佐藤尊徳が聞く あの人のホンネ

日本の未来は、暗いのか?~ジャーナリスト田原総一朗×尊徳編集長

2016.5.10

政治

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写真/芹澤裕介 文/赤坂麻実

切れ味鋭いインタビューや、強気な司会で知られるジャーナリスト田原総一朗を迎え、安倍政権の3年半を振り返る対談。長く政界を取材してきた田原氏は、安倍一強に傾き、与野党のバランスが崩れた現状にも悲観すべきでないという。未来を拓く鍵は、民間の若い世代にあるというが……。

 ジャーナリスト

田原 総一朗 たはら そういちろう

1934年、滋賀県生まれ。1960年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。「朝まで生テレビ!」「サンデープロジェクト」(テレ朝系)などでテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。現在は早稲田大学特命教授として大学院で講義をするほか、「大隈塾」塾頭も務める。「朝まで生テレビ!」、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。また、『塀の上を走れ 田原総一朗自伝』(講談社)、『誰もが書かなかった日本の戦争』(ポプラ社)など著書多数。

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株式会社損得舎 代表取締役社長/「政経電論」編集長

佐藤尊徳 さとう そんとく

1967年11月26日生まれ。神奈川県出身。明治大学商学部卒。1991年、経済界入社。創業者・佐藤正忠氏の随行秘書を務め、人脈の作り方を学びネットワークを広げる。雑誌「経済界」の編集長も務める。2013年、22年間勤めた経済界を退職し、株式会社損得舎を設立、電子雑誌「政経電論」を立ち上げ、現在に至る。著書に『やりぬく思考法 日本を変える情熱リーダー9人の”信念の貫き方”』(双葉社)。

Twitter:@SonsonSugar

ブログ:https://seikeidenron.jp/blog/sontokublog/

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日本を”普通の国”にしたい安倍総理

尊徳 2012年末に第2次安倍政権が発足して3年余りですが、どのように見ていますか?

田原 長い間、”変えられない政治”という言葉があったけど、安倍さんはどんどん変えているよね。僕にとって大きいのは、集団的自衛権の行使と、他国軍への後方支援。

尊徳 田原さんは、11歳のときに終戦を迎えられたんですよね。やはり、戦争に対しては強い拒否感がおありでしょうね。

田原 新聞や学校の言うことが、小学5年生の1学期までと2学期からで、がらりと変わってしまったからね。大人たちがもっともらしい口調で言うことは信用できない、という思いが今も強い。新聞やテレビも信じられないし、国家は国民をだますことがある、という思いね。

尊徳 集団的自衛権の行使の是非は別として、憲法解釈変更で認めてしまったことに反対です。これだと、内閣が変わって、法制局長官を挿げ替えれば、コロコロと解釈を変えられてしまう。憲法改正を論点にして総選挙をすればいいのに、と思います。

田原 それだと選挙で負けるからね。

尊徳 安倍さんと話していると、アメリカと対等な国になりたいと思っているのだと感じます。

戦争を知っている最後の世代として、僕は戦争には反対で、これは変えられない(田原)、安倍さんはアメリカと本当の意味で対等になりたいんだなと感じる(尊徳)

田原 安倍さんは日本を”普通の国”にしたいんじゃないかな。戦前の日本に戻したいとは思ってないけど、今のイギリスやフランスのような国にしたいんだろうと思うね。

尊徳 世界的に見れば、集団的自衛権を行使できる国は多くて、そういう意味では”普通”なのかもしれません。

田原 そうだね。戦争を知っている最後の世代として、僕は戦争には反対で、これは変えられない。それは僕の弱みかもしれないけど、”正しい戦争”というものも認められないんだ。アメリカと対等に、というのなら、中国や韓国と仲良くして、アジアで信頼される国になって、アメリカとの交渉力を持つ。それが僕の思いだね。

投票率が低いといって嘆かなくていい

尊徳 永田町の人たちと話すと、この頃はみんな、衆参ダブル選挙をする構えで走っているようですね。これ、僕は明確に反対です。

田原 これまで自民党はダブル選で大勝しているので、またやって参議院で3分の2以上の議席を獲得したいんだね。選挙で勝てるから、とは言えないので、大義として、消費税増税の先延ばしについて国民に信を問うということにして。

尊徳 でもそれは、安倍政権の自己矛盾ですよね。経済が停滞しているから増税を先延ばしにするというなら、アベノミクスの失敗を認めることになる。ダブル選になった場合、国民はきちんと投票行動を起こすでしょうか。投票率は今、52.66%(2014年12月衆院選)。昔は参政権、選挙権を得るために一生懸命運動したのに、今では半分近い人が権利を放棄している。

田原 いや、そうじゃない。権利を放棄しているわけじゃなく、今の政治に安心しているんだと思う。安倍政権に反対なら反対票を入れるでしょう。選挙に行かない人は、「安倍政権でいいや」と思っているということ。日本はアメリカほど経済的な格差もないし、不満が強くないんだね。

