戦後、ヘリコプター輸送会社から始まったANAは飛行機事業に本格参入し、前を走るJALに追いつこうと奮闘してきた。LCCや他航空会社と手を取り合い、いまや国内トップの輸送規模を誇るまでに成長。開けた前方に何を見ているのだろうか? ANAホールディングスの片野坂社長に聞いた。
片野坂 真哉 かたのざか しんや
ついにJALを追い抜いたANA
尊徳 これまで追う存在だったJALを、2014年にはANAが輸送規模で上回りました。どんな印象をお持ちですか?
片野坂 JALはナショナルフラッグキャリアですし、学生時代に海外であのツルのマークを見て感激しました。それほど大きな存在でした。経営再生後は財務体質も強化されて、当然ライバルとして競争上脅威を感じる存在です。
尊徳 どうですか? JALを抜いてリーディングカンパニーになったわけですが。
片野坂 営業収入がJALを少し上回っただけです。われわれは世界のリーディングエアライングループを目指そうと理念を掲げていますが、それは座キロ(※1)や売上ではなく、安全を含めたお客様の満足度が圧倒的1位になって初めて達成できるものだと思っています。
※1 総座席数×輸送距離(km)。航空業界の生産量を示す。
尊徳 以前のJALは、周囲に「偉そうに」とか言われましたが、一度地に堕ちてずいぶんと変わりました。今ではJALとANAの違いは何?という若い人もたくさんいるなか、航空業界自体も激変しています。
片野坂 違いは何?ですか、厳しいですね(笑)。ジャンボジェットで大輸送していた時代から、中型機で長距離が飛べるようになって、規模の拡大だけでは選ばれない時代に入りました。
尊徳 参入当時は珍しかったLCCも随分と台頭してきました。ANAグループにも複数ありますね。
片野坂 ピーチやバニラなど、グループでLCCを運航しています。仕事とプライベートでクラスを乗り分ける人もいますし、バス旅行しかしなかった人がLCCならば乗るということもあります。”カニバリゼーション(食い合い)”が起きているとは考えていませんが、全体として戦略を考える必要がありますね。
スカイマークとの連携は
尊徳 足元の状況と今後は?
片野坂 国内外合わせて状況は良いです。特にインバウンドが好調。フルサービスの国際線は日本人の座席シェアが高いですが、バニラやピーチは7割以上が外国人です。この先、少子高齢化や新幹線の延伸などで国内のフルサービスの需要は微減するでしょうが、LCCを合わせれば、全体では逆に微増すると予測しています。
尊徳 株主となり、新たにコードシェアするスカイマークとはどういう関係を作っていくつもりですか?
片野坂 他の株主とは利害を調整して、ウィンウィンでやっていけます。一部ではエア・ドゥやスカイマークなどの座席数も単純に合算にして、ANAのシェアのように言いますが、そんなことはありません。自由になるものでもない。スカイマークの安全のサポート、燃料の共同調達や整備などの受託は安易にいただけるわけではないので、入札で取りにいきます。
尊徳 スカイマークも独立系で踏ん張ってきましたけど、結局、完全に残ったのはANAとJALだけのような気がします。
片野坂 自由経済ですから新陳代謝は必要。でも、航空会社は以前から増えて、裾野は広くなったと思いますよ。競争がないとか言われますが、柔軟な料金体系になっていますし、消費者目線の価格だと思います。
世界の航空会社とどう戦うか
尊徳 独自性が出しづらい業界ですが、ほかの航空会社とはどのように差別化していきますか?
片野坂 快適な空間を作り続けることと、客室乗務員の質を高めることしかありません。以前はあまり差のない機材でしたが、今は国内でもプレミアムクラスにずいぶんと違いがあります。例えばハード面でビジネスクラスのフルフラット化はわれわれが日本で初めて導入しました。
尊徳 スカイマークはエアバスの大型機を購入してつまずきました。見えづらい数年先をどう考えますか?
片野坂 空港の発着枠など常に変わりますから柔軟性は必要です。ただ、大きな流れは小型化。今はビジネスクラスもフルフラットですから、ファーストがなくても需要は取り込めます。
尊徳 国外には優秀で人気のある航空会社が多数あります。燃料税や着陸料などの公租公課が日本は高い印象がありますが、どう戦っていきますか?
片野坂 われわれは着陸料の問題だけでなく、羽田の国際線化の必要性も言い続けてきました。羽田の国際化は多くの方に評価されており、最初は批判もされましたが、国益のためにも是正されるべきだと思います。公租公課(※2)は、空港整備にも使われてきましたが、100を超え、新たに空港を作る必要性も少ない今となっては高額だと思います。
※2 国または地方公共団体から公の目的のために負荷される金銭負担。空港の使用料や燃料税などがそれにあたる。
尊徳 国内産業を守ると同時に、強く筋肉質の業界を作るためにも、公正な競争を望みたいところです。