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培養士の技術力がもたらす、がん治療革新 【湘南メディカルクリニックのがん免疫療法vol.3】

2017年06月 2日
読了時間: 03分30秒

末期がん患者にも効果が期待できるという「アクセル・ブレーキ療法® 」。その治療法には、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)というがん細胞を攻撃する免疫細胞の培養が必要不可欠。しかし、その培養は非常に難しく、患者へ安定的な治療を行っていくためには、高い技術力を持った培養士が必須となる。

「アクセル・ブレーキ療法® 」を裏で支える細胞培養技術

がん治療において高い効果を発揮している「アクセル・ブレーキ療法®」 。これは、湘南メディカルクリニックの阿部院長が考案したがん免疫療法で、がん細胞を攻撃する免疫細胞・ナチュラルキラー細胞(NK細胞)と、免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」「ヤーボイ」を併用するというもの。

NK細胞を用いる免疫療法では、患者本人のNK細胞を採血によって体外に取り出し、培養室で培養して数を増やしてから、再び体内に戻すという手順が取られる。

取り出したNK細胞は容器に入れて寝かしておけば勝手に増えるというような単純なものではなく、その培養には高い技術が必要。同院では細胞培養歴13年のベテランを筆頭に、4人の培養士が質の良いNK細胞を安定的に生産・供給している。

同院は新宿、大阪、仙台の3カ所にクリニックがあり、現在、新宿院内の培養室では約300人分の培養が行われている。培養士の一人が言う。

「NK細胞はとても繊細で扱いの難しい細胞です。特に細胞が増え始めるまでの初期段階が最も神経を使います」

NK細胞の数や活性度は個人差が大きく、健康な人と病人ではもちろん違うし、健康な人同士でも違う。また、同じ人でもその日の体調によって、数や活性度が違ってくるという。

特にがん患者の場合は、それまでに受けてきた治療による影響も大きく、抗がん剤や放射線治療で体が弱っていると、NK細胞も少なく元気が無い場合がある。

smc

「反応が悪く細胞が増えにくい場合には、培養液の濃度を高くして活性化のスイッチを入れてやる必要があります。濃度が高すぎたり、タイミングを誤ったりすると、最悪は細胞がすべて死滅してしまいます。この見極めが一番の難所ですね」

どの検体にも通用するマニュアルは存在しないということだ。だからこそ、培養士には経験とセンスが不可欠になる。

オリジナルの器材を大学病院や企業と共同開発

同院では細胞培養に用いる培養液や培養バッグを、大学病院や企業と共同開発している。

「細胞を浸す培養液には各種ホルモンが入っていて、その刺激によってNK細胞が活性化し増えていきます。培養液のホルモンの配合や濃度などが異なると、細胞の増え方も違ってきます。ここで用いる培養液は、大学病院と共同開発した独自のものです」

培養中のNK細胞は、特殊な透明のバッグに入れられるが、これも車のワイパー生産で有名な株式会社フコクとの共同開発によるものだ。

「このバッグは、"世界でもっとも優れた培養バッグ"といわれています。一見すると普通の樹脂製の袋のように見えますが、酸素は通しながら水分は通さない素材でできており、入口には気密性を保つ工夫が施されています。それにより、pHの調整が可能になり、かつ雑菌の混入も防ぐため、一般的なフラスコでの培養に比べて培養量が増えます」

さらに、この培養バッグには半分に折り曲げることができるという特徴がある。半分にすることでバッグ内の容積が小さくなり、NK細胞と培養液内のホルモンの接触頻度が高まって、細胞活性を高めることができるのだ。

「こうした高性能の培養液や培養バッグのおかげで、細胞培養の生産効率をより高水準で維持できています」

smcこれが培養バッグ。赤い液体が培養液で、この中でNK細胞が分裂し増殖していく。最終的に培養液を200ccまで容量を増やすが、容量が少ない段階ではバッグを折り曲げて使うことが可能。そうすることで、NK細胞の密度が高くなり、活性化が促進される。

最も細胞活性の高い状態で患者のもとへ

細胞の数や活性レベルは、毎日培養士が顕微鏡で観察し、個数をカウントする。30ccの血液からは約1000万個のNK・T細胞が採れるのだが、それを2週間で200倍の20億個にまでもっていく。

「技術的にはNK細胞は1000倍まで増やすことが可能ですが、あえて200倍に抑えています。200~500倍が最も細胞の質が良く活性が高いからです。自分たちが培養したNK細胞が順調に増えて、患者さんが元気になることが、この仕事の最大の喜びです」

smc容器の底の先端部分に、白っぽく沈殿しているのがNK細胞。NK細胞は採取から2週間かけて培養され、200倍まで増やされる。この写真は培養の最終段階のもの。わずか数㏄の沈殿物だが、ここに20億個ものNK細胞が生きている。

細胞が目標の数や活性レベルに達すると、再び培養液の濃度を低くして活性を鎮め、ベストな状態が保たれる。そうして、患者のもとへ届けられるのだ。

現在、「アクセル・ブレーキ療法®」は同院でしか行われていないが、今後、日本全国の病院で受けられるようにするのが、阿部院長の願いだ。

「最適な投与量やタイミングを突き止め、対がんに確かな効果があることを科学的に実証し、エビデンスを獲得することで、より多くのがん患者を救えると信じています。そのため、今年一年かけて臨床研究を行う計画です」

この治療法が全国に広まれば細胞培養の生産力がますます重要になるため、優秀な培養士の存在こそ"鍵"となることは間違いない。

»湘南メディカルクリニックHP

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