佐藤尊徳が聞く あの人のホンネ

SUPERな26歳 五嶋龍が見た日本 ヴァイオリニスト・五嶋龍×尊徳編集長

2015.3.10

社会

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写真/若原瑞昌 文/編集部

ヴァイオリニストでありながらハーバード大で物理学を修め、事業家としても活動。趣味の空手は三段で、おまけに鉄道オタクの一面も持つ五嶋龍。日本人として世界を相手にする龍君にとって、今の日本はどう見えているのだろうか? 20歳以上歳の離れた尊徳編集長が、スーパーな26歳を直撃。

 ヴァイオリニスト

五嶋 龍 ごとう りゅう

1988年7月13日生まれ。アメリカ・ニューヨーク出身。ハーバード大物理学専攻卒。ヴァイオリニスト。7歳でコンサート・デビュー後、ソリストとして日本国内をはじめ世界各地のオーケストラや著名な指揮者らと共演。「情熱大陸」(TBS系)などのテレビ番組や海外メディアからも注目を集める。使用楽器は、日本音楽財団より貸与された1722年製のストラディヴァリウス「ジュピター」。日本空手協会参段。ニューヨーク在住。

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株式会社損得舎 代表取締役社長/「政経電論」編集長

佐藤尊徳 さとう そんとく

1967年11月26日生まれ。神奈川県出身。明治大学商学部卒。1991年、経済界入社。創業者・佐藤正忠氏の随行秘書を務め、人脈の作り方を学びネットワークを広げる。雑誌「経済界」の編集長も務める。2013年、22年間勤めた経済界を退職し、株式会社損得舎を設立、電子雑誌「政経電論」を立ち上げ、現在に至る。著書に『やりぬく思考法 日本を変える情熱リーダー9人の”信念の貫き方”』(双葉社)。

Twitter:@SonsonSugar

ブログ:https://seikeidenron.jp/blog/sontokublog/

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ヴァイオリニスト・五嶋龍×尊徳編集長【SUPERな26歳 五嶋龍が見た日本】電子雑誌『政経電論』

突き抜けた龍青年との出会い

尊徳 数年前、僕が別の経済誌の編集長をやっていたときに、ニューヨークにいた龍君から僕宛てに「会いたい」とFAXが来た。日本の法人向けに仕事をしているから取り上げてほしいと。面白い青年だと思い来てもらったら、”ヴァイオリニスト・五嶋龍”だった。ハーバード大で物理学を専攻しながら、法律事務所でインターンとして勤め、小さな経済誌の編集長に会いたいと連絡するそのバイタリティーはどこから来るのかな?

五嶋 ハーバード大学に進学したことで、別世界の非常に刺激を受ける仲間に影響されたこともあります。通常、ヴァイオリニストはコンクールなどで優勝して世に出てくる方が多い。でも僕は7歳の時からコツコツとキャリアを積み上げてきました。そんななか、クラッシックで成功するためには自分から売り込んでいかないといけない、とその頃気づいたのです。

演奏がうまければ振り向いてもらえるという時代はもう終わっていました。当時、僕は世界では無名ですから、プロモーターのほうから寄ってきてはくれません。また、コンサートは開催の約2年前から仕込みをするのですが、そこには裏の努力が必要。ヴァイオリンの技術だけ極めれば成功するというものでもありません。社交性や行動力も必要で、尊徳編集長に連絡したのも必然の結果です。

ストラディヴァリウス
日本音楽財団より貸与された1722年製のストラディヴァリウス「ジュピター」

尊徳 小さな頃からヴァイオリニストとして注目され、ハーバードで物理学を学び、法律事務所でインターンというのは一貫した行動だったわけね(笑)。突き抜けた感覚を持つ龍青年は、日本の同世代を見てどう思う?

五嶋龍

ニューヨーク州では事業の立ち上げから10年間は無税ですよ(五嶋龍)

写真/若原瑞昌

五嶋龍から見た日本の20代

五嶋 全体的に行動力がないというか、リスクを取ることをしないから世界が広がらないのではないかと思います。自分が思い通りにできる範囲で行動するのは楽ですが、広がっていきませんし、大きな成功も生まれません。例えば留学をするとか、最初は退屈だと思っても、自分の知らない世界をのぞくのは必要なことだと思います。知らない言語圏に行ったら精神的なトレーニングにもなりますし、居心地の悪い場所に行くことによって、逆に居心地がいい場所がわかります。

尊徳 龍君は小さい頃から特殊な環境下で育ったから広い視野を持つようになったけど、ある程度は大人がそういう教育をしていくことも大事な気がする。

五嶋 そうですね。年齢とともにリスクテイクを避けるようになりますが、若い頃に壁を経験していなければそれも乗り越えられなくなります。だから、周りでリスクセットされた環境を過ごすことは、土壌をリッチに仕立て上げるのにはよい実験材料となるように思います。そして成長とともに自分で考えるようになるのではないでしょうか。

人生が長くなればなるほど、それまでの人生を否定したくないから、経験していないリスクを越えようとしないで、殻に入って自分を守ってしまうのではないでしょうか。

日本は未来に投資しない国?

