政経電論 https://seikeidenron.jp 政経電論は、若い世代やビジネスパーソンに政治・経済・社会問題を発信するオピニオンメディア。ニュースの背景をわかりやすく伝えたり、時事用語の解説を通して、現代を生きる若者の行動を促すことを目指します。 Tue, 06 Sep 2022 03:00:36 +0000 ja hourly 1 拡大する対中強硬姿勢 アメリカに続きイギリス、オーストラリアも https://seikeidenron.jp/articles/21362 https://seikeidenron.jp/articles/21362#respond Thu, 01 Sep 2022 18:14:28 +0000 https://seikeidenron.jp/?p=21362

覇権的行動のみならず、近年、中国が引き起こす人権に関連する諸問題に対して、大国が次々と強硬な対中姿勢を見せ始めている。特にアメリカ、イギリス、オーストラリアの3国はそれが顕著だ。形成されつつある“対中包囲網”はどこへ向かうのだろうか。

北京冬季五輪を外交的ボイコットしたアメリカに追従する国が続々

2022年2月に開催された北京冬季五輪は華やかなイベントからは程遠いものだった。もちろん新型コロナウイルスの影響もあったが、原因はそれだけではない。同五輪をめぐってはイギリスやオーストラリアなどがアメリカのバイデン政権の方針に追従するかのように相次いで外交的ボイコットを宣言し、中国との関係が悪化するのはアメリカだけではないことが鮮明となったからだ。

米中対立は国際問題の中で最大トピックであり、どうしても大国間対立に注目が集まるが、近年はアメリカ以外の西側諸国の中国への不信感も極めて高まっている。それを助長している要因は長年の中国による覇権的行動だけでなく、新型コロナウイルスの真相究明をめぐる中国の対応、香港における国家安全維持法の施行、新疆ウイグル自治区の人権問題などだが、アメリカ以外の西洋諸国の中でも、特にイギリスとオーストラリアは対中国でアメリカと足並みを揃え、対中強硬姿勢を鮮明にしている。

イギリスは人権問題への制裁措置、外交でのけん制

たとえば、イギリスは2021年3月、アメリカとともに新疆ウイグル自治区の人権問題を理由に、中国当局者などへの制裁措置を発動した。当然ながら中国はこれに対して強く反発したが、イギリスが北京五輪で外交的ボイコットを実施したことと同一線上で考えられる出来事だ。

ほかにも、イギリスの姿勢は安全保障の視点からも明らかだ。2021年5月、南部ポーツマスから出発した最新鋭の空母クイーン・エリザベスを軸とする空母打撃群がインド太平洋に向かい出発し、日本にも寄港して米軍や自衛隊と海上軍事演習を行った。同年7月にはイギリスの国防大臣が哨戒艦を恒久的にインド太平洋地域に展開し、数年以内に沿岸即応部隊も展開させる方針を表明。同年9月15日にはアメリカ、オーストラリアと新たな安全保障協力「オーカス(AUKUS)」を発足させ、オーストラリアに原子力潜水艦の開発・配備を支援することで合意した。

外交的にもイギリスは中国をけん制する動きを見せている。2021年6月の先進国主要サミットのホスト国だったイギリスは、G7諸国に加え韓国やオーストラリア、インドなどを招待して計11カ国で会談を行った。同年12月にリバプールで開催したG7外相会談にも、東南アジア各国を招待するなどしている。イギリスには、日本やオーストラリア、インドやASEANなどインド太平洋諸国との関係を強化し、経済と安全保障の両面で同地域へ関与していくという戦略がある。

対中感情を悪化させるオーストラリア

同様にオーストラリアと中国の関係も悪化している。たとえば、2021年6月、中国がワインや牛肉などオーストラリアの主要輸出品の輸入を次々に制限するなか、オーストラリアの貿易大臣は中国がオーストラリア産ワインに対して関税を不当に上乗せしているとして世界貿易機関(WTO)に提訴すると発表した。

中国による貿易制限はオーストラリアが新型コロナの真相解明や中国国内でのオーストラリア国籍のキャスター拘束などをめぐって中国を非難することへの対抗措置であり、悪化する関係を考慮してか、ペイン豪外相は2021年4月、南東部ビクトリア州と中国が結んでいた巨大経済圏構想「一帯一路」への参加協定を破棄すると明らかにしている。

こういったオーストラリアと中国の関係悪化は統計からも読み取れる。たとえば、2021年7月にシドニー工科大学の研究チームが発表したアンケート調査結果によると、回答した国民62%が新型コロナウイルスによって中国に対するイメージが悪くなり、67%がオーストラリアの安全保障にとって中国が脅威だと回答した。また、回答者の8割がオーストラリアは経済的に中国に依存し過ぎだと回答するなど、政治経済的に中国脅威論がオーストラリア国民の間で広がっている。

また、同年3月には、2020年中の中国からオーストラリアへの投資額が約10億豪ドルと2019年比で61%も減少し、2020年の中国からの投資件数がピークだった2016年の111件から20件にまで大幅に減少しことが明らかとなった。

以上のように、アメリカだけでなくイギリスやオーストラリアも中国との関係が同じように悪化している。最近は、フランスも新疆ウイグル産の品々の輸入を規制するべきだと主張するなど、この動きは他の西洋諸国にも今後拡大していく可能性がある。

岸田政権は経済安全保障を強化していく方針だが、日本としては西洋諸国と中国との関係の行方を今後さらに注視していく必要があろう。

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台湾をめぐり中国と米豪がにらみ合い 南太平洋を舞台に繰り広げられる大国間競争とは https://seikeidenron.jp/articles/21358 https://seikeidenron.jp/articles/21358#respond Thu, 01 Sep 2022 17:50:33 +0000 https://seikeidenron.jp/?p=21358

近年、南太平洋の島嶼国への外交攻勢を強める中国。軍事的影響力の拡大も懸念されるなか、アメリカやオーストラリアも動き出した。新たな大国間競争の舞台となった南太平洋で進められている中国の思惑とは何なのだろうか。

新たな大国間競争の舞台となる南太平洋

ロシアによるウクライナ侵攻で欧米とロシアとの対立が激しくなるなか、依然として沈黙的な立場を堅持する中国は4月、南太平洋の国ソロモン諸島との間で新たに安全保障上の協定を結ぶことで合意した。ネット上に流失した協定に関する一部情報によると、そこには、「ソロモン諸島が中国に必要に応じて軍・警察の派遣を要請できる」、「中国は現地で一帯一路経済プロジェクトに従事する人々を保護するため軍を派遣できる」などの内容が記されていたという。

なぜ、中国は南太平洋ソロモン諸島に接近を図るのだろうか。そこには、大国間競争と台湾という中国なりの狙いがある。 

上述のように、中国はソロモン諸島と安全保障協定を結んだわけだが、何も中国が接近しているのはソロモン諸島だけではない。オーストラリア・シドニーにあるシンクタンク「ローウィー研究所(Lowy Institute)」の調査によると、中国は 2006年からの10年間で、フィジーに3億6000 万ドル、バヌアツに2億4400万ドル、サモアに2億3000万ドル、トンガに1億7200万ドル、パプアニューギニアに6億3200万ドルなど南太平洋諸国に多額の経済支援を行うなど、南太平洋地域で徐々に強い存在感を示すようになっていった。

その中でソロモン諸島では2021年11月、中国と関係を強化するソガバレ現政権に対する大規模な抗議デモによって現地の中国街などが被害に遭う事態が発生。以降も散発的に抗議デモが起きるなど、南太平洋各国で中国への警戒感があるのも事実である。

