三菱商事復興支援財団の4年 民間企業による地域復興は有効か?

2015.5.11

社会

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政経電論は、「地方創生」と「復興」は同義語であると考える。だとするならば、東日本大震災からの4年間に企業が被災地で行ってきた復興支援は、地方創生のヒントにならないか。三菱商事が立ち上げた「公益財団法人 三菱商事復興支援財団」の活動を追った。

財団による出資・融資先

三菱商事だからこその「産業復興・雇用創出支援」

三菱商事の復興支援活動は、東日本大震災の発生直後にまでさかのぼる。2011年4月には、4年間で総額100億円の復興支援基金を創設し、会社を挙げた支援活動に着手。そして同時に”三菱商事だからこその復興支援”を模索してきた。試行錯誤の途上に浮かんだのは「投融資」というキーワードだ。

昨今、総合商社の事業の柱の一つとなった事業投資。事業会社に投資して株式の配当などで利益を得るビジネスだ。この機能を活用した復興支援を考えた同社は、2012年3月に「公益財団法人 三菱商事復興支援財団」を設立し、被災事業者へ投融資する「産業復興・雇用創出支援」をスタートした。

当支援では、地元金融機関と連携して事業者の財務の健全性や収益性を確認する。それにより財団は、事業による雇用創出効果と地域への波及効果の判断に集中できる。こう書くと、四角四面な作業に映るが、実状はより人間的なプロセスだ。

例えば支援第1号となった、陸前高田市のキャピタルホテル1000。審査では、上記に加えて数字では表せないものが非常に重視されたという。それは、”事業者の熱い想い”。地域コミュニティの再生を目指し、ホテル再開に全力を傾けるその姿だった。

財団は、2014年度末までに44件の投融資を実施。総額は約20億円にのぼる。事業者も、造船会社からレストランまで規模と業種を問わず幅広い。まさに多彩な事業内容を有する、商社ならではの強みだろう。

なぜ「寄付」ではなく「投融資」なのか?

復興支援といえば補助金などの「寄付」が一般的だろう。しかし財団はあえて「投融資」を選んだ。それは、返さなくてはならないお金であることへの適度な緊張感が、事業を継続させる意識につながると考えたからだ。互いにリスクを負い、痛みも喜びも分かち合いながら復興を目指す。

また、「投融資」とはいえ、利益目的ではないことを明言したい。利益が出た場合も、積極的に地元経済や自治体などへの再投資にまわす仕組みを採用するのだという。

――Case of FUKUSHIMA
復興支援は次の段階へ
企業の力で経済活動を後押し

そして、福島へ。一歩踏み込んだ復興支援を

2012年の当初より気仙沼にも拠点を据え、被災地に根づいた活動を続けてきた同財団。だからこそ感じていたのは、被災地復興への道のりの険しさ。「産業復興・雇用創出支援」は継続していたが、被災3県のなかでも、やはり宮城と岩手に大きく偏っていた。

言うまでもないが、福島県には東京電力福島第一原子力発電所事故による放射能問題が影を落とす。そもそも米や果物など農業が盛んだったため、その風評被害が今なお深刻だ。地元農家との交流で、現場の苦悩を知ったという。

この問題に正面から取り組むために、財団は、福島県郡山市に拠点を移して新たなプロジェクトをひねり出した。それが、郡山初のワイナリーを作る計画、「果樹農業6次産業化プロジェクト」。郡山市と共同し、農業生産(1次産業)から加工(2次産業)、流通・販売・ブランディング(3次産業)までの一連を行う、果樹農業の新たなビジネスモデルだ。

事業全体像

行政、地元農家と一体となって育てるワイン事業

プロジェクトの総事業費は約10億。とりわけ、地元農家の弱点だった2次・3次産業の部分に、三菱商事の知見と実績が生かされる。一体となってかかわる農家は、そのノウハウを間近で学ぶことになるだろう。彼らの収益構造には、大きな変化がもたらされるはずだ。

施設は今2015年秋に完成予定。まずは地元のモモなどを用いたリキュール作りと、生食用のブドウを使ったワインの醸造を始め、2016年の発売を目指す。同時に、ワイン用のブドウを2~3年がかりで育成し、本格的なワイン事業を展開。着実にビジネスを育てていく。

当面は財団が主体となり、郡山市と農家と共同して運営するが、10年後をめどに、事業を市と農家へ受け渡す計画だという。その頃には、地域経済に大きな役割を果たすビジネスへと成長しているかもしれない。そんな青写真を描きながら、まずはここから一歩一歩、進んでいくことだろう。その動向を、今後も見守りたい。

福島・郡山の復興が照らす地方創生への道

東北の被災地には、日本の地方がおしなべて抱える課題が、数年先の、より進行した姿で横たわる。それは、福島・郡山も同様だ。だからこそ「地方創生」を考える上で、「果樹農業6次産業化プロジェクト」への期待は大きい。日本を代表する民間企業が、行政と地元住民と一体となって一つのビジネスを育てていく。このスキームがうまく機能すれば、きっと各地方で応用しうるだろう。