佐藤尊徳が聞く あの人のホンネ

企業と投資家の○○なカンケイ~GMOインターネット グループ代表 熊谷正寿×尊徳編集長

2016.3.10

経済

0コメント

写真/芹澤裕介 文/赤坂麻実

株式市場において”投資される側”である経営者は、投資家をどのように考えているのだろうか。9社を上場させているGMOの熊谷代表に、尊徳編集長が正面から問いをぶつけた。自身も積極的な投資家である熊谷代表の考える”投資の極意”にも迫る。

株式会社損得舎 代表取締役社長/「政経電論」編集長

佐藤尊徳 さとう そんとく

1967年11月26日生まれ。神奈川県出身。明治大学商学部卒。1991年、経済界入社。創業者・佐藤正忠氏の随行秘書を務め、人脈の作り方を学びネットワークを広げる。雑誌「経済界」の編集長も務める。2013年、22年間勤めた経済界を退職し、株式会社損得舎を設立、電子雑誌「政経電論」を立ち上げ、現在に至る。著書に『やりぬく思考法 日本を変える情熱リーダー9人の”信念の貫き方”』(双葉社)。

Twitter:@SonsonSugar

ブログ:https://seikeidenron.jp/blog/sontokublog/

続きを見る

GMOインターネット株式会社 代表取締役会長兼社長・グループ代表

熊谷正寿 くまがい まさとし

1963年、長野県生まれ。GMOインターネット株式会社代表取締役会長兼社長・グループ代表。ネットインフラ、広告・メディア、証券、モバイルエンターテイメントなど、インターネットにおけるさまざまな事業を展開。グループは上場9社を含む87社、スタッフは4,600人を超す。

続きを見る

IRは企業が投資家に約束をする場

尊徳 貴社はグループで9社が上場していますよね。上場のメリットとデメリットをどう考えていますか?

熊谷 大きなメリットは、会社を成長させられること。市場から資金を調達できますし、社会的な信用度も未上場企業とでは圧倒的な差があります。金融機関や働き手から信頼を得やすいですよね。何より僕が注目しているのは、社内のモチベーションです。未上場に比べてスタッフが”自走式”のモチベーションを持ちやすいと思います。

一方ではもちろん、デメリットもあります。上場企業は情報を開示しなければいけないので、コストや手間がかかります。煩雑な手続きもある。それに、競合企業にも情報を与えることになってしまう。自分のアキレス腱を見せることにもなりかねませんよね。

それでも、デメリット全部を相殺してお釣りが来るぐらい、メリットの方が大きいですよ。

尊徳 では、どんな業種でも上場を目指すべきですか? MBO(マネジメント・バイアウト。経営陣による企業買収)やLBO(レバレッジド・バイアウト。企業買収の方法の一つ)など、上場廃止に至る企業もありますよね。

熊谷 成長産業なら上場すべきです。そうじゃないなら、やたらと上場するものではありません。株主様に応えるには、まず株価を上げることですけど、産業が停滞・衰退している局面では難しいですからね。

熊谷正寿、佐藤尊徳

株主の意見にはっとさせられることもある?(尊徳)

写真/芹澤裕介

尊徳 上場企業は重要情報の開示が義務付けられていますが、企業は投資家にどこまで短期的、中長期的な話をしてビジョンを示すべきでしょうか?

熊谷 中長期的なビジョンも大切ですが、投資家との会話で一番大切なことは”約束”でしょう。約束して、それを達成できたら、また次の約束をする。できなかったら、将来を語るより、できなかった理由を明確に説明するべきです。IR(投資家に対して行う情報提供などの広報活動)って、企業が投資家と約束をし、その結果をお伝えする場のことだと思いますよ。

ベンチャー投資は経営者の人物を見て判断

尊徳 上場したことで経営者が受けるプレッシャーはやはり相当なものですか?

熊谷 筆舌に尽くせぬものがあります。何万人もの投資家が大切なお金で当社の株を買ってくれたと思えば、経営に真剣さが増しますね。ただ、僕もそうだけど、人間って元来、怠け者だから、プレッシャーはあっていいんですよ。そうでなければ、どんどん楽な方に流れてしまうので。

熊谷正寿、佐藤尊徳

経営って、ステークホルダーの笑顔のバランスを取ることだと思うんです(熊谷)

写真/芹澤裕介

尊徳 いろんな投資家がいますけど、機関投資家と個人投資家、熊谷社長から見て何か違いがありますか?

熊谷 全然変わらないです。機関でも個人でも日本人でも外国人でも同じ投資家です。

尊徳 株式会社は株主のものと言うけど、経営者として、株主の意見はどこまで取り入れますか?

熊谷 基本的に、ご意見は真剣に受け止めます。ただ、一部には傾聴に値しない意見もありますね。例えば、会社の成長資金まで配当しろと言い出す株主さんは自分が儲けたいだけですから、まともに聞くべきじゃない。経営って、ステークホルダーの笑顔のバランスを取ることだと思うんですよね。

尊徳 勝手なことを言う株主はいますからね(笑)。それでも、株主の意見にはっとさせられることもありますか?

