代々木八幡駅がリニューアル 小田急電鉄の輸送力増強に向けた課題と、そのアンサーに迫る

写真/片桐 圭

社会

代々木八幡駅がリニューアル 小田急電鉄の輸送力増強に向けた課題と、そのアンサーに迫る

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小田急電鉄では、3月16日より新しい代々木八幡駅の使用を開始。生まれ変わった駅舎やホームとともに、ラッシュ時の混雑やホームの安全性など、小田急電鉄と代々木八幡駅が抱えていた課題がどのように解決されたのかを取材した。

複々線化に加え、10両編成の各駅停車の運転で通勤・通学時のラッシュを緩和

都心の鉄道各社が抱えている課題のひとつに通勤・通学時の厳しい混雑がある。

小田急電鉄ではかねてより運転本数を増やすなどして混雑緩和に取り組み、ピーク時には2分に1本という短い間隔で運転してきたが、それでも混雑時には、輸送需要をさばききるのが難しい状況だった。

そこで考案された抜本的な対策が、線路の複々線化による増発だ。急行列車と各駅停車の発着ホームを分けるなどして、混雑の緩和に取り組んできた。実際に、小田急の走行区間で最も混雑する世田谷代田→下北沢間の平均乗車率は、192%(2016年度)から151%(2017年度)に大きく緩和された。ちなみに、定員乗車の混雑率100%は、座席とつり革がすべて使用されている状態を指す。

小田急電鉄では2010年から、新宿~代々木上原間の各駅停車駅においても10両編成での運転を目指し、段階的な工事を進めてきた。代々木八幡駅についていえば、今回の改築計画ではホームが45メートル延伸。これで対象区間のホーム延伸が完了し、6両または8両編成のみの運転だった各駅停車区間で、10両編成での運転が可能となった。

小田急電鉄では3月16日よりダイヤ改正も実施された。これによって新宿~代々木上原間の各駅停車で平日は上下24本、土休日は上下18本と、一部ではあるが10両編成車両の運用ができるようになり、2019年度中に増発する計画もあることから、輸送力の増強につながるとみている。

線路とホームが大きくカーブしている代々木八幡駅。この“急カーブ”がもたらす課題もあった

ホームドアや可動ステップを設置し、ホームの安全性を強化

代々木八幡駅は急カーブの途中に位置する駅であるため、停止した車両とホームの間に大きな隙間ができてしまうのを避けられなかった。そこで今回の改修工事では、乗客の安全性に配慮するため、ホームのすべてのドア位置にホームドアを設置し、さらに上り線の一部にはホームと車両の隙間を埋めるための「可動ステップ」も導入された。「可動ステップ」は小田急電鉄では初の導入となる。

可動ステップ

乗降時の踏み外しや転落を防ぐため、列車到着時にホーム床面から張り出すステップ。普段気づいていない人も多いが、東京メトロなどでは多く採用されている。

国土交通省のガイドラインによると、利用者数が10万人以上/日の駅では原則としてホームドアの設置が求められている。代々木八幡駅の利用者数は2万人台であり、このガイドラインの対象ではないが、この改築を機に導入へ踏み切ったという。

「現在はホームドアの一部を手動(乗務員が操作)で運用していますが、今後は技術開発を進めて全自動化を目指しています。また、車両によってドアの位置や幅が異なるので、より確実な位置に停車できるような支援装置も順次整備しているところで、今後もホームドアの導入を進め安全性の向上に努めてまいります」(小田急電鉄 電気部 課長 及川哲氏)

小田急電鉄 電気部 課長 及川哲氏

駅舎デザインもリニューアル バリアフリー化も進む

旧代々木八幡駅は、線路を挟んで2つの改札があり、上り・下りによって入口が異なる相対式ホームの駅だった。逆方向へ行きたい場合には踏切を渡る必要があり、また窓口やトイレなどの駅設備も片方にしかなかったため、利用者にとって不便な点が多かった。

2015年2月当時の代々木八幡駅

今回の改築で大きく変化したのは、この地上駅舎が橋上駅舎となったことだ。入口が統一されたことで踏切を渡る必要もなくなり、利便性が大きく改善された。

また、駅舎のデザインも一新。構内は自然光を採り入れるガラス張りで明るく、心を和ませる木材が規則的に配されている。男女トイレのほか多目的トイレも設置され、利用者にとってさらに使いやすくなったといえるだろう。

ホームと改札階の連絡には階段のほかにエスカレーター・エレベーターが利用でき、バリアフリー対応も万全だ。

改札側から構内を撮影。木の質感がアクセントになり、明るく柔らかな印象になった

 

一部の資材には代々木八幡駅ホームの基礎に使用されていた松の木が使われている

今後も代々木八幡駅では、さらなる利便性の向上に向けて整備が進められる

今回の改築によってハード面で大きくリニューアルした代々木八幡駅。改築は2019年度末まで続く予定で、今後の見通しについて、小田急電鉄の工務技術センター 総括所長 町山友和氏に聞いた。

山手通りからの連絡通路設置と、ホーム屋根の設置

代々木八幡駅の西側には、山手通り(都道317号線)の陸橋がある。ここにはバスの停留所などもあるが、現在は陸橋から地上へ降りて改札へ向かう必要があり、遠回りになってしまう。また、車いすなどを利用する人はさらに大回りをする必要がある。

「山手通りを通るバスなどから代々木八幡駅へアクセスされる方に向けて、この陸橋から駅の入口へ直接つながる連絡通路を新設予定です。ちょうど陸橋から駅ホームを覆うように通路を建設予定です。また、現在は一部を除いてホーム屋根がありませんが、この連絡通路に沿うような形で屋根を設置する予定です」(町山統括所長)

小田急電鉄 工務技術センター 総括所長 町山友和氏

自転車用通路を新設

代々木八幡駅は近隣が住宅地で、自転車を利用して外出する住民も多い。そうした自転車利用者にとってわずらわしかったのが、線路を渡るための踏切だ。運転本数が多いのは電車利用者にとってはありがたいが、自転車利用者にとっては連続で何本もの電車が通過するために踏切がなかなか開かず、長時間待つ必要がある“悩みのタネ”でもあった。

「自転車で移動される方には、ご不便をおかけしてきました。今回の改築事業では、新宿寄りの位置に自転車専用横断橋を新設する予定です」(町山統括所長)

今回の代々木八幡駅改築事業では、駅舎のデザインや設備というハード面と、鉄道が直面する輸送力増強というソフト面での課題に取り組む小田急電鉄の姿勢が垣間見えた。完全な事業完了まではまだ時間を要するということだが、連絡通路の新設など利便性の向上に向けても期待ができそうだ。

代々木八幡駅、完成予想図。