2016年4月にAKB48を卒業し、組織を率いる立場ではなくなった高橋みなみさん。しかし、アーティストとしてファンを牽引するという意味では、新しいリーダー像を作っていかなければならない。古いタイプのリーダーである尊徳編集長に、そんな”たかみな”はどう映るのか。新旧のリーダー論を交わし、これからの時代に必要なリーダー像を見出す対談。
リーダーの要件って何だ?
尊徳 昔のリーダーは機関車みたいな人が多かった。動力を積んで他の車両を引っ張っていくんだけど、田中角栄氏なんか、まさにそのタイプ。ただ、ちゃんと下の人の面倒を見る人だったって聞くね。
角栄氏は目白の私邸に人を集めては誰かを罵るんだけど、会が終われば、その人を裏へ連れて行って新聞紙でくるんだ札束を渡していたらしい。厳しい顔を見せる一方で、フォローを忘れないから、みんながついていったんだと思う。今の時代は通用しないし、それが褒められた行為かはわからないけど、それが僕の知っているリーダー像かな。高橋さんはリーダーってどういう人のことをいうと思う?
高橋 リーダーの条件っていくつかあって、(自著の)『リーダー論』(講談社)では5つ(「理解者になる」「チームをつなぐ」「導く」「手本を示す」「任せる」)ほど挙げましたが、どれも不可欠だと思っています。でも、究極は”周りが見えていること”なのかもしれません。
視野を広く持って、何かメッセージを打ち出すときも、一人ひとりが違う受け取り手だっていうことを忘れてはいけないと思います。
尊徳 僕は『リーダー論』を読んで、高橋さんはすごくロジカルに言葉で伝えられる人だと思った。相手にこちらの考えを理解させるって、人を動かす上で大事なことだよね。特に高橋さんが束ねてきたAKB48グループは女性の集まりだから。
男性ならリーダーが背中を見せて「ついて来い」と言うだけで成立するかもしれないけど、女性だとそうはいかないところもあるだろうし。
女性といえば、東京では小池百合子氏が知事になり、イギリスではテリーザ・メイ氏が首相になり、アメリカではヒラリー・クリントン氏が大統領候補になったけど、女性のリーダーってどう思う?
高橋 やっぱり性別が違うと考え方も根本的に違ったりするので、何かを変えたいときには、もはやリーダーの性別から変えてしまったほうが、がらりと変わるんじゃないかなとは思いますね。
尊徳 そう、まさに! だから民進党も今までとはまったく違うタイプの蓮舫氏を代表にしたほうがいいと僕は思うんだよ。それぐらいドラスティックに見せないと。しかし高橋さん、25歳でそのセンスはすごいね。
リーダーは”周りが見えていること”が必要(高橋)
“みんな”ではなく”一人ひとり”と向き合う
尊徳 AKB48ではメンバーの一人ひとりの立場を理解して、それに即した言葉を投げかける、そこに力を入れてきたのかなという印象だけど。
高橋 そうですね。もともと人間観察は好きですし、”みんな”といっても、最後は一人ひとりを見ないと、まとまらないので。メンバーが10人いても、リーダー1人対10人じゃなくて、1対1が10個あって輪ができる。だから、どれだけ、その子と向き合えるかを大切にしていました。
尊徳 加入の時期がかなり離れていたり、遠い立場の後輩たちからも慕われてるんでしょ? 聞いた話では、高橋さんを「神様みたい」とまで言った後輩(木﨑ゆりあ)もいたそうだけど。
高橋 私は1期生ですが、同じグループ内に15期までいたんです。メンバーが次々に卒業して、上の世代が圧倒的に少なくなるなかで、若い子に伝統を教え込むのは難しい。私たちが下の世代の子たちに合わせたほうが早いって、発想を変えていきました。
例えばあいさつにしても、本当は後輩の方からしてほしいけど、後輩にしたら先輩は怖いわけだし、私たちからくだけた感じでいけば、その怖さも和らぐのかなって。
それで大島優子も私も、自分たちが”下りていく”っていう考えに至ったんです。だから加入時期や年齢が離れた子たちとも、わりとフラットに話していました。先輩後輩というより、仲間として。
尊徳 下から壁を登ることは難しいから、溝を埋めるために、上の人が下りていくって大事な感覚だろうね。高橋さんの場合は、そのフランクさに後輩が寄っていったということなのかな。
高橋 フランクさには自信があります(笑)。木﨑に関して言えば、名古屋のSKE48から東京のAKB48に移籍してきて、いきなりチーム4の副キャプテンにも任命されて、戸惑うこともあったと思うんです。
その頃に、木﨑と私と同期の峯岸みなみや何人かで食事に行くことがありました。峯岸たちの到着が遅れたので木﨑と2人で少し話をしていたんですけど、「今って絶対これが大変でしょ?」って聞いてみたら「なんで知ってるんですか!」ってびっくりしていて。後で、自分で言わないことを私が知っていたのがうれしかったんだって言ってくれましたね。
リーダーの決断と孤独
尊徳 リーダーの大事な仕事って、決断することと、決断して出た結果に責任を取ることだと思うんだよね。部下が失敗しても「俺が決めたことなんだから、俺がケツを持つよ」と言えないといけない。
まあ、僕は最後までグダグダして決めないんだけど(笑)。高橋さんも卒業以降、いろんなことを自分で決める場面が増えたでしょう?
