政経電論 https://seikeidenron.jp 政経電論は、若い世代やビジネスパーソンに政治・経済・社会問題を発信するオピニオンメディア。ニュースの背景をわかりやすく伝えたり、時事用語の解説を通して、現代を生きる若者の行動を促すことを目指します。 Thu, 16 Mar 2023 06:17:49 +0000 ja hourly 1 対日関係改善を図る韓国・ユン政権、元徴用工問題解決策発表から見える3つの背景 https://seikeidenron.jp/articles/22149 https://seikeidenron.jp/articles/22149#respond Thu, 16 Mar 2023 06:17:49 +0000 https://seikeidenron.jp/?p=22149

第二次世界大戦中、日本の統治下にあった朝鮮で、日本企業に徴用されたとする韓国人とその遺族が起こした訴訟問題、いわゆる「元徴用工問題」。戦後、韓国の外交カードとしてたびたび切られてきたが、3月に韓国で発表された“問題解決策”は日本への歩み寄りを見せるものだった。なぜ、韓国はこれまでの反日外交から方針を変えつつあるのだろうか。

元徴用工訴訟問題の賠償金は韓国の財団が肩代わり

極東アジアをめぐる安全保障環境が厳しくなるなか、ここに来て韓国のユン政権が対日関係改善に本腰を入れ始めた。韓国の朴振(パク・チン)外相は、日韓摩擦で最大の懸案事項となっていた元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)の訴訟問題で3月上旬、日本の最高裁にあたる韓国大法院による判決で確定した日本企業による被害者への賠償を韓国の財団が肩代わりする解決策を発表。今後は日本企業が自主的に被害者へ賠償するかに注目が集まることになるが、元徴用工の問題では、韓国が対日関係の改善を向けて大きな一歩を踏み出したことは疑いの余地はない。では、なぜユン政権は対日関係改善を積極的に進めるのか。ここでは3つの背景を提示したい。

融和政策から脱却、緊張が増す南北関係

まず、対外的背景だ。日本と同じように、韓国を取り巻く安全保障環境も厳しさを増している。2022年5月にユン政権が誕生して以降、南北関係は一気に冷え込んだ。2022年、北朝鮮は計29回、55発の弾道ミサイルを発射するだけでなく、2023年2月には北朝鮮の偵察用ドローンが南北境界線を超え、首都ソウル近郊まで接近したと韓国軍が発表。緊張状態が続いている。

ユン政権は対北朝鮮で日米韓3か国の連携を重視しており、前政権のムン政権の融和政策から脱却。米韓合同軍事演習などを通して北朝鮮をけん制している。2月22日にも、米韓は北朝鮮による核兵器使用を想定した合同の机上演習「拡大抑止手段運営演習(TTX)」をアメリカで実施し、3月13日から23日にかけても大規模な合同軍事演習が予定されている。北朝鮮は3月7日、今後アメリカが北朝鮮の発射した弾頭ミサイルなどを撃墜した場合、それを北朝鮮に対する明白な宣戦布告になるとする声明を発表。韓国にとって、日本との関係改善は対北朝鮮でも重要になっている。

冷え込む中国との関係を見据えてクアッドやNATOに接近

そして、日本との関係改善は中韓関係も影響している。中国にとって、韓国が対北朝鮮で日米と結束を図ることはその直接の矛先が自らではないので、ある程度我慢できるかも知れないが、韓国が日本・アメリカ、オーストラリア・インドによるクアッド(Quad)やNATO(北大西洋条約機構)に接近しようとする動きは許容できないからだ。

中国は、自由で開かれたインド太平洋の実現を目指すクアッド、アメリカ主導のハブ・アンド・スポーク(Hub-and- Spokes)型の安全保障体制に接近しようとするNATOの動きに強い懸念を抱いており、2022年夏にユン・ソクヨル大統領がNATO首脳会合に参加したことも良く思っていない。しかし、ユン大統領はクアッドにも強い関心を抱いているとみられる。ユン政権は冷え込む中韓関係を見据え、安全保障と経済の両面で日本との結束を強化したい思惑がみてとれる。一方、韓国にとっても中国は最大の貿易相手国であり今後、岸田政権のように、経済と安全保障の狭間で難しい対中外交を余儀なくされる可能性が考えられよう。

「日本に好感」無視できない若い世代の声

さらに、国内的背景も考えられる。徴用工問題では韓国側が大きく妥協する形になったことで、早速国内では野党を中心に反発の声が強まっている。これをきっかけに今後ユン政権の支持率が降下する可能性もあろう。

ユン政権もそれを覚悟の上で、韓国の国益を総合的に考えて今回の決定に至っただろうが、ここでポイントになるのは若い世代の声だ。公益財団法人「新聞通信調査会」が2月半ばに公表した韓国での世論調査(2022年11~12月に実施)によると、日本に対し「好感が持てる」と答えた人の割合が前回実施された調査から8.7%増加の39.9%となった。これは2015年の調査開始以降で最高記録となる。特に若い世代を中心に対日感情は良く、その理由は文化や社会などソフトパワーの影響が強いためと考えられる。

コロナ禍が終焉に向かうなか、日本を訪れる韓国人も若い世代を中心に回復傾向にあり、韓国全世代に占める若年世代のシェアは今後大きくなる。ユン政権は未来志向の日韓関係を掲げているが、こういった韓国市民の対日認識の変化も考慮し、今回の決断に至った可能性もある。元徴用工の問題で日本に歩み寄る姿勢を見せても、それほど批判を受けないという計算もあったのかもしれない。

改善されつつも予断を許さない日韓関係

では、日本は今回の発表をどう受け止めるべきか。岸田文雄首相も以前、日韓関係の改善は待ったなしとの見解を示したように、経済や安全保障を取り巻く環境を戦略的に考えれば、日本にとっても韓国はパートナーでなければならないだろう。岸田政権がユン政権の韓国と結束を強化する以外に選択肢はない。

しかし、日韓関係は中国や北朝鮮とは異なる特有のリスクもある。韓国大統領は1期5年であり、“ポストユン”の韓国の姿は今日ではわからない。ムン・ジェイン政権の路線を継承する政権が誕生する可能性もあり、そうなればユン政権下で改善した日韓関係が再び冷え込む可能性もある。また、今後のユン政権の支持率次第では、ユン政権の対日姿勢に変化が生じる可能性は排除できない。日本としてはこういった可能性も考慮し、冷静にかつ戦略的に日韓関係の改善を図る必要もあろう。

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日銀新総裁に植田和男氏起用の舞台裏 なぜ雨宮氏は固辞したのか https://seikeidenron.jp/articles/22105 https://seikeidenron.jp/articles/22105#respond Sat, 25 Feb 2023 08:00:39 +0000 https://seikeidenron.jp/?p=22105

「日銀新総裁 大山鳴動して安全パイの経済学者に落ち着く」――。岸田政権が決めた日銀の新体制はこう表現できるような布陣となった。舞台裏ではポスト黒田の金融政策をめぐる政府と与党幹部の駆け引き、財務省と日銀の暗闘、日銀OBによる圧力など数々の力学は働いていた。

NHK会長人事の轍を踏みたくなかった岸田政権

政府は4月8日に任期を満了する日銀の黒田東彦総裁の後任人事案を、2月14日に国会に提示した。日銀人事案については当初、10日にも国会に提出される見通しだったが、「荒井秘書官の問題もあり、LGBT法案と日銀人事が重なるということで、LGBT法案の目途を待ってということになっている」(与党関係者)ということだった。いずれも自民党安倍派(リフレ派)の了承が鍵を握るという点で重なるためだ。

また、岸田文雄首相は直近のNHK会長人事で、本命視されていた候補者に電話を入れて断られた経緯があることから、日銀総裁人事については同じ轍を踏まないよう事務方は慎重の上にも慎重にことを運んでいるとされる。

そうしたなか、日本経済新聞が2月10日の電子版で次期日銀総裁、経済学者の植田和男元審議委員起用へと報じた。日経は6日の夕刊、7日朝刊で次期総裁は雨宮正佳副総裁の昇格の方向で調整していると報じていただけに迷走の感が強い。「雨宮氏は2022年末以降、就任を固辞する発言をしていたが、やはり難しかったのか」(メガバンク幹部)と、金融界では驚きをもって受け止められている。

