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「抑止力」のつくり方 持つべきは核か非核か、あるいは...

2017年05月29日
読了時間: 04分00秒

写真/ロッキード・マーティン社

冷戦以降、世界の均衡を保っているのは「抑止力」という力学だ。しかし、核兵器を独占する国連常任理事国の思惑とNPT体制の矛盾など、その論理は独善的で脆い。核実験・ミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮をはじめとする他国の脅威に対して、今、どんな抑止力が機能するだろうか。

核兵器で平和がつくられる皮肉

核兵器不拡散条約(NPT)の本懐は「米英仏ロ中の国連安保理常任理事国5カ国だけが核兵器を保有できる」ということ。第2次大戦後、核保有国が次々と増えるなか、すでに核兵器を持つ当時の米英ソ3カ国が、これ以上の核保有国が増えないように半ば慌ててこしらえた条約だが、常任理事国の手前味噌的、かつ矛盾の多い不平等条約の典型といえる。

【核兵器不拡散条約(NPT)】 1970年に発効、現在は約190カ国が加盟する。理念としては一応、核廃絶を掲げているが、真の狙いは、米英ソ3カ国が核戦力での絶対的優位を維持しようというもの。

このため、フランス(1960年に核保有)、中国(1964年同)の常任理事国2カ国は、3カ国が決めた枠組みに従うことを嫌い、当初は条約に反対、加盟したのは冷戦終結後の1990年代に入ってから。

また、1960年代、経済で力をつけ台頭するかつての敗戦国、日本と西ドイツの原子力開発を制御し、核兵器開発の芽を摘むことも、創設の狙いだったといわれている。

国連

しかし、実際問題としてNPTが核戦争を防止しているのは事実。仮に世界の大半の国が野放図のまま原水爆の保有を競っていたなら、今頃は"武力衝突で核兵器を使うのは当たり前"という世界になっていたかもしれない。

ヘタをすれば、政情不安定な国の原水爆が第三者に横流しされたり、どさくさに紛れてテロ組織の手に渡ったりなど、核の管理に関しても非常に危うい状況に陥っていた可能性も高い。

一方、核保有5カ国は表面上、核を背景にした軍事的威嚇は行なわない、とのスタンスを標榜している。これがなければ、核非保有国がそもそもNPTに加盟する意味合いがなくなってしまうからだ。

しかし、第2次大戦後の世界で核保有国が「核」をチラつかせた場面が何度かある。古くは朝鮮戦争時(1950~1953年)、北朝鮮に加勢する形で参戦した中国に対抗するため、アメリカのマッカーサー元帥が旧満州への原爆投下を検討している(結局はこれが元で、マッカーサーは時のトルーマン大統領により解任)。

また、ベトナム戦争真っただ中の1968年、アメリカ・南ベトナム連合軍が北ベトナム軍に包囲され激戦となった「ケサンの戦い」では、敵の包囲網を崩すため、アメリカが戦術核兵器の使用を検討。

さらに直近では、2014年のクリミア危機に際し、仮にウクライナが同地の奪還を目指した場合を想定し、ロシアでは核兵器の使用もオプションとして挙がっていたという。

これらはいずれも核を持つ国が、これを持たない国に対してその使用を考えた事例で、仮に両者が保有していたなら、原水爆使用の議論すら躊躇したはずだ。これを考えれば、はやり核兵器は極めて強力な抑止力を有するといえるだろう。

持つべきか、持たざるべきか

2017年3月、年内の成立を目指し、国連で採択された「核兵器禁止条約」の交渉が開始した。非核保有国が中心となり、核兵器の全廃を目指した崇高なものだが、世界唯一の被爆国である日本は結局、この交渉に不参加。

前述の核保有5カ国がそもそも交渉に参加しないため、「絵に描いた餅」に陥ると考えたためだ。加えて、日米安保体制の下、日本はの"核の傘"によって核抑止力を担保されている、という事情もある。

そんな背景にあって、安倍首相は米高官による「先制核不使用」発言に対し、「それでは核抑止力が担保できず、日本の安全保障にとってマイナス」といった内容を伝えたという。

さて、差し迫った問題として、核をちらつかせる北朝鮮に対する効果的な抑止力を考えたい。

例えば「相互確証破壊(MAD)」。日本が核兵器を保有して対抗するという考え方だが、これは「報復的・懲罰的抑止力」といわば同義語。理論的にはそれなりの抑止力が期待できるはずだが、それは相手の国家の指導部が理性的で思慮深く、しかも指導部内で首脳たちが闊達に議論できる場合に限る。冷戦時代の米ソがまさに好例だ。

ところが現在の"金王朝"は金正恩氏の完全独裁で、仮に彼が「死なばもろとも」と短絡的思考に陥った場合、抑止力など効くはずもない。

では、報復のための核兵器を持つのではなく、核ミサイルを撃ち落とす防衛システムを配備する「拒否的抑止力」はどうだろうか。サッカーに例えるなら、11名全員がゴールキーパーとなり守りに徹するというもの。

日本が進めるミサイル防衛がその典型で、海上自衛隊のイージス艦が装備する「スタンダード・ミサイル3(SM3)」対空ミサイルは、大きな放物線を描きながら目標に向かって飛翔する弾道ミサイルが、いったん大気圏の外(=宇宙)に飛び出し、再び大気圏内に突入するまでの間(ミッドコース)に撃墜するもので、迎撃高度は70~500kmとかなりの高高度。

SM3 写真/ロッキード・マーティン社SM3

これで撃ち落とせなかった弾道ミサイルは、航空自衛隊が保有する「パトリオットPAC3」対空ミサイルが迎撃する。こちらは大気圏突入後、まさに目標に向かって落下して来るミサイルをギリギリのところで破壊する"最後の砦"で、迎撃高度は最大15kmとかなり低い。またカバーできる範囲は半径20km程度と狭い。

PAC3 写真/ロッキード・マーティン社PAC3

全国を網羅するのは事実上不可能なため、東京や大阪、原発周辺や自衛隊・在日米軍基地など、最重要個所をピンポイントで防備するにとどまる。そのため、北朝鮮を思いとどまらせるほどの「拒否的抑止力」を発揮するのは難しいかもしれない。

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