高橋 そうですね。でも、自分一人のことを決めるのは気が楽です。卒業前は、新しい企画を決めるのは秋元(康)さんたちでも、それに対してメンバーみんながどういう気持ちでまとまっていくべきかっていう方向性は、私が直後の発言などで決定づけていたところもあったし、AKB48のコンサート演出やセットリストを考えることもありました。
それって、その受けが悪ければ私のせいです。背負うものがあると決断力が鈍る瞬間がどうしてもあったんです。
尊徳 鈍るよ、それは。企業の社長もそうだよね。社員が何千人といればその家族も含めて、大勢の人生を自分の決断で左右するわけだから。勝負をかける選択のときは脳みそがちぎれるほど考えなくちゃいけない。
高橋 編集長にもそんな局面ってあったんですか?
尊徳 あるけど、やっぱり俺はぎりぎりになるまで決められない(笑)。もうここで決めないと崖から落ちちゃうみたいなところまで行かないと。で、言われるんだよ。「その選択をするなら最初から言えばよかったのに」って。
高橋 いや、でもそう簡単に決められませんよね。現実の問題に対する決断って、どれが正解なのか誰にもわからないと思うんです。右も左も正解っていう場面もあれば、両方が不正解の場面もあるだろうし。選んでみて、その選択を正解にしていくしかないのかなとも思います。
尊徳 選択した結果が悪ければ、次はこの手かこの手を打つ、みたいに枝分かれさせて、最悪の状態を避けていくのも手だろうね。これは、”昭和の参謀”といわれた瀬島龍三さんの受け売りだけど。
高橋 なるほど、そうやってリーダーの選択を助けるんですね。私は、選んで失敗したときには、まず「ごめん!」と言える人でありたいなっていうのはありますけど。編集長は、多大なストレスを抱えたときはどうしていますか?
尊徳 酒を飲んだり、あえて考えないようにするかな。最後は「なるようにしかならない」と思うようにしてる。結構、一人でいるね、そういうときは。
高橋 わかります。一人でいるの、私も好きです。
尊徳 ロウソクに火をつけて、こう、じーっと。
高橋 結構やばい! けど、わかるかも(笑)。苦しいときって、人に言えないし、言いたくない。
尊徳 最近は、全生庵っていう禅寺に行って坐禅を組んでみたりもする。でも、なかなか”無”にはなれなくて、この前も「尊徳、息遣いがちょっと違う」って言われた(笑)。リーダーにとって、静かな空間で一人になる時間は、あっていいと思う。
高橋 一瞬の孤独って大切ですよね。
後継者を見つけないと組織が腐る!
尊徳 ちょっと、これ聞いてみようかな。サラリーマン社長にとって一番大きな仕事って何だと思う?
高橋 ええっ、なんだろう。
尊徳 一番最後の仕事なんだけど。
高橋 最後……私の本の中だと、自分がずっとそこにいるわけじゃないので、任せることも大切、人を育てなきゃいけないって書きました。企業となるとまた違いますよね?
尊徳 いや、僕が考える答えもまさにそれ。オーナーでもないのに実力会長で残っていて、社長は何度も変っているとか、そういう人がトップにいると組織は腐る。
僕が知る企業の社長は、「俺がもし明日死んだら、こいつを次の社長にしよう」っていつも考えてる。組織を腐らせないためにも、どこかで権限は譲らないといけないんだよね。高橋さんは次の総監督に横山(由依)さんを指名したわけだけど、なぜ彼女だったの?
