経済

変貌する電機大手を総点検

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[電車の日立vs電力の東芝]
重電界のライバル対決

産業用、社会インフラ装置・システムを得意とする重電の永遠のライバル、日立と東芝。

日立は交通インフラ、とりわけ海外での鉄道事業に注力。2012年にイギリスの都市間高速鉄道計画を8000億円で受注した。一見地味だが、列車数約900両、120編成超という大型プランで、30年弱の保守サービス事業も獲得している。ちなみに決め手は”日本製の信頼性”だった。

一方、東芝は電力、特に原発関連事業に力を入れている。2006年、世界屈指の原子炉メーカー・ウェスチングハウス社(WH。アメリカの会社だがイギリス企業の傘下)を約6200億円で買収、さらに2011年にスマートメーター(電流などを検針する機器)製造で名高い、スイスのランディス・ギア社を2000億円強で獲得。市場拡大が見込まれるスマートグリッド(ITを駆使した次世代型の地域電力網)や小型版のスマートシティなどには必須のアイテムだ。

3・11による原発事故で、国内や欧米先進国では原発への風当たりが強いが、電力需要が逼迫寸前の新興国での要望は高まる一方で、加えて廃炉や放射性廃棄物の保管などビジネスはむしろ広がりつつある。実際、同社の原発ビジネスは、炉の容量ベースで世界トップ。現在全世界には428基(出力計386GW)の原子炉が存在するが、内106基(約106GW)、28%が東芝・WH連合のものだ。

[シャープ]
液晶”一本足打法”は大誤算
IGZOで再起図る”目の付けどころ”

「液晶(LCD)」といえばシャープ。2009年大阪・堺に世界最大規模の工場を造り、隣の太陽光パネル工場を合わせると投資額は何と1兆円、年間売上高の3分の1にあたる大博打を仕掛けた。うまくいけばライバルのサムスン電子を出し抜き、おまけにエコブームの波に乗ってソーラーの需要もガッポリ。LCD頼みの”一本足打法”からソーラーを加えた2枚看板へと脱却できる――。

だが野望は完全にウラ目に。何度も言うようにLCD、太陽光パネルともにコモディティ化が激しく半ば投げ売りの状況。供給過剰で稼働率も低迷し、結局3年後の2012年には台湾の鴻海グループに売却するハメに。

看板商品である薄型テレビ「AQUOS」も苦戦するなか、世界で初めて量産化に成功した新世代液晶IGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素からなる半導体を使ったLCD)が、持ち前の低消費電力・高精細によりスマホメーカーに支持され一躍稼ぎ頭に。事業戦略も中小液晶パネルの部材供給へと軸足を移した。

だが、スマホやタブレットの需要が一巡したり、競合他社がキャッチアップした際の次なる一手が描き切れていない。”目の付けどころ”は一体どこに。

AQUOS
シャープの「AQUOS」 UD20ライン。4K、8Kと、どんどん解像度が高くなっていくが、若干食傷気味なのは否めない……。 写真/シャープHP

[富士通とNEC]
ビッグデータは桃源郷か、それとも地獄か

富士通とNECはともに通信インフラ系をメーン事業に据えてきたライバルで、ほかの大手電機各社とは主軸事業が異なる。とりわけ現在はICT(情報通信技術)分野に経営資源を集中、社会インフラや企業などのソリューションビジネスを核とする。受注額が大きく、長期の保守・点検が見込めるからだ。

特に、インターネットやモバイル、クラウドの発展で、日々収集される個人や企業のさまざまな情報を収集・分析する「ビッグデータ」が近年急伸、これを支えるインフラ、セキュリティー事業での主導権獲得を目論む。

ちなみに、この分野におけるキーワードは次の2つだ。

●SDN:複雑化するネットワークを物理的にではなくソフトで制御する方式。

●IoT(Internet of things):あらゆるモノを、ネットを通じて制御・管理する概念。クルマのカーナビや機械の部品交換の自動通知、さらには以前騒がれた「ネット家電」がその典型。

さて、このなかでも富士通は、”ヒューマンセントリック(人間中心)”をモットーに、「健康・医療」「交通・車」「食・農業」の3分野に、またNECは、通信事業者向けにTOMS(電話会社向けの通信運用管理ソリューション)にそれぞれ力点を置く。

ビッグデータは今後確実に急拡大していく市場で、両社にとっては桃源郷に映る。ただ市場が拡大すればするほど2社はインフラの構築、保守・点検の脇役に徹することとなり、「誰もが知るブランド」から「業界人には有名な企業」へと格落ちするという危険もはらむ。

[三菱電機]
モノづくりを”支えるモノづくり”に注力日立・東芝と一線画すもう一つの重電

三菱電機は別項の日立、東芝とともに「国内重電3社」の一角を占め、収益の大半をB to Bで稼ぐが、事業の軸足はほかの2社とやや異なる。

工場の自動化・無人化を支えるファクトリーオートメーション(FA)分野を得意とし、例えば工場内のロボットなどを制御するシーケンサーという装置は世界シェア19%、中国シェア16%。産業用ロボットなどに組み込まれる各種モーターをミクロン単位でコントロールし、製品を寸分の狂いなく量産するのに必須のACサーボは同16%、14%。さらにプリント加工基盤に使われるレーザー加工機に至っては実に同66%、61%と圧倒的シェアを誇る。

モバイル機器やテレビ、PCなどITデジタル機器を中心に、日本のモノづくりは近年精彩を欠いているように見える。だが、実はこれらを作り出す川上、つまりマザーマシンの領域はまだまだ日本勢の独壇場に近く、世界の産業用ロボットは実に6割を握る。少々大げさだが、わが国の産業用ロボット技術がなければ、”世界の工場”中国も安価で精巧な電機製品を生み出せない、ということ。

ちなみに同分野には、ファナックや安川電機、川崎重工など、電機業界とは異なる競合が控えており、三菱電機はむしろ彼らとしのぎを削っているのである。

CNC数値制御装置・サーボモーター
[左]旋盤などをコントロールする「CNC数値制御装置」、[右]産業用ロボットの制御を行う「サーボモーター」

[パイオニアとJVCケンウッド]
赤信号灯る、準大手2社

ともにかつては音響ブランドとして人気を博していたが、映像・音響のデジタル化とこれら機器のコモディティ化で急激に事業が悪化、復活の処方箋すら描けないのが実情。

パイオニアの事業の柱は「カロッツェリア」のブランドで知られるカーナビだが、ご存じのとおりスマホがこの機能を代用するようになったことで、特に市販向けは近年苦戦。かつては連結売上高8000億円を突破し、悲願の1兆円まで後少しとなり「シャープの背中が見えてきた」とまで言われたが、その勢いも今はない。今後はカーオーディオも含めたカーエレクトロニクスを他社に納入するというOEM生産で再起を図っていく模様だ。

カロッツェリア
パイオニアの「カロッツェリア」サイバーナビ。使うかどうかは別として、マニアックな機能が満載。 写真/パイオニアHP

一方、JVCケンウッドの状況はより深刻。2008年に日本ビクターとケンウッドが統合してできた会社だが、当時8000億円以上あった売上高は2014年度の見込みで3000億円と半減以下に縮小。こちらもカーナビを主軸にしてきたが、パイオニアと同様に事業は収縮。こちらも市販からOEMなどB to Bにシフトすることで生き残りを図る模様だ。

TYPE Z
ケンウッドのカーナビ「TYPE Z」。こちらも多機能で、操作感覚は奇しくも”スマホ的”。 写真/ケンウッドHP

電機各社のスローガン

電機各社の目標