一方、総裁人事と同時に提示される2人の副総裁人事については、前金融庁長官の氷見野良三氏と日銀プロパー理事の内田真一氏が就くことが決まった。総裁、副総裁との事前の予想を覆すサプライズ人事だった。

植田日銀総裁は消去法 雨宮氏は家庭の問題で固辞

当初、本命視された雨宮副総裁については、2月6~7日に日経が雨宮氏に打診と報道していた。にもかかわらず、岸田総理側近の木原誠二官房副長官は「事実ではない」と否定し、岸田首相も「観測気球でしょう」と素気ない反応で終始していた。そして蓋をあけてみれば植田氏の起用。日経も11日付けで「総裁に植田氏、雨宮氏は就任辞退」と報じ、「政府が本命視していた雨宮氏が、今後の金融政策には新しい視点が必要だと固辞した」と、中面で解説した。

だが、読売新聞は11日朝刊解説で「人選は首相、側近の木原官房副長官らが水面下で検討を重ねた。その結果、1月下旬で植田氏の起用が固まった」と報じている。雨宮打診は、読売新聞が報じたように植田起用がほぼ固まった時点でもなお続けられていたのだろうか。実は、雨宮氏が総裁就任を固辞したのは「家庭の事情がある」と日銀関係者は語る。

雨宮氏が「家庭の事情」で昇格を固辞したのは今回がはじめてではない。2012年5月に、本来であれば上がりポストの大阪支店長に就いた時もそうだった。将来の総裁候補の大阪支店長就任という異例の人事に、「当時、ポスト白川方明総裁をめぐる政治の圧力もあり、日銀内部では伝統的な金融政策を重視する派とそううでない派とが反目していた。この混乱に巻き込まれ将来の総裁候補の雨宮氏が失脚してはならないと、大阪支店に一時疎開させた。企画畑一筋の雨宮氏は家庭の事情もあり地方の支店長を経験していなかったので大阪行きもいいのではないかとなった」(日銀関係者)と言われた。一年後、雨宮氏は反目していた白川総裁が退任し、黒田総裁に交代したのに合わせ大阪支店から本店に呼び戻され、再び企画担当理事に復帰したのだが、雨宮氏には常に「家庭の事情」が付きまとっていた。

また、日銀では総裁経験者で有力OBとしていまなお日銀人事に影響力を持つ福井俊彦氏や白川方明氏が雨宮氏に対して批判的であったことも、経済学者で金融政策にバランス感のある植田氏起用に傾いた可能性も指摘される。黒田氏の暴走をとめられなかったというのが雨宮批判の理由だ。日銀生え居抜きの有力OBにとって、異次元緩和の名の下に、野放図に国債を買い続けることは、財政ファンナンスともとられかねないまさに禁じ手だった。

植田総裁起用で固まるまで、次期総裁候補には、雨宮氏ほか元日銀副総裁の山口広秀氏や中曽宏氏、さらに民間から三菱UFJ銀行特別顧問の平野信行氏の名前などが上がっていた。いずれも論客で、金融界のみならず国際的な人脈に優れ、次期総裁に就く可能性はあった。平野氏については、かつて三菱銀行の頭取から1964年に日銀総裁に就いた宇佐美洵氏とオーバーラップしていた。異次元緩和の出口戦略で最も重要視されるのは民間金融機関との対話である。その点、平野氏は最適な人材と言えた。

副総裁には若手文人派が起用

一方、2人の副総裁人事については、「財務省がポストを確保できるのかが焦点」(市場関係者)と見られていた。まず、「多様性に配慮した新しい社会と経済の実現」を掲げる岸田首相に相応しく女性の起用が予想された。候補には、日本総研理事長の翁百合氏か、日銀の各役職で“女性初”のレコードを築いてきた国際派の清水季子理事の起用が有力視された。そして、焦点となるもう一つの副総裁枠は財務省がとり、元財務省次官で、現日本たばこ産業副会長の岡本薫明氏が最有力とみられたほか、元財務省次官で日本政策金融公庫の田中一穂総裁や、同じく元財務次官で日本政策投資銀行会長の木下康司氏の起用が取り沙汰された。

しかし、これらの予想に反して、前金融庁長官の氷見野氏と日銀生え抜きの内田氏という若手文人派の起用で決着した。

氷見野氏は富山県出身、東大法卒で1983年に旧大蔵省(現財務省)入省、金融行政を中心に歩みバーゼル銀行監督委員会事務局長、証券課長、銀行一課長、総務企画局・監督局各審議官を経て、2016年に金融国際審議官に就いた国際派。「3年間に及んだバーゼル事務局長時代には金融危機に備え銀行の自己資本を積み増すバーゼル2の策定に関与、各国の利害が絡む難しい案件だったが調整役として見事にまとめ上げた。この時に培った欧米金融当局者とのパイプが最大の強みだ」(金融庁関係者)という。また、主要国の金融当局でつくる金融安定理事会(FSB)の常設員会議長に日本人で初めて就任した。

氷見野氏は早くから将来の金融庁長官候補と目されたが、2016年に金融国際審議官に就いたことで、一時は“ここどまり”と見られた時期もあった。金融国際審議官は財務省の財務官に相当する、国際畑の最上級ポストのためだ。「19年開催のG20東京サミットの運営責任者の一人として白羽の矢が当たったものだが、これを花道に退任説も囁かれた」(同)。また、遠藤長官と年次が1年しか違わないことや「前長官の森信親氏と近く、遠藤長官が後継指名するかわからない」(メガバンク幹部)という見方もあった。

氷見野氏は、官僚には珍しい一山メガネがトレードマークで、「毎夜、就寝前に海外の古典を原文で朗読することが日課で、50代から中国語の勉強も始め、いま中国語アプリにはまっている。古典は仕事のビタミン剤と語るほどの文化人だ」(金融庁関係者)という。フランスの彫刻家「マイヨール」の伝記や、中国の易経をソポクレスに当てはめた「易経入門 孔子がギリシア悲劇を読んだら」などの書籍も上梓している。こうした文化人的な面も岸田首相、木原官房副長官の歓心を買ったのか。氷見野氏は金融庁長官経験者とはいえ、もともとは財務省入省組。氷見野氏起用に財務省が意を唱えることはないだろう。

一方、内田氏の副総裁起用に、日銀内部は胸をなで下ろしている。内田氏は1986年東大法卒で、日銀入行。新潟支店長などを経て2012年に企画局長、17年に名古屋支店長、18年から理事に就いている。「日銀最年少の40代で企画局長に就くなど、日銀のスーパーエリート」(日銀関係者)と言われる。雨宮副総裁の下、黒田総裁が進めた量的・質的金融緩和を事務方で支えた「政策参謀」で理路整然とした語り口から能吏と見られている。副総裁に残ることで5年後の総裁人事に日銀プロパー総裁誕生の芽は残る。

海外の金融マフィアとの人脈も厚い植田氏

そして植田氏は1998年4月から審議委員として7年間にわたり日銀の政策に携わってきた。総裁起用はノーマークだったという点でサプライズだが、マサチューセッツ工科大学(MIT)留学時代を通じて、海外の金融マフィアとの人脈も厚い。MIT博士論文の指導教官は、中央銀行の理論的支柱とされる元FRB(米連邦準備理事会)副議長のスタンレー・フィッシャー氏で、ベン・バーナンキ元FRB議長や元ECB(欧州中央銀行)総裁のドラギは同じフィッシャー氏の教え子だ。まさに総裁候補のダークホースであったわけで、「植田総裁という奥の手があったか」(与党幹部)と人選の妙に唸る関係者は少なくない。

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開戦から1年、ウクライナ戦争と日本企業 政治と経済のジレンマ https://seikeidenron.jp/articles/22125 https://seikeidenron.jp/articles/22125#respond Sat, 25 Feb 2023 07:00:32 +0000 https://seikeidenron.jp/?p=22125

ロシアによるウクライナ侵攻から1年が経過した。2月20日、アメリカのバイデン大統領が事前予告なしに、ポーランドから陸路でウクライナ入りし、10時間の電車移動で首都キーウに到着、ゼレンスキー大統領と軍事的支援などウクライナへの支援継続で一致した。その直後にはポーランドのワルシャワで演説を行いウクライナへの支援を続ける姿勢を強調。一方、プーチン大統領も2月23日、国民向けの演説の中で侵攻の正当性を強調し、戦闘を継続する決意を改めて示した。これまでの情報を整理すると、今後3月の春あたりから双方の間で戦闘が激化することが予想される。戦争終結に向けた動きは現時点で何も見えていない。

