SARSを経験した香港に見る都市封鎖―セミロックダウン

「流行防止」と書かれたQRコード付のリストバンド 写真提供:香港政府新聞処

社会

SARSを経験した香港に見る都市封鎖―セミロックダウン

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新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、週末や夜間の外出自粛要請期間を経て、政府による緊急事態宣言の発令で首都圏をはじめとする7都市が“緊宣状態”に突入。続いて石川県や北海道も独自の緊宣を出すなどして感染拡大阻止に動いている。

 

急速に感染拡大が進むなか、一時期、首都圏ではロックダウン(都市封鎖)がいつ起こるのかについてまことしやかに噂が飛び交い、中には明らかにデマと思われる情報も拡散された。

 

すでに世界各国で都市の封鎖は行われているが、アジアでは香港が事実上の鎖国といえる“セミロックダウン”を早々に実施している。オーバーシュートを発生させないために先手を打って自ら封鎖の道を選んだ格好だ。

 

香港の人口は約750万人、可住地の人口密度は人口約950万人の東京と変わらず世界有数だ。2002~2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)を経験した香港は、その経験を生かしてどんな方策を打ってきたのだろうか。

香港、セミロックダウン完成までの過程

香港の新型コロナウイルスの感染者数は1013人、死亡者は4人(4月15日12:00現在、厚労省)となっていることから致死率は0.39%と日本の1.46%を大きく下回る。全世界では約5%といわれるなかではかなり低い。これは香港の医療水準が高いことと中国と陸続きであるにもかかわらず厳しい税関の管理をすることで医療崩壊を防いでいることが要因として大きい。

香港は旧正月2日目の1月27日から過去14日以内に湖北省を訪れた人と武漢を含む湖北省の住民は香港市民を除いて入境できないこと決定している。日本ではまだダイヤモンド・プリンセス号が横浜に寄港しておらず遠い国の出来事と思っていたときに打たれた政策だ。

その後、状況が悪化するたびに税関による水際対策を強化。2月8日には中国本土から香港に入る人はすべて14日間の強制隔離と検疫したほか、3月19日は中国本土、マカオと台湾を除く全世界各国・地域から香港に入る場合、14日間の強制隔離の対象とし、事実上の鎖国といえるセミロックダウン状態になった。

しかし、ヨーロッパなどに滞在履歴のある香港人を介した感染が増え始めたため、3月25日から香港に居住する人以外の空路での入境を禁止するほか、中国本土、マカオ、台湾から入境する非香港住民は、過去14日間に海外の国・地域に滞在した場合は入境を認めず、マカオ、台湾からの入境者全員が14日間の強制検疫を受けなければならない。また、香港国際空港による乗り継ぎの禁止をさせ、セミロックダウンがほぼ完成した。

人が大幅に減ったショッピングモール

強制隔離施設、罰金…超厳格な香港ルール

日本政府の場合、入国者には自宅での隔離を“要請”しており、義務ではないため要請を無視しても罰則はない。しかし、香港は入境者の対策も厳格だ。

税関で名前、航空便の座席番号といった基本情報に加え、自宅やホテルといった検疫場所も提出する。QRコード付のリストバンドが渡され着用義務が生じ、そしてスマートフォンに政府が開発したアプリをインストールしてQRコードと同期させ、GPSを常にオンにしなければならない。これで、対象者が検疫場所を離れたかどうか確認できる。

最初はシステムの不具合があったが、開始直後に40人以上が自宅検疫していたのに外出していたことが発覚し5人を逮捕、政府所有の強制隔離施設に送りこまれた。逮捕された場合は最高で罰金2万5000香港ドル(約35万円)と禁錮6カ月の罰則が課せれることになっている。

また、香港政府は3月28日からレストラン、カフェ、バーなどの飲食店を営業するにあたり、

  • 席の使用は総座席数の50%まで
  • テーブルの間は最低1.5メートル空ける
  • 1テーブルあたり最大4人まで
  • 客は、食事中以外はマスクの着用義務付け
  • 店は客の体温検査を行わなければならない、消毒液の提供を義務付け

を実施。翌29日からは2週間、公共の場で5人以上集まることを禁止するなど、防疫体制を強化した。

ここまで厳格な香港に比べ、日本には、濃厚接触を少しでも減らそうというなりふり構わぬ必死さは感じられない。

経済的バックアップを充実させる

経済的ダメージを見越して、香港は次々と政策を行っている。まず日本と大きく違うのは生活支援。18歳以上の永久居民の資格を持つ香港市民700万人へ1万香港ドル(約14万円)を支給する方針を固めている。香港の場合は財政備蓄が1兆1331億香港ドル(約15兆9000億円)と無借金どころか、1、2年程度は歳入がなくても成り立つ都市であるため実行が可能だ。

日本でも現金支給のアイデアが出ているが、赤字国債で賄う公算が大きく、それは次世代につけを回すことになるため、慎重な扱いが必要だろう。

一方で参考になるのは、個人の所得税・法人税について上限を2万香港ドル(約28万円)として100%減免する措置を実施すること。ほかにもオフィスなどの商用施設の電気代は5000香港ドル(約7万円)を上限に4カ月間75%を補助する。

直接の補助金も手厚い。2020年2月14日以前に飲食業の免許を取得している店を対象に補助金を支給する。一般のレストラン、工場の食堂などは20万香港ドル(約280万円)を補助、食品工場やベーカリー、生鮮食品の販売などは8万香港ドル(約110万円)などだ。

現金支給や法人税の減免などを発表した陳波茂財政長官(写真提供:香港政府新聞処)

安倍晋三首相は2月下旬、3月からの小・中・高校・特別支援学校の臨時休校を決めたが、これは水際対策が緩いなど初期対応が遅れた非難をかわすための政治的判断という面も少なくなさそう。一方、香港は1月下旬の旧正月休みを延長する形で休校措置を実施。数回延長され、現在は無期限の延長となっている。安倍首相はこのアイデアを香港から拝借したのかもしれない。

都市封鎖しても物流経路だけは通常と同じように

事実上の都市封鎖をしたが香港だが、物資の多くを中国から輸入している。そのため、トラックドライバーなどの物流業務のために往来する運転手は強制隔離を免除した上で必要な対策を施すなどのほか、パイロットなどの航空関係者、家畜輸入業者なども申請して認められれば隔離は適用されない。

日本において消費者はマスクなどを除き十分な在庫や供給があるにもかかわらず買い占めが起こったが、香港ではこの措置により、一時はマスクやトイレットペーパーの品不足・品薄感があったが、大きな買い占め騒動は起こっていない。このように、むやみに封鎖するのではなく、長崎の出島のように少し税関を開けておくことで生活への影響を最小限にとどめている。

このように、日本政府またはアメリカなどが実施している政策はすでに香港政府が実施している内容と似ている。香港は2003年にSARS(重症急性高級機症候群)を経験しており、どういった方策が必要なのかを理解しているため、世界より半歩、または一歩先に行くことができたのだ。

日本が唯一香港を真似していないのが公務員への在宅勤務なのだが、今でも通勤ラッシュが大きく解消していないところを見ると、公務員が率先して在宅勤務をすることは民間企業にそれを促すことにつながり、結果的に働き方改革にもつながるだろう。そういった点を含めて、香港の政策は参考になるといえそうだ。