「環境に優しい」「電費(燃費)が良い」など注目を浴びる電気自動車(EV)。しかし、航続距離が短いなどのデメリットも聞かれる。実際のところ、EVはどこが良くて、どこが弱点なのか――。先行メーカーの日産自動車に聞いた。
日産自動車は、2010年12月に、世界に先駆けて量産型EV「リーフ」を発売した。リーフは現在までに国内だけで5万2000台、グローバルで17万台を売り上げている。また、2014年10月には商用EVの「e-NV200」を発売。EV普及促進のため、急速充電器を定額で使い放題にしたり、リーフのユーザーは日産レンタカーを年間3日まで7割引で利用できるようにしたりと、ユニークなサービスも提供中。「友人とのスキー旅行などの場合、家族以外をEVに乗せて遠出すると、充電中待たせることになるので気が引ける。そんなときはレンタカーで」(日産の担当者)といった利用シーンを想定している。
<ウワサ>走れる距離が短いっていうけど?
<ANSWER>ガソリン車よりは……。でも、日常使いには十分ですよ!
EVの欠点としてよく挙げられるのが、フル充電で走れる最長距離(航続距離)が短いこと。ガソリン車では満タン時500km程度はザラ。EVは現在200km前後で、ガソリン車に劣るのは確かだ。
しかし、「毎日の走行距離が100kmを超える人は少数派。日常使いにはまったく支障がない。遠出の際も、途中で充電できる」(日産の担当者。以下、引用は同じ)。約30分で80%充電できる急速充電器の設置数が、2015年9月末までに全国6000台に達する見込み。また、電池の改良や車両の軽量化など、航続距離を延ばす研究も進んでいる。
<ウワサ>充電がめんどくさいよね?
<ANSWER>“家”で寝ている間にできます。外での充電も今後もっと便利に。
EVユーザーの多くは、日々の充電を自宅の普通充電器(約8時間で100%充電)で行う。「夜眠る前に充電コネクターを挿して、朝になったら抜く簡単操作。電気代も、リーフを夜間電力でフル充電した場合で約300円と安い」。
外出先での充電も、今後ますます便利になる。日産は全国の店舗に急速充電器を1600台設置しているが、今後は需要の多い店舗に2台目、3台目を設置予定。経済産業省も補助金を用意しており、”欲しい場所にない””混んでいる”といった不便が解消された充電インフラ網が「2015年上期中にもほぼ整う」という。
<ウワサ>でも、お高いんでしょう?
<ANSWER>ランニングコストを含めればガソリン車より安いかも。
EV購入には政府の補助金を利用できるが、それでもリーフの場合で車両本体に支払う金額は月3万円(頭金なし、60回払い)。同クラスのガソリン車は月2.5万円だから、車両価格はやはり割高だ。ただし、ランニングコストは圧倒的に安い。
「1ヵ月に1,000km走ったとして、ガソリン代は1万円超、EVの電気代は2,000円ほど。また、ガソリン車はエンジンオイル代など特有のメンテナンス費がかかる。EVにはそれがない」。走行距離などにもよるが、トータルのコストではガソリン車より安くなるケースが多いという。
<ウワサ>燃料電池車のほうが話題だよね?