尊徳 例えば龍君が政治家で、若者がリスクを取らないことを危機だと感じたらどうする?

五嶋 そうですね……1つは義務付けること。留学を必須科目にするとか。もう1つはインセンティブを与えること。中国では現にそうなっていて、海外、特にアメリカで勉強してきた人は、いくつかの分野の仕事で給料が高くなります。

日本では、留学をしたらインセンティブどころかロスさえ出かねません。3年前、僕の同期はせっかくアメリカに留学したのに、帰国したら就職ができなかった。リスクテイクして努力した人には、ベネフィットをきちんと提示する、ということで幅を広げさせることが必要かと思います。

それから、”出る杭は打たれる”という傾向がやはり日本にもあって、ユニークな行動はよほど慎重にしないと、逆にバッシングされたりします。事業を立ち上げたときの税の優遇システムについては、ニューヨーク州では立ち上げから10年間は無税です。日本は目の前のことしか見えてなくて、未来に向けての投資には、ときには時間がかかることを考慮してほしいです。

尊徳 僕も事業を立ち上げたから、龍君が言う日本の制度の未成熟さはよくわかる。銀行口座は簡単に作れないし、赤字企業にも外形標準課税を掛ける。起業する人に本当にこの国は冷たい。これから育てていこう、とかないよね。既得権を守ることには熱心だけど、「勝手に大きくなって」という感じだから。

でも、それがわかるには海外に出て比べてみないとね。雇用を生み、消費税を納めて赤字でも踏ん張ってる企業を応援しないような社会で、誰がリスク背負って事業を立ち上げるんだ!と。行政官も政治家も実際に起業を経験してみろって思う。シンガポールも中国もエリート官僚たちはほとんど留学経験があり、異文化に触れているから、自国の矛盾も見えるのだと思う。それに比べて日本は内向き。

五嶋龍、佐藤尊徳

そのバイタリティーはどこから来るんだ?(尊徳)

写真/若原瑞昌

お金持ちは社会に還元を!

五嶋 僕の父もベンチャーキャピタルをずっとやっていましたが、日本でやるとボーナスがないと嘆いていました。会社のお金をある会社に投資して大きくキャピタルゲインをあげても、自分には見返りがない、ということは、頑張っても頑張らなくても同じ、ということになってしまいます。アメリカがすべていいとは思いませんが、自分が貢献したことが大きく反映されますから、やりがいもあると思います。

尊徳 まさしくその通り。でも、僕は一方で政治は富の再分配機能を果たすべきだと思う。税金を効果的に使って社会的弱者を助ける。それが機能しなければ、格差が生まれて、世相も乱れる気がするけど、どうだろう。

五嶋 優秀な人が大きな対価を得るシステムだけでは当然格差が生まれます。だから、お金持ちは社会に還元しなければいけないと思っています。ある程度の成功者は、社会に投資しなければいけない仕組みを作るべき。格差は生まれますけど、所得の低い人も社会階層が高くなるような循環社会を作らないと経済は活性化しません。

成功者はヒーローであるべき

尊徳 アメリカでは、カーネギーも、バフェットも、ビル・ゲイツも成功者たちは、財団を作って社会貢献を堂々とする。一方日本は隠匿の文化だから、成功者たちは隠れて寄付をする。かつて松下幸之助翁も、寄付をしたときに名前を出さないように、と言ったそうだ。なぜなら、日本にはひがみ・やっかみが横行しているから。でも賞賛されるならもっと寄付するだろ? 誰だって褒められればうれしいんだから。日本にはもっと素直に成功者を尊敬できるような教育が必要だと思う。

五嶋 日本でもっとヒーローが生まれるべきですよね。成功している人を賞賛はしながらも、どこかでネガティブな感情があるように思う。それから、子供の頃から自分の持っているものを社会のために費やす、という意識を身につけていくことが大事。「ああいう人になりたい」というヒーローに出会うことは若者の指標になる。そういう意味でも名誉を得て成功した人が本当の意味でヒーローになってほしいと思います。

尊徳 お金持ち(成功者)も手本になるようでなければいけないね。

【後半】ヴァイオリニスト・五嶋龍 事業家としての顔