デフレの勝ち組といわれたゼンショーホールディングス(HD)の凋落が止まらない。”ブラック企業”の烙印を押され、第三者委員会から調査報告書を受領したが、抜本的解決は難しい。人件費の高騰、円安で輸入肉の価格アップなど、先行きが見通せない状態だ。
赤字幅拡大は収束しない
牛丼チェーン「すき家」を展開するゼンショーHDが2015年3月期、1997年の上場以来、初の赤字に転落することが明らかになった。同社の発表によれば赤字額はなんと75億円。これは2014年8月時点で発表した13億円の赤字を大きく上回るものであり、同社の置かれた厳しい状況を如実に物語る数字でもある。
ゼンショーといえばデフレ経済の下、「すき家」を擁し、低価格を武器に事業内容を急拡大、2011年には日本マクドナルドを抜き外食産業の売上トップに躍り出るなど、”デフレの寵児”として存在感を高めることとなった。同社の仕掛けた価格競争は、競合の「吉野家」や「松屋」はもちろん、ほかの外食にも波及、業界全体の体力を消耗させる遠因となったことも否定できない。
“ワンオペ”で一気にブラック認定
今期、大幅な赤字を計上した背景にあるのが、人手不足だ。店舗オペレーションを1人でやりくりするという”ワンオペ”が社会問題化するなか、同社は深夜時間帯に2人以上の複数勤務体制を余儀なくされたが、これにより「すき家」の労働環境は”過酷”というイメージも定着、スタッフ確保がさらに困難を極め、営業休止に追い込まれた店舗が拡大したのである。
このことは、同社が12月5日に発表した「すき家」の11月の売上推移に表れている。既存店の売上こそ高価格帯商品への誘導により、101.4%と前年比を上回ったが、新店を加えた全店売上では、同92%まで落ち込んでいる。外食は既存店の売上減を新店でカバーし、対前年売上をクリアするのが常道だが、その方程式が同社には当てはまっていない。この数字が意味しているのは、新店のスタッフ不足で営業時間を短縮せざるを得なかったという状況だ。
これらもろもろのマイナス要因が重なったことで、今期のゼンショーHDの売上は期初見込みの5,092億円から157億円も減少、牛肉など食材価格の高騰も追い打ちをかけ、結果的に赤字に転落したというわけだ。
ここまでで、ゼンショーHDの凋落はオペレーションの瑕疵(かし)による旨を述べてきたが、前述した11月の売上推移について注目しなければならないのが、既存店の客数だ。
11月、「すき家」の客数は91.4%と大幅に減少している。この数字はワンオペの表面化など、”ブラック企業”という烙印を押されたことで顧客離れを誘発したのは事実だが、これは、ほんの一側面に過ぎない。
コンビニというライバル出現
この数字が意味する本質は、競合環境が大きく変化してことにある。牛丼チェーンが売上を伸ばしてきたキーワードは、”安近短”。長引く不景気で小遣いが減少し続けたビジネスマンに、このキーワードは強く響いた。この層を取り込むことに成功したことが同社の成長を下支えしたともいっていいし、今後のこの構図は変わらないのかもしれない。
しかし、ここへきて同業以外にライバルが出現する。コンビニである。昨今、コンビニの新店を見れば気づくと思うが、店内にイートインコーナーを設けているタイプが増えている。明らかにコンビニが外食から顧客を奪取することを意図しているのだ。
「コンビニは、これまでも外食店から中食需要の取り込みを狙いお弁当や総菜を充実させてきました。『美味しくない』と言われてきたコンビニ弁当が今や、各チェーンで味を競い合うほど、クオリティーは上がっています。コンビニ弁当が強化されたことで、牛丼チェーンなど、ファストフード店から多くの顧客が流出したのは事実です。そこで、コンビニはより手軽に食べられる場を提供することで、さらなる顧客争奪戦を仕掛けているのです」(業界関係者)
昨年来、ヒット商品と位置付けられた「コンビニコーヒー」などは、コーヒーショップからの顧客奪取という意味では典型的な戦略商品といえるだろう。
商品のバリエーションが広いコンビニと、牛丼への依存度が高すぎる「すき家」では、軍配はコンビニに上がる。イートインが今以上に定着すれば、「すき家」からのさらなる顧客流出は避けられない。
また、牛丼チェーンの先駆者ともいえる「吉野家」が2014年12月、食材高騰を理由に牛丼並盛300円を一気に380円に値上げしたが、客足は落ちてはいないという。そもそも「吉野家」の牛丼はほかに比べ味の評価は高く、80円の大幅値上げでも顧客は容認したということだ。
当然、劣勢に置かれた「すき家」としても、「吉野家」の状況次第では値上げを検討することになる。しかし、追随したところで勝ち目があるかは、甚だ疑問。
2015年もゼンショーHDはいばらの道を歩むことになるだろう。
一度ブランド価値が落ちると難しいが…
一時期破竹の勢いだったゼンショーも苦境に立たされている。ワタミも日本マクドナルドも同様、既存店売上減が止まらない。ゼンショーのライバル吉野家も30年以上前に、会社更生法を適用して、事実上倒産している。ファミリーレストラン最大手だったすかいらーくも、業績悪化で創業家が解任されるなど、外食産業は特に変化が激しい。
デフレ下でサラリーマンの味方だった牛丼屋だが、円安で輸入肉価格の上昇、人手不足で人件費の高騰、さらにはコンビニの中食への進出など、前門の虎、後門の狼状態だ。今の時代、一度ブランド価値の落ちた企業が這い上がるのは相当厳しい。逆にこの状態から急回復できたときには、小川賢太郎社長は名経営者ということになる。