熊谷 ありますよ。株って結局は人気投票ですから、投資家との会話はすごく大切です。一番は約束したことを達成すること。あとは、投資家の笑顔を、他社と比べて多くすることが大切ですよね。

尊徳 熊谷さんは会社としてスタートアップ企業などに投資する際、何を基準に判断しますか?

熊谷 「産業」「事業」「経営者」です。成長産業に属していて、興味深い事業を手掛けていて、経営者の人物が良ければ投資します。投資したい人物像は、自分が笑顔になることばかり考えないで、取引先やお客様、スタッフ、仲間を笑顔にできる人、そして約束を守る人ですね。基本的には会って、目を見る。そしてしぐさや言動を見て決めます。マジョリティー投資(出資比率が当該企業の発行済株式の50%を超える投資)の場合は、当社グループの「スピリットベンチャー宣言」に共感を持てる人というのも要件にしていますね。

投資で大切なことは人の行かない道を選ぶこと

尊徳 熊谷さん個人での投資もされていますよね。投資に必要なものは何だと思いますか?

熊谷 みんなと同じことをしないことです。投資の世界に「人の行く裏に道あり花の山」という有名な格言があります。みんなが売るから買うし、みんなが買うから売るんです。みんなで群がれば利回りが悪くなるだけです。僕は事業も投資も、人のしないことばかり、やってきました。僕がインターネット事業を始めたのは約20年前ですが、当時はみんな大反対でした。今の副社長の西山(裕之氏)ぐらいですね、賛成したのは。

尊徳 ただ、人の逆ばかり行くと破産する人も出てきそうですよね。

熊谷 もちろん、勉強が必要です。僕は20歳頃から投資をしてきて、ずいぶん利益を出しましたけど、ものすごく勉強しましたよ。

尊徳 熊谷さんが投資をする理由、”投資哲学”ってどんなものですか?

熊谷 ”成長産業に投資すること”。今であればインターネット関連ですね。それから、失敗したときに次の手を打てる範囲で投資する。そしてもう一つ大切なのが、”期限のある投資はしないこと”です。自分が負けているのに、期限が来たら株を売らないといけないような投資はすべきじゃない。勝負の重要なところ(=時間)を他人に握らせたらダメです。だから、借金して投資するのもダメ。借金の返済期限が来ますから。信用取引やデリバティブなど、ある日で勝率が決まるものも避けるべきです。僕の投資には期限がないので、自分が売ろうと思っていた日に赤字だったら、そのまま売らずに利益が出るまで待ちます。

熊谷・尊徳3

成功者、熊谷正寿のマル秘投資術

尊徳 欧米に比べて日本では投資をする個人が少ないですよね。今後は、年金制度もこれまでのようには払われないことが予測されるし、手放しで国頼みにはできない。若い人たちには自分で預貯金を運用して経済や政治にかかわってほしいという思いが、僕はあるんですよね。

熊谷 投資する人を増やしたいなら、投資で成功した人をフィーチャーして知らしめることでしょうね。やり方をあれこれ指南するより、投資してお金が増えてハッピーという具体像を見せるほうが早いですよ。逆に、そこに魅力を感じない人は無理に投資することはないと思います。

尊徳 では、投資して成功した熊谷さんのストーリーをぜひ聞かせてください。

熊谷 そういうことは普段言わないんですけどね(笑)。僕はお金がないなかで、自分でリスクを取って会社に投資してきました。それで、ピーク時はフォーブスの長者番付でアジアのトップ10にも入って。まあ、(持ち分を)売らなかったから絵に描いた餅でしたけどね。逆に数百億円の損を出した時期もありましたが、今はちゃんと借金を返して、何百億円というキャッシュがあります。そういうダイナミズムを経験して、仲間と刺激的な人生を歩めているので、僕は生まれ変わっても投資するプロ経営者の立場で居続けたいですね。

ここ最近は、日経レバ(NEXT日経平均レバレッジ)に投資しています。個社に投資すると倒産することもあるけど、これは日経に投資しているわけですから、日本が沈没しない限りなくなりません。それにわかりやすいですよ。日本経済がどんな調子かというのは、新聞を読めばわかる話ですから。流動性がとても高いので、売りたいときに売れますし、このやり方だとリスクが少ないですね。日経レバをスマホで取引する、その際は手数料が格安なGMOクリック証券を利用する。これがスマートな投資です(笑)。

尊徳 なるほど(笑)。日本ではどうも投資=ギャンブルのイメージがあるようなので、そうじゃないという理解を広めたいですね。ぜひ、自分でやってみて経済や政治に興味を持ってもらいたい。政治も金融政策で直接、市場にかかわってきますから、投資を始めた人は政治にも関心が高くなるはずなんですよね。