「増田レポート」で驚いている場合ではない。惰眠をむさぼる自治体を尻目に思い切った打開策で復権を果たし、一歩先行く市町村は少なくない。だがその一方で「消滅可能都市」返上が怪しそうな場所も存在する。
[大規模農業]北海道帯広町
農業所得が群を抜いている地域。日本で唯一といっていいほど大規模農業を実現することができ、優れた作物を出荷。同じく北海道の幌加内などは日本一のそばの産地として確固たるブランドを確立している。
[若い世代の農業者多数]秋田県大潟村
秋田県で唯一、人口が増加傾向。比較的若い世代の農業者が多いこと、農業所得水準が高いことが理由として挙げられる。
[復興への意志]福島県いわき市
復興の流れもあり、人口・地価ともに高騰。風評被害に負けまいと、いわき産野菜や固定種の復興に力を入れている。中心となっているのは夜明け市場、白石ファーム、萩フランス料理店、いわきトマトランドなど若手経営者が奮闘している企業。
[民意に沿った地域づくり]千葉県佐倉市
不動産デベロッパーである山万が担うユーカリが丘は人口増の傾向。自治体やかつてのニュータウンが失敗した安易な団地増設ではなく、計画的な増設かつヒアリングを重視し、民意に沿った地域づくりを行っているのがポイント。
[高校卒まで医療費タダ]石川県川北町
金沢市のベッドタウンを標榜し、若いファミリー誘致のため高校卒業まで医療費ゼロ、保育園一律年間2万円を実施、人口増に成功。
[”小粒”が武器]鳥取県日吉津村
米子市との合併を拒否、小さな村を武器にコミュニティ活動の強化などきめ細かい住民サービスを展開。ハローワークや保健所との連携も極めて活発で、人口増に成功。
[”安近短”を前面に]静岡県熱海市
“超有名温泉町”が災いし殿様商売の結果、バブル以降客足が遠のきゴーストタウン化。だが”安近短”で首都圏客にアピール、また若者の地元回帰や住みやすさを前面にした定住者策が成功し復権しつつある。
地方創生の良いお手本[1]
島根県海士町(あまちょう) ◆2040年の人口予測:2300人→1300人
「離島の僻地」を逆手に取りブランド力アップ
日本海に浮かぶ絶海の孤島・隠岐にある町。過疎化・少子高齢化に長年苦しみ、国や県の補助金に依存してきが、100億円に迫る地方債と地方交付金大幅カットのダブルパンチに直面した町民は、離島・僻地をむしろ差別化のための原動力と捉え、「攻め」「守り」の両面作戦「自立促進プラン」を2004年にスタート。
まず「守り」として、町職員給与の大胆カットや職員削減などで経費を削減。これに関しては別段珍しくもないが、「すこやか子育て支援条例」を作って浮いた予算の使い道を島再建のための先行投資に注入することを明快にすることで、町職員や住民たちのモチベーション低下を防いだ点がミソ。
一方「攻め」は、豊かな自然を前面に出した”一点突破型産業振興策”で、「島まるごとブランド化」を鮮明に打ち出し、「島じゃ常識!さざえカレー」の販売や「隠岐海士のいわがき春香」の養殖化とブランド化、人材育成も目指す第3セクター「ふるさと海士」などを名前にもひと工夫。鮮度バツグンの新冷凍技術CASをいち早く取り入れ高付加価値を目論んだ魚介類の商品化も行ない実績を挙げている。事実、メディアにも盛んに取り上げられ他県からの視察団も詰め掛けている様子で、島内の雇用先も増加し移住者も100人を大きく超えたという。
地方創生の良いお手本[2]
徳島県上勝町◆2040年の人口予測1550人→840人
無尽蔵の「葉っぱ」に目をつけ一大ブランドに
徳島市に近い同町は日本料理を彩る”つまもの”の生産地として名高いが、元をたどれば過疎化に悩む住民が捻り出した苦肉の策で、開始は1980年代半ば頃と歴史は古い。気候に恵まれ森林に囲まれた町の特質に着目し、無尽蔵にある葉っぱを高付加価値が望める”つまもの”として商品化できないかという発想。軽量なので高齢者も作業に参加でき、雇用対策にもなる。
だが当初はブランド力や販路、品質管理の発想もなかったため惨敗。そこで葉の形状や艶、彩りを厳選するなど商品価値の向上に努め、加えて市場ニーズへの素早い対応も心がけた。
特に注目なのは生産情報ネットワーク。産地や生産技術、販売の情報などを共有化、既存の防災無線が持つFAX機能を使い、市場からのオーダーを生産者に一斉配信するシステムを安価に築いた。少量多品種商品の典型で、鮮度が命の”つまもの”の品質を維持するため、受注から収穫、出荷時間を短縮することにこだわった結果、収益アップを達成、今はネットによる情報共有へと進化している。
