世界的には半端な緊急事態宣言が日本人の自主性を促した

記者会見で「要請」を行う小池百合子都知事

社会

世界的には半端な緊急事態宣言が日本人の自主性を促した

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世界中にまん延した新型コロナウイルス。日本は5月25日に全国の緊急事態宣言を解除するまで外出自粛を要請するといういわゆる“セミロックダウン”の対策を取り、10万人当たりの死亡数0.71人(ジョン・ホプキンス大、5月31日現在)という世界と比べてもかなり低い数字を実現した(PCR検査数に違いはあるが)。政府と地方自治体から休業補償も満足に受けられないなかで、個人や団体それぞれが独自の取り組みをして生き残る努力をした結果だろうか。日本人は「指示待ち人間」「上からのお触れを待つ」という傾向があると言われるが、コロナ禍はそんな日本人の自主性、成長を促すという結果も生んだ。

日本は世界では優等生だが、アジアでは優等生ではない

アメリカのジョン・ホプキンス大学が提供している感染者数を見ると、6月1日現在、世界で約618万人が新型コロナウイルスに感染し、約37万が死亡。

国別では、感染者数のトップはアメリカの約179万人、死亡者が約10万4000人と断トツだ。他の国・地域を見ていくと、ブラジルの約51万人/約2万9000人、イギリスの約27万人/約3万8000人、イタリアの約23万人/約3万3000人、ドイツは約18万人/約8500人、中国は約8万4000人/約4600人、韓国は約1万1500人/271人、台湾は442人/7人、香港は1088人/4人(香港のみ衛生防護中心発表)、となっている。日本は感染者数が1万6770人、死亡899人となっている。

累計の数字は、日本でもPCR検査の絶対数が少ないと言われているように各国の検査・医療体制や人口によって変わってくるので比較は困難を伴う。

そういう意味で、もう一つの指標として比較される10万人当たりの死亡者数で比較した方が少しはましだ。それで見れば、アメリカは31.72人、ブラジルは13.77人、イギリスは57.84人、イタリアは55.17、ドイツは10.29、中国は0.33人、韓国0.52人、台湾0.03人、香港0.05人、日本は0.71人だ。

こう見ると、日本は世界では優秀だがアジアの中では飛びぬけて優秀なわけではなく、中国よりも数値は悪い。ただ、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)や2012年の中東呼吸器症候群(MERS)といった感染症を経験した国・地域は、今回においては前回の反省を生かし、新型コロナウイルスにおいては低い数字に抑えられたということも勘案しておくべきだろう。

キレイ好き、遵法精神、指示の遂行能力、同調圧力

とはいえ、なぜ日本がこれだけ低い数字に抑えられているのかというのは、海外の報道でも不思議がられている。

考えられることの一つは、キレイ好きなこと。日本人のキレイ好きには諸説あるが、ウォシュレットに代表される温水洗浄便座は一部の国・地域を除いてほとんど普及しておらず、これほど多彩な抗菌グッズを販売している国もない。面白いのは、バラエティ番組や芸能人のエピソードに「潔癖をネタにする」というものがあるが、海外ではそういうものはない。

ほかにも、誰もいなくても赤信号の交差点は渡らないというような遵法精神があり、上からのお触れを待つではないが、言われないと何もしないが、言われたことはできるだけ守ろうとする(責任を取らないという表裏一体でもあるが)。

また、ポジティブな文化とはいいにくいが、自粛警察に見られるような同調圧力は、新型コロナウイルス感染拡大下では外出を控えさせるという点では効果があっただろう。さらにはBCGワクチンの接種が効果あったという論文なんかもある。

現時点では、上記の国民性や医療制度が死亡者数を抑えたことにつながったかどうかは証明されていないが、いずれ理由は解明されるだろう。

強制力を“伴えない”緊急事態宣言が日本人を成長させた

今回のコロナ禍で、現在の法律では緊急事態宣言をしても強制力は無く「要請」のレベルでしかできないことを日本人は知った。

一部では緊急事態宣言に罰則を設けることや外出禁止をするための法整備、または国家緊急権の論議はあったが、結果的には“セミロックダウン”をしただけで緊急事態宣言を解除できたことは国民にとってはよかった。罰則にしろ、国家緊急権にしろ、無いほうがいいに決まっているからだ。

緊急事態宣言前は、「宣言をした方がいい」というコメントが多かった。普通なら自身の自由が縛られることを嫌がるものだが、その逆を望むというのは日本人らしいエピソード。前述のように、上からの指示を待つという“指示待ち人間”が少なくないが、強制力を伴わない自粛要請は、日本人の成長を促した気がしてならない。政府からの補償が遅れるなか、自分たちでコロナを収束させないと本当に経済的に困窮してしまうからだ。

大きなダメージを受けた飲食業界にしても、緊急事態宣言下では、営業時間が20時までなこと以外は、具体的な規制はほとんどなかった。しかし、例えば同じ“セミロックダウン”でも、香港では「席の使用は総座席数の50%」、「テーブルの間は最低1.5メートル空ける」、「1テーブル当たり最大4人」、「食事中以外はマスクの着用義務付け」、「店は客の体温検査を行う」、「店は消毒液を提供する」ことを罰則付きの条例を出している(その後、1部緩和)。

政府が細かく規定を作った方が、規制を受ける側はやりやすい。しかし、日本では限られた営業時間中、3密を防ぐためにどうすればいいのか自分たちで考えて対策を施した。

「一般社団法人日本フードサービス協会」と「一般社団法人全国生活衛生同業組合中央会」が5月14日に出した「外食業の事業継続のためのガイドライン」は、同団体が自ら作成したものだ。「各人ができるだけ2メートル(最低1メートル)以上の間隔を空ける」「パーティションで区切る」「真正面の配置を避ける」「客が入れ替わるたびに消毒する」、「大皿を避ける」「空調は定期的に清掃する」……など、日本人らしい細かな規定が書かれている。こういったことは飲食業界だけではない。映画館、ホテル、テーマパーク、エステ、旅行、小売店、学習塾、イベントなどの業界で独自にガイドラインを作成している。

先ほど、決められた方が受ける側はやりやすいと述べたが、一方で、政府主導ではなく自ら取り組んだ方がより現実的で実践的なものになることは間違いない。東京都は「事業者向け 東京都感染拡大防止ガイドライン~『新しい日常』の定着に向けて~」というものを出したが、これは各業界が作成したガイドラインを整理したかたちだ。東京都の政策担当者によると、「都として混乱を防いでほしいいという声があったのでガイドラインを出しましたが、各業界が作ったものより踏み込んだ内容にしてはいません。彼らの創意工夫に任せるスタンスです」ということだ。

政府と地方自治体のバトルで生まれたボトムアップの流れ

新型コロナウイルスでは当初、東京都と日本政府の見解を一致させるのに苦労したこともあったが、緩和基準などについて大阪府が独自の「大阪モデル」が発表するなど停滞気味の地方分権を促進するようなことにもなった。期せずしてコロナウイルスのおかげで自主性が今まで以上に芽生え、各企業、地方自治体が鍛えられたことになる。ボトムアップの流れはポジティブに受け止めたい。

感染症は今回のCOVID-19で最後ではない。また、そう遠からず新しいウイルスが登場するはずだ。そのときは、今よりも間違いなく経済的ダメージを減らしつつ感染拡大を防ぐことができるだろう。