台湾をめぐり中国と米豪がにらみ合い 南太平洋を舞台に繰り広げられる大国間競争とは

台湾国旗掲揚式を行う軍の儀仗兵。中国の脅威で南太平洋では“脱台湾”が進んでいるという 写真:ロイター/アフロ

社会

台湾をめぐり中国と米豪がにらみ合い 南太平洋を舞台に繰り広げられる大国間競争とは

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近年、南太平洋の島嶼国への外交攻勢を強める中国。軍事的影響力の拡大も懸念されるなか、アメリカやオーストラリアも動き出した。新たな大国間競争の舞台となった南太平洋で進められている中国の思惑とは何なのだろうか。

新たな大国間競争の舞台となる南太平洋

ロシアによるウクライナ侵攻で欧米とロシアとの対立が激しくなるなか、依然として沈黙的な立場を堅持する中国は4月、南太平洋の国ソロモン諸島との間で新たに安全保障上の協定を結ぶことで合意した。ネット上に流失した協定に関する一部情報によると、そこには、「ソロモン諸島が中国に必要に応じて軍・警察の派遣を要請できる」、「中国は現地で一帯一路経済プロジェクトに従事する人々を保護するため軍を派遣できる」などの内容が記されていたという。

なぜ、中国は南太平洋ソロモン諸島に接近を図るのだろうか。そこには、大国間競争と台湾という中国なりの狙いがある。 

上述のように、中国はソロモン諸島と安全保障協定を結んだわけだが、何も中国が接近しているのはソロモン諸島だけではない。オーストラリア・シドニーにあるシンクタンク「ローウィー研究所(Lowy Institute)」の調査によると、中国は 2006年からの10年間で、フィジーに3億6000 万ドル、バヌアツに2億4400万ドル、サモアに2億3000万ドル、トンガに1億7200万ドル、パプアニューギニアに6億3200万ドルなど南太平洋諸国に多額の経済支援を行うなど、南太平洋地域で徐々に強い存在感を示すようになっていった。

その中でソロモン諸島では2021年11月、中国と関係を強化するソガバレ現政権に対する大規模な抗議デモによって現地の中国街などが被害に遭う事態が発生。以降も散発的に抗議デモが起きるなど、南太平洋各国で中国への警戒感があるのも事実である。

しかし、それでも中国の影響力は増大しており、今回、遂に経済から安全保障という形で新たな一歩を踏み入れることとなった。経済的影響力を浸透させてから安全保障でも踏み入れるという今回の形は、ソロモン諸島だけでなく、今後は他の南太平洋諸国でもみられる可能性が十分にあろう。

西太平洋で軍事的影響力を強化しようとする中国にとって、南太平洋はアメリカだけでなく、近年対立が深まるオーストラリアやニュージーランドをけん制する意味でも地理的に都合がいい。

アメリカの政府高官は4月下旬、ソロモン諸島の首都ホニアラでソガバレ首相と会談し、安全保障協定に懸念を伝え、対抗措置も辞さない構えを示した。南太平洋を裏庭と位置づけるオーストラリアのモリソン首相も同じく4月下旬、中国がソロモン諸島に海軍基地を建設する恐れがあり、そうなればオーストラリアやアメリカだけでなく、他の太平洋島嶼国が危機に直面することになると警告した。

このように、中国側には大国間競争を意識して、アメリカやオーストラリアなどをけん制する政治的狙いがあることは間違いない。最近、日本の閣僚も5月、南太平洋のフィジーとパラオを訪問したが、アメリカやオーストラリア同様の懸念を抱いている。

南太平洋諸国に台湾との外交関係断絶を求める中国

中国が南太平洋に接近を図るのは、大国間競争以外にも狙いがある。もう一つの大きな狙いは、台湾との外交関係断絶を促すことだ。実は、南太平洋には台湾と外交関係を維持する国が集中している。

現在、中国と国交があるのは、パプアニューギニア、バヌアツ、フィジー、サモア、ミクロネシア、クック諸島、トンガ、ニウエ、キリバス、そしてソロモン諸島の10カ国で、台湾と国交を持つのはマーシャル諸島、ツバル、パラオ、ナウルの4カ国であるが、2019年にキリバスとソロモン諸島が台湾との断交を発表し、中国と新たな国交を樹立するなど、南太平洋では“脱台湾”が進んでいる。これも中国が経済を武器に影響力を強めてきた証だろう。

現在、台湾の蔡英文政権は中国を脅威として認識し、そのため欧米諸国との結束を強化している。習政権は台湾の独立阻止には武力行使も辞さない構えだが、まずは台湾が持つ他国との国交をどんどん消していくことで、台湾に外交をできなくさせる狙いがある。このままの中国有利な情勢が続けば、断交ドミノ現象はいっそう勢いを増す恐れがある。アメリカやオーストラリアなどは、今後のマーシャル諸島、ツバル、パラオ、ナウルへ政治的なテコ入れを強化していくことだろう。