しかし、それでも中国の影響力は増大しており、今回、遂に経済から安全保障という形で新たな一歩を踏み入れることとなった。経済的影響力を浸透させてから安全保障でも踏み入れるという今回の形は、ソロモン諸島だけでなく、今後は他の南太平洋諸国でもみられる可能性が十分にあろう。

西太平洋で軍事的影響力を強化しようとする中国にとって、南太平洋はアメリカだけでなく、近年対立が深まるオーストラリアやニュージーランドをけん制する意味でも地理的に都合がいい。

アメリカの政府高官は4月下旬、ソロモン諸島の首都ホニアラでソガバレ首相と会談し、安全保障協定に懸念を伝え、対抗措置も辞さない構えを示した。南太平洋を裏庭と位置づけるオーストラリアのモリソン首相も同じく4月下旬、中国がソロモン諸島に海軍基地を建設する恐れがあり、そうなればオーストラリアやアメリカだけでなく、他の太平洋島嶼国が危機に直面することになると警告した。

このように、中国側には大国間競争を意識して、アメリカやオーストラリアなどをけん制する政治的狙いがあることは間違いない。最近、日本の閣僚も5月、南太平洋のフィジーとパラオを訪問したが、アメリカやオーストラリア同様の懸念を抱いている。

南太平洋諸国に台湾との外交関係断絶を求める中国

中国が南太平洋に接近を図るのは、大国間競争以外にも狙いがある。もう一つの大きな狙いは、台湾との外交関係断絶を促すことだ。実は、南太平洋には台湾と外交関係を維持する国が集中している。

現在、中国と国交があるのは、パプアニューギニア、バヌアツ、フィジー、サモア、ミクロネシア、クック諸島、トンガ、ニウエ、キリバス、そしてソロモン諸島の10カ国で、台湾と国交を持つのはマーシャル諸島、ツバル、パラオ、ナウルの4カ国であるが、2019年にキリバスとソロモン諸島が台湾との断交を発表し、中国と新たな国交を樹立するなど、南太平洋では“脱台湾”が進んでいる。これも中国が経済を武器に影響力を強めてきた証だろう。

現在、台湾の蔡英文政権は中国を脅威として認識し、そのため欧米諸国との結束を強化している。習政権は台湾の独立阻止には武力行使も辞さない構えだが、まずは台湾が持つ他国との国交をどんどん消していくことで、台湾に外交をできなくさせる狙いがある。このままの中国有利な情勢が続けば、断交ドミノ現象はいっそう勢いを増す恐れがある。アメリカやオーストラリアなどは、今後のマーシャル諸島、ツバル、パラオ、ナウルへ政治的なテコ入れを強化していくことだろう。

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アメリカの接近は福音か脅威の引き金か 自衛に傾き始めた台湾社会 https://seikeidenron.jp/articles/21354 https://seikeidenron.jp/articles/21354#respond Wed, 31 Aug 2022 11:17:57 +0000 https://seikeidenron.jp/?p=21354

2022年5月に行われた日米首脳会談で「台湾有事」について問われたジョー・バイデン米大統領は、台湾防衛の際には軍事的に関与することを明言。これまでの方針よりも一歩踏み込んだ発言が追い風となったのか、8月にはペロシ米下院議長が訪台。台湾は2016年に民進党の蔡英文政権が発足して以降、「1つの中国」を原則とし台湾統一を悲願とする中国との緊張が続いていることも重なって、台湾・アメリカ・中国の関係は予断を許さないものになりつつある。アメリカの接近は、台湾をどのように変えていくのだろうか。

台湾に接近するアメリカ、強く牽制する中国

台湾問題をめぐって米中の対立が先鋭化している。ペロシ米下院議長は8月3日、台湾の蔡英文総統と会談し、アメリカが台湾を見捨てることはないとの姿勢を強調。米下院議長が台湾を訪問するのは1997年以来25年ぶりとなったが、アメリカの事実上“ナンバー3”が訪問したことで中国はこれまでになく強く反発している。

ペロシ米下院議長が訪台する前、中国は断固たる対抗措置を取るとアメリカを強く牽制し、台湾周辺での軍事的威嚇を活発化させた。また、習国家主席は最近行ったバイデン大統領との電話会談で、「火遊びをすればやけどをする」とペロシ米下院議長の台湾訪問に強く釘を刺した。だが、結局ペロシ米下院議長は訪問し、中国は泥を塗られる結果となった。

今後、中国はより強硬な措置に出る可能性がある。なぜなら、今日、鈍化する国内経済、ゼロコロナ政策に中国国民の政権への不満も高まっているとみられ、三期目を目指す習国家主席としては国民に対して強いリーダーシップを示す必要があるからだ。

また、国際社会で存在力を高めている中国としては、アメリカに対して絶対に弱気の姿勢を示すことはできない。米中対立はまた新たな危険なフェーズに入ったとも言え、今後の動向が強く懸念される。そのようななか、台湾市民はすでに有事を意識し、台湾社会には大きな変化が生じている。

ロシア・ウクライナ戦争で生まれた米軍への不信

まず、世論調査を紹介したい。台湾のシンクタンク「台湾民意基金会」が2022年3月に発表した世論調査結果によると、台湾有事の際に米軍が関与すると回答した人は34.5%と、2021年10月の65%から約30%あまり急落した。台湾市民の間では、バイデン政権が米軍をウクライナに直接派遣しなかったことから、台湾有事においても結局米軍は関与しないのではないかとの懸念が拡がったものとみられる。

台湾民意基金会は2022年6月にも同様の調査を実施し、バイデン大統領が5月に台湾有事で米軍が関与する意思を示したことについて、それを「信じる」と回答した市民が40.4%だった一方、「信じられない」と回答した市民は50.9%となり過半数を上回った。

2つの調査からは、台湾市民のアメリカへの不信がこれまでになく強まっていることがわかる。

来たるべき有事に備え始めた台湾政府と市民

台湾政府は4月、中国による軍事侵攻に備えて民間防衛に関するハンドブックを始めて公表した。このハンドブックには、スマートフォンアプリを使った防空壕の探し方、水や食料の補給方法、救急箱の準備方法、空襲警報の識別情報などが事細かに記述されており、軍事攻撃を含む緊急事態発生時に市民が何をすべきかについての基盤になることが期待されている。

2021年4月には、有事の際に市民が早期に防空壕を発見できるように防空壕の場所を示すアプリの運用が開始された。台湾には日本統治時代の防空壕も残っているが、建築法でマンションや工場、学校や映画館など5~6階以上のビルに防空壕の設置が義務づけられており、全土で10万6千あまりの防空壕が存在する。

また、台湾政府は最近、市民の軍事訓練義務の期間を現行の4カ月からさらに延長する可能性を示唆した。台湾では2014年に徴兵制が廃止となり、現在は志願制となっているが、兵役を志願しない男性も4カ月の軍事訓練を受ける必要がある。

延長期間について1年という数字が上がっているが、多くの市民はこれに肯定的な見方を持っているという。最近では、有事に備えた退避対策や自己防衛対策、食糧の蓄えや応急手当などのノウハウを身に付けようとする動きが広がり、若者たちが警備会社主催の軍事訓練に参加し、エアガンの使い方から携帯用対戦車兵器を含む各種武器の取り扱い方を学んでいるという。

台湾有事は対岸の火事ではない

こういった台湾社会、台湾市民の変化をわれわれは注視する必要がある。台湾有事がそのまま日本の安全保障に直結する問題であることは言うまでもない。台湾には2万人あまりの邦人がいて、有事となれば退避が大きな問題となる。

