が収縮、液晶TVや太陽光パネルの需要も萎んでしまう。翌2009年に完成した堺工場はいきなり閑古鳥が鳴く状況に。

儲けの大半を液晶に依存する「一本足打法」から脱却しようと、太陽光パネルを急速に育て、”もう1本の足”としようとしたシナリオは完全に裏目。しかも、LCDや太陽光パネルの急速なコモディティ化(製品に差がなくなること。同一化)と世界的な供給過剰・価格破壊が襲う。

その結果、2011年度には3800億円の赤字に転落、堺工場は一度も黒字を見ぬまま、2012年に経営権を事実上鴻海に譲渡するはめに。加えて大阪本社ビルの売却や天理工場の整理など、なりふり構わぬ資産整理で延命を模索したが、ついに万策尽きた格好だ。

企業存続は「五分五分」

鴻海側の狙いは、間違いなくシャープの”ブランド力”と技術だろう。鴻海は世界屈指のEMS(受託製造)とはいうものの、米アップル社のiPhoneなど他社がデザインしたIT機器の製造を請け負う、いわば”大いなる下請け”。つまり業績は相手企業の命運に大きく左右されるばかりで、だからといって自社ブランドは実力が伴わず、世界市場に打って出るのは難しい。事実、昨今のiPhoneの販売台数伸び悩みが、業績に暗い影を落とし始めている。

今後鴻海は、シャープ買収で獲得したブランド、液晶技術、白物家電の”三羽烏”と、自らが持つ巨大な販路・資金力を合体、シナジー効果を最大限に生かし、「SHARP」という”自社ブランド”製品で、一気に世界市場へと打って出る目算らしい。日本の電機業界にとっては、強力なライバルの出現となり、これを引き金に大規模な業界再編へと発展する可能性も。

海千山千、鴻海の総帥・郭台銘の”揺さぶり”

一方、鴻海の傘下に入るシャープの将来は未知数。東南アジアなどで高いブランド力を持つ「SHARP」の看板を潰すとは考えにくいが、単体の企業として存続するかは五分五分だ。パナソニックに買収された三洋電機のように、数年後には完全に鴻海グループ内に吸収されてしまう可能性も否定できない。

とにかくシャープの殺生与奪は鴻海の総帥、郭台銘(カク・タイメイ。別名テリー・ゴウ:フォックスコン・テクノロジーグループ総帥)が握る。苦労を重ねながら総売上16兆円の巨大企業を一代で築き上げた郭氏。海千山千であることは間違いない。

シャープ買収にあたり「太陽光パネル事業以外は温存」「40歳以下の社員の雇用は確保」と温情的姿勢を見せるが、裏を返せば「温存するが完全吸収」「今後41歳になった社員は順次解雇」と解すこともできる。また、シャープが鴻海の買収提案受け入れを決定した直後に、「3500億円規模の偶発債務(現在表面化していない債務)がある」との理由で正式契約の締結は延期する、と宣言するなど、”揺さぶり”ともとれる戦術を取り出し始めた。

そして約1カ月後の3月30日、ようやく鴻海はシャープ買収を正式決定。当初提示した出資金4890億円を1000億円も”値切った”郭氏の粘り勝ちだ。

2016年には創業104年(創業1912年)を迎える”液晶王国”が大きな岐路に立たされている。
[2016年3月31日更新]

シャープが歩むいばらの道の先に再建はあるのか

 

経済原則からいえば、鴻海に軍配が上がったのは当然だ。産業革新機構の提案は金融機関に債権放棄を求め、一方の鴻海側はそのまま引き受けるというのだから。債権を所有する銀行も、産業革新機構の提案を受けてしまったら自らの株主に説明がつかない。

また、海外への技術の流出を危惧する声もあるが、バカを言うなと言いたい。そもそも外資の企業を日本が買うことも、相手国から見れば技術の流出にほかならない。これだけグローバルな世の中で、国の垣根を超えて企業間の競争があるのだから、国内資本であろうと外資であろうと問題にならない。

一番責められるべきは、ここまで経営状態を悪化させてきた、新旧の経営陣である。彼らも一生懸命にやってきたのだろうが、経営は結果がすべてだ。無能の烙印を押されても致し方あるまい。

ただ、鴻海の資本が入ったからとはいえ、シャープが再建できるのかは別問題だ。優秀な人材の流出、競争の激化、景気の悪化など、問題は山積している。どのような結果になっても、いばらの道はしばらく続くことになるだろう。