貧相なロシア戦勝記念日に悲惨な軍の実態……追いつめられるプーチン

5月9日、露・対独戦勝78周年の軍事パレードに登場した戦車は旧型1台のみ 写真:Pelagiya TikhonovaMoscow News Agency/ロイター/アフロ

社会

貧相なロシア戦勝記念日に悲惨な軍の実態……追いつめられるプーチン

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2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻。両国共に真っ向から対立する状況が続いてきたが、ここにきてロシアの“弱体化”があらわになってきた。国家の一大行事である軍事パレードや内部から漏れ出る実態から見えるロシアの行く末は、想像以上に厳しいものになりそうだ。

劣勢を物語るロシア内部の状況

ロシアがウクライナに侵攻してから1年3カ月が経過した。戦争の行く末は、依然として明るい兆しが見えないものの、ロシアのプーチン大統領は日に日に追いつめられている。

5月9日、モスクワでは旧ソ連がナチスドイツに勝利してから78年を祝う軍事パレードが行われたが、参列した兵士は8000人と過去15年で最も小規模となり、例年見られる戦闘機の姿もそこにはなかった。プーチン大統領は、演説で相変わらずウクライナ侵攻の意義を強調。西側がロシアを破壊しようとしていると欧米に強い不満を示し、「われわれの祖国に対して再び“本当の戦争”が行われている」とこれまでの“特別軍事作戦”という言葉を撤回し、“本当の戦争”と強調して訴えた。しかし、その根気強い発言と軍事パレードの様子には大きな温度差があった。

ロシアの劣勢は、5月3日の出来事からもわかる。ロシア政府は同日、プーチン大統領の暗殺を狙ったドローン2機をクレムリン上空で撃墜したと発表。ドローンとみられる小型の物体がクレムリン上空を飛行する映像を公開した。ロシア政府は、ウクライナが実行したと非難したが、今日のウクライナにロシア中枢を狙うメリットや生じるコストを考慮すれば、その可能性は極めて低く、ロシアによる自作自演の可能性が高い。これについては、アメリカのシンクタンクである戦争研究所も同様の指摘をしている。

また、戦争の最前線で活動を続けるロシア民間軍事会社ワグネルの苦戦も、ロシアの劣勢を物語っている。5月5日、ワグネルの指導者プリゴジン氏はSNS上で、「ゲラシモフ、ジョイグ、弾薬が70%足りない、弾薬はどこだ」とロシア軍幹部たちを呼び捨てにし、ロシア中枢に強い不満を示した。その後、プリゴジン氏は要求した弾薬の1割しか届いていないとし、われわれはだまされた、と強い怒りをあらわにしている。

こういった最近のロシアの状況は、その劣勢を顕著に示すものだ。ワグネルの声は戦争の最前線でロシア側が置かれる状況を赤裸々に示し、クレムリン上空でのドローン撃墜でも、ロシア側にはそれによってウクライナ攻撃を正当化しようという狙いだけでなく、国民に対してもその正当性をアピールする思惑があったと感じられる。

大きな誤算を生んだプーチン大統領によるNATOへのけん制

一方、プーチン大統領が追いつめられるのは物理的な側面だけではない。プーチン大統領は長年、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大に強い不満を抱いてきたが、今日のウクライナ侵攻はそのNATOを強くけん制する狙いもあったはずだ。

冷戦以降、NATOは東欧の民主化ドミノも相まって徐々に東へ拡大し、今日ではロシアに近接するバルト3国にまで活動範囲が及んでいる。そして、ウクライナ侵攻により、ヨーロッパではロシアへの警戒感が一気に強まり、フィンランドやスウェーデンが短期間のうちにNATO加盟申請を行った。

特に、フィンランドはロシアと1000キロ以上に渡って国境を接しているが、侵攻以降は国内でNATO加盟を支持する声が国民の間で広がっていた。現在は200キロに渡って国境地帯にフェンスを建設中で、今後2、3年で完成するという。そして、2023年4月、フィンランドのNATO加盟が正式に決定し、これでNATOは31カ国体制となった。

東方拡大を続けるNATOをけん制する狙いもあったウクライナ侵攻は、逆にNATOの拡大を誘発し、プーチン大統領は自らの首を自分で絞めている状況にある。集団防衛体制であるNATOの条約第5条には「加盟国1国に対する攻撃は全加盟国への攻撃と見なす」と明記されている。ロシアとしては、NATO加盟国に迂闊に手を出せる状況にはない。

ウクライナが侵攻された背景には、ウクライナがNATO加盟国でなかったからだとの意見も多く聞かれるが、隣国フィンランドがNATOに加盟したことはプーチン大統領にとっても大きな誤算となった。自らが嫌うNATOが1000キロ以上にわたって隣接することになったのだから、プーチン大統領は政治的にも極めて追いつめられるようになったと言えよう。

勢いづくウクライナに対するロシアの反応は

ウクライナのゼレンスキー大統領は、5月21日、広島で開催された主要7ヵ国首脳会議(G7サミット)にサプライズで対面参加。それに応えてG7首脳は、さらなるウクライナ支援の拡充とロシアに対する追加制裁で一致した。中でもアメリカが、慎重な姿勢を見せていたF16戦闘機の供与を認めたことは大きい。

ウクライナは今後、ロシア側に大規模攻勢を仕掛けると発表しているが、この攻勢によって今後の情勢が大きく変わるとみられる。仮にこれが“とどめの一発”になるようであれば、プーチン大統領はどんな手段に出てくるのだろうか。以前に核使用をちらつかせたことがあったが、今後のロシア側の反応が懸念される。