退避となれば、台湾から100kmしか離れていない与那国島、八重山諸島が退避先となるが、退避してくるのは日本人だけではなく、台湾人や外国人も退避してくる。極めて大きな難題である。日本のシーレーンの安全も脅かされ、エネルギー安全保障上も深刻な問題となる。世論や企業はこの問題で一足早い危機管理対策を講じるべきだろう。

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報復か、弱体化か 指導者を殺害された国際テロ組織アルカイダの今後の動向 https://seikeidenron.jp/articles/21343 https://seikeidenron.jp/articles/21343#respond Wed, 31 Aug 2022 11:00:12 +0000 https://seikeidenron.jp/?p=21343

バイデン米大統領は8月1日、国際テロ組織アルカイダの現指導者アイマン・ザワヒリ容疑者を、アフガニスタンの首都カブール周辺で7月31日にドローンによって殺害したと発表。アルカイダは2001年9月の米同時多発テロ事件を首謀したことで知られている。当時の指導者であるウサマ・ビンラディンに続き、再びアメリカに指導者を殺害された形となったアルカイダ。国家対テロの戦いの行方はどこへ向かうのだろうか。

殺害されたアルカイダ指導者の影響力の実態

米軍は2022年初めからカブールの高級住宅街の民家にアイマン・ザワヒリ容疑者が家族とともにいることを確認し、居場所を特定していた。米軍はドローンによる攻撃計画を7月になってバイデン大統領に報告。

同大統領は7月25日に作戦決行を承認。ザワヒリ容疑者が殺害されたことを受け、米国務省は8月2日、中東やアフリカなどで活動するアルカイダ地域支部やその支持者らが、米権益を狙った報復テロを行うリスクが高まっているとして注意喚起した。

具体的には各国にある大使館など米関連施設への攻撃が想定されるとしている。では、今後のアルカイダはどうなるのか。これについて学術的なテロ研究の視点から予測してみたい。

まず、指摘しておきたいのは、既にアルカイダは弱体化しており、指導者ザワヒリを失ったとしても報復活動を活発化させる可能性は極めて低いということだ。

ザワヒリ容疑者は2011年5月に初代指導者ウサマ・ビンラディンがパキスタン・アボダバードで殺害されて以降、指導者の立場にあったがビンラディンほどカリスマ性があったわけではなかった。また高齢ということもあり、以前から影響力は強くはなく、後継者問題や幾度か死亡説も浮上していた。さらに指揮命令的役割を果たしてきたわけではなく、やってきたのは動画やメッセージを支持組織、支持者向けに配信するくらいで、象徴的存在に留まっていたといえる。

長年、アフガニスタンの山岳部に身を潜め、いつ通信傍受されて米軍に見つかるか、長い間“かくれんぼ”をしていたと表現できよう。

各地に散らばる武装勢力の動向

一方、今なお、アルカイダを支持する武装勢力は、アフガニスタンの「インド亜大陸のアルカイダ(AQIS)」、イエメンの「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」、北アフリカ・アルジェリアなどの「マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」、ソマリアの「アル・シャバーブ(Al-Shabaab)」、マリを中心にサハラ地域の「イスラムとムスリムの支援団(JNIM)」、シリアの「フッラース・アル・ディーン(HAD)」などが依然として活動している。

しかし、こういった組織の活動は地域レベルにほぼ限定され、9.11同時多発テロのような国際レベルでのテロ活動に主眼を置いていない。彼らはアルカイダが掲げる反欧米感情は組織として共有していても、実態は地元の武装勢力(一部外国人戦闘員も加わっている)でしかない。彼らがザワヒリ殺害への報復として各地で反米的活動をヒートアップさせる可能性は低い。

さらに、こういった組織はインターネット上ではアルカイダ本体と意思疎通、刺激を受けることはあっても実際の活動は独自の方針で行っており、結論としてザワヒリ容疑者の殺害による影響はほぼないといえよう。

今、そこにある危機は国家間問題!? テロ予測は中長期ビジョンへ

国連安保理の対テロモニタリングチームは5月、今後の国際テロ情勢に関する最新のレポートを発表した。それによると、アフガニスタンではアルカイダが引き続き活動しており、少なくとも今年末までは国際的なテロ攻撃を実行できる能力はないものの、国際社会は今後の動向を注視するべきだという。

同レポートによると、インド亜大陸のアルカイダ(AQIS)のメンバーは180人から400人程度いるとされ、アルカイダとタリバンは依然として緊密な関係にあるという。また、他のインテリジェンスとして、アルカイダ関連組織のメンバーは世界に3万から4万人、アフガニスタンにはアルカイダのメンバーが400~600人、インド亜大陸のアルカイダ(AQIS)が150~200人、アルカイダとも協調関係にあるウイグル系過激派が500人程度存在するとの報告もある。

また、近年、中東やアジアでアルカイダなどイスラム過激派の脅威が薄まる一方、アフリカ・サハラ地域ではアルカイダ系やイスラム国系によるテロが年々激しくなっており、治安が悪化傾向にある。

シリアの難民キャンプでは、今なおイスラム国戦闘員の子供たちは過酷な環境での生活を余儀なくされており、将来的にこういった子供たちが過激化するリスクがある。次世代のアルカイダを警戒する専門家も多い。アルカイダの脅威は短期的でなく、中長期的ビジョンで捉える必要がある。

今日、国際政治は米中による戦略的競争、ロシアによるウクライナ侵攻など国家間問題でほぼ占められており、テロ問題への関心は明らかに薄まっている。

アメリカは自国の安全保障を考慮し、ザワヒリ殺害のようにドローンによるピンポイント攻撃を今後も続けるだろうが、中国、ロシアへの対処に時間を割かれてテロの問題が疎かにされれば、アルカイダが息を吹き返すリスクは排除できない。これはイスラム国にもいえることで、今後ともテロという差し迫りはしないが不気味な脅威に国際社会は対処していくことになる。

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【第2次岸田改造内閣】骨格維持・経験者起用・バランス重視 岸田首相の狙いは https://seikeidenron.jp/articles/21292 https://seikeidenron.jp/articles/21292#respond Thu, 11 Aug 2022 02:26:55 +0000 https://seikeidenron.jp/?p=21292

岸田文雄首相は8月10日、内閣改造と自民党役員人事を行った。松野博一官房長官や麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長ら“骨格”は維持しつつ、新型コロナウイルス対策や外交・防衛など重要政策を担う閣僚には経験者を再起用。各派閥のバランスや要望にも配慮した手堅い人事とした。旧統一教会との関係を認めた閣僚7人を交代させたが、早くも複数の新閣僚が教会との関係を認めており、国会での火種となりそうだ。

政策的なバランスを重視

「骨格を維持しながら、有事に対応する『政策断行内閣』として、山積する課題に対し、経験と実力を兼ね備えた閣僚を起用した」。岸田首相は内閣改造後の記者会見でこう語った。

19人の閣僚のうち、松野官房長官、林芳正外相、鈴木俊一財務相、斉藤鉄夫国土交通相、山際大志郎経済財政・再生相の5人を留任。コロナ対策の司令塔であり、感染法上の分類見直し議論という難しい対応を迫られる厚生労働相には2度の経験に加え、コロナ禍で官房長官も務めた加藤勝信氏を据えた。

