日本経済、コロナ禍からの復活の鍵は国内旅行回復と半導体の確保

2021.6.30

経済

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日本経済、コロナ禍からの復活の鍵は国内旅行回復と半導体の確保

人出が増えつつある東京駅 写真:つのだよしお/アフロ

海外に大きく出遅れていたワクチン接種が日本国内でも進みつつある。政府は11月には完了するよう進めるとしているが、そうなると気になるのがポストコロナの景気回復だ。ワクチン接種が進む欧米では人の流れの復活にあわせて景気が急回復するなか、衰弱する中小企業を多数抱える日本はどうなるか。

日本政策投資銀行が中堅企業を支援するのは異例

「3度目の緊急事態宣言で今がボトムだが、ワクチン接種が急速に進めば今秋以降に国内旅行が本格的に回復する。海外旅行も来年にかけて徐々に再開するだろう」

大手旅行会社のエイチ・アイ・エスの澤田秀雄会長兼社長は、ポストコロナを見据えて、こう旅行需要の拡大に期待を寄せた。同社の2021年度第2四半期(2020年11月~2021年4月)は旅行事業の売上高が前年同期比91.3%減の290億1800万円、営業損失が180億円と、各国の渡航制限措置などで、主要の海外旅行が甚大な影響を受けている。

エイチ・アイ・エスに象徴されるようにコロナ禍を受け宿泊・飲食サービス業は大打撃を受けている。日本政策投資銀行(政投銀)が官邸の意向を受けて3月末からコロナ禍で特に深刻な影響を受けている資本金10億円以上の飲食・宿泊などの事業者向け金融支援策を開始したのはその象徴であろう。

本来、大企業取引を主体に、日本の重厚長大企業を支えてきた政投銀が中堅企業を中心とする飲食・宿泊業にまで手を伸ばすのは異例である。しかも、飲食・宿泊などの甚大な影響を受ける事業者には従来の「民業圧迫回避」の原則を棚上げして単独で資金を流し込む。

資本性のある劣後ローンの供与はその中心となる施策で、金利は当初の3年間、民間金融機関よりも低い年1%に設定し、4年目以降も最大3%に抑える。「民間金融機関が提供する劣後ローンは通常年4~5%の金利であることから、まさに破格な大盤振る舞いだ」(メガバンク幹部)。

また、政投銀は3月末に飲食・宿泊業向けの支援ファンドを立ち上げ、中堅・大企業が発行する優先株の引受けを開始した。優先株は議決権が無いかわりに配当が高い株式だ。企業にとって調達コストは高いが、経営の自由度は保たれる。コロナ禍で経営環境が一段と厳しさを増すなか、まさに何でもありの世界に突入し始めている。

JTB、航空…危機に企業を支える陰の主役

2009年のリーマンショックのときもそうであった。融資先の追加与信に二の足を踏む民間金融機関に代わって、急場の資金繰りを支えたのは、ある意味で「国の政策を受け、一時的に経済合理性を離れて投融資できる」政府系金融機関であった。政投銀はその筆頭に挙げられる。

政投銀が3月末に飲食・宿泊業向けに立ち上げた支援ファンドの第1号となるとみられているのが、コロナウイルスの感染拡大を受け旅行需要が低迷、2021年3月期の当期純利益が過去最大の1051億円の赤字となったJTBだ。 同社は政投銀に対し優先株の引受けを軸とした資本支援を要請している。JTBは6500人の社員削減などの大規模リストラ策、さらに資本金を1億円まで減資し、中小企業化する、身を切る覚悟を決めた。

政投銀は航空業界の再編にも乗り出している。北海道を地盤とする航空会社AIRDO(札幌市)と、九州を拠点とするソラシドエア(宮崎市)の経営統合だ。新型コロナウイルス感染拡大の影響で旅客数の低迷が長期化するなか、協業により資材調達や機体整備のコストを削減し地域路線を維持したい考えだ。コロナ禍をきっかけとした国内航空会社の本格再編の動きは初めてとなる。経営統合に向け2022年秋にも共同持株会社を設立し、両社を傘下に置く方向で調整している。

実質的な経営統合となるが、2社合併の方式をとらないのは、独禁法上の問題で両社が持つ羽田空港の発着枠などが削られる恐れがあるためだ。AIRDOはボーイング767-300型機と同737-700型機で本州と北海道を結ぶ路線、ソラシドエアはボーイング737-800型機で本州と沖縄、九州などを結ぶ路線を展開している。政投銀は両社統合の影の主役であり、資金的バックアップを行う。