日本企業、脱ロシアの一方で継続も

ウクライナ侵攻によって、ロシアに進出する日本企業の間では脱ロシアの動きが拡大している。JETROが1月下旬にロシアに拠点を置く日本企業198社(99社から回答)を対象に行った調査結果によると、「撤退した・撤退を決めた」と回答した企業が4%、「全面的に停止」が17.2%、「一部停止」が43.4%、「通常どおり」が35.4%となった。また、侵攻から半年あまりが経過した昨年8月の調査と比べ、「全面的に停止」と「一部停止」をあわせた回答は11ポイントも上昇し、6割を超えた。また、帝国データバンクによる調査では、ロシア事業からの撤退を決めたのは進出企業全体の約16%で、先進7カ国(G7)中2番目の低水準となったという。

具体的な動きでは、例えば、日立製作所の子会社である日立エネジーは1月末、ロシアで展開してきた事業を売却したことを明らかにし、大手自動車メーカーのマツダも2022年秋、展開事業を現地の合弁会社や自動車研究機関に売却した。ロシアで約2000人の従業員を抱えるガラス大手AGCも2月上旬、国際情勢を考えると運営する意義がなくなったと判断し、今後ロシア事業の譲渡の検討を始めたと発表した。他の大手企業では、トヨタが現地での生産停止、JALやANAがロシア便の運行停止、ユニクロを展開するファーストリテイリングはロシア国内の全店舗で営業を停止(一部は閉店)している。

反対に、日本たばこ産業は、原材料も十分に調達可能で従業員4千人以上を抱えているなどとし事業継続の方針を明らかにし、大手商社の伊藤忠商事や丸紅、三井物産や三菱商事はサハリン1、サハリン2で事業を継続し、商船三井や日本郵船もロシアからのLNG輸送を続けている。NTTグループやKDDIも国際通信などの一部でサービスを継続している。

経営戦略のなかで地政学リスクをどう考えるか

このような状況から、どのようなことが言えるだろうか。まず、国家間戦争という最悪の政治的暴力が生じても、企業にとってこれまで築いてきたビジネスから撤退することは簡単ではなく、企業によって事情が大きく異なることだ。上述のように、ロシアからの撤退を表明した企業は全体では16%に留まる。一般的な感覚ではもっと多くの日本企業が撤退しているように思うが、企業によって事情は大きく異なる。

例えば、産経新聞の記事(2月20日、「ウクライナ侵略1年 悩ましい日本企業のロシア撤退 雇用責任、対中国で懸念」)によると、事業継続を発表した日本たばこ産業の総売上の2割超がロシアである一方、ガラス大手AGCは2%あまりとされるが、企業によってロシア依存度は大きく異なり、撤退の意味も大きく違ってくる。また、脱ロシアと同時に第三国シフトを展開しやすい企業、業種もあれば、それ無しには経営が滞る企業もある。企業にとって経営戦略のなかでどう地政学リスクを位置づけるかは、極めて悩ましい問題と言えよう。

また、国益、公共性という事情から、脱ロシアと第三国シフトを図りたくてもできない、リスクを承知でお金を費やさなければならない企業もみられる。サハリン1やサハリン2への出資を継続する大手商社にはそういった本音があるかも知れない。日本は輸入する液化天然ガスLNGの9%近くをロシアに依存しており、それを失うと逼迫する日本のエネルギー事情に大きな影響が出る。日露関係が悪化するなかでも、この件については日本政府も出資継続の姿勢を維持しており、ここに政治と経済の大きなジレンマがある。

2023年の侵攻直後から、日本企業の脱ロシアの動きが激しくなったが、しばらくするとその動きは落ち着く傾向になった。侵攻直後は大きな動揺が走ったが、“ウクライナ侵攻”“戦闘中”という状態が続くようになり、企業の間ではしばらく様子を窺う動きが出始めた。侵攻は始まったばかりであり、短期間のうちに収まるかもしれないという認識もあったことだろう。

しかし、2022年9月、軍事的劣勢に立つプーチン大統領が予備役の部分的動員を発表し、ウクライナ東部南部4州のロシアへの一方的併合を発表したあたりから、戦争の長期化は避けられないという認識が徐々に広まっていった。それによって、企業の間でも撤退や事業停止など脱ロシアの動きが再び加速化していったと考えられる。

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半導体の対中輸出規制と安全保障 https://seikeidenron.jp/articles/22121 https://seikeidenron.jp/articles/22121#respond Fri, 24 Feb 2023 07:00:15 +0000 https://seikeidenron.jp/?p=22121 日本は「Yes」と答えるほかなかった

米中対立が続くなか、昨今半導体をめぐって米中の間で火花が散っている。中国商務省は2月22日、日本が2国間の経済・通商協力を守ることを望むとし、日本がバイデン米政権主導の対中半導体輸出規制に参加することに強い懸念を抱いていると発表した。

バイデン大統領は2022年10月、AI半導体や3D半導体などの先端・次世代半導体の開発・製造に欠かせない技術や部品が中国に流出するのを防ぐため、対中輸出規制を強化する方針を明らかにした。アメリカは、ハイテク兵器の製造に必要な先端半導体を中国が独自で開発・大量生産し、軍の近代化を押し進めることを強く警戒している。

しかし、アメリカのみの規制では中国への技術流出を抑え込めない可能性があることから、バイデン大統領は2023年1月、先端半導体に必要な製造装置で世界シェアを持つ日本とオランダに対し、同規制に加わるよう事実上の圧力を掛けた。1月に岸田文雄首相とオランダのマルク・ルッテ首相がホワイトハウスをそれぞれ訪問した際、バイデン大統領はその際協力を求めたとみられる。

だが、この問題で日本は「Yes」というしか選択肢はなかった。なぜならこれは、外見上は経済・貿易の問題だが、その核心は安全保障にあるからだ。

中国の習近平国家主席は長年、軍民融合を押し進める方針を強調してきた。軍民融合とは文字通り民と軍の壁を取っ払うということで、具体的には、平時からの民間資源の軍事利用、軍事技術の民間転用などを推進することを指す。そして、軍民融合を押し進める中国にとって、ハイテク兵器の製造の核心となる先端半導体はどうしても欠かせないものだ。

仮に、先端半導体に必要な製造装置や技術が中国に流出し、中国が独自で開発・大量生産できるようになれば、人民解放軍のハイテク化が進み、中国の海洋覇権に直面する日本の安全保障にとって大きな脅威となる。日本企業が作った半導体製造装置が中国に輸出され大きな利益が生まれる一方、それがいつの日か日本の安全保障を脅かすことになるならば、今回の要請について日本の選択肢は一つしかなかったと言えよう。実質国防をアメリカに依存する日本であれば、安全保障上大きな問題に対してアメリカに異議を唱えることは難しい。

安全保障の懸念は中国製プロダクトや土地にも

一方、今回の問題からわれわれは何を考えるべきだろうか。それは、上述したように軍民融合とその多様化である。当然ながら、軍民融合が利用されるケースは先端半導体に限定されない。最近、偵察用気球をめぐって米中間で非難の応酬が繰り広げられたが、これもその一つと言えよう。

また、2月、オーストラリア政府は安全保障上の理由から、政府・行政機関に設置されている中国製監視用カメラを全て撤去する方針を明らかにした。撤去される監視用カメラは、中国の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン・デジタル・テクノロジー)と浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)の製造した監視カメラ900台あまりになる。アメリカとイギリスも2022年11月、中国製の監視用カメラの設置を禁止する方針を発表したが、欧米諸国には中国製カメラが軍事利用され、軍事や安全保障に関わる情報が漏れることへの警戒がある。

また、最近は沖縄本島北部沖にある無人島・屋那覇島を中国人女性が購入したとするニュースが流れ大きな話題となったが、その用途はわからないものの、日本は国内に広がる土地、無人島と安全保障の関係をこれまで以上に考える必要がある。