防衛予算の拡大という重要課題を抱える防衛相には13年ぶりの再登板となる浜田靖一氏を起用。亡くなった安倍晋三元首相の実弟である岸信夫前防衛相は交代させたが、国家安全保障担当の首相秘書官に起用し、保守派への配慮をみせた。電力需給のひっ迫や原発再稼働という重い課題を抱える経済産業相には旧通商産業省(現経産省)出身で、経済財政・再生相の経験もある西村康稔氏を起用した。

重要ポストにはいずれも実力派を置いた印象だが、同時に政策的な“バランス”を重視したようにも見える。例えば防衛予算をめぐっては、党内には、2倍以上への増額を求める保守派から据え置きを求める慎重派までさまざまな意見があり、どちらを起用しても党内がまとまらない。浜田氏は安全保障政策に詳しい国防族の重鎮だが、一見こわもての外見と違って性格は温和で、調整型の政治家。浜田氏の起用によりじっくりと党内議論を進める狙いがありそうだ。

一方で、初入閣は9人。このうち8人が衆院当選5回以上、参院当選3回以上のいわゆる“入閣待機組”で、一般の国民にはあまりなじみのない顔ぶれが多い。各派閥からの推薦を受け、大きな問題が起きそうにない無難なポストに、各行政分野に比較的詳しい無難な議員を配置した印象だ。初入閣組で“抜擢”と言えそうなのは41歳で最年少の小倉将信少子化担当相だけだ。

見た目の派手さにはこだわらない人事

改造内閣の中で比較的目立つのは、岸田首相が2021年の自民党総裁選で争った河野太郎デジタル担当相と高市早苗経済安全保障相の2人。ただ、いずれも主要ポストとは言えず、高市氏については自民党政調会長からの“降格感”も否めない。2024年9月の次期総裁選をにらんで「ライバルを身内に取り込んだ」との見方もあるが、高市氏については保守的な思想が強すぎるため党内の政策調整役から外したとも読める。保守派の重鎮として党内のバランスを図っていた安倍元首相の死去も影響した可能性がある。

自民党役員人事では総務会長にベテランの遠藤利明氏を起用。前回人事の“若手抜擢”の象徴だった福田達夫前総務会長は交代させた。福田氏は旧統一教会と自民党議員との関係をめぐって「なぜこんなに騒いでいるのか正直よくわからない。何が問題か僕はよくわからない」などと述べ、内閣支持率の低下につながったとの見方があった。政調会長には安倍元首相に近かった萩生田光一氏を経済産業相から横滑りさせ、選対委員長にはこれまで非主流派だった森山派の森山裕氏を起用した。

森山氏の起用に代表されるように、岸田首相は今回の人事ですべての派閥に配慮をみせた。各派閥への閣僚のポスト配分は改造前とほぼ同じ。自らの派閥が第4派閥に過ぎないことに加え、安倍元首相が亡くなったことで党内バランスが崩れることを懸念したとみられる。

ただ、経験者の起用や党内バランスを重視した結果、非常に“地味”な顔ぶれになったことは否めない。2021年に内閣を発足させた際は若手や女性の登用に積極的な姿勢をみせたが、今回の若手抜擢は小倉氏1人。女性も高市氏と永岡桂子文部科学相の2人にとどまった。当面は大型国政選挙がないためか、見た目の派手さにはこだわらない、内容重視の人事となった。

旧統一教会問題の幕引きだったが…

今回の内閣改造は当初、9月上旬とみられていた。約1カ月も前倒しにしたきっかけは安倍元首相が銃撃され死亡した事件だ。容疑者の供述をきっかけに高額献金などのトラブルがある旧統一教会と自民党議員との接点が相次ぎ明らかになったことで内閣支持率が下落。さらに、警備の欠陥が明らかになった警察庁を管理する立場の国家公安委員長の責任論も浮上していた。前国家公安委員長である二之湯智氏は参院選に立候補せず民間人となっており、「早急に交代させるべきだ」との声が出ていた。

改造にあたって首相は8月9日、人事の内定を電話で知らせる際、全員に「教団との関係点検を了解した上で人事を受けてくれるか」と念押ししたという。それでも組閣当日から複数の新閣僚や自民党役員に教団との接点が発覚した。

首相にとって最大の狙いは旧統一教会問題の幕引きだったが、逆に内閣改造によって自民党と教会との接点の根深さが浮き彫りになった面もある。首相は「政策断行内閣」と名付けたが、国会では旧統一教会問題ばかりが追及され、政策断交どころではなくなる可能性もある。

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海外ヘッジファンドは日銀の早晩政策転換を予測 日本国債は大丈夫か https://seikeidenron.jp/articles/21275 https://seikeidenron.jp/articles/21275#comments Tue, 02 Aug 2022 14:16:49 +0000 https://seikeidenron.jp/?p=21275

アメリカや欧州が金利引き上げるなか、金融緩和を維持する日本とのギャップで円安が進む。市場は、日銀が今後、金融緩和を維持するか利上げに転じるかに注目しているが、その一部には、アベノミクスを牽引した安倍晋三首相が凶弾に倒れたことも関係する。

ECBが2014年に導入したマイナス金利政策を終了

欧州中央銀行(ECB)は7月27日から、主要政策金利をゼロ%から0.5%に引き上げ、銀行に預ける預金金利をマイナス0.5%からゼロ%に引き上げた。利上げは11年ぶりで、上げ幅は2000年以来22年ぶりの大きさとなる。

欧州ではロシア産天然ガスの供給が大幅に絞られるなか、景気悪化とインフレが同時進行する「スタグフレーション」が懸念される状況にあるが、ECBは景気悪化を犠牲にしてもインフレ阻止に向けた利上げを優先した格好だ。が「アメリカに続き欧州が大幅利上げに踏み切り、マイナス金利政策を終了させたことで、市場の次の注目は日本銀行がいつ大規模金融緩和を終了させ、利上げに転じるのかに移る」(市場関係者)とされる。

その日本では、安倍晋三元首相が凶弾に倒れ、参院選で自民党が大勝したことを受け、アベノミクスの終焉も取りざたされ始めた。「安倍氏が亡くなったことで、大規模金融緩和がどうなるのかが最大の関心事です。出口戦略が早まると見るのか、むしろアベノミクスを継承すべきとの意見が高まるのか、どちらの可能性もある、微妙な空気が支配している」(市場関係者)という。

内外金利差を主因に円安はさらに進み、日銀は窮地に追い込まれている。日銀はECBが政策金利の引き上げを決めた7月21日に、対照的に金融政策決定会合で大規模金融緩和の維持を決めた。「日銀の黒田東彦総裁は金融緩和の維持を繰り返し強調しており、指し値オペ(公開市場操作)で金利上昇(債券価格の下落)を力ずくで抑え込んでいます。だが、それもいずれ限界が訪れる。すでに日銀は発行済み長期国債の50%超を保有しており、いつまで国債を買い続けられるか疑問です」(同)というわけだ。

そこに目を付けた海外のヘッジファンドが日本国債の売りで大儲けしようと「国債のショート(売り)ポジション」を構築し、日銀との対決姿勢を強めている。「円安で輸入物価が急騰するなどの弊害が強まるなか、海外のヘッジファンドは日銀が早晩政策転換に追い込まれると読んでおり、金利上昇から日本国債の価格暴落にかけている。イギリスを拠点とするブルーベイはその急先方だ」(市場関係者)という。その戦略はかつて通貨危機に乗じてポンド売りを仕掛けイングランド銀行に勝利したジョージ・ソロスのクォンタム・ファンドを彷彿とさせる。

ブルーベイは、2001年にイギリスで創業したファンドで、欧州最大級の債券運用のスペシャリストとして社債、ソブリン債、金利、通貨を利用して1200億ドル(約16兆円)を超える資金を運用している。

