写真/芹澤裕介 文/赤坂麻実

社会

フリーランサー・安藤美冬インタビュー~それでも私は、 ライフスタイルに こだわりたい 「何を」ではなく、「どう」やるか

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世の中は会社勤めのサラリーマンが多いなか、フリーランサー安藤美冬さんの働き方は刺激的に映る。雑誌にコラムを書き、大学で講演し、国内外の広告に出演――。ジャンルも場所も選ばないスタイルはとにかく自由だ。大手出版社を辞めてまで独立した”働き方”に対する考えや、多彩な仕事を手掛ける面白さ、大変さに迫る。

株式会社損得舎 代表取締役社長/「政経電論」編集長

佐藤尊徳 さとう そんとく

1967年11月26日生まれ。神奈川県出身。明治大学商学部卒。1991年、経済界入社。創業者・佐藤正忠氏の随行秘書を務め、人脈の作り方を学びネットワークを広げる。雑誌「経済界」の編集長も務める。2013年、22年間勤めた経済界を退職し、株式会社損得舎を設立、電子雑誌「政経電論」を立ち上げ、現在に至る。著書に『やりぬく思考法 日本を変える情熱リーダー9人の”信念の貫き方”』(双葉社)。

Twitter:@SonsonSugar

ブログ:https://seikeidenron.jp/blog/sontokublog/

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 フリーランサー

安藤美冬 あんどう みふゆ

1980年生まれ、東京育ち。慶應義塾大学在学中にアムステルダム大学に交換留学を経験。株式会社集英社を経て独立。組織に属さないフリーランスとして、ソーシャルメディアでの発信を駆使した肩書や専門領域にとらわれない独自のワーク&ライフスタイルを実践、注目を浴びる。雑誌『DRESS』の「女のための女の内閣」働き方担当相、月間4000万PVを記録する人気ウェブメディア『TABI LABO』エッジランナー(連載)、越後妻有アートトリエンナーレオフィシャルサポーターなどを務めるほか、商品企画、コメンテーター、イベント出演など幅広く活動中。これまで世界56カ国を旅した経験を生かし、海外取材、内閣府「世界青年の船」ファシリテー ター、ピースボート水先案内人なども行う。「情熱大陸」(TBS)、「ニッポンのジレンマ」(NHK Eテレ)などメディア出演多数。著書に『冒険に出よう』、『20代のうちにやりたいこと手帳』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)、共著に『会社を辞めても辞めなくてもどこでも稼げる仕事術』(SBクリエイティブ)がある。

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人生の優先順位をつける

尊徳 安藤さんとは初めましてですね。フリーランサーというのはどういう働き方ですか?

安藤 組織に所属せずに、プロジェクトごとに企業や官公庁、個人と契約ベースで働くスタイルをとっています。法人化はしていますが、実態は社員2名のマイクロ企業です。日本では個人事業主よりも法人のほうが信頼されやすく、大企業とも直接取り引きがしやすいので、法人化をしています。

ただ、通常のフリーランスと違うのは、あえて仕事の領域を決めずにさまざまなプロジェクトにかかわっていることです。あるときは大学で教えたり、あるときはコラムや書籍を執筆したり、テレビでコメンテーターを務めたり。そのほかにもファッションブランドと雑貨をプロデュースしたり、旅行代理店と海外ツアーを企画したりと、ホントにいろいろなことをやっています。

佐藤さんとは初対面ですが、プロフィールをとても興味深く読ませていただきました。経歴がユニークですよね。

尊徳 僕は小学校4年生のときから、「世界を変えたい、既得権益をぶっ壊したい」と思ってた。父が入退院を繰り返し、家が貧しかったことなど、いろんなことがあって、そういう考えに行きついたんだよね。

それで、早くキャリアを積もうと、大学卒業後は小さな出版社に入って創業者の秘書をやったんだけど、まあ理不尽なことでよくしかられましたよ。3年は我慢だと思って、毎朝6時に出社して。でも、3年経つと状況も変わるもので、結局22年勤めたのかな。仕事って第一義は生活の糧だし、誰もが自分のやりたいことだけなんかできないよね。

安藤 人生の優先順位をつけることが大切ですよね。”家族”が一番大切だから仕事には安定した収入を求めるとか。私の場合は”ライフスタイル”なんですよ。人生をこう生きたいという理想があって、その中に仕事がある。だから、仕事も”WHAT”より”HOW”に重きを置いています。例えば「スーツを着ない」「東京と海外に拠点を持って行き来する」「好きな場所で好きなときに働く」とか、”どう働くか”を先に決めて、それに合う仕事をするんです。

そのスタイルに合致しない仕事は受けないことがほとんど。例えば国土交通省からとあるプロジェクトへの参画オファーがあったのですが、プロジェクト期間が「5年」と聞いて、1回目の会議でお断りしました(笑)。5年先だなんて、私にしてみれば、どこで何をしているのかわからないし、いま決めたくない。どんなに条件が良い仕事であっても、”HOW”に合致するかどうかが、自分にとって最も優先順位が高いことなんです。

安藤美冬

働いていてつらいとき、どうする?