日本では2021年6月に重要土地等調査法が施行され、安全保障の関連から重要な施設の周辺1キロを「注視区域」に、自衛隊基地や国境離島など特に重要とされる区域を「特別注視区域」に設定し、必要に応じて国が不動産所有者の国籍や用途を調査できるようになった。しかし、重要土地等調査法では注視区域や特別注視区域に該当しない無人島は規制の対象外となっている。台湾有事、そして太平洋への進出を目指す中国にとって、南西諸島に散らばる無人島の利用価値は低くない。こういった問題でも軍民融合が利用される可能性が十分にある。

アメリカからの圧力は多様化してくる

そして、軍民融合と関連することだが、米中対立の高まり、長期化によって、アメリカの日本への要請圧力が高まる可能性がある。今回は半導体関連で事実上の圧力が掛かったわけだが、今後は日本国内で流通する中国製品、また民間の土地などで規制を強化するよう求める声が強まるかも知れない。

近年は台湾問題をめぐってアメリカの必死さも顕著になっているように感じる。米議会でも対中警戒論は党派を超えて広がり、台湾は民主主義と専制主義の対立の最前線の様相を呈してきている。言い換えれば、台湾自身がアメリカの国家安全保障問題となっており、それに関連する問題でアメリカはよりいっそう同盟国や友好国に協力を求めてくるだろう。この観点で言えば、多様化する軍民融合でアメリカの日本への圧力も多様化してくる可能性を検討するべきだろう。

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統一地方選にらみ? 与野党が“異次元”の少子化対策合戦 https://seikeidenron.jp/articles/22117 https://seikeidenron.jp/articles/22117#respond Tue, 21 Feb 2023 04:00:37 +0000 https://seikeidenron.jp/?p=22117

岸田文雄首相が年明けの記者会見で表明した「異次元の少子化対策」の議論が熱を帯びてきた。与野党はこぞって児童手当の所得制限撤廃を主張。対象年齢の引き上げや第2子以降への増額案なども取り沙汰されている。ただ、4月の統一地方選に向けた“有権者受け”狙いの側面も強く、財源をどうするかなどの課題は置き去りにされたままだ。

出生率は80万人を割り込む

「次元が異なる子ども、子育て政策を進め、日本の少子化トレンドを何とか反転させたい」。岸田首相は2月20日に開いた「子ども政策の強化に関する関係府相会議」でこう意気込んだ。

背景にあるのはコロナ禍でさらに加速した出生率の低下だ。人口に対して生まれた子どもの数を表す合計特殊出生率はここ十数年、1.3~1.4%台で推移してきたが、2021年は1.30%に低下。1年間の出生者数は81.1万人で過去最低を更新し、2022年はさらに80万人を割り込み77万人台になる見通し。出生率は同じく少子化に悩む韓国やシンガポールを上回るものの、フランス(1.83%)、アメリカ(1.71%)、イギリス(1.68%)など欧米各国と比べると大きく見劣りする。

少子化は経済成長率を引き下げるほか、年金や医療などの社会保障制度の根幹を揺るがす大きな問題。新型コロナウイルス対策などの陰に隠れてここ数年はあまり注目されていなかったが、岸田首相が唐突に「異次元の少子化対策」を打ち出して一気に政界の注目の的となった。その中核となるのが児童手当の拡充である。

所得制限に議論 児童手当制度の変遷

そもそもさかのぼると子育て資金の支援を打ち出したのは民主党政権だ。政権を奪取した2009年の衆院選マニフェスト(政権公約)に所得制限のない月額2万6000円の「子ども手当」支給を明記。しかし、野党だった自民党から「バラマキ」との批判を受け、財源も確保できなかったことから満額支給を断念。いったんは月1万3000円に縮小して支給したが、東日本大震災が起きると子ども手当の継続を断念して元の児童手当に戻した。その際、自民党などの主張に沿って所得制限が盛り込まれた。

現在の児童手当は3歳未満が一律で月1万5000円、3歳以上で小学生までは第1子・第2子が1万円、第3子以降が1万5000円、中学生が一律1万円。所得制限は家族構成によって異なるが、夫婦と子ども2人の場合、世帯主年収が960万円で月5000円に減額し、2022年10月からは1200万円を超えると5000円の特例給付すら不支給となった。欧米諸国などではすべての子に支給している例が多く「親の年収で子どもを差別すべきではない」との批判が根強くあった。

元は自民党が主張して導入された所得制限だったが、自民党の茂木敏充幹事長は「反省する」と謝罪。「時代の変化に応じて必要の政策の見直しを躊躇なく行う」と弁明し、所得制限の撤廃を打ち出した。自民党内には多子世帯への支援強化に向けて第2子は3万円、第3子以降は6万円に増額すべきだとの声もある。

自民党と連立を組む公明党も統一地方選の重点政策に「所得制限の撤廃」と「18歳までの対象拡大」を明記。国民民主党は1月31日に子どもに関する公的給付の所得宣言撤廃を盛り込んだ法案を参院に提出し、立憲民主党と日本維新の会も2月20日に所得制限の撤廃を盛り込んだ児童手当法改正案を衆院に共同提出した。まるで手柄の争奪戦といった様相だ。

実際に所得制限を撤廃すると追加の経費は年1500億円程度とみられ、財源のねん出は難しくない。しかし、18歳まで引き上げると4000億円程度、第2子以降の支給額を増額すると数兆円規模の財源が必要になるというが、政府・与党内から財源をどう確保するかといった具体策は聞こえない。

政府の中でも「規模ありき」

岸田首相は2月15日の衆院予算委員会で「家族関係社会支出は2020年度でGDP比2%を実現した。さらに倍増しよう」と明言。宣言通りだと新たに数兆円の財源が必要になるが、松野博一官房長官は17日の予算員会で「どこをベースとして倍増するかはまだ検討中」と軌道修正した。政府の中でも「規模ありき」の議論が先行していることの証拠だ。財源の裏付けがないまま支給規模の議論ばかりが先行すれば民主党政権のように掛け声倒れになりかねない。防衛費増額なども取り沙汰されるなか、どういう予算を削ったり、国民の負担を増やしたりして、その税源を何に充てるのか。丁寧な議論と国民への説明が必要だ。

少子化対策の中身として経済的支援の強化ばかりに議論が集中していることにも懸念の声がある。岸田首相が打ち出している少子化対策の柱は、

  1. 児童手当などの経済的支援強化
  2. 保育士の処遇改善や産前・産後のケアなど、幼児教育や保育のサービス拡充
  3. 働き方改革の推進

――の3つだが、経済的支援強化以外の具体論は見えてこない。ほかにも未婚化の問題にもっと取り組むべきだとの声もある。

少子化対策の強化自体に異論はない。ただ、選挙を前に有権者受けを狙った“バラマキ”ばかりが政治家によって流布され、裏づけとなる財源の議論がおろそかになったり、費用対効果の算定が甘くなったりすれば、結局は少子化は解消せず、国民負担が増すだけの結果になりかねない。

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地銀は1県1行に集約される 地銀再編が本番入り https://seikeidenron.jp/articles/22110 https://seikeidenron.jp/articles/22110#respond Thu, 16 Feb 2023 07:00:13 +0000 https://seikeidenron.jp/?p=22110

コロナ禍の経済対策として実施した無担保無保証融資(ゼロゼロ融資)の返済は2023年から本格化。大手信用情報機関の調査によれば、実質破綻状態でありながら事業を続ける、いわゆる“ゾンビ企業”は2022年3月末時点で約18万8000社にのぼると見られている。これら企業の多くはゼロゼロ融資を受けており、その返済は困難を伴う。さらに、欧米の金利上昇に伴い外債投資に多額の評価損が生じている地銀が少なくないほか、日銀による長期金利上場幅の拡大に伴い国債等の評価損益の悪化も懸念されている。令和の地銀再編はどうなるか。

地銀に残された時間は限られている

横浜銀行が2月6日から神奈川銀行にTOB(株式公開買い付け)を行っており、子会社化することが決まった。両行は歴史的にも関係が深く、統合は時間の問題だった。横浜銀行は神奈川銀行に7.76%出資する大株主であり、「神奈川銀行の現在頭取の近藤和明氏は生え抜きですが、それまで長年、横浜銀行出身者が頭取に就く、天下りポストでした」(地銀幹部)と人的関係も深い。