尊徳 そういう意味では、日本は良い国なんでしょうね。テロもないし、治安が良いので、海外からの旅行客も増えている。ただ、これまで通りでいいのかな?と僕は思います。

田原・尊徳2
権利を放棄しているわけじゃなく、今の政治に安心しているんだと思う(田原)、今の自民党は主流派しかいなくなってしまった(尊徳)

“反安倍”がいない自民党

尊徳 最近の安倍政権は(総務大臣の)高市(早苗)さんの停波発言などもあるし、ちょっと傲慢に見えるんですよね。政権を取った直後は謙虚にやっていましたが、3年も経つとどうも。衆院選の定数削減にしたってアダムス方式の導入を見送って「0増6減」にしたり。軽減税率の導入にしてもそうですけど。

田原 自民党のあり方が変わったからね。かつては主流派があれば反主流派もあったけど、選挙制度が変わって、自民党の中で反安倍が出てこなくなった。これが大きな問題だと思うね。僕らの若い頃は、みんな野党なんか興味なくて、自民党の中のケンカが面白かったんだけど。

尊徳 タカ派、ハト派とかいて、自民党の中で政権交代が行われていましたよね。中選挙区制から小選挙区制になって、主流派しかいない自民党になってしまった。

田原 その選挙制度を変えたのは自民党じゃなく日本新党の細川政権で、狙いは政権交代ができるようにすることだった。今こそ、野党が強くならないといけないね。

尊徳  健全な野党が必要ですよね。

田原 健全な野党なんかないでしょ。

尊徳  いやいや、反対のための反対をする野党じゃなく、自分たちで政権を担える野党という意味で言ったんです。権力はどうしても腐るので、国民が選択できる野党が必要ですよね。

 

民進党をみんなで育てるしかない

尊徳 野党第一党の民進党はなぜここまで支持されないと思われますか。

田原 政策を打ち出していないから。例えば、経済政策はアベノミクスと違ったどんな策があるのか。安保関連法案に反対だというけど対案はあるのか。何ひとつ出てこない。

尊徳 岡田(克也)さんとか枝野(幸男)さんとか、国民から見れば、一度失敗した人たちがまたやってるという、そのセンスもまずいですよね。

田原 鮮度がないよね。民進党の幹部は、アベノミクスはなまじ経済成長を打ち出したために格差がどんどん大きくなって行きづまった、と言う。それなら、民進党は分配の公平みたいなことを謳うんだろうと思っていたら、綱領に”経済成長”って入ってるんだよ。「左傾化している」と思われたくなくて入れたんだという、この中途半端さね。

尊徳 この前、「保育園落ちた日本死ね!!!」というブログが話題になりましたが、ひとつの行動であれだけ人が動いたのは面白いなと思っていて。ただ、そこで野党は安易に保育士の給与5万円上げとか言ってしまう。そうじゃなくて、なんでこんな状況になってしまったのか、突き詰めて根本の対策を示すべきなのに。

田原 まあ、でも、批判するのは簡単だけど、やっぱり与党が危機感を持つような野党が必要だからね。民進党をみんなで育てていかなきゃ。

民間のアイデアをパクらせてやれ!

尊徳 選挙権年齢も18歳以上に引き下げられたし、若い人にも政治に関心を持ってもらいたいと思うんですが……。

田原 SEALDsが出てきて、また少し、若い世代も政治に関心が出てきたと思うけどね。

尊徳 デモや投票したって何も変わらないとか言う人もいるけど、行動するって大きなことですよね。すぐではなくても、誰かの行動に影響して、結果として何かが変わることだってあるわけだし。

田原 今、面白いなと思うのは、若くて意欲のある連中が、就活しないで、ベンチャーを始めていること。しかも、社会を変えようと思ってやっている人がたくさんいる。今の若いのは、全共闘のかわりにベンチャーを作ってるんだ。

尊徳 政治なんか知ったことか、それより自分たちの商売だ、とならないものですかね。

田原 いや、政党を作ろうとしている人もいるし、ソーシャルビジネスをやってる人も多い。NPO法人フローレンスの駒崎弘樹さんなんか代表格だね。彼が偉いのは、新しいアイデアは自分でやってみせて、政府にパクらせるんだ。病児保育や寄付金控除のあり方とかね。政府や官僚が何も思いつかないなら、みんなで考えちゃえと。

尊徳 今までは大資本でなければできなかったことが、アイデアひとつでいろんなことができる世の中になってきましたからね。

田原 そう。インターネットが普及して、これからは人工知能も発達していくし、世の中は大きく変わる。10年後15年後には、商社や広告代理店は今までと同じ商売では存続できないだろうし、官僚は今の半分ぐらいに減るかもしれないし、テレビや新聞もネットに食われていく。既得権益はどんどんつぶれて、自分でアイデアを持って行動する人が活躍する社会になる。いや応なく。そう考えると、面白い時代だよね。