<ANSWER>棲み分けができると思うので、両方売れてくれれば。
トヨタが2014年末に発売した燃料電池車(FCV)「MIRAI」が”究極のエコカー”として話題をさらっている。ただし、FCV本体も水素も価格はまだまだ高く、インフラ整備にも時間がかかりそうだ。
日産は「FCVの登場で”環境に良いクルマ”への関心が高まることはありがたい。EVは今乗れる身近なエコカー。当分、販売数が逆転することはない。低公害の志はトヨタさんも当社も同じ。将来は、長距離で走行ルートが決まっているトラックはFCVに、個人の街乗りならEVに、といった棲み分けで両方売れてくれれば一番良い」。
知る人ぞ知る 電気自動車のここがすごい
カーブが気持ちよすぎる!首都高最強伝説
EVの意外と知られていない特長として、日産の担当者は”走りの楽しさ”を挙げる。アクセルを踏むと瞬時に加速するEVならではの反応の良さや、カーブ走行時の感触が売りだ。
同担当者は熱く語る。「首都高なんかでは、最高に気持ちのいい走りをします。普通はどうしてもクルマの後ろが振れたりしがち。しかし、リーフは足腰がどっしりしているので、路面に吸い付くように曲がれるんです」。大きく重い電池を車両の床下に収めているため、低重心の走りが楽しめるという。
エンジン音がないゆえの静音性も自慢。「クラシック好きの方などに大好評です」。ガソリン車なら気にならない風切り音もEVでは際立つため、リーフはヘッドライト周りの形状などを工夫して空気が後ろへスムーズに流れるようにしている。
バッテリー容量保証、EV用電池の実力
リーフをはじめとするEVに搭載されている、リチウムイオン二次電池。スマホやノートPCに採用されているものと原理は同じだが、当然ながら容量も性能もスマホのそれとはケタ違いだ。リーフの電池容量は24kWhで、計算上は、1000Wの電気を24時間使えるだけの量。容量3000mAhのスマホ用電池と比べると2000倍以上になる。
日産では、新車登録から5年、または走行距離10万kmのどちらか早い方においてバッテリー保証も行っている。また、使用後のリーフの電池も「蓄電池として十分に利用できる水準にあるはず」(日産)として、日産と住友商事の合弁会社・フォーアールエナジーで利用事業を検討しているという。
走る電源!災害時に役立つEV
電気自動車の電池に蓄えた電力は、しかるべき機器があれば家庭やオフィスへ供給できる。リーフには家庭への給電を可能にする制御装置(価格は、基本工事費を含め、補助金をもらえば25万円程度、税抜)を用意。これがあれば、リーフを停電時の非常用電源などとして使える。また、「子どもが電気のムダ使いをやめた。電気が有限であることを感覚的に理解しやすいようだ」という意外な効果も。
バン・ワゴンタイプのe-NV200は、最大1500Wの電力を供給できるパワープラグ(=コンセント)を一部のモデルに標準装備した。屋外での電源供給が可能で、屋外イベントでのステージや屋台の運営などに使える。災害時にも役立つ。停電時にも照明やポットなどの電化製品を動かすことができ、避難生活を不便ないものにできる。また、電気が復旧した地域で充電すれば、未復旧の地域に電気を供給することも可能だ。
どうなる? 今後の電気自動車
日産CEOのカルロス・ゴーン氏は2014年末、近い将来、EVの航続距離を400kmまで延ばすと発言した。すでに技術開発は完了しており、コストとの折り合いなど、商品化に向けた検討が進んでいるという。また、現時点で日産のEVは5ドアハッチバック(リーフ)と商用バン/ワゴン(e-NV200)の2モデルだが、今後は1人乗り/2人乗りの小型モデルや軽自動車をベースにしたモデル、高級車ベースのモデルなど、ラインナップも増えそうだ。
環境に優しい車を選ぶという意識
日本は成熟社会に突入して、企業の姿勢も第2ステージに入ってきたと思う。利益を極大化して、利便性のみを追求するようでは、社会に受け入れられないということだ。
世界の自動車メーカーはエコカー開発競争の時代に入り、多少価格が高くても、環境に優しい車を選ぶという消費者の意識も相まって、各社は開発に凌ぎを削っている。水素を電気分解させて走る燃料電池車に、電気を充電してバッテリーを動かすEV。どれも固形燃料を燃やしてエンジンを動か車から、モーターを回して、エンジンを積まない車へと変わってきた。
今回取材したEVは、走行距離の短さや、充電時間の長さがネックになっていたが、充電施設の充実などで順次解消されるだろう。あとは消費者の環境配慮への意識だ。人類も地球に優しくないと手痛いしっぺ返しを食らうだろう。