神奈川銀行はもともと横浜銀行の協力でできた相互銀行が前身で、横浜銀行は10年ほど前にも買収を検討した経緯がある。しかし、この時は「資産査定を行った結果、神奈川銀行の不良債権を懸念して断念した」(金融庁関係者)という。

その横浜銀行を再編に駆り立てたのは金融庁の暗黙の圧力だった。「神奈川県の将来の市場規模からみて一行体制でも採算が確保できない恐れがある」(同)という圧力だ。特にコロナ禍に乱発した無担保無保証融資(いわゆるゼロゼロ融資)の返済が2023年から本格化する。横浜銀行でも「当行の貸出先のおよそ半数で返済が始まっている」(片岡達也頭取)という。コロナ禍後の地域経済を支えなければならない地銀がグラついては元も子もないというのが金融庁の問題意識だ。

また、アメリカの利上げや日銀の政策転換による金利上昇から有価証券投資の巨額な評価損が顕在化しつつある地銀も少なくない。残された時間は限られている。1月中旬に全国地方銀行協会で開かれた金融庁幹部と地銀トップとの会合で、金融庁幹部は「これまで以上に時間軸を意識して、必要な改革を着実に進めていただきたい」と、事実上の最後通牒を発している。

加速する「1県1行体制」

金融庁が念頭に置くのは、「1県1行体制」で盤石の地域金融を築くことにある。同体制は昭和前期の大蔵省の施策で「戦時統合」とも呼ばれる。国債消化と戦争遂行のために資金を集中投下することを目的に、同一県内の中小銀行を強制的に大手銀行に集約していった。現在の政治・経済情勢と酷似しているとの指摘もある。

「1県1行体制」の動きはすでに各地で起こっている。2021年1月に新潟県の第四銀行と北越銀行が合併して「第四北越銀行」となったのを皮切りに、同年5月には三重銀行と第三銀行が合併して三十三銀行が誕生した。さらに同年10月には福井銀行が同じ福井県内の福邦銀行を子会社化している。

この流れは2022年に入りさらに加速した。22年4月に青森銀行とみちのく銀行が経営統合を行い、共同持ち株会社のプロクレアホールディングスを設立した。両行は25年1月を目途に合併し、「青森みちのく銀行」となる予定だ。

さらに2022年9月に八十二銀行と長野銀行が経営統合を発表、23年6月に八十二銀行が長野銀行を完全子会社化し、25年を目途に合併する計画だ。また、22年10月には愛知銀行と中京銀行が統合し、持ち株会社「あいちフィナンシャルグループ」を設立、24年10月に合併する予定となっている。さらに22年11月には地銀グループ最大手のふくおかフィナンシャルグループが、同じ福岡県内の福岡中央銀行を完全子会社化すると発表した。そして、冒頭の横浜銀行による神奈川銀行の完全子会社化と続く。

「横浜銀行は東日本銀行と持株会社形式で経営統合し、コンコルディア・フィナンシャルグループを形成しており、そこに神奈川銀行が吸収されるものだが、同じ地銀グループでトップの座を競うふくおかフィナンシャルグループによる福岡中央銀行取り込みに刺激されたことは間違いない」(地銀幹部)と見られている。

次は人口減少の著しい東北地域の再編が進む?

これら一連の同一県内での統合の背後にいるのはいうまでもなく金融庁だ。金融庁は各県で「第一地銀と第二地銀を統合させる」というシナリオで動いている。そのシナリオの原点は2018年に金融庁の有識者会議がまとめたレポート「地域金融の課題と競争のあり方」に集約されている。このレポートでは、人口減少などにより1行単独でも地銀が生き残れない都道府県が23に上り、1行であればどうにか存続できる都道府県が13になると指摘されている。「全国どこでも地銀の再編が起こってもおかしくありませんが、とりわけこのレポートで指摘された都道府県は金融庁から名指しされたようなもので、お尻に火がついた状態になっています」(地銀幹部)という。

特に同一県内に複数の地銀がひしめく地域はまさにホットスポットだ。例えば、静岡県には静岡銀行はじめ、スルガ銀行、清水銀行、静岡中央銀行の4行がひしめく。また、福岡県も福岡銀行が福岡中央銀行を子会社化することを決めたが、なお西日本シティ銀行、北九州銀行、筑邦銀行の4行・グループがしのぎを削っている。

ただ、静岡県は東西に長く、しかも歴史的な背景もあり、地域ごとに棲み分けができているとの見方もある。また、福岡県も経済規模からみて4行グループが存続できる市場があり、かつ、取引者の規模に応じた棲み分けがみられる。同様に千葉銀行、千葉興業銀行、京葉銀行と県内に3行を擁する千葉県、きらぼし銀行、東日本銀行、東京スター銀行の3行がある東京都。北陸銀行、富山銀行、富山第一銀行の3行が併存する富山県なども存続は可能か。

そうしたなか、次の再編の目玉とみられているのは、人口減少の著しい東北地域ではないかというのが地銀関係者の共通した見立てだ。先に青森銀行とみちのく銀行が経営統合を決断したように、東北地域で3行が併存する岩手県(岩手銀行、東北銀行、北日本銀行)、山形県(山形銀行、荘内銀行、きらやか銀行)、福島県(東邦銀行、福島銀行、大東銀行)などが焦点と見られている。「金融庁が2018年にまとめたレポートでは、宮城県を除く5県が、1行単独でも生き残れない県、あるいは1行単独なら存続可能な県に分類されている。再編は待ったなしだ」(銀行アナリスト)とされる。

金融庁は再編を促すアメも複数用意

金融庁がこうした厳しいレポートで半ば地銀を追い詰めるのは、地銀経営そのものに問題があるというわけではない。むしろ「経営統合で地域の金融システムが安定化し、地域経済に十分な資金が供給できるよう環境整備を図る」ことに目的がある。このため再編を促すため各種のアメも用意している。

再編や経営改革に取組む地銀に対して日銀を通じて当座預金の金利を年0.1%上乗せするのはその筆頭だが、その期限は2023年3月末まで。また、同一県内の地銀が統合して寡占状態になっても認可する独占禁止法の特例法や再編地銀に公的資金を注入する枠組みも用意している。

さらに地銀関係者が声を潜めて指摘するのは、「金融庁はシステムのクラウド化という妙技もくり出している」というのだ。経営統合で最大の問題となるのはシステム統合だが、そのネックを解消するため地銀のシステムをNTTデータのクラウドに誘導しているのだ。

「広島銀行が約20年間続けてきたふくおかフィナンシャルグループとのシステム共同運営を解消し、横浜銀行などが共同運営する『MEJAR』に合流することを決めました。このMEJARはNTTデータが支援する共同システムで、地銀40行がこのシステムに糾合する見通しです」(地銀幹部)という。金融庁は、2021年7月から、経営統合した地銀のシステム統合や店舗統合などで生じた費用の3分の1(上限30億円)を補助する「資金交付制度」も設けている。

金融庁内部には「地銀の数は現在の半分でいいのではないか」との意見も聞かれる。「令和の地銀再編」は燎原の火のように全国に広がりつつある。

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2023年の世界10大リスク を分析する https://seikeidenron.jp/articles/22041 https://seikeidenron.jp/articles/22041#respond Tue, 31 Jan 2023 14:10:23 +0000 https://seikeidenron.jp/?p=22041

2023年も地政学リスク分析を専門にする米コンサルティング会社ユーラシア・グループが「世界10大リスク」を発表した。1位は「世界で最も危険なならず者国家」としてロシアが挙げられ、2位は「絶対的権力者」として中国の習近平国家主席となり、以下、「大混乱生成兵器」「インフレショック」「追い詰められるイラン」「エネルギー危機」「世界的発展の急停止」「分断国家アメリカ」「TikTokなZ世代」「逼迫する水問題」が世界10大リスクとなった。

「世界で最も危険なならず者国家」「絶対的権力者」が2大リスクに

2023年の報告書で、ユーラシア・グループは、ウクライナ侵攻から1年が経つなか、ロシアは戦況で勝利するための軍事的選択肢は残っておらず、核使用に軍事的威嚇が激化する可能性があり、欧米の安全保障に深刻な影響を及ぼす恐れを指摘した。