投資戦略はロングオンリーからオルタナティブ(代替投資)まで多彩で、日本には2005年に進出。「日本では年金基金や金融機関等の欧州投資で実績がある。特にリーマン・ショック時にも安定したパフォーマンスを上げ、運用資産規模を急拡大させた」(市場関係者)とされる。

今回の日本国債売りは1ドル=130円を超えた頃から開始されたが、6月16日までにCIO(最高投資責任者)のマーク・ダウディング氏が日本経済新聞の取材に応じ、「円安によるインフレが日銀を政策修正に追い込む」との見方を示した。「円安が進むと日本の物価は上昇し、政治的な問題になるはずだ」というわけだ。だが、思惑通りにいくのか予断を許さない。

今回ばかりは限界かもしれない

日本国債に黄色信号が灯っている。日経が報じたところによると、6月20日現在で短期国債を除く国債の発行残高は1021兆1000億円で、このうち日銀が514兆9000億円を保有し、保有割合が50.4%と過去最高を更新した。日銀は大規模金融緩和を継続するため、市場から大量の国債を購入している。特に足元では「長期金利の上昇を0.25%以内に抑えるため指し値で国債を無制限に買い入れるオペレーションを行っており、残高が急拡大している」(市場関係者)という。

そもそも日本国債は日本が金融危機に見舞われた1990年代後半から海外ヘッジファンドの注目点だった。GDP(国内総生産)を大きく上回る規模にまで膨張した日本国債はいつ爆発(価格が暴落)してもおかしくないというのがヘッジファンドの共通見方だった。しかし、日本国債のショート(空売り)を仕掛けたファンドの面々は、鉄板の強固さを持つ日本国債の前にことごとく屈してきた苦い歴史がある。

だが、今回ばかりは限界かもしれない。果たして日本国債がデフォルトするXデーは訪れるのか――。

財務省は、GDPの2倍超に膨らんだ国の債務管理を議論するため、新たな有識者会議「国の債務管理に関する研究会」を立ち上げ、危機への備えに乗り出している。

日本国債危機は長く「狼少年」だった。日本国債は暴落すると言い続けてきたファンドが屈した理由は、「他国の国債と違い、日本国債はそのほぼすべてを国内で消化されている」(メガバンク幹部)ためだ。いわば「夫(国)が妻(国民)から借金しているようなもの」(同)だからだ。しかし、夫の浪費に妻が愛想をつかす日が近いかもしれない。

7月1日に全国銀行協会の新会長に就任した半沢淳一氏(三菱UFJ銀行頭取)は、初会見で日銀の金融政策について聞かれ、次のように述べている。

「黒田総裁が2013年に就任されて以降、日本銀行は2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現することを目的に、強力な金融緩和策を進めてきたものと理解している。足元、日本のコアCPI(消費者物価指数)は前年比で2%を超えているが、資源高や円安などの一時的な影響が大きく、持続的かつ安定的という観点からすると未だ目標に達していないという状況かと思う。ただし、総括的な評価として申し上げれば、9年前のデフレ的な状況を脱却したという意味で、一定の金融緩和の効果があったと考えている」と、黒田総裁が進める異次元緩和策に一定の理解を示す一方、「世界を見渡すと、他の主要先進国は、すでに金融政策の正常化に動き出しており、内外金利差の拡大により、円安圧力が意識されやすくなっている点にも留意が必要だと思う」と指摘した。

その上で、将来、本格的に出口戦略に向かう局面では、「これまで実施してきた量的緩和、マイナス金利、イールドカーブ・コントロールなどの複数の金融緩和策をどのようなかたちで調整していくかについて、政策の予見性を高めるフォワードガイダンス(※)を含め、市場と十分に対話して進めていただくことを期待している」と釘を刺した。

※中央銀行が将来の金融政策の方針を前もって表明すること。

日銀の新しい審議委員は財政規律派

日銀が本格的な出口戦略に移行する局面で問われるのは、いうまでもなく大量に買いためた国債をどうスムーズに市場に溶かし込んでいくのかあろう。日銀が市場との対話に失敗し、予期せぬ国債の価格暴落(金利上昇)を招けば、虎視眈々と狙うヘッジファンドの餌食となろう。

その日銀の出口戦略を占う日銀政策委員会人事が7月19日に決定した。金融緩和に積極的な「リフレ派」の急先方と目されてきた片岡剛士氏と、三菱UFJ銀行出身の鈴木人司氏の両審議員が7月23日に任期満了となり、その後任に岡三証券グローバル・リサーチ・センター理事長の高田創氏と三井住友銀行上席顧問の田村直樹氏が就任したのだ。

高田氏は元日本興業銀行(現みずほ銀行)出身で、みずほ総合研究所副理事長(エコノミスト)として日本の財政問題に対する危機意識を発信してきた。「国債暴落」や「異次元緩和脱出 出口戦略のシミュレーション」などの著書もある。新しい審議委員はともにメガバンク出身で、リフレ派とは一線を画する、財政規律派と見ていい。日銀の政策決定を担う総裁、副総裁を含む審議員の力学が変化する可能性もある。

岸田文雄首相は、参院選公示直前の9党党首討論で日銀の金融緩和政策について「今の状況を維持していく」と述べていた。安倍氏の急死でその主張に変化はあるのか。

政界の一部にはMMT(現代貨幣理論)を支持する有力議員も存在する。MMTは「通貨発行権を持つ国は、自国通貨建て国債で必ず財政ファイナンスができるので、財政破綻することはない。インフレになるまで財政赤字を積極的に活用すべきだ」という理論だ。MMTの主張に沿えば、政府は無制限に国債を発行しても大丈夫ということになる。しかし、その実態は日銀が異次元緩和の名前に下に、国債を買い続けているからに他ならない。だが、それも限界が近づいているのか。

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安倍元首相の「国葬」で世論二分 政府は丁寧な説明を https://seikeidenron.jp/articles/21257 https://seikeidenron.jp/articles/21257#comments Sun, 31 Jul 2022 01:27:31 +0000 https://seikeidenron.jp/?p=21257

政府は7月22日の閣議で、参院選の街頭演説中に銃撃され死亡した安倍晋三元首相の「国葬」(国葬儀)を9月27日に日本武道館で実施することを決めた。首相経験者の国葬は1967年の吉田茂元首相以来、55年ぶり。岸田文雄首相が主導して決めたが、基準や法的根拠があいまいだとして批判も多く、世論は真っ二つに割れている。

岸田首相が国葬にこだわった

「安倍元首相が憲政史上最長の8年8カ月にわたり、卓越したリーダーシップと実行力をもって、厳しい内外情勢に直面するわが国のために首相の重責を担ったこと。選挙が行われているなか、突然の蛮行により逝去され、国内外から幅広い哀悼、追悼の意が寄せられていることを勘案し、国葬儀を執り行うこととした」。松野博一官房長官は7月22日の閣議後の記者会見で、国葬とする理由についてこのように述べた。

葬儀委員長は岸田首相で、費用は予備費を活用して全額、国が負担する。政府は内閣府に約20人体制の「国葬儀事務局」を設置。外務省も「国葬儀準備事務局」を設け、諸外国に国葬実施を知らせるという。松野長官は「無宗教形式で、かつ簡素、厳粛に行う」と強調した。

