官僚と政治家のいびつな関係 加計学園問題”前川の乱”が異例と言われる理由

2017.9.28

政治

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官僚と政治家のいびつな関係 加計学園問題"前川の乱"が異例と言われる理由

加計学園の獣医学部新設をめぐり、前川喜平前文部科学次官による”反乱”が話題となった。退任後とはいえ、官僚が上司である政治家を表立って批判するのは異例のこと。この問題を通じて、普段はなかなか見ることのできない政治家と官僚の関係を知ることができる。

省庁の役職ピラミッド

「在職中に共有していた文書で、確実に存在している」。前川氏は今年5月、東京都内で記者会見を開き、加計学園の獣医学部新設を巡り、「総理のご意向」などと書かれた文書は本物だと強調した。前川氏はその後も繰り返しメディアや国会に登場。「行政が歪められた」として安倍政権の対応を強く批判した。

前川氏が2016年6月から2017年1月まで務めた事務次官は、省庁における事務方トップの役職だ。ただ、その上には大臣、副大臣、政務官という国会議員が務める「政務3役」があり、さらには各省庁の上には「首相官邸」が存在する。

つまり、事務次官はその省庁における役人のトップとはいえ、その上には何人もの政治家や官僚がいる中間管理職。会社に例えるならば、取締役会の下に事業部がいくつもぶら下がっており、そのうちの一事業部の次長といった役割だ。

前川氏は今回、テレビカメラの前で素顔をさらし、会社の不祥事を暴露しながら社長や事業部長を批判したようなもの。一般企業でも素顔をさらして内部告発する例は少ないが、官僚の場合は退任後も関連団体などに天下りする例が多いので、特に政治家や元の役所に反旗を翻す例は珍しい。

キャリアとノンキャリの埋められない差

そもそも官僚とは何か。定義ははっきりしないが、おおむね上級試験を合格して中央省庁に任用された、いわゆるキャリア公務員のことを指す場合が多い。

2012年から総合職試験と一般職試験に再編されたが、それまでの国家公務員試験は「一種」「二種」「三種」に分かれていた。出身大学に関係なく、”コクイチ”と呼ばれる国家一種試験の合格者は”キャリア”、二種や三種の合格者は”ノンキャリ”と称される。

キャリアとノンキャリでは出世スピードがまったく違う。キャリアは省内のさまざまな部署を渡り歩き、異動のたびに出世していくが、ノンキャリの多くは特定の部署に長く所属し、出世スピードは極端に遅い。また、キャリアは事務次官まで昇り詰めることができるが、ノンキャリが次官になることはない。

身分制になぞらえることもあるが、どれだけ実力があってもノンキャリがキャリアを超えることはない。例えば東大出身のノンキャリがいたとしても、私大卒のキャリアより出世することはないのだ。

政策は政治主導?官僚主導?

官僚の最大の仕事は法案の作成だ。日本の場合、法律を改正するための法律案のほとんどは政府を構成する各省庁が提出する。

ある政策を実行しようとするときは関連しそうな法律をすべて調べ、どの法律のどの部分を改正すればいいのか、どんな文言にすればいいのか、入念に準備。キャリア官僚が指揮を執り、その分野の専門家であるノンキャリが実際の作業にあたる。
省庁内で作業するための部屋のことを”タコ部屋”とも呼び、数人の事務員が食料を持ち寄り、泊まり込みで法案作成にあたることも珍しくない。

先に紹介したように、各省庁のトップは政治家だが、それでも事務次官が注目されるのは、実質的に政策を決定しているのは官僚だからだ。大臣といっても自分の事務所から連れていけるのは、政治関係のスケジュールを管理する政務秘書官一人だけ。

残りの事務秘書官を含めてブレーンはほぼすべてその役所の官僚で、結局は各省庁の思い通りに政策が決定されていく。

以前は特定の政策分野に強い「族議員」が自民党内に跋扈(ばっこ)していたが、小選挙区制の導入とともにそうした議員も少なくなった。それでは到底、優秀な官僚に政策論争で勝つことなどできない。表向きは”政治主導”のように見えるが、実態としては”官僚主導”で多くの政策が決められていくのだ。

なぜ”忖度”という言葉が出てきたか

ただ、そんな官僚主導の中でも政策に大きな影響力を発揮している政治家がいる。首相と官房長官だ。

小泉内閣以降、段階的に首相官邸の機能が強化され、2014年には「内閣人事局」を設置した。それまでは各省庁の人事は省庁内の役人が決めていたが、幹部級以上の人事は官邸が一手に掌握。ますます官邸による各省庁への影響力が強まった。

特に人心掌握術に長けた菅義偉官房長官は、人事権を背景に強大な影響力を発揮しているとされる。そんななかで表面化したのが加計学園や森友学園の問題だ。

安倍首相や菅官房長官が直接的に関与した証拠はないが、官僚側が首相官邸への配慮を示そうと”忖度”した可能性はある。忖度の背景にはこうした首相官邸への権力集中があり、権力集中があるからこそ、元官僚の反乱は異例なのだ。