知らない人が意外と多いのですが、個人が資産運用を行う際には税制上のいくつかの特典が受けられます。それらをフル活用すれば税負担を抑えられ、その分だけ効率的に資産を殖やすことが可能。つまり、税制上の特典を利用している人とそうでない人では、同じような運用を行っていても大きな差が生じ得るのです。
資産運用に関する税制優遇を使わないのは大きな損
お金の運用といえば、大抵の人がまず頭に思い浮かべるのは預貯金ではないでしょうか。実際、日本人の金融資産構成の中で51.5%を占める現金・預貯金は約930兆円と、アメリカ(13.4%)、欧州(33.2%)などほかの先進国と比べてとても高い。しかし、日本では超低金利が長く続いているだけに、中長期的なスパンで資産をできるだけ多く殖やすためには、何らかの投資が不可欠です。
国は、預貯金一辺倒になりがちな日本人の資産を投資にもっとシフトさせ、投資を通じて経済を活性化させるために、資産運用に関する税制上の特典を設けています。それらを利用すると、運用で得た利益に一定範囲内で税金が課せられないなどの優遇措置が受けられます。
こういった優遇措置は、国が定めている制度なので恒久的になる可能性もあり、早く始めれば始めるほど多くのメリットを享受することができます。また、利回りで換算すれば、投資金額に対して年に2ケタ以上の数値になることも少なくありません。
では、具体的にどういった特典があるのでしょうか?
まず、老後のための資金作りを応援する目的で設けられたのが、個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」。厚生年金や国民年金といった公的年金だけでは不安だと感じる人たち向けに、それらを補完する制度として設けられています。
これに対し少額投資非課税制度「NISA(ニーサ)」は、所定の範囲内において、投資で得た利益がすべて非課税となります。さらに、未成年者少額投資非課税制度「ジュニアNISA」は、19歳以下の自分の子どもや孫のために所定の範囲内で投資した際の利益に税金が課されないというものです。
それぞれの違いについて、詳しく説明していきます。
「iDeCo」には3つの税制上のメリットが
「iDeCo」を利用できるのは20~60歳の会社員や自営業者、公務員、専業主婦です。掛金は月々5000円から始められ、1000円単位で設定可能。また、掛金は年1回変更ができ、60歳になるまで積み立てを続けられます。
ただし、毎月の掛金の限度額は就業形態によって決められていて、自営業者は月額6万8000円、公務員は月額1万2000円、専業主婦は月額2万3000円となっています。
会社員の場合は複数のケースがあり、[1]勤務先で企業年金に加入していない人は月額2万3000円、[2]企業年金には加入している人は月額1万2000円または2万円となっています。
※加入している企業年金の種類によって異なる。
こうした違いがあるのは、会社員と比べて自営業者や専業主婦の公的年金が見劣りする内容だからです。
企業型確定拠出年金
従業員の福利厚生を目的に個々の企業が導入する企業年金は、将来の「受給額」があらかじめ確定している。ただ、高齢化で受給者が増加の一途をたどると財政的にも厳しくなるし、それなりの大企業でなければなかなか制度を維持しづらかった。そこで、「掛金」は確定しているが、将来の受給額は加入者自身が選んだ金融商品の運用成果次第で変動する「確定拠出年金」が考案された。
「iDeCo」もその一種で、こちらは個人が自分自身の判断で利用するか否かを決められるのに対し、「企業型確定拠出年金」は勤務先が導入すると従業員は必然的に加入することになる。ただし、掛金は勤務先が出してくれる(加入者自身でも上乗せして掛けることも可能)。
「iDeCo」は節税効果が非常に高いのが特徴で、「掛金」「運用益」「年金」の3つに対してメリットがあります。
第1のメリットは、掛金を所得税の申告時にすべて控除できること。つまり、掛金として負担する金額分だけ課税対象所得が少なくなり、その分だけ節税できます。
第2のメリットは、運用中に発生した利益から税金を徴収されることが無いこと。
老後の資金作りを前提としているため、60歳まで換金できないという制約はあるものの、年金として受け取る際には、第3のメリット「公的年金等控除」が利用できます。
