やっぱり大義ナシ? 安倍政権の後付け総選挙 2016-2017

2016.11.10

政治

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衆議院の「解散風」をめぐって永田町が揺れている。2017年1月の解散説が定着しつつあったが、新たに年内11月解散説が浮上。10月のW補選で2勝したと思ったら、今度は二階俊博幹事長が解散説の火消しに回っている。ただ、時期は11月か1月かは別にして「近いうち」の解散が既定路線。それには3つの理由がある。

安倍政権、早期解散が囁かれるワケとは?

解散風を強烈に煽ったのは与党の重鎮、二階俊博幹事長だった。9月の時点で早くも「選挙の風は吹き始めている」「解散の準備をしておく必要がある」などと公式に発言。例年1月に開催する自民党大会を3月に先延ばしすると発表したのも「1月解散説」を裏付けることとなった。

1月解散説を裏付けるもうひとつの理由が12月に安倍晋三首相の地元・山口で開催される日露首脳会談。その場で長く塩漬けだった北方領土問題の”進展”を発表し、内閣支持率を上げたうえで解散に打って出るのではないか、という読みだ。

ただ、日露首脳会談をめぐってはさまざまな憶測報道が出るなか、「ロシア側が帰属をはっきりさせない意向を示す可能性もあるため、日本が明確な成果を得るのは難しいのでは」(永田町関係者)との見方が広がっている。そこで浮上したのが年内11月解散説。日露首脳会談への期待を高めつつ、もしかして世論の評価が得られなくても選挙結果には影響しないようにするということだ。

手のひら返しの”火消し” サプライズ解散とは?

10月16日の新潟知事選では予想外の敗北を喫したが、同月23日の東京・福岡のW補選ではともに自民系候補が大勝。このまま早期解散に踏み切ると思っていたところで、永田町が注目したのが二階幹事長の”火消し発言”だった。
「今のところただちに解散をどうこうというのは首相の念頭にはない。すぐという切迫したことはないんじゃないか」

10月末の記者会見で、これまで解散説を煽っていた本人が火消しに回ったのだ。これには永田町関係者は一様に首をひねった。

ただ、この言葉を真に受けるべきではない。菅義偉官房長官は直後の記者会見で「幹事長とはいろいろな意味で打ち合わせしている。何が大事かは一致している」と発言。首相官邸の指示で二階幹事長が火消し発言をした可能性が高い。

官邸からすれば、首相による衆院の解散は、有権者や野党に対してサプライズであればあるほど隙をつく効果が高くなる。二階幹事長が「解散あるある」と言いふらしている状況では逆に解散しづらいため、あえていったん解散説を引っ込めたとみるのが妥当だ。

“3つの根拠”による自然な流れ

なぜならば、首相が解散する確かな理由が3つある。

1つ目は衆院の区割り変更。2016年に成立した衆議院の定数削減により、次期衆院選から小選挙区が295から289に、比例代表が180から176に削減される。2017年5月までに政府の審議会で具体的な区割りを策定し、安倍首相に答申する方向だ。

新たな区割りが確定すると、各政党は当該選挙区における次期衆院選の候補者を調整しなければならない。具体的には青森、岩手、三重、奈良、熊本、鹿児島の6県で定数が1ずつ減る「0増6減」をするため、6県では候補者のうち1人を外さなければならない。

すでに各陣営とも準備を始めているので、できれば候補者調整を選挙後に回したいというのが各政党の本音。そして、より調整が困難なのは前回選挙で大勝し、ほとんどの選挙区に現職議員がいる自民党だ。その声は当然、総裁である首相の耳にも届いている。

2つ目の理由は2017年7月前後に行われる東京都議会議員選挙である。自民党が連立を組む公明党は都議選を重視しており、国政選挙とは「最低でも数カ月は離してほしい」との立場。特に次期都議選は小池知事の問題を抱えており、自民党も力を入れざるを得ない。

解散しないまま2017年1月の通常国会に突入すれば予算審議が始まり、審議がひと段落したころに都議選がある。この時期を逃せば最低でも来秋まで解散のタイミングを先送りしなければならなくなる。

3つ目の理由は「今なら勝てる」からだ。NHKの10月の世論調査によると、安倍内閣の支持率は50%で、不支持率は33%。自民党の支持率も37.1%で、続く民進党の9.9%を大きく引き離している。

支持率や10月の衆院W補選の結果を見ても、自民党の一強体制は揺るいでいない。国民的人気を集めるかと思われた民進党の蓮舫代表も今のところパッとしないが、自民党の勢いがいつまで続くかは誰にもわからない。今なら勝てる、勝つならなるべく早く、というのはごく自然な判断だ。

解散に大義はあるのか?

解散理由はこのほかにもたくさんある。新潟知事選等で民進党と連合の間がぎくしゃくしているこのタイミングで解散すれば与党に有利だとか、次の通常国会で天皇陛下の生前退位の議論が本格すると解散しづらくなるとの声もある。2017年以降、景気の先行きが読みにくいという見方もあるだろう。考えれば考えるほど早期解散の可能性が高く感じる。

問題は「解散の大義」だが、安倍首相にとってはそんなの関係ない、だろう。2012年、当時の野田政権に解散を迫ったときも、2014年に解散に踏み切ったときも、消費税率の引き上げや凍結をめぐって与野党の考えは一致しており、”国民に信を問う”必要性は乏しかった。解散理由などいくらでも後付けできてしまう。

「さて、どう言えば国民は納得してくれるだろうか」。今頃、安倍首相の頭にあるのは解散のタイミングではなく、説得力のある解散の大義なのかもしれない。

そもそも大義のない解散など許されるべきではない

 

解散は首相の専権事項とよく言われるが、先進国で元首が自らの判断で解散できる国は日本だけだ。同じ議会制民主主義のイギリスも首相の解散権を法律で縛った。憲法にも解散権は明記されていない。内閣不信任案が可決されたときのみ、10日以内の解散をするか、内閣総辞職をすると書いてあるのみだ。勝てるから、という理由で衆議院を解散するなど言語道断、憲政の常道に照らしてもおかしな話だ。なぜ日本はそれを許しているのだろうか?

与党は過半数を握っているのだから、内閣不信任案が可決することはまずない。ということは、強い与党が好きな時(4年の期間内)に解散ができるとなると、政権交代の可能性がさらに小さくなる。これは、国民にとって不幸だ。

また、内閣不信任案も否決されるのがわかっていて、野党が乱発することがある。これは野党の甘えもあるので、その時には解散してもよいと思う。そうすれば、野党も覚悟を持って不信任案を提出しなければならなくなる。イギリスでは失政があれば政権交代がいつでも可能なように、野党に対して有利な状況が作られている。

与党は、とにかく任期内にどれだけ、素晴らしい政権運営をすることだけにまい進すればよい。大義ない解散は許されない。それもこれも、対する野党があまりにも情けない体たらく、というものあるが。