いかに米中デカップリングを実現するか 日本外交の課題

写真:ロイター/アフロ

政治

いかに米中デカップリングを実現するか 日本外交の課題

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米中対立のなかで、日本も生き抜いていく戦略を模索しなければならない。日本の国益を維持するため、どこまで日本自身で米中デカップリングをしていけるかは、米中という相手の意向もあるので難題だ。しかし、筆者は将来を見据え以上2つのことを提示したい。

どこまで日本自身でやれるか

2022年は、2月24日のロシアによるウクライナ侵攻によって世界情勢は大きく動き、日本も対露外交の転換を余儀なくされた。台頭する中国を見据え、以前は日本にも対中国でロシアと協力を模索する動きもあったが、ウクライナ侵攻によって日露関係は冷え込み、北方領土問題の解決などは完全に遠のいた。

一方、台湾情勢をめぐっては、2022年夏のペロシ米下院議長の訪台によって中国は前例にない規模の軍事的威嚇を示し、今日でも緊張が続いている。2024年1月には台湾で総統選挙が行われるが、蔡英文氏の政策を継承する新たな指導者が誕生するのか、はたまた親中的な候補者が勝利するのか、それによって習政権の対台姿勢も大きく変わると思われ、2023年はそれを見据えた重要な一年となる。

一方、このような世界情勢のなか、2023年の日本外交はどう展開されていくのか。多くの課題があるが、筆者は一つ大きな問題があると考える。それは、「日本の国益を維持するため、どこまで日本自身で米中デカップリングをしていけるか」である。トランプ米政権以降、世界では米中貿易摩擦が大きな問題となり、昨今バイデン政権は半導体など先端技術分野での対中デカップリングを進めるなど、米中間での対立は安全保障や経済、サイバーや宇宙、技術など多方面に及んでいる。

1月13日、アメリカを訪問した岸田文雄首相はバイデン大統領と会談し、中国を念頭に経済的威圧や非市場的政策および慣行に対抗し、日米などで強いサプライチェーンを構築するなど経済安全保障分野で連携を強化していくことで一致した。バイデン大統領は、日本に対して半導体製造装置の対中輸出規制の強化も要請しているが、今後、経済安全保障をめぐってはさらに対立が激しくなり、日本が“米中経済戦争”の狭間に陥ることが懸念される。

ここで浮上する課題は、正に「どこまで日本自身で米中デカップリングをしていけるか」である。“どこまで”という言葉を使った理由は、米中対立が激しくなるなか、安全保障上、アメリカにとって日本は中国の太平洋進出を抑える防波堤的役割を担い、経済的に日本は米中両国を重要な貿易相手としており、現実問題として日本は米中対立からの影響を受けることになる。

要は、その悪影響をできるだけ抑え、如何に政治経済両面からの国益を維持、発展できるかがポイントなのである。この課題は、今後日本にとって長期的宿題となることは間違いない。しかし、その中でも筆者は2つのことを提示したい。

“政治化しにくい”分野での日中関係強化

一つは、優先順位を間違えないことだ。当然ながら、日本外交の基軸は日米関係であるので、激変する世界情勢のなかでもまずはアメリカとの関係を維持、強化しなければならない。これは今後の政権でも継承されることだが、日米関係を第一に維持しながら、それを前提に中国と向かい合っていく必要がある。

そして、米中対立や台湾情勢によって日中関係も悪化する恐れが指摘されるが、実際その可能性は高いと思われるものの、そのなかでも日本は独自で日中関係の安定化を探っていく必要がある。

日本にとって中国は依然として最大の貿易相手国であり、実際問題として中国なしに日本経済は成り立たない。そうであれば、米中対立が経済貿易の分野に及ぶことは避けたいのが日本企業の本音だが、半導体や先端技術など“政治化しやすい”分野・業界とは切り離し、分野や観光など比較的“政治化しにくい”分野で日中関係を強化することも重要だろう。また、地球温暖化対策やクリーンエネルギーなど全人類が協力しなければならない分野も多く、こういった分野で日中協力を押し進めいくことも戦略的には重要だ。

温暖化対策などで協力を進めようとする動きは米中間にもあり、政治化しにくい分野での日中関係強化については、アメリカも難色を示す可能性は低い。日本としては、ひとつにこのような形で米中デカップリングを進め、日本独自の日中関係を追求していくテクニックが必要だ。

グローバルサウスとの関係強化

もう一つは、グローバルサウス、いわゆる発展途上国との関係強化だ。これは、「日本の国益を維持するため、どこまで日本自身で米中デカップリングをしていけるか」の前半に関係することだが、今日、大国間対立が深まっているが、国々の数でいえば、欧米や中国ロシアなど一部の国々が争っているに過ぎないとも言える。

ウクライナ戦争や台湾情勢について、ASEANや南アジア、中東やアフリカ、中南米や南太平洋の国々は正直どう思っているだろうか。2022年の国連総会の席で、インドネシアやアフリカ連合の代表者が口にしたのは、ASEANやアフリカを米中対立、大国間競争の巻き込むなという不満や警戒感である。そして、今後の世界情勢のなかでは、爆発的な人口増加も影響し、今後はこういったグローバルサウスの影響力がいっそう高まるだろう。

要は、日本としては将来の国益を見据え、グローバルサウスとの政治、経済的関係を独自に強化することが求められる。しかも、グローバルサウスの中には米中対立や大国間競争を警戒する国々も少なくないので、米中対立とは一線を置ける日本というイメージを作っておく必要がある。