また、中国については異例の3期目に入った習政権について言及し、習近平は絶対的権力者になったが、側近たちは異議を唱えられないイエスマンで固められたことで、習氏を制約するチェック・アンド・バランスがほとんどなく、深刻な過ちを犯す可能性が高まったと指摘した。

2023年世界10大リスクは、2022年の世界情勢を如実に反映するものになった。昨年の2大ニュースといえば、多くの人がウクライナに侵攻したロシア、緊張が高まる台湾情勢を含んだ中国を挙げると思われる。しかも、ユーラシア・グループが今回両問題を1位2位に挙げた背景には、両問題が落ち着く傾向は一切見えず、場合によってさらに情勢が悪化する強い蓋然性があるからだと思われる。

新たな技術がリスクになる可能性

残り8つのリスクのうち、エネルギー危機とインフレショック、世界的発展の急停止は、ウクライナ危機からの影響によってリスクに肥大化する恐れがあり、それによって10大リスクに挙げられた可能性が考えられる。

周知のように、2022年はウクライナ危機によって世界的な物価高に拍車がかかり、ペルーやスリランカなどグローバルサウス(発展途上国)では大規模な抗議デモ、治安当局との衝突などに発展し、多くの死傷者・逮捕者が出た。欧米先進国でも、ベルギーやチェコ、イギリスなどで大規模な抗議デモが起こった。ユーラシア・グループは、現在進行形のウクライナ危機によって第2次物価高パンデミックの恐れも視野に、上記3つのリスクを含んだのかも知れない。

また、TikTok なZ世代や大混乱生成兵器、逼迫する水問題などは、今後10年、20年先を見据えて肥大化するリスクについても言及されている。

今後の世界をリードしていくのはいわゆるデジタルネイティブの世代であるが、世界的に技術革新が進むなか、今後はデジタルネイティブによる技術の悪用がひとつのリスクだ。AI兵器や自律型ドローンなど軍事技術も飛躍的に高まっていくなか、今後も今日のように大国間対立が続くのであれば、そこで用いられる最新兵器によって被害が寛大になる恐れもあろう。

“近代化されていく人”“近代化されていくモノ”の関係というものは今後の世界情勢にとって大きなリスクなる可能性もあり、こういったイシューは今後世界10大リスクで常連になっていくかも知れない。

日本も無関係ではない? 水・食糧不足

一方、水問題も同様に今後10年、20年先を見据えて肥大化するリスクだ。水問題は以前から言われていることだが、それを悪化させる恐れがあるのが世界的な人口爆発だ。日本では少子化に歯止めがかからず社会問題になっているが、世界ではグローバルサウスを中心に各国で今後若者の人口が急増する見込みで、2022年11月に世界人口は80億人に達し、2030年に約85億人、2050年には97億になるといわれる。

しかし、今日のエネルギー危機のように、今後は水を含む食糧需要が一気に増し、世界的な資源獲得競争が激しくなる恐れがある。昨年、世界的な物価高によって世界各国から悲鳴が聞かれたように、急激な人口増加は各国で経済格差や失業などを深刻化させ、それによって暴動やテロ、ひいては内戦や国家間衝突などを誘発しかねない。この問題も、今後世界10大リスクでランクを上げ、それに関連する問題もランクインしてくることも考えられよう。

おそらく2023年も何らかの問題が大きく悪化し、関連する問題が「世界10大リスク2024」にランクインしてくるだろう。もしかすると、来年1月には台湾で総統選挙があるので、世界10大リスク2024には台湾政治と中台関係がランクインしてくるのかも知れない。

しかし、重要なのは、たとえ今年とは違う問題が来年多く入ったとしても、それらと今年の問題の多くはつながっており、それぞれのリスクは別物ではないということだ。世界の多くの問題は相互作用の関係にあり、今年ランクインした問題でも、アメリカの行方によって、1位のロシア、2位の中国の行動は大きく変わる。また、それによってエネルギー危機やインフレショックは大きく動く。以上のような構えで、2023年の世界情勢をみていく必要があろう。

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衆院補選・統一地方選、広島サミット、日銀総裁人事【2023年政治トピックス】 https://seikeidenron.jp/articles/22030 https://seikeidenron.jp/articles/22030#respond Tue, 31 Jan 2023 13:33:36 +0000 https://seikeidenron.jp/?p=22030

新年度予算案や重要法案を審議する通常国会が1月23日に召集され、国内政治の動きが本格化。2023年は4月に衆議院の3補選と統一地方選が行われるほか、5月には岸田文雄首相の地元、広島で国内7年ぶりとなるG7主要国首脳会議(サミット)が開かれる。内閣支持率が低迷するなか、首相が“人事権”や“解散権”を駆使して反転攻勢を図るかにも注目が集まる。

国会は防衛費増、原子炉規制等が焦点に

通常国会は1月23日に召集され、6月21日までの150日間にわたって論戦が繰り広げられる。政府は一般会計の総額が過去最大の114兆円超となる2023年度予算案のほか、感染症対策の司令塔組織「内閣感染症危機管理統括庁」の設置法案や防衛費増額に向け財源を確保するため「防衛力強化資金」を設置するための法案、原子力発電所の60年超の運転を可能にする原子炉等規制法改正案など60の法案を提出する。

防衛力強化や原発の活用をめぐっては立憲民主党をはじめとする野党が対決姿勢を強めるとみられ、2022年に引き続き旧統一教会問題や「政治とカネ」の問題をめぐっても政府・与党を追及する構えだ。

日銀人事、金融緩和を継続するか、修正を図るか

4月8日に任期満了を迎える日銀の黒田東彦総裁の後任人事の行方も焦点となる。黒田氏は大規模金融緩和により安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」を支えたが、欧米との金利差が拡大して急激な円安を招いたとの批判も。日銀の正副総裁(総裁と副総裁)は衆参両院の了承を得なければならない「国会同意人事」の一つだが、与党は衆参両院ともに安定勢力を確保しており野党に配慮する必要はない。それよりも与党内で金融緩和を継続するのか、修正を図るのかで意見が割れており、円滑に人事案をまとめられるかが注目だ。政府は2月上旬にも人事案を提示する見通し。

「出口戦略」のババをひくのは誰? 本格化する次期日銀総裁・副総裁人事

2022.12.6

4月の衆院補選と統一地方選で岸田政権が問われる

4月には3つの衆院補選と4年に一度の統一地方選が行われる。衆院補選は政治資金規正法違反の罪で略式起訴された薗浦健太郎氏の辞職に伴う千葉5区と、国民民主党の岸本周平氏が知事選に立候補したことに伴う和歌山1区、安倍元首相の死去に伴う山口4区の3つ。いずれも現職が強い地盤を保ってきた選挙区だが、現職不在に加えて衆院選の小選挙区を「10増10減」する改正公職選挙法の影響もあり、各党は候補者調整に追われている。

自民党は「全勝」を目指しているが、3区とも現時点で候補者は確定していない。現職の辞職のタイミング次第では衆院山口2区や参院大分選挙区の補選が同時に実施される可能性があるが、選挙結果次第では政権の求心力のさらなる低下もありうる。

与野党は統一地方選にも注力する。今年の統一地方選では北海道や神奈川、大阪など17道府県で知事選が行われるほか、東京と沖縄を除く45府県の議会選挙、政令指定都市では8つの市長選、17の市議選が行われる。地方議員の数が国政に直接影響するわけではないが、地方議員は国政選挙の「実働部隊」の側面を持つ。地方選の結果は国政選挙につながるだけに、与野党ともに準備に余念がない。

政権支持率を広島サミットで挽回したい岸田首相

2023年の政治日程で特に岸田首相の思い入れが強いのが広島サミットだ。サミットの国内開催は2016年の伊勢志摩サミット以来、7年ぶり7回目。広島は首相の出身地であり、被爆地でもあることから、首相は1月13日のアメリカ・バイデン大統領との会談で「核兵器の惨禍を2度と起こさないとG7首脳と発信したい」と意気込んだ。サミットに合わせて各国首脳と原爆資料館を視察する方向でも調整が進められている。

ロシアによるウクライナ侵攻で国際平和に注目が集まる時期でもあることから、首相はサミット開催を政権浮揚につなげる狙い。というのも岸田内閣は2022年7月の安倍元首相銃撃事件と参院選勝利を境に、支持率の低迷が続いているからだ。NHKの世論調査で2022年7月に59%だった支持率は2023年1月調査で33%まで下落。不支持率は21%から45%まで上昇している。支持率低迷の主要因は旧統一教会問題や閣僚らの政治とカネの問題だが、ずるずると批判され続けており反転攻勢のきっかけをつかめていない。広島サミットは政権浮揚につなげられる数少ないチャンスだ。

年内に解散・総選挙はあるのか?

