平将明の『言いたい放題』

マーケットが縮小する日本の経済 いまこそ”外需”を取り込め

2016.3.10

政治

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2016年2月4日、6年半にわたって交渉してきたTPP(環太平洋経済連携協定)の調印式が行われました。今国会中の批准を目指していますが、日本の産業にとってこれが何を意味するかわかるでしょうか? ”外需”の必要性を説く平議員に詳しく聞きました。

日本に居ながらにして外需を得る方法

大筋合意に至ったTPPによって日本の産業はどう変わるでしょうか? それを語る前に、国内の問題点を認識する必要があります。

日本はこれから人口が減少するので、需要が自然に増えていくことは考えづらい。また、それをかつての景気対策のように公共事業で補うのは国家財政上、限界があります。かといって一般的な地域の企業が、輸出したり海外へ進出したりすることをリアルに感じるのは難しいこともあるでしょう。そんな日本の経済を伸ばすには、”日本に居ながらにして外需を取り込む政策”が必要です。

政府の試算では、TPPが発効されるとGDPが14兆円増えて、中小企業にも恩恵があるとしています。しかし、ピンときていない方が多いようです。やはり具体的な政策にブレークダウンして示す必要がありますよね。

私の考える”日本に居ながらにして外需を取り込む政策”は3つ。まず1つ目はインバウンド。2つ目はものづくりの輸出強化。3つ目は一次産品、特に農産品の輸出強化です。

以前この連載でも話しましたが、インバウンドには国家戦略特区が有効で、私の地元の大田区では民泊を条件付きで認めるようにしました。民泊を利用して長期間滞在する外国人旅行者が、その地域の商店街や飲食店で消費活動をすることで地域全体が潤い、観光のプロモーションも効いてくる。まさに町のそば屋さんや銭湯なども外需を取り込むことができるのです。

2つ目のものづくりの輸出強化は、地域経済への貢献が高い「コネクターハブ企業」と呼ばれる企業が鍵になってきます。これらは、政府の内閣官房のまち・ひと・しごと創生本部が提供するビッグデータを基にした地域経済分析システム「リーサス」で抽出することができます。

コネクターハブ企業が果たす大きな役割

「コネクターハブ企業」というのは、地域の企業とたくさんつながっている”ハブ度”が高く、地域からより多くの仕入れを行い、地域外に販売している企業のこと。輸出の対応が可能なコネクターハブ企業で、輸出先がTPP参加国だとしたら、今回のTPPによって貿易が増える可能性がありますよね? リーサスによって抽出されたコネクターハブ企業に、集中的に対策や促進策を動員して売上が上がると、ハブの先にいる中小企業(例えば町工場)の業績も上がるという相関関係になります。

3つ目の農産品の輸出強化に関しては、市場と空港を連結させて輸出拠点にするというアイデアがあります。例えば、大田区には日本最大規模の青果市場である大田市場があって、日本中の農産物が集まってきます。そこを拠点に、羽田空港と連結させて輸出を促進させようというものです。

今、大田市場には日本人のバイヤー(買参人)しかいませんが、TPPによって輸出がしやすくなるので、外国人バイヤーの導入を促進していきます。そして、市場でせり落としたモノは空港を経由して海外に出ていくようになります。

これまでは国内の需要だけを見ていたためにどんどん売れる量が少なくなり、デフレで単価が下がった結果、農家は儲からないようになってしまいました。しかし、検疫や税関などのボトルネックを極力解消し、航空便を活用した流通網を整え、農産物を日本中から集めてアジア中に配るという機能を市場に持たせれば、農家もアジアの需要を取り込むことができます。

経済成長を続けるアジアには富裕層も増えていますし、単価も上がる可能性があります。国内の小さな胃袋が相手のときは、ちょっと生産量が増えるとすぐ相場が落ちたりして不安定でしたが、アジア全体が相手なら、多少量が増えてもそれによって単価が落ちる可能性は低いでしょう。単価が上がって量も増やせる環境が実現すれば、海外の成長をビルトインできるようになり、儲かるようになります。

TPPによってビジネスチャンスは広がる

TPPというのは、モノや人、お金の流れがスムーズになって障壁がなくなるということ。競争が激しくなる反面、輸出もしやすくなります。そんななか、輸入で安いモノが入ってくるから困るというのは、いわばディフェンスモード。しかしその状態のままでは、国内のマーケットが縮小傾向にある今はどんどん厳しくなっていきます。

そうではなくて、チャンスととらえるべきなのです。TPPの大筋合意によって、今まで動かなかった日中韓FTAやRCEPなどの大きな自由貿易圏を作ろうという動きも進み始めました。いずれ韓国もTPPに参加するようになるでしょう。

内需もとても大事ですが、今後の日本には外需も大事。アジアも豊かになり、高品質、高付加価値、安心安全が求められるようになってきた今、日本が”攻める”環境は整ってきているのです。

個人農家も本当に良いモノを作っていればチャンスが広がります。決して大企業や大型農家しか生き残れないという話ではありません。一方で、何の努力もせず、環境変化に何も対応せず、それでダメになったからなんとかしてくださいという人が増えたら、この国は成り立ちません。TPPによる変化を前向きに受け止め農業も変わらなければなりません。

やってみなけりゃわからないこともある

 

アメリカと日本との徹底的な違いは、アメリカは多少の制度的な欠陥があったとしても、まずは実験的に始めて、修繕しながらことを進めていくこと。一方、日本は完璧を目指すからとにかくことが進まない。「まずはやってみて、足りないところは後で補填すればいいや」という感覚がないのだ。

民泊を例にとってもそう。旅館業法があるために、需要が勝っているにもかかわらず、屁理屈をこねて民泊を認めない既得権者たち。何でもかんでも認めればいいというものでもないが、やってみなけりゃわからないこともたくさんある。しかも、これだけ変化の速い時代に、完璧な制度設計を求めていたら、世界に遅れてしまうのは明白だ。

TPPに関しても、国内農業を守るという観点からなかなか進まなかったが、何とか批准するところまで来た。すると、頑なに参加してこなかった韓国が相当焦ってきている。そう考えても、TPPは日本全体にとっては、大きな効果をもたらすものだと考えられる。

戦後の焼け野原の中、日本は圧倒的な経済成長と技術革新をしてきた。追い込まれれば底力を出せる民族なので、TPP開始後も、発想の転換で国際競争力がある一次産品がたくさん生まれるはずだ。