日本郵便、スタートアップ企業を発掘して流通の変革に本気で対応
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日本郵便、スタートアップ企業を発掘して流通の変革に本気で対応

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日本郵便と起業家支援を手掛けるサムライインキュベートは、2月5日、スタートアップ企業とともに郵便・物流の効率化、改革、事業創造を図るオープンイノベーションプログラムの「POST LOGITECH INOVATION PROGRAM 2018」のデモデーにおいて、最優秀賞を「Rapyuta Robotics」に与えた。物流業界の人手不足が叫ばれて久しいが、モノが届かなければビジネスにならないため、物流は国力に直結しているといっていい。現状を打破するアイデアとはどんなものだろうか。

郵便現場でも人材不足は深刻化

日本は少子化などによる人手不足の問題を抱えているが、日本銀行の短観などを見ると、「運輸・郵便」は人手不足の深刻さが宿泊・飲食サービスについでワースト2位であることが多い。このままではハガキ1枚ですら届かないケースが近い将来出て来かねない。

日本郵便において運送便の数は日約1万便のトラックが運行。走行距離にして172万km=地球43周分を1日で走るという途方もない状況だ。作業の改革や効率化は待ったなしの状況で、横山邦男社長も「全国にある2万4000局は絶対価値であり、全世帯につながるというインフラでもある。効率化をしないと時代に取り残され、客から見放される」と危機感を隠さない。

そこで日本郵便は、2017年からスタートアップ企業と連携して郵便・物流の新事業を創出する取り組みを始めるため、「POST LOGITECH INOVATION PROGRAM」を計画した。今回は2回目で、有望企業には出資を検討し、事業化することが最終目標になる。2018年は約70社が応募し2社を採択した。

2017年の参加者を含め、関係者全員で記念撮影

画期的な効率化を実現する2つのテクノロジー

1つは最優秀賞に輝いたチューリッヒ工科大学発のベンチャー「Rapyuta Robotics(ラピュタ・ロボティクス)」で、日本に留学し、その後、起業したスリランカ人がトップを務める。このプログラムでは、クラウドでロボットを動かすためのOS「rapyuta.io」を開発した。

現在のロボット業界は1990年代の携帯電話のようにブランド独自のアプリがあり、企業を越えての運用が難しいという。そこで同社は、Androidのようなオープンソースにしたロボット業界のOSを開発。汎用性が高いのが特徴だ。

日本郵便の現場においては、トラックから取り降ろしたカゴ台車を各作業所に運搬する作業があるが、Rapyuta Roboticsはカゴ台車を自動運転で運搬する専用の台を使って運ぶシステムを開発。この自動運転の専用台を動かすときに同社のOSが使われた。

カゴ台車下にある青い機械が所定の場所まで自動で移動する

また、運ばれてきたカゴ台車から荷物を小包区分機の供給ラインに取り降ろす作業は人間が行ってきたが、それをロボットアームが実施。このロボットアームを動かす際にもrapyuta.ioが使われた。例えば、一連の作業に16人が必要だった場合、この技術を導入すると4人になるという。

ロボットアームによる荷物移動は12秒から8秒に時間短縮。今後は可搬重量を30キロまで対応し、5秒を目指す

もう1つは、「エー・スター・クォンタム」という会社で、量子コンピューターを使って輸送ネットワークの最適化を行うというものを開発した。量子コンピューターは従来のコンピューターで何百年もかかる計算を1秒で終えることもできる画期的なコンピューティング技術。膨大なネットワークを持つ日本郵便において、配送ルートの効率化、最適化は喫緊の課題だ。

同社は埼玉のある郵便局で実験を行い1日52便、30局を効率的に配送する取り組みを行った。従来、スーパーコンピューターで1000年かかるのを1秒で演算し、1日4便減で、年間2000万円のコスト削減が実現したほか、積載率も83.4%から95.3%にアップした。

ある1つのルートは南方面なら南方面だけに集中して配送していたが、量子コンピューターを使うと途中に東方面を組み込んだルートの方が、効率が良いという結果も出たという。

Rapyuta Roboticsのガジャン・モーハナラージャーCEOは、「ロボット界のOSを目指すなら、エー・スター・クォンタムの量子コンピューターのプログラムも取り込めるのか」という筆者の問いに「その通り」と回答した。

成果を発表するモーハナラージャーCEO

乗り遅れるか、踏ん張れるか

日本はVHS、DVDの規格争いの経験から、独自規格戦争で勝利したものをデファクトスタンダード(事実上の標準)にしようとするという傾向がある。

携帯電話業界ではドコモのiモードが標準規格を狙ったが、AppleとGoogleが、その代わりのプラットフォームを作ったことで破れた。そういう意味で、独自モノが乱立するロボットの世界でのオープンソースOS開発というのは将来を感じさせるものだった。

ヤマト運輸、佐川急便、その他の物流業者も、程度の差はあれ日本郵便と同じ問題を抱えている。ロボット大国といわれる日本のロボットの導入率は実はわずか3%。日本郵便を筆頭とした日本物流業界全体がこういった取り組みを進めれば、崖っぷちから世界トップの技術を持つ物流企業になり、そのビジネスモデルを輸出すれば、さらに稼ぐ力が強まる。そう意味においても、実現できるかどうか、分水嶺に立っていることは間違いないだろう。