一方の野党はサミットをきっかけとした解散・総選挙に警戒する。野党第一党の立憲民主党岡田克也幹事長は「今年の夏から来年のはじめぐらいの間に行われる可能性が高いのではないか。5月のG7広島サミットが終わればいつでもありうる」と指摘。100議席未満にとどまっている衆院勢力の大幅な積み増しに意気込む。

ただ、1月のNHK調査で政党支持率は自民党の38.9%に対し、立憲民主は5.7%。2022年参院選で勢いをみせた日本維新の会も3.4%にとどまっており、到底与党に対抗できる状態ではない。立憲民主と同じく旧民主党の流れをくむ国民民主党に至っては「与党入りを狙っている」とのうわさが根強い。支持政党なしとの回答は自民党の支持に並ぶ36.7%にのぼるが、それは現在の野党が無党派層の支持を取り込めていないことを意味する。

立民と維新は今年の通常国会で「共闘」することを決めたが、次期衆院選が次第に現実味を増すなか、選挙でも共闘したり、選挙区のすみわけを図ったりできるかが注目となる。

自民党内では「ポスト岸田の本命不在」と言われるが、ポスト岸田として名前の挙がる茂木敏充自民党幹事長、河野太郎デジタル担当相、高市早苗経済安全保障担当相らがどれだけ存在感を示せるかにも注目したい。また、急に岸田首相に批判の声をあげ、注目度が高まっている菅義偉前首相がこれからどういう動きを見せていくか。菅氏に近い二階俊博前幹事長の動きを含めて永田町内で視線が集まりそうだ。

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いかに米中デカップリングを実現するか 日本外交の課題 https://seikeidenron.jp/articles/22037 https://seikeidenron.jp/articles/22037#respond Tue, 31 Jan 2023 02:51:13 +0000 https://seikeidenron.jp/?p=22037

米中対立のなかで、日本も生き抜いていく戦略を模索しなければならない。日本の国益を維持するため、どこまで日本自身で米中デカップリングをしていけるかは、米中という相手の意向もあるので難題だ。しかし、筆者は将来を見据え以上2つのことを提示したい。

どこまで日本自身でやれるか

2022年は、2月24日のロシアによるウクライナ侵攻によって世界情勢は大きく動き、日本も対露外交の転換を余儀なくされた。台頭する中国を見据え、以前は日本にも対中国でロシアと協力を模索する動きもあったが、ウクライナ侵攻によって日露関係は冷え込み、北方領土問題の解決などは完全に遠のいた。

一方、台湾情勢をめぐっては、2022年夏のペロシ米下院議長の訪台によって中国は前例にない規模の軍事的威嚇を示し、今日でも緊張が続いている。2024年1月には台湾で総統選挙が行われるが、蔡英文氏の政策を継承する新たな指導者が誕生するのか、はたまた親中的な候補者が勝利するのか、それによって習政権の対台姿勢も大きく変わると思われ、2023年はそれを見据えた重要な一年となる。

一方、このような世界情勢のなか、2023年の日本外交はどう展開されていくのか。多くの課題があるが、筆者は一つ大きな問題があると考える。それは、「日本の国益を維持するため、どこまで日本自身で米中デカップリングをしていけるか」である。トランプ米政権以降、世界では米中貿易摩擦が大きな問題となり、昨今バイデン政権は半導体など先端技術分野での対中デカップリングを進めるなど、米中間での対立は安全保障や経済、サイバーや宇宙、技術など多方面に及んでいる。

1月13日、アメリカを訪問した岸田文雄首相はバイデン大統領と会談し、中国を念頭に経済的威圧や非市場的政策および慣行に対抗し、日米などで強いサプライチェーンを構築するなど経済安全保障分野で連携を強化していくことで一致した。バイデン大統領は、日本に対して半導体製造装置の対中輸出規制の強化も要請しているが、今後、経済安全保障をめぐってはさらに対立が激しくなり、日本が“米中経済戦争”の狭間に陥ることが懸念される。

ここで浮上する課題は、正に「どこまで日本自身で米中デカップリングをしていけるか」である。“どこまで”という言葉を使った理由は、米中対立が激しくなるなか、安全保障上、アメリカにとって日本は中国の太平洋進出を抑える防波堤的役割を担い、経済的に日本は米中両国を重要な貿易相手としており、現実問題として日本は米中対立からの影響を受けることになる。

要は、その悪影響をできるだけ抑え、如何に政治経済両面からの国益を維持、発展できるかがポイントなのである。この課題は、今後日本にとって長期的宿題となることは間違いない。しかし、その中でも筆者は2つのことを提示したい。

“政治化しにくい”分野での日中関係強化

一つは、優先順位を間違えないことだ。当然ながら、日本外交の基軸は日米関係であるので、激変する世界情勢のなかでもまずはアメリカとの関係を維持、強化しなければならない。これは今後の政権でも継承されることだが、日米関係を第一に維持しながら、それを前提に中国と向かい合っていく必要がある。

そして、米中対立や台湾情勢によって日中関係も悪化する恐れが指摘されるが、実際その可能性は高いと思われるものの、そのなかでも日本は独自で日中関係の安定化を探っていく必要がある。

日本にとって中国は依然として最大の貿易相手国であり、実際問題として中国なしに日本経済は成り立たない。そうであれば、米中対立が経済貿易の分野に及ぶことは避けたいのが日本企業の本音だが、半導体や先端技術など“政治化しやすい”分野・業界とは切り離し、分野や観光など比較的“政治化しにくい”分野で日中関係を強化することも重要だろう。また、地球温暖化対策やクリーンエネルギーなど全人類が協力しなければならない分野も多く、こういった分野で日中協力を押し進めいくことも戦略的には重要だ。

温暖化対策などで協力を進めようとする動きは米中間にもあり、政治化しにくい分野での日中関係強化については、アメリカも難色を示す可能性は低い。日本としては、ひとつにこのような形で米中デカップリングを進め、日本独自の日中関係を追求していくテクニックが必要だ。

グローバルサウスとの関係強化

もう一つは、グローバルサウス、いわゆる発展途上国との関係強化だ。これは、「日本の国益を維持するため、どこまで日本自身で米中デカップリングをしていけるか」の前半に関係することだが、今日、大国間対立が深まっているが、国々の数でいえば、欧米や中国ロシアなど一部の国々が争っているに過ぎないとも言える。

ウクライナ戦争や台湾情勢について、ASEANや南アジア、中東やアフリカ、中南米や南太平洋の国々は正直どう思っているだろうか。2022年の国連総会の席で、インドネシアやアフリカ連合の代表者が口にしたのは、ASEANやアフリカを米中対立、大国間競争の巻き込むなという不満や警戒感である。そして、今後の世界情勢のなかでは、爆発的な人口増加も影響し、今後はこういったグローバルサウスの影響力がいっそう高まるだろう。

要は、日本としては将来の国益を見据え、グローバルサウスとの政治、経済的関係を独自に強化することが求められる。しかも、グローバルサウスの中には米中対立や大国間競争を警戒する国々も少なくないので、米中対立とは一線を置ける日本というイメージを作っておく必要がある。

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【2023年の経済】4月、政府・日銀のアコード見直しに注目 https://seikeidenron.jp/articles/21947 https://seikeidenron.jp/articles/21947#respond Thu, 05 Jan 2023 07:35:09 +0000 https://seikeidenron.jp/?p=21947

「卯は跳ねる」というのが、株式市場の格言だが、2023年の日本経済も「卯」のように飛躍できるだろうか。

年の前半にイベント目白押し

鍵を握る3大イベントは4~5月に訪れる。まず1つ目のイベントは4月8日の黒田東彦日銀総裁の任期満了に伴う新総裁へのバトンタッチだ。2つ目のイベントは4月9日、同23日の統一地方選挙(道府県知事選投開票)、そして5月19日に広島市で開催される主要7カ国首脳会談(G7サミット)だ。年の前半におけるこの3イベントが日本経済の潮流を決めると見ていい。