戦前は頻繁に行われた国葬だが、戦後は安倍氏と同様に2度にわたって首相を務め、戦後復興に功績を残した吉田茂元首相の1回しか例がない。首相経験者では1975年に亡くなった佐藤栄作氏が自民党と国民有志による「国民葬」だったが、その後、1980年に在職中に急死した大平正芳氏以降、首相経験者の葬儀は「内閣・自民党合同葬」という形式が慣例となっている。吉田氏、佐藤氏と並んで存命中に「大勲位」を受勲し、2020年に亡くなった中曽根康弘氏も同じ形式だ。

安倍元首相についても当初、永田町内では一部の反対意見を踏まえて「合同葬で落ち着くのではないか」との声があったが、首相が国葬にこだわったという。安倍元首相が歴代最長政権を担ったこと、そして選挙中に銃撃されて急死したことを重視したとしているが、安倍元首相を信奉する保守系議員や保守層の有権者への配慮や、政権浮揚につなげる狙いがあるのではないかとの指摘もある。

明確な基準は無い、反対意見も

立憲民主党の泉健太代表は7月22日の記者会見で「今回の政府の決定は賛同しかねる。反対だ」と表明。社民党の福島瑞穂党首は「国葬に反対だ。法的根拠がない」と批判した。国民民主党の玉木雄一郎代表は国葬に理解を示した上で「納得していない国民もたくさんいるので、政府は説明責任をしっかり果たすべきだ」と注文をつけた。国葬をめぐっては反対する市民が国会周辺で抗議活動を展開している。

反対する市民の中には安倍元首相が在任中に進めた安全保障関連法の制定など保守的な政策や「モリカケ問題」などへの反発もあるが、葬儀の形式を決める基準があいまいなことや、法的な後付けがないことへの批判も多い。戦前は「国葬令」で皇族以外の国葬対象として「国家に偉功ある者」と定めていたが、第二次世界大戦後に失効してからは法律に明記されていない。皇室典範で天皇陛下や上皇陛下が崩じたときに「大喪の礼」を行うと記載されているだけだ。

「首相を何年以上務めた」「GDPを何%引き上げた」などと明確な基準を設けるべきとの声もある。時の政権が自由に決められるとなると政権浮揚に利用してもおかしくないからだ。戦時中の1943年には山本五十六元帥の国葬が東京の日比谷公園で盛大に行われたが、時の政府が戦意高揚に利用したとされている。

産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が7月23、24日に行った世論調査によると、政府が国葬に決めたことについて「よかった」と「どちらかと言えばよかった」が計50.1%で、「よくなかった」「どちらかと言えばよくなかった」は46.9%だった。別の調査ではあるがNHKが7月16~18日に行った世論調査では「評価する」が49%で、「評価しない」の38%を上回っていたが、徐々に反対意見が増えている可能性がある。

「人の死」が政治利用されることのないように

反対が根強い背景には政府・与党の“態度”にも問題がある。自民党の茂木敏充幹事長は野党からの反対について「国民から『国葬はいかがなものか』との指摘があるとは認識していない。野党の主張は国民の認識とはかなりずれているのではないか」と発言。野党から猛反発を受けた。日本維新の会の松井一郎代表は茂木氏の発言について「茂木さんが国民の感覚とずれている。賛成の方々も自民党が傲慢だととらえる」と批判した。

私個人としては“たかが”葬儀の形式で国民が2分されている状況は悲しく感じる。安倍元首相の政策に賛否はあっただろうが、67歳という若さで、選挙演説中に銃撃され亡くなったことに大多数の国民が心を痛めたのは事実。歴代最長政権を担ったという功績も国葬にふさわしいとは思うが、形式にこだわらず、なるべく多くの国民や海外からの来賓が安倍元首相を悼むことのできる葬儀にしてほしいと思う。

政府が閣議決定を覆すことはないだろうが、せめて丁寧に説明した上で、今後の国葬についての基準を明確化すべきだ。「人の死」がこれからも政治利用されることのないように。

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参院選、自民圧勝 改憲勢力3分の2 野党の比例第一党は維新 https://seikeidenron.jp/articles/21178 https://seikeidenron.jp/articles/21178#respond Mon, 11 Jul 2022 06:39:48 +0000 https://seikeidenron.jp/?p=21178

第26回参議院選挙が7月10日に投開票され、自民党が改選過半数となる63議席を獲得して圧勝した。憲法改正に前向きな「改憲勢力」は国会での発議に必要な参院の3分の2議席を維持。野党では立憲民主党が議席を減らし、日本維新の会が比例代表で立民を上回って野党第一党となった。投票率は52.05%で、前回2019年参院選を約3ポイント上回った。

与党の合計は非改選含めて146議席に

参院選は改選124議席に神奈川選挙区の欠員1を加えた125議席が争われた。自民党は選挙区で45、比例代表で18の計63議席を獲得。自民と連立を組む公明党は選挙区7、比例代表6の計13議席を獲得した。与党の合計は76議席で、非改選を含めると146議席となった。

投開票の2日前に自民党の安倍晋三元首相が街頭演説中に撃たれて死亡する事件が起きており、有権者の投票行動に影響した可能性もある。

岸田文雄首相が事前に「勝敗ライン」と位置付けていた「非改選を含めて与党で過半数」(125議席)は大きく上回り、与党の改選前勢力の69議席や、自民党で改選過半数(63議席)もクリアする圧勝ぶり。参院選の勝敗を左右するとされる改選定数1の「1人区」では32選挙区のうち自民党が28選挙区で勝利した。

野党では立民が振るわず、改選前の23議席から17議席に減少。比例代表の獲得議席数は7にとどまり、維新の8を下回った。維新は“重点区”と言い続けた東京や愛知、京都で当選に届かなかったが、大阪で2議席、兵庫と神奈川で1議席ずつ獲得。比例で野党第一党となり、改選前の6議席から12議席に倍増させた。

国民民主党は7議席から5議席、共産党は6議席から4議席に勢力減。社民党は福島瑞穂党首が比例代表で当選し、改選前と同じ1議席を死守して政党要件も維持した。れいわ新撰組が3議席、NHK党が1議席を獲得し、政治団体の参政党が国政選挙で初となる1議席を獲得した。

参院選前後の各政党の議席数 ※[]は獲得議席

  • 自民 111→119[63]
  • 公明 28→27[13]
  • 立民 45→39[17]
  • 維新 15→21[12]
  • 国民 12→10[5]
  • 共産 12→11[4]
  • れいわ 2→5[3]
  • 社民 1→1[1]
  • NHK 1→2[1]
  • 参政 0→1[1]
  • 無所属 15→12[5]

“黄金の3年間”岸田政権は物価高対策に取り組む姿勢

岸田首相は2021年10月の衆院選に続いて国政選挙で2連勝。衆院を解散しない限り、今後3年間は大型国政選挙がない“黄金の3年間”となり、当面は安定して政権運営することができる。首相は7月10日夜のテレビ番組で「多くの国民が物価の高騰に関心を持ち、政治に役割について強い思いを持っていることはひしひしと伝わってきた」と述べ、最大の争点とされた物価高対策に取り組む姿勢を強調した。

与野党の勝敗とともに今回の参院選で注目されたのが改憲勢力の行方だ。憲法改正に前向きな与党と日本維新の会、国民民主党の4党で今回、82議席を上回れば参院での3分の2議席を維持できる。結果は93で大きく上回り、衆参両院で改憲勢力が国会での発議に必要な3分の2を超えた。

岸田首相は憲法改正について「大きな課題に勇気をもって挑戦しなければならない」と強調する一方で「3分の2の勢力に賛同いただける部分から発議を進めていく」とも語り、9条改正を含む自民党の「改憲4項目」にこだわらない姿勢をみせた。自民党が主張する「自衛隊の明記」などには公明党が否定的なため、他の4項目である「国会や内閣の緊急事態への対応を強化」や「教育環境の充実」などを優先する可能性がある。

保守的な政策の行方は?