高橋 横山しかいなかったんです。横山は9期生だけど、一緒にいて同期のように思えるぐらい、AKB48への愛に満ち溢れていました。私自身、ダンスが下手な劣等生だったけど、AKB48が好きという気持ちを原動力にしてやってこれたので、「彼女なら」と思いました。
私とはタイプが違うのも良かったと思っています。2代目は相当つらいと思うんです。私が長くAKB48にいて、最初の総監督にもなったので、”総監督ってこういうもの”というイメージができてしまいました。
でも、私は自分が常に正しいとは思わないし、AKB48が置かれる状況や時代によって、リーダー像も変わるべきだと思うんです。私は1期生なので「行くぞ!」って号令をかけてきたけど、9期生の横山には後輩もいれば、先輩もいる。先輩には甘えて、後輩には「横山さん、大丈夫ですか、手伝います」と支えられながらいくリーダーもいいのではないかと思ったんです。
尊徳 卒業してから、横山さんが相談に来たことはある?
高橋 今のところ、ないですね。私から「大丈夫?」って聞かない限り、彼女は言ってこないと思います。遠慮や、プライドもあると思うし。
私が卒業してもうすぐ半年。今が一番、大変な時期だと思うんです。彼女自身が学んで苦しんで、乗り越えていくべき場面だと思います。
尊徳 できると思ったから指名したわけだもんね?
高橋 もちろん、そうです。ただ、”できる”のラインをどこに置くかっていう問題はありますね。私のように話すとか、そこに置くのは違うと思うんです。
私がバトンを渡した後、横山は非難されたことがあったのですが、そういう意味では、苦しませてしまったな、申し訳ないなと思っています。でも、バトンタッチの一年の間にも彼女は成長したし、私がいなくなってからが本番なので、ここからまた大きくなってくれると思います。
目指せ、オピニオンリーダー
尊徳 高橋さんも「AKB48」「総監督」という肩書が無くなって、これから本当のリーダーになっていけるかどうかが、楽しみなところだね。例えば、同世代の人たちの考え方に影響力を持つリーダーになれるかもしれない。
高橋 ありがとうございます。なれるのかな……?
尊徳 どうやればなれるだろうか。メディアの編集長をやっている僕も、組織のリーダーだという自覚はないし、リーダーに向いているとも思わないけど、オピニオンリーダーにはなりたいと思ってるんだよね。
僕が何か言って、それは常に必ず正しいわけじゃないだろうけど、「賛成だ」「反対だ」と思う人たちから意見が出てくるような存在になりたい。まあ、それだと世の中の半分ぐらいからは嫌われるわけで、そこが憂鬱なんだけど(笑)。
高橋 それは誰だって怖いですよね。嫌われるの、イヤですもん。
尊徳 高橋さんは大学で講演をしたり、参院選のテレビ特番に出演したり、スピーカーとしての活動の場も増えているけど、難しいところはある?
高橋 いっぱいあります。知識が足りないですし。でも、そんな私だから、同じような知識量の人が時事問題に興味を持つ入口になれるかもしれないと思います。
今、「高橋みなみの『これから、何する?』」(TOKYO FM/毎月~木、13時~14時55分)というラジオ番組でニュースのコーナーをやってるんですよ。毎回、「そんなことも知らないの?」と思われそうなほど素朴な質問をして、専門家の方に答えていただくんですけど、すごく楽しいです。
尊徳 若い人の知識の少なさを年配の人なんかがたたくのは、くだらないよね。「いまどきの若い者は」って言うけど、自分だって若い頃に年配の人と同じ知識や考えを持っていたかといったら、それは全然違ったはずなんだから。
50代に比べて20代の人の知識は少なくて当然だし、世の中は若い人もいて成り立っているんであって。高橋さんは「私は25歳の代表だ!」って胸を張ればいいと思うよ。偉そうにすることはないけど、卑下する必要もない。
高橋 ありがとうございます。私は14歳でAKB48に入って、周りに大人が多い環境で、昔から大人の方と話すことは好きだったんです。圧倒的に知識や経験のある人と話すのって勉強になるし、今日のこの対談にも刺激をいただいています。
だから、私の言葉がもし、同年代の人に少しでも影響を持つなら、まずは「上の世代を敬遠していたらもったいないよ」「話したほうが得するぞ」って言っていきたいですね。