「彩(いろどり)事業」として町の主軸産業となり、当初年間1,000万円だった出荷額も現在は2億円に達するという。雇用拡大にも貢献し現在200人が従事。1500人規模という人口を考えれば驚異的で、若者の移住や企業とのコラボも増えている。
地方創生の良いお手本[3]
長野県下條村◆2040年の人口予測4000人→3800人
“コバンザメ商法”で人口減にブレーキかける
長野県南部、人口10万人の飯田市に隣接するこの村は、いわば”コバンザメ商法”により人口減に歯止めをかけ、出生率も約2.0をマーク、全国平均を大きく上回ることで注目されている。
人口減少を防ぐために早くから”飯田市のベッドタウン”を鮮明に意識、同市の中心部までは車で20分という地の利を生かし、同市に勤める若い世代の招致に力を入れる。その原動力となったのが村独自の積立金だ。これを元手に若者定住促進用の村営マンションを建設、家賃は飯田市の相場の半額、月額2万5000円程度に抑えることで競争力を高めた。もちろん「子持ち」または「近く結婚」が条件で、加えて消防団など各行事の参加も義務とした。
注目すべきは、村独自の積立金で村営マンションを建設した点。国や県の補助金に依存すると、入居条件や家賃で村独自の特色が出しにくいからだ。ちなみにこの積立金は30億円ほどあるといい、自治体規模を考えれば巨額だ。
これらは村の職員の給与削減や経費圧縮で捻出したのだが、目玉は村職員組合のトップを総務課長にあえて抜擢したこと。労組の理解を取りつける対策にも余念がない。
こうした施策が功を奏したのか、最近は企業誘致にも成功、さらなる好循環が働いているという。
地方創生の残念なお手本[1]
北海道夕張市 ◆2040年の人口予測9900人→3100人
“倒産都市”は若き鈴木市長が悪戦苦闘中
1960年代まで炭鉱町として栄華を極め一時約12万人の人口を誇るが、1970年代のエネルギー革命で石炭が斜陽になると逆風が吹きすさび、1990年には最後の炭鉱も閉鎖。2014年にはついに人口1万人を割り、自治体としての存亡すら危ぶまれる始末だ。
多額の借金を返そうと、テーマパークやスキー場の開設、映画祭の開催などで起死回生を図るが、安直かつ素人考えの発想だけにどれも失敗。加えて当時の市長がヤミ起債や粉飾に手を出したことも手伝って市のブランドは瓦解し、2007年「財政再建団体」に指定される。事実上の”倒産”だ。
その後、これら施設の休止・売却や公務員給与の大幅減、市職員・市議定数の削減、公租公課の引き上げなど緊縮策に出るが、市民サービスの低下を招き人口流出はさらに拡大という悪循環に陥る。
復活に向け一筋の光明が見え出したのは2011年。東京都職員だった鈴木直道氏(当時30歳)が再建に名乗りを上げ市長に就任、現役市長最年少として今も奮闘中だ。ブランド力のある「夕張メロン」の積極PRや、破綻都市を逆手に取った自治体関係者向けの視察ツアーを打ち出すなど再起に挑むが、抜本策は未知数。ただ、”旧炭鉱の町”は差別化の糧となるはずで、周辺自治体と共闘した打開策が期待される。
地方創生の残念なお手本[2]
群馬県南牧(なんもく)村◆2040年の人口予測2030人→630人
人情あっても人いない「高齢化日本一」の村
群馬の南西部の典型的な山村は過疎化が最大の悩みで、2,000人の大台を切るのも時間の問題。65歳以上の老齢人口6割という「限界自治体」で、2006年以来「高齢化日本一」のタイトルを保持する。山がちのため企業誘致用の造成地開発もできず、東京圏の近さもかえって災いし、若者は例外なく村を離れていく。
村は名産であるコンニャク芋の収穫時期だけの短期移住を首都圏の若いファミリーに訴え、本格移住の端緒をつかもうと試みる。一見絶望的に思えるが、高速道で都心から2時間という位置を考えれば復活は十分可能だろう。
地方自治体はビッグデータを活用せよ!
日本が誇るビッグデータを駆使した市場動向把握システム「RESAS」(リーサス、地域経済分析システム)。400万社以上の企業取引データを基に、経産省と中小企業庁が構築した「経済センサス」(統計データ)を母体とし、帝国データバンク提供の約79万社の与信情報や、ゼンリン、ソフトバンクなどが保有する人流データも組み入れ、これまで予測できなかった「ヒト・モノ・金・サービス」の動きを数値で”見える化”し地方創生に生かそうというもの。