急がば坐れ!~全生庵便り

坐禅をすると何が変わるのか?〜トレーニングとしての坐禅

2015.5.11

社会

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なぜ人は坐禅を組むのか。先入観でやらない人には決してわからないことがある。初めて修行道場に入った日から25年間、毎日坐り続けてきた全生庵の平井住職が、自らの変化を振り返る。

臨済宗国泰寺派全生庵 住職

平井正修 ひらい しゅうしょう

1967年東京生まれ。臨済宗国泰寺派全生庵七世住職。1990年、学習院大学法学部政治学科を卒業後、2001年まで静岡県三島市龍澤寺専門道場にて修行。2002年より現職。2016年4月より日本大学危機管理学部客員教授として坐禅の指導などを行なう。著書に、『とらわれない練習』(宝島社)、『男の禅語:「生き方の軸」はどこにあるのか』(知的生きかた文庫)など。

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禅僧は坐禅で苦楽のない境地を目指す

禅僧は、なぜ毎日欠かさず坐禅をするのだろうか。

「人間はネガティブな生き物。誰しも苦しみを捨て、楽に生きたいと思っている。苦楽のない毎日を生きることができたらどんなにいいでしょう。坐禅は、そうした苦楽の境地を脱するためのトレーニングです。姿勢と心を整え、ひたすらに”一心”を目指します」

心には形がない。形がないものを直接触って整えることはできない。だから、健康になるために生活を整えるのと同じように、心を整えるために坐禅という”型”を使っていく。

「姿勢と呼吸を整えて坐ることだけに集中すれば、渦巻く感情を捨て去ることができます。心と体を一つにして目の前のことだけに打ち込むのが”一心”。私が禅僧として3年間、道場で修行したのは、坐禅はもちろん、朝から晩まですべての行いに一心になることを目指すためです」

平井住職のオールドデイズ

大学卒業と同時に静岡県龍沢寺の修行道場に入り、そこから本格的に坐禅を始めた平井住職。坐禅にしっかりと向き合えるようになったのは、しばらくたってからだという。

「正直、はじめの1年半くらいは、修行道場での生活が嫌で仕方ありませんでした。一変した環境に慣れるのに時間かかったこともありましたが、自分はこの場所で修行していくしかないと決心するまでの期間でもあった。初めのうちは、今日は坐禅中に何を考えようか……なんて思っていたぐらいです。師匠からは、坐禅をすればすべてがわかると言われて、それも信じられなかった(笑)。まるで定時まで時間を潰すやる気のない新入社員のような状態でした。でも、10年修行をするのにこれでは意味がない、と途中で気づいて。結局、期間ではなく、心持ち次第で得るものは変わってくるということです」

坐禅ってどうやるの?ハウツー坐禅

坐禅1

坐禅2

坐禅3

坐禅4

一番大事なのは呼吸法

姿勢が整ったら、鼻から息をはき、鼻から吸う腹式呼吸を行う。はき切れば自然と吸うことができる。呼吸をするたびに1つ……2つと数え、10までいったら1から数え直す。これを「数息観(すそくかん)」という。

坐禅中はいろいろな考えた頭に浮かぶが、とにかく呼吸に集中することが心の鍛錬になる。

坐禅5イラスト/朝倉千夏

 

平井住職

25年間の坐禅で得た”しなやかな心”

そうして25年間、坐禅を続けてきた住職。どんな変化が起きたのだろうか。
「長い修行のせいかわかりませんが、あまり細かいことを気にしなくなりました。心が”しなやかになった”と言えるかもしれません。しなやかな心というのは、沈んでも引きずらず、またすぐに浮き上がれる心です。

人間ですから瞬間的にさまざまな感情が生じるのは当然だし、悪いことではありません。肝心なのは、その感情をいったん捨てて、次に転換していけるかどうか。起こった事実だけを見て、そこから冷静にどうすればいいか考えることが大切です。起こった出来事にプラスやマイナスの感情がくっついたままだと、事実が見えなくなっていきます。そして、仕返しにしか転じられなくなる。

全生庵に眠る三遊亭円朝は、多くの物語を残した落語家の大名人として現代まで語り継がれています。そんな円朝が真打になったとき、自分より前に演じる師匠に、毎回、自分がするはずの噺を先にされてしまったという話があります。困った円朝は、師匠とかぶらない噺を自分で作るようになったんです。これは円朝の転換力。師匠の意図は誰にもわかりませんが、円朝は自分の真打を成功させることだけを考えた。坐禅は、こうした転換力を養ってくれる修行なのです」

坐禅が僕らに与えてくれるもの

禅僧は、修行の一環として毎日坐禅を組む。では、私たち一般人はどういうときに坐禅を組んだらいいのだろうか。

「ありのままの事実を見られなくなったときです。大抵の人は、自分が事実を見ていないことに気づいていません。事実とは、自分の醜い部分でもあるので、直視したくない気持ちがあるのでしょう。よく将来の希望を語る人がいますが、自分の現実を知らなければ、理想の未来が訪れることもないんです。そういうときは、坐禅で現実を見るために訓練するといいと思います」

坐禅道場に行くと、住職が坐禅の心構えを教えてくれる。まずは姿勢をしっかりと整え、自分の呼吸を1つ2つと数える「数息観(すそくかん)」に集中。坐禅中は、数息観ただ一つに集中する。

「淡々と呼吸を数えていきますが、25年間坐禅を続けている私ですら、隙あらばいろいろな雑念が入ってきます。その度に初めに戻って、1つ……2つ……と数え、また雑念が入ったらまた戻る、ということの繰り返しです。

一心になるのは難しいことですが、毎日続けていれば、日常においてもネガティブな雑念が入ってきたときにそれを排除して、自分自身の心を落ち着けやすくなります。病気になってから健康に気遣うのではなく、健康なうちに体づくりをしておくのと同じように、心も普段から安定を保てるようにトレーニングしておくことが大切なんですよ」

皆さん、心が乱れる状況に陥る前に、坐禅で心を整える練習をしてみてはどうだろう。

全生庵までのアクセス

住所:台東区谷中5-4-7

最寄り駅:JR・京成電鉄 日暮里駅より徒歩10分/地下鉄千代田線 千駄木駅(団子坂下出口より徒歩5分)

 

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