公的年金等控除
年金として受け取ったお金を所定の範囲内で所得から差し引くことができる制度で、その分だけ課税対象所得が減り、所得税が軽減される。
仮に、30歳独身の会社員(年収500万円)が月々の上限2万3000円を元本確保型(定期預金)で運用している場合で、考えてみましょう。
年収500万円の課税所得は235万5000円として計算してみます。「iDeCo」に未加入だった場合は、所得税が14万800円、住民税が24万500円分引かれることになります。
しかし、「iDeCo」を利用していれば、課税所得をその分減らすことができるので、所得税を11万2700円、住民税を21万2900円まで減らすことができます。
トータルで5万5700円分の所得税と住民税が減ることになり、年の投資金額27万6000円に対しては20%以上の利回りになります。
2018年1月から積立型のNISAもスタート
老後のための蓄えとなる「iDeCo」に対し、運用の目的を特定されていないのが「NISA」です。20歳以上の国内在住者なら誰でも利用でき、年間120万円まで、投資で得た利益に税金がかかりません。
この特典は(2014年から2023年までの10年間で)最長5年間にわたって享受できます。なお、非課税となる投資対象は上場株式や投資信託などの配当金・分配金や譲渡益です。
一方、「ジュニアNISA」はその派生形として登場したもので、19歳以下の自分の子どもや孫の名義を用いた投資で得た利益(毎年80万円まで)が非課税になります。
こちらも最長5年間となっており、最大で400万円の利益に税金がかかりません。名義人が18歳になるまで換金できませんが、子どもや孫の教育資金を作る際などに魅力的な選択肢となります。
さらに、2018年1月から追加されるのが「つみたてNISA」。普通のNISAと同じく20歳以上の国内在住者を対象としていて、年間40万円ずつ、最長20年間にわたって得た利益が非課税になります。「NISA」と「つみたてNISA」の両方を同時に利用できないことは注意しておきましょう。
「iDeCo」は超長期、NISAは中長期のスパンで利用
「iDeCo」は税制面のメリットがとても大きいだけに、利用対象者に該当していればを活用しない手はありません。「将来に対して資金面の不安は皆無」という人でない限り、まずは率先して加入したいところです。ただし、60歳まで換金できないが原則ですから、超長期スパンの運用が必然となってきます。
対照的にNISAは人生の中でもっとスポット的な活用となってくるでしょう。個々のライフプランに応じてさまざまな目的のために、中長期的なスパンで運用することになりそうです。
「ジュニアNISA」はともかく、「NISA」と「つみたてNISA」をどう使い分けるべきかがピンとこないという人もいるでしょう。「NISA」は年間120万円の投資枠を一気に使い切っても構いませんし、何度かに分けて投じるのも自由です。
言い換えれば、それなりに自分自身の投資判断(相場観)が求められてくるわけです。その点、「つみたてNISA」は毎月自動的に投資が続けられていくので、自分なりにタイミングを見極める必要がありません。
ただし、「iDeCo」と「NISA(ジュニアNISA、つみたてNISAも含む)」に共通する注意点があります。それは、利用する際の窓口となる金融機関を選ぶ際には、くれぐれも慎重に判断すべきだということ。
どちらも窓口となる金融機関によって選択できる金融商品の品揃えやコスト(販売手数料や管理手数料など)が異なり、また、「ジュニアNISA」は金融機関の変更する際は、既存のジュニアNISA口座を廃止する必要があります。払出制限が解除される前に口座を廃止する場合は、災害等のやむを得ない場合を除き、ジュニアNISA口座における過去の取引を含むすべての利益に対して課税されます。
「iDeCo」と「NISA」は毎年1回の変更が可能ですが、手数料が掛かったり煩雑な手続きが必要になったりします。いずれの制度も有用ではありますが、始める前にしっかり比較研究することが重要です。
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