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知る人ぞ知るすごいがん治療 vol.1~「アクセル+ブレーキ療法®」とは

電子雑誌「政経電論」第20号掲載
2017年01月10日
読了時間: 05分30秒

左乳がんが両肺に転移した女性患者のがんが消失。乳がんの摘出手術後に、脳に転移が見つかった女性患者は、1クール(5回)にも満たないたった2回の投与でがんが消失。そんな驚くべき成果を挙げているがんの治療法がある。その名も「アクセル+ブレーキ療法®」。効果の高さから、がん専門の医師の間でも注目されている治療法は、"専門外の医師"の発想で編み出されたという。一体どんな治療法なのか?

阿部吉伸医師湘南メディカルクリニック新宿院 阿部吉伸 院長 1965年、富山県生まれ。90年、富山医科薬科大学(現・富山大学医学部)卒業。94年、同大学院修了。その間、パリ第12大学アンリーモンドール病院心臓外科留学。医学博士。厚生労働省、外務省に計15年所属し、国家公務員として海外で医療に携わる。家族のために日本で生活することを検討していたところ、SBCメディカルグループ総括院長・相川佳之と出会い、2015年に湘南メディカルクリニック新宿院の院長に就任。免疫細胞療法と免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせたがん治療に心血を注いでいる。

がんに対する第4の治療

厚生労働省の発表によれば、日本人の死亡原因の第1位はがん(悪性新生物)で、全体の約30%を占める。がんに対して、医療は外科手術、放射線、抗がん剤の3大療法で抵抗してきたが、近年、人間が本来持つ免疫力を高めることで、がんを消滅、縮小させることを目指す4つ目の治療法「がん免疫療法」が注目を集めている。

湘南メディカルクリニック新宿院では、2015年にがん免疫療法を始めた。具体的には、腫瘍細胞を溶解するナチュラルキラー細胞(NK細胞)の性質を利用する。患者から採血し、患者自身のNK細胞を培養、活性化させて再び患者の身体に投与するのだ。

3大療法に比べて、患者の体への負担が小さく、特に抗がん剤のような激しい副作用を避けながら治療できるのは大きな利点。効果も明らかで、ステージ4のすい臓がん患者(45歳/男性)が、抗がん剤とがん免疫療法を進めたところ、発見から3カ月後の病理検査ではステージ2まで改善し、栄養剤の点滴を経て職場復帰できるまでになった例もある。

ただし、このがん免疫療法では、がんが消滅するまでの効果は得られなかった。自由診療で治療費がかさむわりに効果が限定的であったことで、多くの医療機関から"まゆつば"のごとき扱いを受けることになる。

革新的ながん治療薬

免疫療法の効果を制限していたのは、がん細胞に免疫細胞を抑制する作用があったからだ。日本の京都大学本庶研究室と小野薬品を中心にした国際共同研究により、2000年には、がん細胞表面に存在する物質(PD-L1)が、免疫細胞の受容体(PD-1)と結びつくと、免疫細胞の反応が抑制され、がん細胞を攻撃できなくなることが発見されていた。しかし、「がん免疫療法は信頼できない」と抗体医薬技術を有する製薬企業(小野薬品は有していない)から研究開発の協力が得られなかったため、なかなか事態は進まなかった。そんななか、アメリカのバイオベンチャー企業が研究開発協力に名乗りを上げたことで事態は急展開。

そして2014年、免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」が世界各国で承認され、がん免疫療法の状況を一変させた。免疫チェックポイント阻害剤とは、PD-L1とPD-1の結合を阻害する抗PD-1抗体を、がん治療薬として開発したものだ。

小野薬品が開発した抗PD-1抗体薬「オプジーボ」、同様の仕組みを用いる抗CTLA-4抗体薬「ヤーボイ」(2015年承認)の併用は、末期がん患者の2年生存率を、従来療法の10%程度から70%近くまで引き上げた。また、末期がん患者の22%でがんが消失したという。

革新をさらに進化させた治療法

NK細胞の活性化が免疫力に"アクセル"の作用をするのに対し、免疫チェックポイント阻害剤は免疫力の"ブレーキ"を外す作用をする。湘南メディカルクリニック新宿院は両方の作用の利点を生かして、さらに効果の高い療法を開発する。それが、「アクセル+ブレーキ療法®」だ。

考案した阿部吉伸院長は、「がん細胞が押そうとする免疫の緊急停止ボタンに、『オプジーボ』+『ヤーボイ』でフタをすることで、NK細胞は抑制されることなく働くことができ、がんが消える」と説明する。2015年9月から実施している同療法の症例数は、新宿院だけで359例(2016年9月現在)。すべて阿部院長が手がけていて、一人の医師の実績としては日本一の症例数だ。

「悪性リンパ腫や白血病などの血液のがんにはNK細胞が使えないが、固形のがんのほぼすべてに、『アクセル+ブレーキ療法®』は効果を見込める」(阿部院長)

例えば、左乳がんが両肺に転移した55歳女性の患者は、2週間ごとに5回(2カ月半)のオプジーボ+ヤーボイの投与に加えNK細胞の活性化で、がんが消失。また、乳がんの摘出手術後に、脳に転移が見つかった34歳女性の患者は、1クール(5回)にも満たないたった2回の投与で、がんが消失した。

専門外の医師だからできた発想

阿部院長は、もともとは心臓血管外科を専門としていた。本来がんに直接かかわらない医師が、なぜ画期的な療法を生み出すことができたのか。

「『アクセル+ブレーキ療法®』は、がんの専門家からは出てこない発想だったと思う。抗がん剤の専門家は抗がん剤をいかにうまく組み合わせて使うか、手術の専門家はいかに体への負担を少なく手術を行うか、放射線の専門家は陽子線をいかに的確に照射するかに心血を注ぐもの。自身が注力してきた治療法こそ最良と信じたい気持ちもある。私は専門外だからこそ、単純にこれとこれを組み合わせたら効果的じゃないかと思いつくことができた」(阿部院長)

「アクセル+ブレーキ療法®」は、患者はもちろん、がん免疫療法を否定的な目で見ていた医師の間でも注目され始めているという。

副作用が少なく、その人らしく生きられる

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