アメリカ大統領選挙の結果、バイデン氏が勝利した。バイデン氏の獲得総数は7400万票、トランプ大統領が7100万票となり、双方とも12年前にオバマ氏が記録した6950万票を上回る結果となった。バイデン氏はすでに1月の政権発足に向けて動き出しているが、その際にも注目されるであろう人物がいる。それは、バイデン政権で副大統領になるとみられるカマラ・ハリス氏(Kamala Devi Harris)だ。最近メディアでも注目が集まるこの人物が副大統領に就くということが、アメリカの未来においてどのような意味と可能性を持つのか考えてみたい。
カマラ・ハリス氏が示す可能性とは
簡単にカマラ・ハリス氏のプロフィールを紹介すると、ハリス氏は1962年10月20日、カリフォルニア州で、ジャマイカ出身(黒人系)の経済学者の父とインド出身の医学研究者の母との間に長女として生まれた。カリフォルニア大学を卒業後は検察官として活躍し、2011年から6年間カリフォルニア州の司法長官を務めた。2016年にカリフォルニア州選出の上院議員となり、現在に至っている。以上が簡単な彼女のプロフィールであるが、アメリカ国内の人種、宗教的な分断が続くなか、ここからいくつかの可能性を感じることができる。
初の「女性」であること
まず、ハリス氏はアメリカ建国史上初めて女性の副大統領となる。歴代の政権トップを調べたらすぐわかるが、これまでアメリカでは大統領も副大統領もすべて男性だった。ドイツのメルケル首相やニュージーランドのアーダーン首相など、他の欧米諸国では女性指導者の台頭が目立つが、世界をリードしてきたアメリカで女性が指導者の地位に就くことは、今後の女性の人権や社会進出にとっても大きな意義があることだろう。
黒人系であること
次に、黒人系だということだ。今から12年前、オバマ氏が初めて黒人として大統領になった際、アメリカだけでなく世界中で大きな興奮と勇気を生まれた。副大統領以上の職に黒人が就くのはオバマ元大統領が初めてであったことから、副大統領の職に黒人が就くのもハリス氏が史上初めてとなる。
インド系であること
最後に、インドにルーツがあるということだ。インド系が副大統領以上の職に就くのももちろん史上初であるが、バイデン氏が勝利宣言をした際、インドでもハリス氏を祝福する声があちこちで上がった。モディ首相はツイッター上でバイデン氏を祝福するだけでなく、「これはインド系アメリカ人にとっても誇るべきことであり、あなたの支援とリーダーシップによって米印関係が発展することを願う」とハリス氏も祝福した。
以上のように、女性、黒人、インド系ということで“初めてづくし”となったわけだが、バイデン氏には選挙戦の前から「多様性」で戦うという戦略や想いがあったのではないだろうか。
バイデン氏が目指す多様性の奪還
2009にオバマ大統領が誕生した際、確かに世界中で多くの人々が感動したことは間違いないが、その後の8年間で生まれたのは決して良いことだけではなかった。2017年のトランプ大統領の誕生によって、移民・難民を排斥しようとする白人至上主義など極右勢力が台頭したと思いがちだが、実はそういった過激な考え方は、経済的な不満を抱える白人の若者を中心にオバマ政権時から高まり、トランプ政権下でさらに勢いを増したのである。4年前にトランプ氏が勝利したのもそれが背景にある。
よって、バイデン氏からすると、オバマ政権の8年間で人種、民族、宗教を超えた多様性を強固なものにしたかったが、4年前の選挙ではそれが否定される形となったことから、何としても今回の選挙で勝利しなければならないという強い覚悟と決心があったのではなかろうか。そして、それを実現するためには人選を戦略的に進める必要があり、ハリス氏の「女性」、「黒人」、「インド系」という多様性を活かしたいという狙いがあったと推測できる。
では、ハリス氏にはどんな可能性があるのだろうか。ずばり言うと、バイデン大統領後に史上初のアメリカ大統領になるという可能性だ。米国勢調査局の予測によると、2045年までに白人が米国人口の半数を割り、黒人やヒスパニック、アジア系など非白人層が多数派になるというが、その人口推移を考慮すれば、多様性を求める政治的声は今後いっそう高まることが予想される。そういった白人が少数派となる未来が来るのであれば、ハリス氏の指導者への就任は民主主義の理念に照らしても決して首を傾げるものではない。そういう意味で、今回の大統領選挙は多様性の勝利とも表現でき、アメリカの未来へ一つの灯りをともしたともいえるだろう。
来年1月、バイデン氏が大統領になるときにはすでに79歳である。高齢を考えても今後最大8年の政権運営ができるかはわからない。バイデン氏の中には、自分は“通過点としての大統領”という意識もあるのではないか。自分が通過点としての大統領を全うし、その後はハリス氏にバトンを譲るというシナリオは、実は最も現実的かもしれない。