一方、グローバルには、中国のゼロコロナ解除後の経済回復の行方、世界的なインフレ高進と基軸通貨米ドルを司るFRB(米連邦準備理事会)による利上げ打ち止めのタイミング、そしてロシア・ウクライナ戦争に停戦の可能性はあるのかなど、数多くの鍵を握る要素が存在し、当然のことながら日本経済へも多大な影響を及ぼす。こうした国内外のキーファクターがシンクロするように進む2023年が予想される。

黒田総裁の変節とポスト黒田

日銀は12月19~20日の金融政策決定会合で大規模な金融緩和を修正する方針を決めた。長期金利の変動許容幅を従来の0.25%程度から0.5%程度に広げたもので、事実上の利上げを意味すると受け止められている。アベノミクスの象徴だった異次元緩和は10年目に転換点に差し掛かったことは確かだ。

これまで日銀の黒田東彦総裁は長期金利の変動許容幅の拡大について「明らかに金融緩和の効果を阻害する」と明確に否定していただけに、市場は虚を突かれた格好になった。黒田総裁は12月20日の記者会見で、今回の政策転換について「景気にはまったくマイナスにならない」と、これまでの説明を一変させた。変節の背景には何があるのか。鍵は11月10日の岸田文雄首相と黒田総裁の面談にあったようだ。

「余分なことまで会見で言わないように」。朝日新聞によると、11月10日午後、首相官邸を訪れた黒田総裁は、面会した岸田首相からこう釘を刺されたという。岸田氏が問題視したとみられているのは、大規模な金融緩和の維持を決めた9月22日の金融政策決定会合後の記者会見だったとされる。

当時、与党内では、「急激な円安に伴う物価上昇」を懸念する声が強かった。利上げを急ぐFRB(米連邦準備理事会)に対して、頑として金融緩和を続ける日銀。日米の金利差に起因すると見られる円安を前に、与党内には黒田総裁の姿勢を疑問視する声が絶えなかった。にもかかわらず黒田総裁は9月22日の記者会見で「当面、金利を引き上げることはないと言ってよい」と述べ、緩和を引き締めに転じる時期について「2~3年先」と自身の任期後にまで言及した。次期総裁の任命権を持つ岸田首相の手足を縛りかねない発言に、苦々しい思いを抱いたのは想像に難くない。

しかし、その一方で、日銀は政府が発行する国債を市場から大量に購入することで、金利を低位に抑え込んでいる。大規模な金融緩和の転換は財政問題へと飛び火しかねないリスクを孕む。日銀の姿勢を批判することは簡単だが、その処方箋は難題だ。

事実、日銀の国債保有残高(国庫短期証券を除く時価ベース)は、9月末時点で535兆6187億円と、発行残高の50.3%を占め、初めて5割を超えた。異次元緩和がスタートした10年前は約10%であったことを考慮すれば、いかに日銀が国債を購入し、金融緩和を継続してきたかがわかる。

だが、「国の借金の半分以上を日銀が引き受けている構図はやはり異常だ。いずれ是正される局面が訪れるだろう」(市場関係者)とみられていた。そのとき、国の財政運営はどうなるのか。多額の公的債務を抱えるものの、日本のソブリン格付けは最高水準に維持されている。しかし、このまま大規模な財政出動を続ければいずれ限界が来るかもしれないと危惧されている。

日銀関係者によると、大規模金融緩和の継続に固執する黒田氏に対して、日銀事務方は緩和を徐々に手仕舞うべきと考えていたという。2022年3月に長期金利の変動幅を上下0.25%程度まで広げた真意は、日銀事務方によるステルステーパリング(緩和縮小)で、その幅をさらに広げていくことで、緩和をなし崩しすることが狙いだったというのだ。今回0。5%程度まで変動許容幅を広げたのは、その延長にあると言っていい。変節したのはまさに黒田総裁その人ということだろう。

そうしたなか、はやくもポスト黒田の人事に注目が集まっている。有力候補と目されているのは前日銀副総裁の中曽宏氏(東大大学院経済学研究科金融教育センター特任教授、大和総研理事長)と、中曽氏と同じ日銀プロパーで、黒田総裁の懐刀として現在、日銀事務方を統括している雨宮正佳副総裁だ。「中曽氏はロンドン事務所勤務や国際決済銀行への出向など主に国際畑が長く、海外の通貨マフィアなど海外要人と広い人脈がある。一方、雨宮氏は若い頃から一貫して企画畑で育ち、エリート街道まっしぐらで副総裁まで上り詰めた逸材」(日銀関係者)という。

さらに、政界ではこの2人のほか、日銀出身で日本総合研究所理事長の翁百合氏や元日銀副総裁の山口廣秀氏(年金積立金管理運用独立行政法人経営委員長)の名前も浮上している。「日本長期信用銀行に勤務した経験のある岸田首相だけに、経済運営における日銀総裁の重要性を政界の誰よりも熟知している。女性の総裁登用というサプライズ人事があるかもしれない」(与党幹部)という指摘も聞かれる。

岸田政権の支持率低下と統一地方選

2年目に入った岸田政権だが、国民からの支持率は低下の一途を辿っている。昨年12月中旬の全国紙などの支持率調査では政権発足以来最低の20~30%台で推移しており、いずれの調査でも不支持率が支持率を上回っている。「岸田政権は存亡の危機という表現は行き過ぎかもしれないが、かなりきわどい立場になりつつある」(野党幹部)と言っていい。

旧統一教会との関係や政治資金をめぐる不正などの問題が支持率低下に直結している面は否めないが、コロナ禍が継続するなか、過度の円安やインフレ進行に伴う生活難に対して有効な手を打てないでいることへの失望感も強い。特に唐突に防衛費の引き上げ「GDP2%」を提唱し、これから必要となる防衛費増を既存の余剰や効率化により財源を捻出し、それでも足りない一年あたり約1兆円強の財源を税金(国民負担)で賄う方針を自民党税調に指示したことも支持率低下に拍車を掛けたとみられる。

また、看板施策として打ち出した「新しい資本主義」についても、NISAの拡大(少額投資非課税制度)の拡大程度しか打ち出せておらず、「資産所得倍増プラン」としては力不足とみられている。また、肝心な賃金引上げによる富の再分配と成長の加速も未だ道半ばだ。

岸田政権の低支持率を見る限り、4月の統一地方選も苦戦が予想される。4月9日には道府県と政令指定都市の首長・議員選が投開票され、同23日には政令市以外の市区町村の首長・議員選挙が投開票される。その数は981件にのぼる。「統一地方選挙の結果次第によれば、岸田政権のレームダック化が決定的になる可能性もある」(野党幹部)と指摘される。

G7サミットと総選挙の行方

そうした支持率低下に歯止めをかけると期待されているのが、岸田首相の地元・広島で5月に開催される主要7カ国首脳会談(G7サミット)だ。このG7にはウクライナのゼレンスキー大統領もオンラインで参加する見通しで、岸田首相は年頭所感で「力による一方的な現状変更や核による脅しを断固として拒否する強い意思を、歴史に残る重みをもって示していきたい」と強調した。4月の統一地方選挙とG7をテコに、岸田首相は解散総選挙を決断する可能性も囁かれている。

日本経済はこうした政治日程を睨みながら、政府の政策運営に大きく左右されることになろう。繰り返しになるが最大の焦点は4月の次期日銀総裁人事に注がれる。岸田首相は、次期総裁の就任と合わせて、政府と日銀が2013年に結んだ2%の物価を目標とするアコード(共同声明)を見直す方針を示している。どういった内容の新アコードになるのかは未知数だが、誰が次期総裁に就いても、待っているのは黒田総裁が10年近く続けてきた異次元緩和の後始末であり、「出口戦略」という難題であることには変わりはない。

異次元緩和の終焉は、とりもなおさず、世の中に「金利が復活する」ことにつながる。このことは同時に、これまでゼロ金利下で先送りされてきた過剰債務企業や個人の淘汰が始まることを意味する。日本経済は金利上昇という痛みを乗り越えなければならない年となろう。

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