尊徳 いろんなことを自分で決められるだいぶ自由な働き方だけど、つらいこと、嫌なことはある?

安藤 嫌なことはありません(笑)。いや、特別に自分が恵まれているとか、精神力が強いというわけではなくて、どうすれば嫌なことがなくなるかいろいろと考えて実践してきた結果が、今のだいぶ不思議な働き方につながっているからです。

会社勤めをしていた頃や、フリーランスとして独立した当初は、楽しいこともいっぱいあるけれども、とてもつらかった。毎朝起きると、仕事のことを考えてため息をつかない日はなかったです。今は苦手な早起きもないし、スーツも着なくて済むし、自社の会議がなければ規則もない。つらいな、と思うことはなくなりました。

尊徳 僕はありますよ。やりたいことをやるには相当お金がかかるので、ときには人にお願いして出してもらわなくちゃいけない。僕はいつでも貸方になりたくて、借方は嫌なんだよ、ホントは。でも、それも天秤だよね。キツいことがあっても、やりたいことを取るか。見合わないと思ったらできないないし。安藤さん、本当に嫌なことはない?

安藤 う~ん……。今は取材や広告の仕事などで、年の半分は海外に行けるようになって、本当に嫌なことやつらいことはないんですよね。でも、そう言われてみると、昨年はすごくありました。

大学の専任講師を引き受けて、週に3日~5日、大学で講義やオープンキャンパスへの参加、保護者面談などもするようになって、自分に合わない仕事にものすごくストレスを感じていました。生徒をかき集めるために実施する施策の一つひとつに最初のうちは代案を出したり、意見を述べたりしていたのですが、次第にその気力もなくなっていった。土日の講演仕事や、海外などへの取材出張もできなかったりして、「どうして引き受けちゃったんだろう」って、正直後悔していました。

実はこの気持ち、初めて公に打ち明けるのでかなりドキドキしていますが、しゃべったらちょっとすっきりしました(笑)。佐藤さんは、読者の方から悩み相談を寄せられたりするんですか?

尊徳 悩みはないですね、文句はいっぱい言われるけど。

安藤 いいじゃないですか、自分が言いたいことを言って生きていくほうが。私、かっこいいと思いますよ。

尊徳 そんないいものじゃないです。僕だってグチを言ったり、へこんだりすることもありますよ。

安藤 でも、仲間もいて。

尊徳 仲間にも「生意気だ」とか言われてね。

安藤 かわいらしい方ですね、佐藤さんって(笑)。人間らしくて。

尊徳 ちょっと(笑)。僕のメンターのひとりで元三重県知事の北川(正恭)先生が「佐藤くん、文句ばっかり言ってないで行動しなよ。自分にできることでいいから行動しないと何も変わらないよ」って教えてくださって、それはすごく胸に残ってますね。だから口に出したら行動するようにしてる。

安藤美冬

今日から始められる”100万に1つ”の生き方

安藤 私、仕事を考える上で、「キャリアアップ」という考え方には疑問を持っているんです。人や社会に貢献するために自分の専門性を磨くのはもちろん大切だけれど、変化の激しい現代において、右肩上がりに収入やポジション、専門性を成長させていく必要があるのかなって。会社だっていつ倒れるかわからないのに。ある意味、流れに身を任せるような直感的なキャリア作りのほうが、結果的にいろんな才能が花開くと思うんですよね。

尊徳 具体的に言うと、それはどんなこと?

安藤 例えば、俳優の速水もこみちさんが、料理の才能を生かして番組出演や商品開発をされている、ああいうことですね。「俳優」に「料理」という才能を掛け合わせることで、独自のポジションを作って、結果、仕事が広がっていくようなキャリアの作り方です。

こうした才能や”強み”は誰にでもあります。簡単に言うと、まず、100人の中で1番になれるものを探す。本業で培ったものでも構いません。Excelの表を誰より速く作れるとか、英語だったら負けないとか。そうして「Excel表計算」とか「英語」など自分の強みを洗い出して、これを3つ掛け合わせるのです。すると、100人中1位のものを3つで、「100分の1×100分の1×100分の1=100万人に1人」の存在になれる。そうすれば、ずっと上を目指すナンバーワン志向の生き方から、オンリーワンの生き方に変えていけると思うんです。

尊徳 なるほどね。でも、その強みを周りに理解させないと、多くのサラリーマンは今ある本業だけに従事することになるよね?