安倍元首相が亡くなった影響にも注目が集まる。安倍氏は憲法改正など保守的な政策に強い影響力を持っており、最近ではロシアによるウクライナ侵攻も踏まえて防衛予算の大幅増額やアメリカ合衆国の核兵器を同盟国で共有する「核共有」、敵基地攻撃能力の保持なども主張していた。安倍氏が亡くなったことで主張が“神格化”され、これまで以上に党内で影響力を持つ可能性が指摘される。

安倍氏は2021年11月に党内最大派閥である清和会の会長を継いだが、派内を見渡しても安倍氏に代わる“大物”は見当たらない。派閥の結束が緩めば同派が松野博一官房長官を輩出するなど積極的に支持してきた岸田政権の基盤にも影響しかねない。

野党の弱体化は避けられず、今後は共闘ではなく再編へ

一方で弱体化が進むのが野党だ。衆参で最大勢力の立民は2021年の衆院選で敗北した後、党の顔である代表を枝野幸男氏から泉健太氏に変えたが、今回も勢力が減少。比例代表の得票数は676万票で、784万票の維新に100万票以上の差をつけられた。今回は「野党共闘」による候補者調整が難航したことで不利が予想されたが、一本化できた選挙区でも振るわなかった。新潟選挙区では参院幹事長を務める森裕子氏が実質的な野党統一候補だったが、自民党の新人に競り負けた。時事通信の出口調査によると、無党派層でも維新を下回ったという。

勢力が倍となった維新も選挙区では地盤である大阪と隣の兵庫、候補者の知名度が高い神奈川で勝っただけ。重点区はいずれも当選を逃し、松井一郎代表(大阪市長)は代表を辞任する考えを表明した。松井氏と並んで知名度の高い吉村洋文副代表(大阪府知事)は不出馬を明言しており、勢いを維持していけるか疑問視する声もあがる。

立民と同じ民主党の流れをくむ国民民主も選挙区での当選は現職2人のみで、比例も振るわず勢力を減らした。一時、勢いのあった共産党も勢力減。今回、候補者の調整がうまくいった選挙区でも自民に負けていることから、今後は「野党共闘」ではなく「野党再編」に向かう可能性もありそうだ。

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安倍元首相急死の影響のなか明日、参院選投開票 https://seikeidenron.jp/articles/21162 https://seikeidenron.jp/articles/21162#comments Sat, 09 Jul 2022 12:10:16 +0000 https://seikeidenron.jp/?p=21162

安倍晋三元首相の銃撃による急死は、政界に大きなショックを与えた。非常時だが予定されていた7月10日投開票の参院選は実施される。報道各社の情勢調査では自民、公明の与党が勢いを維持している。岸田文雄首相の掲げた勝敗ライン「非改選を含めて与党で過半数」は固いとみられ、よりハードルの高い「改選過半数」も超えそうな勢いだ。

与党の勝敗ラインは改選過半数から

  • 「与党、改選過半数の勢い 立民伸び悩み、維新大幅増の公算」(7/1~3、読売新聞)
  • 「自公、改選過半数の勢い 立民伸び悩み、維新は伸長」(7/1~3、日経新聞)
  • 「野党がやや盛り返し『接戦区』増加」(7/2~3、毎日新聞)
  • 「接戦区で与党総力、野党間も激戦」(7/2~3、産経新聞)
  • 「自公、改選過半数の勢い維持 立憲、改選議席割る可能性」(7/4~5、朝日新聞)

報道各社が“ラストサンデー”の前後に行った終盤情勢の結果がこちら。読売と日経はかなり表現が近く、朝日では具体的に自民が56~65議席、公明が12~15議席、立憲民主党が12~20議席、日本維新の会が10~16議席と予想した。これが正しければ与党は68から80議席を獲得できることとなる。

毎日新聞は序盤に比べて、野党が少し盛り返してきているとみる。自民の獲得議席は56以上から53以上、公明党は13以上から10以上に減ったという。ただ、与党の数字を足し合わせると64から80議席で、読売の調査と変わりない。立民は11~24議席、維新は11~17議席で、こちらも大きく違いはない。

岸田首相が勝敗ラインに設定した「非改選を含めて与党で過半数」は、具体的には非改選を含めて125議席。与党の非改選議席数は最近、自民党に復党した橋本聖子氏を含めて70なので、今回の選挙で55議席獲得すれば届く。各社の調査を見る限り、軽くクリアしそうな情勢だ。
そこまでは与野党ともに織り込み済み。それよりも、実際にはより高いハードルである「改選議席で過半数」「改選議席の維持」が勝敗ラインとなる。改選議席で過半数は具体的に63議席、改選議席の維持は69議席。調査によれば前者は超えそうな勢いで、後者を超えるかどうかは微妙な情勢となっている。

選挙結果を左右するのが改選定数1の「1人区」。朝日新聞によれば全国に32ある1人区のうち、28選挙区で自民が野党系候補をリードしているという。毎日新聞によると自民が21選挙区で優勢だが、序盤と比べると福島、福井、宮崎が優勢から接戦に転じたという。産経新聞によると新潟では立民が優勢となり、長野は自民と立民が互角の戦いとなっている。

参院選の鍵を握る「1人区」 与野党一騎打ちは32分の11選挙区

2022.7.4

堅調な与党が警戒するのが“緩み”だ。自民党の山際大志郎経済再生担当相は7月3日に青森県で自民党候補の応援演説をした際「野党の人からくる話は、われわれ政府は何一つ聞かない。生活を良くしようと思うなら自民党、与党の政治家を議員にしなくてはならない」と発言。野党の反発を受け、翌日、松野博一官房長官は山際氏を注意した。一つの失言が選挙全体の流れを変えることも少なくないため、与党内には警戒感が広がっている。

注目の選挙区は東京、神奈川、京都、愛知

与党の獲得議席とともに、注目されているのが「改憲勢力」の行方だ。憲法改正に前向きな与党と維新、国民民主党の4党で改憲の発議に必要な参院の3分の2議席を維持することができるかどうか。具体的には今回の選挙で82議席を確保できればいいが、朝日の調査によると4党の予想獲得議席数は80~103。国民民主は2~7議席にとどまりそうだが、与党と維新の勢い次第では82議席を超える可能性がある。すでに衆院では3分の2を確保しているので、参院でも超えれば改憲議論が進む可能性が高まる。

3つ目の注目が野党の比例第一党だ。参院選の比例代表は全50議席で、前回の2019年では自民19、公明7で、野党は立民8、維新5、共産4という順だった。今回の参院選では維新が「比例で第一党」を目指しており、各社調査では維新が立民を上回る勢いだという。非改選議席数では立民が大きく上回るが、維新が地盤の大阪以外でも支持を広げ、比例第一党となれば今後の野党間の勢力図に変化をもたらす可能性がある。

個別の選挙区を見てみると、改選定数6の東京では、自民党が2議席を獲得する勢いで、立民と公明も安定しているという。残り2議席を共産、維新、れいわ新撰組、立民が争う展開で、特に維新の新人とれいわの山本太郎代表の戦いに注目が集まっている。

定数4に欠員補充1を加えて計5議席を争う神奈川では、自民2人と維新、公明が安定し、残り1議席を共産と立民の2人が争う展開。立民では共倒れを防ぐため、終盤戦では党幹部の応援を1人の候補に絞る方針だという。支持基盤である労働組合の票も1人に寄せる可能性がある。

