経済

1997~98年に酷似 世界経済に金融危機は起こるのか

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2015年は世界的な金融危機が再燃する年となるかもしれない。危機の震源と目されるのはロシアとウクライナ。両国の通貨ルーブルとフリブナは暴落し、債券、株式もたたき売られている。デフォルト(債務不履行)危機はすぐそこまで迫っている。

強気なプーチンと不穏な空気

「今年(2014年)の予算は歳出よりも歳入が大きくなる。外貨準備も約4,190億ドル(約49兆4000億円)ある。ロシア経済はいずれ回復に向かう」。ロシアのプーチン大統領は12月18日の定例記者会見で強気の発言を繰り返した。だが、1バレル60ドルを割り込む水準まで下落した原油価格を前に、ロシア経済は風前の灯と化している。

「ロシアの歳入の4割は資源セクターが稼ぎだす。その筆頭が原油輸出だが、ウクライナ問題に端を発する欧州の経済制裁と石油輸出国機構(OPEC)の減産見送りがロシア経済を直撃している」とメガバンク系エコノミストは指摘する。この状況が長期化すれば、いずれロシア経済は行き詰る。その影響は世界に波及することは避けられない。

「今の世界経済は、1997~98年の金融危機時に酷似してきた」(先のエコノミスト)といわれる。1997年7月、タイの通貨バーツの急落から端を発したアジア通貨危機は、不良債権処理に苦しんでいた日本の金融システムを直撃。同年11月には、三洋証券の経営破綻がトリガーとなって、銀行間で短期資金を融通し合う「コール市場」で初めてデフォルトが発生。市場が機能麻痺するなか、北海道拓殖銀行、山一証券が相次いで破綻に追い込まれた。日本初の世界恐慌が懸念され、”魔の11月”として今なお生々しい記憶として残っている。

だが、その後も危機は深刻の度合を深め、翌98年8月にロシアが通貨危機に見舞われ、同年10~12月に日本では日本長期信用銀行と日本債券信用銀行が相次いで国有化された。この97~98年の状況と現在がオーバーラップしつつあるというのが市場関係者の見方だ。悪夢は果たして再現されるのか……。

ルーブル

資源輸出に頼り続けるロシアの限界

楽観論もないわけではない。90年代のアジア通貨危機は、財政基盤が脆弱な新興国からヘッジファンドの資金が一斉に引き上げられたことにより引き起こされたが、現在は、新興国も相応の外貨準備を蓄えており、少々のショックにも耐えられることは確かだ。ロシアのプーチン大統領が「4190億ドルの外貨準備がある」と指摘するのも同じ脈絡にある。

しかし、通貨・債券・株式のトリプル安に見舞われた経済は、スパイラル的に悪化しかねず、通貨防衛でドル売り自国通貨買いを繰り返せば、外貨準備はあっという間に枯渇しかねない。
実は、ロシアの前身である旧ソ連の崩壊もやはり原油価格の暴落による経済破綻が引き金だったことはあまり知られていない。今から30年ほど前の1985年当時、原油価格はそれまでの1バレル35ドルから10ドル台に急落した。背景には北海油田などの生産が増えてOPECの世界シェアが5割を割り込み、価格カルテルが崩壊したことがあった。

この影響を最も大きく受けたのが資源大国の旧ソ連で、その後、86年4月にチェルノブイリ原発事故が起こり、共産党体制への批判が沸き起こった。政治的にはゴルバチョフ大統領によるペレストロイカ(改革)やグラスノスチ(情報公開)がソ連邦を解体に導いたといわれるが、実際は、原油価格の暴落がソ連崩壊の主因であった。

その構図は今もなお変わらない。ロシアは過去20年間にわたり経済の多角化を進めてきたが、現在もなお資源輸出に支えられた経済構造は変わっていない。そこに再び原油価格の暴落が襲ってきたわけだ。

ウクライナ問題が解決のカギ

10月中旬、米国ワシントンでIMF・世界銀行年次総会が開かれたが、世界の金融関係者が一堂に会する同会合で話題の中心となったのは「ウクライナ問題」だった。「次の金融危機の発火点はウクライナ」というのが世界の金融当局者の共通認識だったという。ロシアと欧州の狭間で揺れるウクライナは、中央銀行の外貨準備は底をつき、通貨フリブナは暴落、経常赤字に転落しており、国債のデフォルト懸念が高まっている。

ウクライナ危機を回避するためには、IMF・世銀から流動性資金の供給が不可欠だが、米国や欧州から厳しい経済制裁を課されているロシアはIMFや世銀の介入に否定的だ。だが、ウクライナ問題が解決しない限り、ロシアは経済的な窮地から脱することは難しい。

そのロシアの窮地に手を差し伸べる可能性があるのではないかと囁かれているのが日本である。IMF・世界銀行総会に参加した安倍政権の閣僚は次のように周囲に語った。
プーチン大統領の力の源泉は原油マネー。その最大のお得意先は日本にほかならない。ウクライナ問題でプーチン大統領を説得できるのは日本しかない」

日本がロシアの石油を大量に買い上げることでプーチン大統領を助けるというシナリオだ。そのバーターは何か。北方領土問題もちらつく。

日本はこの機を生かすべき

私も金融危機は起こる……と思う。日米欧は過剰流動性の資金であふれ、なんとか市場をもたせているが、果たしてどこまで続くのだろうか? 中央銀行が供給した資金は、民間の設備投資に回り、賃金を押上げ、好景気になるという理想のはずだが、余ったマネーは投機に回っている。簡単に言えば、需要家でもないのに、原油の売買をして価格形成を歪めているのだ。

産油国は潤ったが、結局はバブルだ。投機資金が原油から逃げ出せば、当然価格は下落して産油国は苦境に立たされる。産油国に投資していた企業や金融機関は、債権回収が難しくなり、デフォルトを起こすかも知れない。そして危機の連鎖が起きる。

今回の影響はリーマンが潰れたどころの比ではない。資源にばかり頼って、技術革新を怠ってきたツケは当然払わねばならない。足元を見て、ロシアとの交渉をするかどうかは日本政府の外交力次第だが、ここに付け入らない手はない。外交とはそういうものだ。