安藤 小さなことでいいので、会社でも自分を出していけばいいんだと思います。これは私の実体験なのですが、整理整頓が好きな人は自分のデスク周りをきれいにするだけではなくて、オフィスの共有部を率先して片づけてみたり、レイアウト変更を提案してみたりする。そうした積み重ねによって、次第に「あの人は整理整頓や片づけが得意だよね」という認識ができていって、その才能を生かす方向に変わっていくんだと思います。

仕事を膨らませるためにも余暇は大切

尊徳 安藤さんはロジカルだよね。僕は感覚でモノを言うから、人に説明するのがヘタ(笑)。感心しながら聞いていました。

安藤 いえいえ、私も直感的です。むしろ、場当たり的にフリーランスとして独立して、最初の半年~1年間はほとんど仕事や収入のない苦しい時期を過ごしていたので、いろんなことを試していたんですね。「才能の掛け合わせ」しかり、「ライバル分析」「3年キャリアプランニング」「プロフィール作成」とか。その甲斐あって少しずつ仕事が増えていったときに、メディアの方に取材していただいたり、書籍やコラムを書くようになって、後からネーミングをつけたり、再現できるように具体的なロジックにまとめていきました。

こうした一連の作業は、皆さんにはとっても”青臭く”見えると思います(笑)。でも、私たちいい年齢の大人こそ、今こそ青臭く生きてもいいんじゃないかって思いますね。「自分探しかよ」「甘いんだよ」っていうように、自分について試行錯誤をめぐらす人を揶揄する人もいるけれど、ぶっちゃけ、私には”成功”だけを目指してきた上の世代が苦しそうに見えるんですよ。

尊徳 それも自己実現になっていればいいんだけどね。僕が最初に入った会社の創業者は昭和3年生まれで、もう仕事しか頭にないんですよ。だから秘書の僕もほとんど休みなく働いたけど、不満を言うことさえはばかられて、仕方がないから続けてた(笑)。その世代の人たちはそれしかなかったし、それ以外のことを知る術もなかったから。

安藤 今は”余白”や遊び心のある経営者も増えてきたように思います。例えばカフェ・カンパニーの楠本修二郎さんとか、トランジットジェネラルオフィスの中村貞裕さんとか。仕事を膨らませるためにも、余暇は大事だと思うんですよ。日本のサラリーマンの方は、もっと有給休暇を取ったほうがいいと思う。

尊徳 今は僕も割と休んでますよ。いつもは会社のことが頭から離れないけど、この時期だったら、スキーをしているときは、この”コブ”を滑れるようになるには足腰を鍛えなくちゃとか、仕事以外のことも考えていられる。

安藤 編集長は、趣味の場でもストイックなんですね(笑)。

安藤美冬・佐藤尊徳

ペン1本からでも働き方は変えられる

安藤 会社に勤めながらでも、働き方や生き方は自分なりに変えていけると思うんですよね。私は会社員時代、会社支給のデスクトップに加えて、自前のノートパソコンを使っていました。書類をデータ化して取り込んだり、打ち合わせを外でやることを提案したりして、なるべくオフィスを出て仕事ができるように工夫していたんです。出版社の社員たるもの、面白いアイデアや遊び心が大事なのに、一日中パソコンの前に張りついて仕事をする人がとても多かったからです。ときどき注意を受けましたけどね。

尊徳 うらやましいよ。僕なんか、最初のうちは自分の言葉を発することも許されなかった。手帳の出し方が遅いとか、細かいところまでその上司に注意されて。「この野郎!」と思ってました(笑)。でも、彼のおかげで今の自分があると思うので、今は感謝しているんですけど。

安藤 いいですね。ステキ。確かに私の場合は、比較的ゆるい社風だったからできたところもあるのかも。でも、いいんですよ、できることからで。例えば、会社支給のペンじゃなく、自分のお気に入りのペンを買って使うとか。ペン1本からでも、働き方を考えて実践するきっかけにはなるんじゃないかなと思います。

尊徳 そうやって自分なりの働き方を積み重ねていけたら、どこで働いても精神的には自由だね。僕も”自己満足”で働いてるから、その上に乗っかってくるストレスなんて大したことないって思うよ。