定数2の京都では自民が抜け出し、立民と維新が横一線の戦い。立民の候補者は前幹事長の福山哲郎氏だが、同じ民主党出身である国民民主党の前原誠司代表代行が維新の新人を支援するという複雑な構図。立民にとっては泉健太代表の地元で落とせない戦いだが、維新にとっても大阪から周辺地域に支持を広げる好機。両党とも党を挙げての応援体制の行方に注目が集まる。

定数4の愛知では自民、立民、公明が優勢で、残り1議席を維新と国民民主が争う展開だ。製造業を中心に労働組合の強い愛知はこれまで「民主王国」と呼ばれ、定数が3だった時代も民主系が2議席を確保することが多かったが、最近では国民民主の支持が低迷。現職が議席を維持できるか微妙な情勢となっている。対する維新は河村たかし名古屋市長率いる「減税日本」との統一候補で、県内では初めてとなる参院での議席確保を目指す。

投開票まで残り数日。日本列島は「戻り梅雨」のような涼しい天候となっている地域もあるが、各党、各候補の戦いはますます熱を帯びそうだ。

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安倍晋三元首相、演説中に撃たれ死亡 歴代最長政権 https://seikeidenron.jp/articles/21167 https://seikeidenron.jp/articles/21167#comments Sat, 09 Jul 2022 12:09:58 +0000 https://seikeidenron.jp/?p=21167

安倍晋三元首相が7月8日、奈良市内で参院選候補の応援演説中に銃で撃たれて死亡する事件が起きた。午前11時半ごろ、近鉄大和西大寺駅前で演説中に銃撃され、心肺停止の状態で病院に緊急搬送されたが午後5時3分に死亡が確認された。奈良県警は発砲したとみられる元海上自衛官の男を現行犯逮捕。日本のみならず、世界に衝撃が走った。首相経験者が殺害されるのはもちろん、銃撃されるのも戦後初めて。参院選のさなかということもあり、多くの聴衆が見守る中での凶行だった。

華麗なる政治家一族の出自

安倍元首相は享年67歳。1954年に東京都で生まれた。父方の祖父は衆院議員を務めた安倍寛、母方の祖父は後の首相、岸信介。父の晋太郎は当時、毎日新聞の記者だったが、後に岸氏の外相秘書官、首相秘書官を経て衆院議員となった。岸氏の弟であり、安倍元首相にとって大叔父である佐藤栄作氏も後に首相に就いており、華麗なる政治家一族で育った。

成蹊大学法学部を卒業後はアメリカに留学し、1979年に帰国。神戸製鋼所に入社した。3年間働いた後、父の外相就任に伴って外相秘書官に就任。1991年に父・晋太郎が急死したことを受け、1993年の衆院選に父の地盤である山口1区から立候補し初当選した。安倍元首相は奇しくも父と同じ年齢で帰らぬ人となった。

初当選当時から政界のプリンスとして扱われたが、世間の注目を浴びだしたのは2000年に小泉政権で官房副長官に就任してからだ。官房副長官は衆参両院の国会議員1人ずつと、官僚出身者の計3人。特に政治家は首相の側近から選ばれることが多く、若手の登竜門とされる。安倍元首相は副長官時代の2002年に小泉首相の訪朝に同行。拉致被害者5人の一時帰国につなげるが、北朝鮮に帰国させるかどうかで政府内でも意見が分かれるなか、強行に反対して注目を集めた。

その後、2003年に小泉首相が女性スキャンダルの表面化した山崎拓幹事長を交代させる際、後任に安倍元首相をサプライズ指名。まだ閣僚も党の要職も経験していない安倍元首相の幹事長起用は異例で、大きな注目を集めた。首相に上り詰めたのはそれから3年後だ。

幹事長は1年で退任したが、後任となった武部勤幹事長の下で幹事長代理に就任。2005年には第三次小泉政権で官房長官に就任し、翌年に小泉の任期満了に伴って行われた自民党総裁選で麻生太郎氏、谷垣禎一氏を破って当選した。2006年9月26日、第90代内閣総理大臣に就任。当時52歳で、戦後最年少、初の戦後生まれの首相だった。

内閣総理大臣 安倍晋三「総理大臣は自分の理念に従って結果を出していかなければならない」

2013.11.11

内閣総理大臣 安倍晋三「重圧があるからいい決断ができる」

2014.1.10

第一次政権は試練、約1年で退陣

ただ、第一次政権は安倍元首相にとって試練の一年だったと言っていい。最初のつまずきは郵政造反組の復党問題。小泉時代の郵政解散問題を機に党を離れていた造反議員12名のうち、11名の復党を認めたところ支持率が急落。その後、閣僚のスキャンダルが相次いだ上に「年金記録問題」が浮上し、支持率はさらに低下した。2007年参院選で自民党は民主党に第一党を奪われ、与党としても過半数を下回った。

安倍元首相率いる与党が参院選で敗北したことにより、国会は衆院では与党が過半数を占めるものの、参院で野党が過半数を占めるという“ねじれ”状態に。それまでと違って法案を容易に通すことができなくなり、国会は混乱に陥った。

当時、国会で焦点となっていたのはアフガニスタンでの米軍の活動を後方支援するテロ対策特別措置法の延長問題。安倍元首相は参院選敗北への批判に加え、小沢一郎氏率いる民主党に振り回されて窮地に陥った。そんななか参院選から1カ月半が過ぎた9月12日、体調不良を理由に退陣を表明した。後に難病である「潰瘍性大腸炎」を患っていたことがわかった。

首相の座は福田康夫氏、麻生太郎氏に引き継がれたが、国会で主導権を握れないこともあり、自民党の支持が回復することはなかった。麻生氏が任期切れ直前に行った2009年の衆院解散総選挙で与党は敗北。民主党に政権を奪われる。

2012年の総裁選で奇跡の復活、そして歴代最長政権へ

自民党内では安倍元首相を非難する声は多く、そのまま政治家として終わるとの見方が多かったが、2012年の総裁選で奇跡の復活を果たす。所属する派閥内でも立候補すら止める声が多いなか、1回目の投票で石破茂氏に次ぐ票を獲得。決選投票では石破を上回る票を獲得し、総裁への返り咲きを果たした。保守系議員からの根強い支持があったことに加え、“反石破”票が安倍に流れたとみられる。それから2カ月半後の衆院総選挙で自民党は圧勝し、第二次安倍政権を発足させた。一度辞任した首相の再登板は戦後、初めてだ。

その後の活躍は知っての通り。大胆な金融緩和、機動的な財政出動、成長戦略の「3本の矢」を代表とする「アベノミクス」を打ち出し株価は大幅に上昇。安全保障関連法やIR法を成立させるなど、着実に政策を前進させた。在任時の国政選挙は連戦連勝。党内外にライバルらしいライバルもおらず“安倍1強”と称された。2019年には首相としての通算在職日数が桂太郎氏を抜いて歴代最長となり、2020年には連続在職日数が大叔父の佐藤栄作氏を抜いて歴代最長となった。

2020年8月、潰瘍性大腸炎の再発を理由に辞任を表明したが、その後の菅義偉政権、現在の岸田文雄政権でも党内最大派閥・清和会の会長として大きな影響力を発揮していた。特に保守系の政策については安倍元首相が陰で主導していたといっても過言ではない。

2022年7月10日の参院選後は憲法改正の議論が活発化される見通しだが、そうした議論の行方にも安倍元首相の死は大きく影響しそうだ。

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