主要7カ国が集まり国際的諸課題について話し合うG7広島サミット(主要7カ国首脳会議)が3日間の日程を終え、5月21日に閉幕した。被爆地である広島での開催や核軍縮に関する初の共同文書「広島ビジョン」の発出、ウクライナのゼレンスキー大統領の来日など、話題に事欠かなかったが、与党内では早くも解散総選挙に目が向いているようだ。
サミットの意義も再確認させた岸田首相の成果
「被爆地を訪れ、被爆者の声を聞き、被爆の実相や平和を願う人々の想いに直接触れたG7首脳が声明(広島ビジョン)を発出することに、歴史的な意義を感じる」。岸田文雄首相は、広島サミットの閉幕後の記者会見でこう強調した。
首相にとっては、特に思い入れの強いサミットとなった。日本での開催は7年ぶり7回目だが、時の首相の地元で開催されるのは初めて。しかも、ウクライナ侵攻でロシアのプーチン大統領が戦術核の配備について言及するさなか、G7首脳が初めて被爆地である広島に集結し、全員で原爆資料館を視察した。
特にジョー・バイデン大統領はアメリカの現職大統領としては7年前のオバマ氏に続いての視察となり、滞在時間はオバマ氏のときの10分を大きく上回る40分間に及んだ。オバマ氏のときは入り口ロビーで収蔵物数点を見学しただけだったが、今回は犠牲者の写真や遺品が並ぶ本館の展示物を紹介したとみられる。
視察後はG7とEUの首脳9人全員で平和記念公園の原爆慰霊碑に献花したが、事前の調整は難航したという。G7のうち、米英仏の3カ国は核保有国であり、アメリカは広島に原爆を投下した当事者だからだ。しかし、外務省などが粘り強く交渉し、視察の内容は完全非公開という形で実現させた。
サミットでは「核兵器のない世界という究極の目標に向けて、軍縮・不拡散の取組を強化する」などとした首脳宣言をとりまとめ、「ロシアによる核兵器の使用の威嚇、ましてやロシアによる核兵器のいかなる使用も許されない」などと強調した核軍縮に関する初の共同文書「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」をまとめた。
さらに、ウクライナのゼレンスキー大統領の電撃参加という“サプライズ”も加わった。核兵器の具体的な脅威にさらされている国のトップが被爆地を訪れ、G7や国際社会で存在感を高める「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国の首脳に直接、支援を呼びかける姿は、世界的にも大きく報じられただろう。
サミット直前にはバイデン大統領の参加すら危ぶまれていたことを考えると、大きな成果をあげたと言っていい。「サミットの意義は薄れつつある」との指摘もあるが、今回の広島サミットでは主要国のトップが一堂に会することの迫力を世界に見せつけた。
読売新聞が5月20~21日に実施した世論調査によると、岸田内閣の支持率は56%となり、前回から9ポイント上昇。8カ月ぶりに5割台を回復したという。不支持率は4ポイント減の33%だった。「G7サミットで首相が指導力を発揮していると思う」は53%、首相の目指す「核兵器のない世界に向けて国際的な機運が高まると思う」も57%にのぼった。
岸田首相が打つ、長期政権のための次なる一手
支持率が高まると、永田町の関心事は“解散”に向く。与党、特に自民党議員にとっては、支持率の高いうちに衆院・解散総選挙があった方が自らの選挙に有利に働くため、早期解散を求める声は高まるだろう。しかも、今は支持率の回復に加えて“株高”という後押しもある。日経平均株価は5月19日に3万円台を1年8カ月ぶりに回復。円安による割安感などから海外投資家の買いを集め、バブル崩壊以来の高値を更新した。自民党議員が「今なら勝てる」と思うのも無理はない。
解散権を握る岸田首相はサミット閉幕後の記者会見で早期解散について「重要な政策課題に結果を出すことが最優先」とした上で「いま解散・総選挙は考えていない」とこれまで通り否定した。では、衆院解散はいつになるのか。
長期政権を目指す首相にとって、最も重要な政治日程は2024年9月の自民党総裁選。事前に解散・総選挙で与党を勝利に導けば再選が近づくが、あまりに早いと衆院選を勝ち抜いたとしてもさまざまな原因で総裁選前に支持率が下落するリスクをはらむ。となると2024年の通常国会中というのが最も自然な流れだろう。
現在の衆院議員の任期満了は2025年10月まであるため、早すぎると批判を招く可能性もある。しかし、与党には支持率以外にもなるべく早く解散してほしい2つの理由がある。
与党内で早期解散を求める声が高まっている理由
1つ目が防衛費や少子化対策を増額するための負担増議論だ。政府は2023年度からの「防衛力整備計画」に5年間で防衛費総額を43兆円程度と定め、一部を増税で賄う考え。また、6月にまとめる「経済財政運営と改革の基本方針」、いわゆる“骨太の方針”には、児童手当の拡充など少子化対策の具体策を盛り込む方針で、これらの財源をどう賄うかの具体的な議論が始まる。負担増の具体策が明らかになれば世論の反発を受ける可能性があるため、議論が具体化する前に選挙を戦いたいという心理が見え隠れする。
2つ目は維新の脅威だ。大阪を地盤とする日本維新の会は、2021年の前回衆院選で大阪府内19の小選挙区中、公明党に配慮して候補を立てなかった4区を除く15選挙区で勝利。全国で与党は大勝したものの、大阪では自民党が1議席もとれない歴史的惨敗となった。維新は4月の統一地方選で、奈良県知事選を制して初めて大阪府外での首長を誕生させるなど躍進したほか、衆院和歌山1区の補欠選挙では、自民党候補を退けて勝利した。
維新は次期衆院選で全選挙区に候補を擁立すると意気込んでいるが、候補が決まっていない選挙区はたくさんある。特に関西地方の選出議員は「維新の準備が整う前に解散して欲しい」というのが本音だ。永田町では衆院解散は“首相の専権事項”と言われるが、解散風が強まり過ぎると、さすがの首相も無視できなくなるだろう。
自らの総裁再選シナリオと、早期解散を求める党内の声。首相は2つを天秤にかけながら、慎重に解散時期を見極めることになりそうだ。