原発の「受益」と「受苦」を考える

2015.4.15

社会

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 福井県の関西電力高浜原子力発電所3、4号機の再稼働をめぐる住民らによる仮処分申請で、福井地裁は、高浜原発の再稼働を認めない判断を下しました

 福井地裁の決定では、「想定を超える地震が起きない根拠に乏しい」「使用済み核燃料プール設備の堅固さに欠ける」「原発の運転により住民の人格権を侵害される危険性がある」と指摘されました。そして、原発の新規制基準については、「合理性を欠き、適合しても安全性の確保にはつながらない」と判断されました。

 高浜原発の2基は、福島第一原発事故以降に原子力規制委員会が設けた原発の新規制基準(とても厳しい)に合格していて、現時点で審査をクリアしているのは審査中の15原発24基中、4基のみ。現状で最も安全な原発の一つが”安全でない”として運転を差し止められたことになります

ニュースが”わかる”尊徳編集長の解説

Q同日の社説で、判決内容が原発の停止による経済面でのリスクに配慮していないことが指摘されています。原発再稼働問題の場合、裁判所はどういったリスクを重点的に考えて判決を下すべきなのでしょうか?

A社説の人は、自分の意見として再稼働させたいのが見て取れる。

 個人的には再稼働に大賛成でも大反対でもないけど、社説が言うように原発はコスト的に安いのだろうか?

 確かに、もう建設済みのものだから、初期コストを考えなければ経済的に安いかもしれないけど、建設コスト、点検コスト、廃炉コスト、使用済み核燃料関連コストなどトータルコストを考えたら、本当に安いとは限らない

 それに、社説では司法も総合的に判断すべきと言っているけど、裁判所は独立した司法機関だから裁判官独自の判断でいいんじゃないか?


Q社会学には「受益圏」「受苦圏」という用語があります。消費電力量が生産地ではない都市部に集中するなど、原発問題の根本にかかわるこの概念について、尊徳編集長はどう考えますか?

A放射能の被害はその他の被害に比べて甚大だろうから、このリスクと受益をどう考えるかだと思う。

 火力発電所だって噴煙の公害を被るし、基地の近くでは騒音や墜落の危険がある。原発は福島の例でわかるとおり、その被害が広範囲に及ぶし、生命の危険が大幅に上がる。その反面、設置自治体には莫大な税金が入り、雇用も創出されるし、インフラは他の過疎地よりも充実し、経済活動にはプラスになる。

 要は役割分担で、地産地消にこだわる必要はないと思う。土地の余っている地方、コストの低い地方で生産し、都市部で消費、富を生んで再分配すればいいんだ。東京のど真ん中に発電所をつくるというのは、いろんな意味で現実的だとは思わない。

 「受益」とは消費電力だけではないはず。直接的な「受苦」だけを取り上げては論じられないよ。いずれにしろ、関係者は懇切丁寧に周辺住民に説明を続ける以外ないでしょ。司法はあくまで裁判所の判断で、尊重されるべきは、かかわる人の総意だと思う。
(佐藤尊徳)

[参考:「安全思想、すれ違い 高浜原発再稼働差し止め リスク、抑制かゼロか」(日経新聞朝刊3面 2015年4月15日)]

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