ポストコロナは「K字型回復」、半導体不足は長期化も

三毛兼承・全国銀行協会長は、「企業業績をみていくと、金融業を除く本邦企業の経常利益は、昨年4~6期に世界金融危機時以来の落ち込みをみせ、それ以降は回復基調にあり、この1~3月期は全体へは8四半期ぶりに前年比プラスとなった。ただし、その中身をみると製造業では機械等の一部セクターが牽引するかたちで収益回復が続き、1~3月期では1985年以降2番目に高水準となる収益をあげている一方で、非製造業では宿泊・飲食サービス業が5四半期連続で赤字となるなど、依然厳しい経営環境にあり、ワクチン普及によって対面サービスの持ち直しが期待される」と語る。

ポストコロナを展望した動きは顕在化してきているが、その流れは経済の二極化が進む「K字型」回復と見ていい。コロナ禍で落ち込む企業群と成長する企業群とが明確に分かれつつある。

例えば、コロナ禍に伴う在宅勤務の拡大や巣篭り需要の高まりからパソコンなどの電子機器やゲーム機、空気清浄機などの家電製品の売れ行きは好調で、家電メーカーや量販店を潤している。だが、不安の芽も残されている。家電や電機機器に欠かすことができない半導体が不足しているためだ。

“産業のコメ”と呼ばれる半導体だが、コロナ禍やデジタル化の進展を受けた需要増に供給が追いつかず、影響はほぼあらゆる産業に及び始めている。特に2020年秋から中国で自動車の増産が始まり、半導体不足が深刻化。自動車の生産が制限される事態に陥った。「サプライチェーンに強みを持つトヨタ自動車でさえ、半導体不足の影響で岩手、宮城大衡の国内2工場3ラインで6月から生産停止を余儀なくされました。ヤリスなど約2万台の減産になる格好です」(自動車アナリスト)という。

半導体不足は長期化が避けられない。「マイクロプロセッサ技術のライセンスを持つ米IBMのジム・ホワイトハースト社長は世界的な半導体不足はあと2年続く可能性があると指摘しています。すでにICチップの製造遅延も生じており、影響はiPhoneなどアップル製品にも及びはじめています」(ITアナリスト)とされる。さらにポスト5G(第5世代移動通信システム)を見据えた国を挙げた半導体の争奪戦も激化している。

半導体市場は2030年には現状の倍の100兆円に拡大すると予想される巨大市場だ。だが、日本の地位低下が著しい。「日本の半導体産業は、80年代後半にかけて世界市場シェア50%を占めるなど席捲したが、その後の日米半導体摩擦に加え、大型計算機からパソコンへの需要シフトに遅れ、いまやアメリカや韓国、台湾の後塵を拝しています」(同)。

さらに、半導体投資では「バイデン米大統領が半導体産業の国内生産回帰に向けて5年で520億ドル(約5.7兆円)を投資する方針を打ち出しているほか、EUも半導体を含むデジタル投資に最大1450億ユーロ(約19兆円)を振り向ける計画だ」(同)。

これに対して日本は、ポスト5G基金に2000億円、サプライチェーン補助金に2020年度約3000億円、2021年度約2000億円を投じた。欧米に比べ桁外れに少ない投資額に「日の丸半導体」の復活に危機感が募っている。

中小企業の“業転”と、人の流れの活発化に期待

日本経済は、やはり中小企業の復活なくして、真の復活は望めない。その点、注目に値するのが、6月16日に中小企業庁が発表した「令和2年度第3時補正予算『事業再構築補助金』(緊急事態宣言特別枠:第1回公募)」である。 ポストコロナを見据えて、中小企業の構造改革を支援する補助金で、5181者が応募し、2866者が採択(合格)した。合格率は6割に及ぶ。投じられる予算規模は実に1兆1486億円に達する。日本の景気回復は、これまでの延長線上ではなく、“業務転換”をはじめとした企業の構造改革が進むかが鍵になることは間違いない。

欧米で新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、人の流れが急回復している。旅行やビジネス需要の高まりから航空機のフライト数も増え、飲食店の予約率もコロナ禍前の水準を回復しつつある。日本でも旅行需要の回復の兆しも見えてきている。ワクチン接種が進む高齢者を中心に予約が伸びているという。

人の流れの活発化は即、経済成長に直結する。足下ではインドの変異ウイルスに起因する感染の再拡大も懸念されているが、ワクチン接種が進むにつれて経済は正常な成長路線に復帰しよう。エイチ・アイ・エスの澤田社長が描くような回復シナリオが見え始めている。